4月3日。
今日この日、私の家に突然謎の生物……かどうかも分からない物体――ボン太くんが現れ、私の家族になりました。
朝から何やら慌ただしかった一日。そんな一日もやっと終わりを告げようとしています。
「何故だ! 何故私たちは小さくなっているんだ!?」
「わ、私にだって分からないわよ! ざ、ザフィーラどうして!?」
「いや、お前たちに分からないのなら俺に分かるわけが無いだろう」
「あんだ、てめぇ。あたしとやるってんのか?」
「ふも?」
……まぁ、終わるわけなかったんやけど。
私の目の前には、頭に獣耳を生やした物静かそうな男の子。
彼の左には、桃色の髪をポニーテールに結んだ、凛とした女の子。
そして右には、金髪をショートボブにしたうっかり屋さんっぽい(私の予想)女の子が、三人で何やら慌てふためいていて、強気そうな赤髪の女の子は何故かボン太くんを挑発していて、ボン太くんは意味が分からず頭を傾げている。
と、とりあえずどうしてこうなっているのかを確認せなあかんな。そうやな、そうしよう!
……決して現実逃避やないからな!
――回想開始――
「それじゃあ、私は晩御飯の下拵えするから……ボン太くんは……ボン太くんは……さて、準備するかなー」
「ふもっふ!?」
暴走し始めた石田先生を必死で押さえこんでいる看護婦さんたちを見捨てた後、家に帰った私は晩御飯の下拵えを始めた。ボン太くんにも何か手伝ってもらおうかと思ったけど……うん、まぁ仕方あらへんよな? 何が仕方ないかは想像にお任せするで。
「……ふも~」
私が冷蔵庫から食材を取り出していると、ボン太くんは物珍しそうに周りを見渡しながら、二階へと続く階段を登り始めた。
二階には私の部屋しかあらへんのやけど……あ、そうや、ボン太くんの部屋決めなあかんな。部屋には余裕があるからどこか適当に……
と、そこまで考えたところで、私は重大なことに気が付いた。
「ボン太くんって、寝るんやろか?」
またしても謎にブチ当たってしまった。果たしてどうなんやろうか。ボン太くんが生物やったら寝ると思うんやけど……いや、どっちにしろ中に人が入ってるんなら寝るよな? ハッ、もしかしたらボン太くんはロボットって可能性もあるかもしれへん!
「……あかん。考え出したらキリがあらへん。後でボン太くんに直接「ふもっふー!」ボン太くん? どうしたん……って、その本は……」
「ふもっふふも!」
『上で見つけた!』とこれ見よがしに鎖が巻き付いている本を見せてくるボン太くん。
上で見つけたて、その本私の部屋に置いてあったもんなんやけど……まぁ、ええか。大して問題はあらへんし。
「その本読みたいんか?」
「ふもっふ!」
「そか……でも、見ての通り鎖が巻き付いてるから開かれへんし……って、ボン太くん何しとるん?」
「ふもっ、ふもふもふもー!」
私は、本に巻き付いている鎖を引き千切ろうとしているボン太くんに声を掛ける。ボン太くんは『私のパワーに掛かれば、この程度の鎖どうってことないよ!』と何故か自慢げに返してきた。
いやいや駄目やで、ボン太くん。読みたい気持ちは分かるけど、私がすっごく小さい時から傍にあった本なんやから。そない乱暴に扱っちゃ罰が――。
「ふぅ~もっふぅ!」
「あああああああ!?」
千切りおったぁ!? 千切りおったで、この生物かどうかも分からん生物! あ、これじゃ結局生物や……って、そうやなくてぇ!
「ぼ、ボン太くん!? 乱暴に扱っちゃ駄目やって言っ……てへんけど! 雰囲気で分かるやろ、雰囲気でぇ!」
「ふ、ふもふも……?」
「『ほ、本が浮いてる……?』やて? なんや、適当なこと言って誤魔化そうとして……浮いとるッ!?」
ボン太くんが見ている方向を見ると、鎖を引き千切られた本が何故か宙に浮いていた。
……いや、いやいやいや! 浮いていた、とか冷静に描写しとる場合やないって私! なんやこれ! ボン太くんか? ボン太くんのせいやろ、これ!?
『封印が外部から強制的に解除されました。よって、不完全ながらも起動します。
…………はぁ、面倒なことになったなぁ』
「ほ、ほれ見ぃボン太くん! なんかすっごいダルそうな声出してるであの本! ボン太くんのせいやで!」
「ふ、ふも、ふもふもふもっふ!」
「『新しい知識を求めるのは、人間の性なんだよ!』やて!? そんな言い訳で許されると思ってるんか!? というかボン太くんって人間やっ――」
『起動』
「今度は光ったぁ!?」
宙に浮かんでる本が唐突に光り始めた! 私とボン太くんは余りの眩しさに両手で目を覆う。…………あ、目は普通なんやね。
ともすれば目を焼かれるのではないかと思うほどの光が収束していく。目を開けた。その先には――。
「闇の書の起動を確認しまし……って、おい! 何故お前たちは私の上に乗っている!」
「そんなの知らないわよ! というかザフィーラ早くどいて! 重……あれ? 意外と重くないわね」
「……腕が短くなっている気がするのだが」
「なんでシグナムたち、あたしと同じぐらいの背になってんだ?」
「「「なん……だと……?」」」
三段に積み重なっている桃色の髪の女の子、金色の髪の女の子、獣耳を頭に生やした男の子と、その三人の横で冷静なツッコミを入れる赤髪の女の子がいた。
……いや、こっちがなん……だと……? なんやけど。
――回想終了――
と、言うことがあったわけなんやけど……。
「れ、レヴァンティンまで小さくなっている……」
「魔力が全然無い!? どうなってるのよぉ!?」
「……動きにくいな」
「ふもっふ!」
「ふ、ふもっふ……? うっ、なんだこの気持ち。こいつを見てると、なんだかあたし――」
……ああ。現実を直視したくないなぁ。