篠ノ之箒は想い人の夢を見るか   作:飛彩星あっき

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奇跡、今悲劇を超えて

「悪いね一夏、箒! ちょっと理由ができてさ、あのドラゴンは私が頂かせてもらうぜ!」

「神崎優奈! テメェはすでに敗北への階段を上り始めている!」

「へぇ……気取ってる言い回しなんかして。ポエムでも始めちゃった? 安崎君?」

 

 理由というのが何なのかは分からないし、至高龍は超強敵である以上、倒せるのならば誰でもいいとすでに思ってはいた。

 だが、一式の放った言葉も、決して間違いではないのだ。

 なにせ至高龍にダメージを与えてしまったという事は、あの能力の発動。その権利を与えてしまったのだから。

 

「覇王断罪、発動!」

破壊魔鏡(ダイクロイックミラー)ァァァッ!」

 

 案の定一式は発動を宣言。アクシアへと与えたダメージの二倍の衝撃が迫るはずだったが、その直前。

 優奈は龍の翼を模した非固定部位、その先端のクリアパーツからホワイトウィングと同じ力を発動。奴の作った眷属機同様に単一仕様能力を無力化し、さらに反撃として衝撃波が覇王断罪の発生部へと迫る。

 そして。

 

「そこが、発生源だったのか……!」

「よし……これで至高龍の防壁は、全て破壊したッ!」

「つまりあいつは、もうただのデカいだけのデクの坊ってわけよ!」

 

 至高龍の頭部。

 その額にある群青色のクリスタルを、粉々に打ち砕いた!

 

「この覇王狼龍はお姉ちゃんの作った全ての機体の結集体! あんたなんかに負けるほど弱くなんか、ないッッッ!」

 

 堂々と宣言しつつ、優奈は背部キャノンを展開、至高龍めがけて発射。ドラゴンヘッドこそ破壊できなかったものの、砲口と片目をつぶすことには成功する。

 

 これなら――と、思った矢先の出来事であった。

 

「クククッ……姉妹揃って、絶望の扉を開けるのが趣味とはなァ……」

 

 覇王断罪を無力化されてから、なすがままにされていた一式。

 しかし、砲口を潰された途端に、なぜか余裕たっぷりの表情を浮かべるとそんなことを口走る。

 何が、そんなにおかしい……?

 

「何が言いたい?」

「あんたの至高龍は、ただの砲台じゃない、もう」

 

 一夏が問い返し、優奈がそう言うが実際その通りだ。

 もはや断罪も障壁もなく、先ほどからこちらの攻撃は通り放題となっている。

 厄介な点は多すぎるビーム砲くらいなものだが、それさえもなんとかならない訳では決してない。極論、先ほどのアーリィ先生のように接近し叩けば無力化できる。

 

 なのに、あの余裕は何なんだ――!?

 

「確かに、テメェらの言う通りだ。もうデクの坊さ……()()()()()()

「まさかあんた!?」

「覇王断罪が破壊され、また至高龍のシールドエネルギーが半分以下となった時、アーク・レイの最後の単一仕様能力『覇王合神』を発動できる!」

 

 漸く希望の見えてきた私たちに対し、奴はダメ押しの絶望を与える。

 そう言わんばかりに、新たな発動を宣言した。

 

 障壁、瘴気、断罪に続く、四つ目の単一仕様能力だと――こいつ、そんなに持っているなんて……!

 

「次から次へと……!」

 

 怒りが漏らした言葉、それが吐き出されている間にも、至高龍の最後の特殊能力が発動されていく。

 だが正直、起きたことは理解はできても……微塵も、納得は出来なかった。

 胸の破損部位に入れた脚が、まるでオーブンに入れたチーズのように溶けて至高龍と一体化していったのだ。

 

「合体しただけ……!?」

「バカが! まだ終わりじゃねェ!!」

 

 それと同時、至高龍は大きくその姿を変えていった――まるで今までのが、前座とでも言わんばかりに。

 

 両側面に展開された、禍々しい紅の光翼。

 それが生えると同時、半壊したウィング・バインダーは内側から粉々になって破砕。崩れ落ちていくスクラップが音を建てて地面に散らばっていく。

 続けて片の目が潰され、さらには頭部クリスタルすらも粉々に砕け散った頭部。それも、新たに生えてきた鋭角的なものへと変更。

 胸部の傷跡も、一式との接合部を覆い隠すように新たに漆黒の装甲でコーティング。さらに続いて、全身にやたらと刺々しい増加装甲が癒着されていく。

 

「これぞ、全てのISの頂点に立つ最強の機体――その真の姿」

 

 最後に全身ありとあらゆるところから新しい棘が生え、エネルギーラインの色が緑色から、血を思わせる赤黒いそれへと変わっていくと――!

 

「その名も、天帝機アルティ=メシアであるッッッ!!」

 

 倒すべき、最後の敵。

 それが名乗りを、あげた――!

 

「さしずめ今までが防御モード、こっからが攻撃モードってところか……」

 

 優奈の呟きは、おそらくは真だろう。

 至高龍の豊富な防御能力と火砲、それらに物を言わせてこちらの手札や兵力を削るだけ削る。

 そうして刀折れ矢尽きたところに、攻撃形態である天帝機をぶつける。

 なるほど確かに、勝つためには合理的な手段ではあるのだろう――個人的には、物凄く気に食わんが……!

 

「貴様らにこの天帝機を攻略できる希望など、万に一つもない!」

「黙れッ!」

「覇王って名前被ったのが、そんなに嫌なのかっての!」

 

 言葉と同時、一夏と優奈はそれぞれの持つ遠距離武器を一斉射。

 白式のミサイル、カノン砲、BTビット、そして衝撃砲。

 アクシアの隠し腕まで含めたライフル4丁、背部キャノン砲、さらにはブラックリヴェリオンのものと同じ、電撃による攻撃。

 さらに私の、斬撃の軌跡によるエネルギー波。

 

 それらが、一斉に襲いかかるが。

 

「――単一仕様能力『天帝結界』」

 

 いくら攻撃形態と言っても、至高龍の進化形態。ましてや使うのは一式である。前の機体における覇王障壁と同様、天帝機にも防御手段は完備されていた。

 

 着弾の寸前、天帝機の周囲には薄緑色の半透明な膜じみた何かが出現。

 それは私達の攻撃のすべてを弾き返し、本体に対するダメージを完全に消失させていった。

 

「だけど、破壊魔鏡で――」

「先に言っておいてやる。天帝結界ある限り、天帝機は相手ISの効果を受けねェ!」

「な……!」

 

 絶句が一夏の口から洩れたが、仕方のない事だ。

 あれがある限り、あいつの切り札――零落白夜はただの光剣に成り下がり、一撃必殺の威力を叩きこめなくなってしまうのだから。

 

「……どこまでチキンなんだ、この野郎ッ!」

 

 続ける形で、忌々し気に呻く優奈。

 だが、それよりも私が注目していたのは――。

 

「奴の、足元を見てみろ……!」

「足元――ッ!?」

 

 優奈の言葉尻が詰まってしまったのを、不思議に思うものはこの場に誰もいないだろう。

 なにせ、天帝機の足元にあった、毒々しいまでに赤い渦。その中から、次々と現れたのは――。

 

「セシリア、ラウラ、シャルロット……簪」

 

 偽骸虚兵にされた、かつての友人達。

 

「ロランにベルベット……クーリェ。コメット姉妹まで……!?」

 

 一夏が言った通り、脱出艇に派遣された各国の代表候補生たち。

 

「四天王……お姉ちゃん――!?」

 

 そして、神崎零率いる四天王が。それぞれの機体を纏い、蘇ってきたのだから。

 

 唯一ヴァイオレット・ヴェノムだけはいないものの、それでも脅威である事には変わりなかった。

 

「単一仕様能力『天帝傀儡』! これにより、今まで俺が従えてきたクソ女共の人形を召喚した!!」

「最後の最後まで――!」

 

 怒りの言葉を吐き出す一夏と、一式の説明。それらに呼応するように、天帝機は咆哮。

 それと同時に、敵の偽骸虚兵の軍団はこちらへと一斉に瞬時加速。いきなり数の差で圧殺せんと迫る。

 

「そしてこいつらが存在する限り、天帝結界は絶対に破れない!!」

「へぇ……自分から弱点を教えるとはね!」

 

 ギリ、と歯ぎしりしてから優奈が狙った相手。それは眷属機ダーク・ルプス・レクス――すなわちあいつの姉、零。いくら形だけの人形とはいえ、家族をいいように使われて黙っていられないのだろう。

 瞬く間に背部のキャノン砲が咆え、異界から呼び出された眷属機は再び灰燼に帰す――筈だったが。

 

「これは――!?」

「まぁ、何かあるとは思っていたけどさ……」

 

 一夏の戸惑いと、冷や汗をかきながら返答する優奈。

 そんな二人の前では、赤い渦から再びダーク・ルプス・レクスが召喚され、何事もなかったかのように戦列へと加わっていく姿があった。

 

 恐るべき光景に絶句する私達に対し、奴は悪辣な笑みを浮かべながら口にする。

 

「天帝機ある限り人形どもは再生能力を得る。そして人形どもが一人でも生き残ってる限り、天帝機は天帝結界で守られる!!」

「つまり、絶対勝てるとでも言いたいワケ!?」

「違うって言いてぇのか!?」

「ああ、違うね! なぜならばッッッ!!!」 

 

 そう言って優奈は闘志に満ちた光をそのオッドアイに宿すと、天帝機へと視線を向けてから続ける。

 

「覇王となったアクシアは、ハイパーで無敵なんだから!」

 

 言い切るとすぐに隠し腕の右にアクシアのライフル。左にここに来るまでに拾ってきたのか、ホワイトウィングが使った大剣。

 それらを持ち、苛烈なまでの攻撃準備を整えていく。

 

「殲滅力の高い私が、全部ぶっ倒す! だからあんたが、あんたたちが本丸を倒せッ!」

「だが、再生……」

「無限なはずないし、再生にだって時間がかかる! その隙をついて倒すしかないでしょ?」

「それに、どのみち戦う以外の選択肢はねぇだろ、箒」

「ああ、そうだな……二人とも」

 

 一夏と優奈と共に、私も武器を構える。

 そうだ、今までだって抜け道があったのだ。

 だから今回だってきっと……いや、必ず何か、勝てる手段があるはず。

 

「行くぞ、一夏!」

「ああっ!」

 

 諦めて――たまるかッッッ!

 

 

 蘇ったルプスレクスの頭部を砕いて沈黙。続けて奪い取った超大型メイスを投擲、すぐ近くに陣取っていたホワイトウィングを叩き潰す。

 これで単一仕様能力も、しばらくは使える!

 

幻影(トリーズン)――叛逆(ファントム)ッ!」

 

 一番近くにいたグローバル・メテオダウンに強烈な電撃を浴びせかけ、その力の半分を吸収。瞬発的に増した戦闘能力でもって弱体化した敵を叩くと、続けざま捕食用ワイヤークローでオーランディ・ブルームを噛み砕く。

 

 

「うおりゃああああああああああ!」

 

 さらにダメ押しでテールブレードを超高速稼働。

 凶刃は迫りくる槍の大軍を複雑怪奇な軌道で躱してジャンヌ・ダルクに突き刺さり、そのまま第四世代機を質量弾にしてヘル・アンド・ヘヴンへとぶつける。

 

破壊(ダイクロイック)魔鏡(ミラー)ァァァァッ!」

 

 油断も隙もあったもんじゃないとはこの事か。

 背後から電撃攻撃を浴びせようと迫ったブラックリヴェリオン。それに対し衝撃波を浴びせて爆散。そのまま蹴りを叩きこんでからソードメイスで一薙ぎ。

 さらに隠し腕に持たせた超大型シザースで、迫ってきたスヴェントヴィトを真っ二つにする。

 

 正直悪趣味が過ぎると思うし、精神ダメージだってないわけじゃない。でも、今それを気にしていたら安崎に勝てるものも勝てなくなる。

 それに、こんな悲劇が続くのはもう嫌なんだよ。

 だから……だからっ!

 

「所詮、姿だけ!」

 

 そう、自分に言い聞かせる。

 間違いなくこいつらには、偽骸虚兵と違って魂は入っていない。

 肌から髪の毛からすべてが黒に近い灰のモノトーンで、なんの言葉もしゃべらない。そんな形だけの真似っこ人形なんて、もう私の敵じゃない。

 だって!

 

「ナギやお姉ちゃんと闘ってたときのほうが、千倍辛かった!」

 

 叫び、今度は実弾ライフル。さらには背部キャノンを一斉射。

 先に倒し、そして今しがた再生を終えた人形達を一気に葬り去った――筈が。

 

「やっぱり再生スピード、早いな……!」

 

 舌打ちしつつ、今度は飛ばされてきたBTビット。それに瞬時加速で接近してきたレーゲン。それらを捕食用ワイヤークローで捕らえると喰らい成分抽出、単一仕様能力同士を融合。すぐさま幾つかの融合パターンが投影ウィンドウへと表示されていく。

 よし、こいつなら――!

 

「AICバインドビット、発射!」

 

 表示されていたパターンの一つ、動きを止める結界を作り上げるビット。それをすぐさま発射、漆黒の自律機動端末(BTビット)は人形たちを足止めしていく。

 

 けど、その瞬間。

 

 あいつが、動いてきた。

 

「――やっぱり、そうやってくるよねッ!」

 

 ミントグリーンの翼を広げ、放出されていく衝撃波。

 ちょうど射程圏内に入ったんだろう、せっかく作ったばかりのAICバインドビットは粉々に砕け散っていく。

 その発生源である、悪魔の四天王機――眷属機ホワイトウィング。

 正直一番厄介なあいつが渦から舞い戻り、再び戦線に復帰してきた。

 

「くそっ!」

 

 ここも破壊魔鏡の射程圏内である以上、留まっていたら捕食超越を行ったパーツ、つまりはワイヤークローまで粉砕されてしまう。

 見たことのない能力を沢山作れるこいつが、天帝機攻略の糸口になりうる以上。それだけは何としても避けなきゃいけない。

 そう判断し、連続瞬時加速で上空へと避難していくが――それが拙かった。

 

「――ッ!?」

 

 こっちがそう動くのはあっさりと読めたのだろう。逃げた先には、敵機が待ち構えていた。

 ヘル・アンド・ヘヴンと打鉄弐式のミサイルが唸り、それを躱して。続けざまに発射されたオーランディ・ブルームのワイヤーとダーク・ルプス・レクスのテールブレードを小刻みに揺れて回避。

 

「だったら!」

 

 お返しと言わんばかりにこっちもテールブレードを用意、攻撃態勢に移ろうとした――そのときだった。

 

「そんな手を、使うなんて!」

 

 わざとジャンヌの旗の攻撃を受けて吹っ飛ばされ、その衝撃を利用して通常よりもかなり早い速度で迫ってきたシュヴァルツェア・レーゲン。

 その手から発せられるAICを躱そうと、急速瞬時加速を行った。

 その、直後だった。

 

「――しまった!?」

 

 オーランディ・ブルームとシュヴァルツェア・レーゲン。

 それら二機はこっちの回避先へとワイヤーを投擲、器用にこっちの四肢をがんじがらめに拘束していく。

 

「クソ、ちょっとヤバいな……!」

「優奈!」

「まだ戦えるって!」

 

 かまうなと言う代わりにそう叫び、キャノン砲、隠し腕等のまだ動かせる武器を一斉にアクティベート。それらを用いて、接近してきた敵のいくらかを撃墜していく。レーゲンとブルームはこっちの死角に陣取っているのが最高に腹立つけど……それでも、何とかして見せるっきゃない!

 

「ミサイル――!?」

 

 だけど、そうそう甘くいくモンでもないのも――分かっちゃいたけど――確かだった。接近してきた敵機は、次々と私に対して千変鉄華じゃあ防げない代物――つまりは、実弾兵器を向けていく。

 打鉄弐式、ブルー・ティアーズを筆頭にミサイルやレールカノン、実弾ライフルにワイヤー兵器。

 それぞれの専用機に装備されている火器が次々と、覇王狼龍に向けて発射されていく。

 

 けどね……まだだッ!

 

「ぬおんどりゃああああっ!」

 

 取り急ぎ開放した非固定部位のスリット。

 そこから強烈な電撃を放ち、球形状のプラズマフィールドを強引かつ急速に展開。

 機体に着弾するほんの十数センチ手前で次々爆発が起こり、本体へのダメージを最低限まで抑え込んでいく。

 よし、攻撃は防いだ。次はこっちの――!

 

『ゆーなん!』

 

 そう思い、攻勢に出ようとした時だった。突如として次元間通信の映像ウィンドウに、見知った顔が現れたのだ。

 

「束さん!? どったの!?」

『覇王狼龍用の新装備、できた!』

「できたって……こんな早くできるモンなの?」

『束さんをあまり舐めんな、金髪。二人で作ればこれくらいでパパパっとだ』

 

 ちょっと理解不能な超スピードに戸惑ってると、画面に映る束さんが二人になった。

 後ろには私と知り合いの方が持ってきた、超高速成型機が映っている。

 まぁ確かに、あれを使えばすぐに出来上がりはするだろう。

 加えて超天才が二人になれば、それこそ二倍で済まないスピードでできるかもしれない。

 けれど――。

 

『もう一人の束さんの方は渋ってたけど、それでも説き伏せて作らせたんだよ! 私達の、勝利の鍵を!』

『お前の姉より、束さんの方が天才だってことを証明するためだからな。勘違いするなよ金髪』

「でも、どうやってこっちまで――!?」

『大丈夫! 出前をよこしたから!』

「出前?」

()()()()()()()()()なら、一瞬で次元転送可能なんだって……まったく、どんな技術力なのやら」

 

 その言葉と同時、鳴り響いたのは風を切る音。

 前後して、私に巻き付いたワイヤーが次々切断されていく。

 

 続けざま障害となっていたホワイトウィングとブルー・ティアーズ。その二機が大口を開けた、食虫植物の触手めいた「何か」に喰われて撃墜。

 生き残った敵ISの軍勢は警戒してだろうか、やや距離をとっていく。

 

 この、攻撃って――!

 

「どうして……ここ……に!?」

「死体人形は人間じゃないもの」

 

 来てくれたことは間違いなく嬉しい。

 だけど、しれっとそう言われると正直、複雑な思いはする。

 友達に対してそんな感情を抱いていると、ヴァイオレット・ヴェノムは捕食超越を発動。たった今撃墜時に成分採取した破壊魔鏡とBTビット。それらを組み合わせ、新たな力を融合させる。

 

「ベストマッチとはいかないけれど……まぁ、強いのができたわ!」

 

 呼び出されたのは、紫色のソードビット。

 ほとんどブルー・ティアーズのものと同じだけれど、刃はクリアグリーンの輝きを有しており、それがホワイトウィング由来であることを雄弁に物語っている。

 

「さぁて、行きなさい!」

 

 号令のもと、飛び交ういくつもの凶刃。

 敵も迎撃に出ようとするものの、片っ端から使われた単一仕様能力を爆破。出力を増して、無力化した相手を切り裂いていく。

 

 これで時間稼ぎは出来た。

 そう言わんばかりに向こうから近づき、拘束してきたワイヤーを次々大型ブレードで切り裂いていくと――。

 

「ほら、さっさと受け取りなさい」

「――うんっ!」

 

 聞こえてくる言葉に、思いっきり嬉しい気持ちを声に乗せ、応える。

 そうしてから大型のデータスティックを受け取ると、コネクタに突き刺して速攻でインストールを開始させていく。

 

 ――二人の天才が手がけた、最強の強化外装を!

 

 Infinite-stratos Burning-wing Option UNIT

 

 その文字列が空中投影ウィンドウに出現すると同時、インストールが終了。背中にまるで円形のユニットが背中へと取り付けられる。その左右には二対の矢印が付いていて、そして――。

 

「覇王双炎翼!!」

 

 その言葉と同時、矢印からは凄まじい勢いで紅蓮の焔が噴出。

 それらは翼を形作り、アクシアは炎を纏う機体となった!

 

「うおりゃあああああああああああ!」

 

 炎は動くたびに揺れ、進行方向上にいた敵を瞬く間に焼き尽くし、再生する度にチリひとつ残さず消滅させていく。

 最初こそなれなかったせいか、復活の方が早かったけれど……徐々に、こっちの焼くペースの方が早くなっていき、一度に戦っている敵の総数は減っていく。

 

 これなら、いくら蘇ってこようと!

 

「ナギ、テメェ!」

「あら? 私は運び屋やっただけよ? 恨むなら篠ノ之博士を恨みなさい。それとね!」

 

 さすがに看過できなくなったのか、安崎の奴。

 接近してくる箒と一夏ではなく、私たちの方へと注目を向けだす。

 

 そんな安崎に対し、あいつはねっとりとした笑みを浮かべると――。

 

「誰が好きこのんで、殺された経験ある相手に付き従うかっての! バァッッッッカ!!」

 

 中指を立てつつ、非固定部位から光の翼を展開。そこからレーザーを次々発射し、バリアの切れた天帝機の砲門をいくつも破壊していく。

 

「はは、あんたも言うじゃん!」

「そりゃ言うわよ。私だってね、鬱憤たまってんだから! ほら、あんたらも何か言ってやりな!」

 

 言葉に前後して展開されたウィンドウ。そこに映っていたのはみんなの姿。

 皆一様に安崎に険しい表情を向け、口々に罵倒の言葉を吐きかける。

 だけど、私が注目したのは言葉じゃなくって。

 

「シャルロットとアーリィさん、ちゃんと……だいじょぶだったんだ!」

 

 ついさっきこっちに来る前。至高龍に撃墜されたばかりの、仲間たち。

 ライブビューイングで堕とされた姿こそ見ていたけれど、無事かどうか確認できなかった人達。流石に満身創痍だけれども、命に別状はなさそうだ。

 

 そんな二人が鈴やラウラたちと一緒に映っているのを見て、心の底から安堵する。

 

「これで悩みはなくなったって感じ?」

「うん!」

 

 返事と同時、強烈な焔で渦から出現したばかりのダーク・ルプス・レクスを焼き払う。

 これで一時的に、場からすべての人形はいなくなった!

 

「そ。じゃあ、こっちも仕上げといこうかしら! しばらくそこで踏ん張ってなさい!」

 

 叫ぶ声と共に、ヴァイオレット・ヴェノムの捕食用ワイヤークローは地表に散らばる残骸。その中から四天王機のものを厳選して喰らっていく。

 右でダーク・ルプス・レクスの超巨大メイス、左でホワイトウィングとブラックリヴェリオンの二機分。

 それらを捕食、一気に三つの融合をなそうというのだ。

 

「ま、無理すれば三機の融合もできるのよ、覚えときなさい!」

 

 笑みを浮かべ、こっちを向いた直後。空中に、猛烈な雷が発生。

 あまりの勢いの凄まじさに、なぜかそれが捕食超越で生成された武器から発せられたものだと一瞬気づけないほどだった。

 

「四天王合体……黄泉雷冥槍(ヨミライメイソウ)って、ところかしら!

 

 偉く中二な名前が付けられた、各部から物凄い電撃が放たれている、刀身がクリアパーツの超大型ランス。

 柄に刻まれた「Anti Revival Crisis-Voltage Lance」の文字列が、対天帝傀儡のための武装だって事を雄弁に物語っていた。

 

 透明な刃の雷槍はバリアを消失させた天帝機の前面、すなわち赤い渦へと投げ込まれ。

 そして。

 

「何、したの……?」

 

 渦の中に槍が入ったとたん、強烈なプラズマが中心部から炸裂。それらは透明な刃を媒介に増幅、渦の表面に幾重にも稲妻の柵を作り上げていく。

 人形たちは再生、通り抜けようとしたものの。すぐに単一仕様能力を奪われ、さらには電撃を浴びて爆散。

 

「あれで何度も能力を執拗に無力化、同時に発動している敵の単一仕様能力、それをコントロールしている精密機器へと深刻なダメージを与えることができるの」

「それって、つまり――!」

「ええ、そう」

 

 あくまで単一仕様能力が効かないのは()()()()()()()()()()()()()

 つまり天帝結界がない今、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「――これで、あいつの死体遊びは打ち止めよッ!」

 

 人形たちの無残な爆散。それが何度か繰り返された後、ついに。

 

「テメェらぁぁぁぁぁああああああぁぁぁ!!!」

 

 安崎の不様な叫び声と、同時。渦は中から大爆発を起こして、消滅。

 これなら、もう天帝結界は発動しない!

 

 あとはッ!

 

「一緒に、行こ――」

「いってらっしゃい優奈。私はちょっと、無茶しすぎた」

 

 ともに天帝機を倒そう。

 そう思って振り返った時にはすでに、ヴァイオレット・ヴェノムは役目を終えたといわんばかりに全身を光の粒子に変換。強制帰還プログラムを発動させていた。

 

「こっち来るのに、急いで無人機どもを片付けたツケが回ってきただけ。気にしないの」

 

 見れば全身傷だらけな上、触手は無理な融合の断行の結果、焼き切れてしまっていた。

 本当に無茶して、こっちに来てくれたんだろう。

 

 そう考えるとありがたくって、気付けなかった自分が情けなくって涙が出そうになってくるけど……必死で堪え、笑顔を作ってから口を開いていく。

 

「うん、行ってくる!」

「一億点、稼ぎなさいよ?」

 

 後ろからそれだけ聞こえてくると、最後にして私たちの仲間となった四天王機は消失。その直後、炎翼でもって連続瞬時加速。異常な機動力でかなり先にいる一夏と箒へと追い付かんと迫る。

 そうだ、あいつだって楽しみにしているんだもの!

 絶対、私が倒すんだからッッッ!

 

「待ってやがれ、安崎ッ!」

 

 

 軋みを上げる紅椿と身体。

 そのどちらにも喝を入れ、今瞬時加速で疾駆する。

 ――倒すべき、敵に向かって!

 

「結界はすでにない、決めるぞ箒!」

「ああ!」

 

 隣に立つ一夏。手に握られた雪片の輝きも、いつにも増して強く感じられる。

 そんな気がした。

 

 だが――奴は!

 

「馬鹿が! これだけ時間を稼いだ以上、テメェらを倒す準備は整ってんだよ!」

 

 そんな言葉と共に、天帝機は物凄い勢いで私達の方へと首を向ける。

 そして――。

 

「すべてを滅する最強の光、その身で受けやがれ!」

「――ッ!?」

 

 破壊光線「ストライク・アンチスパイラル・バースト」。

 

 奴の機体に向けて紅椿が表示させたウィンドウ。その名前の下に書かれた概算ダメージ数値。

 それはなんと、驚異の……。

 

「じゅう、おく……!?」

 

 十億ダメージなどという、明らかにおかしな数値が書かれたいた。

 あんなもの、喰らってしまえば――!

 

「うぉぉおぉぉおおおおおおおりゃああああああああああああああ!」

 

 しかし、ここで、射線上にインターセプトする機影があった。

 

 ばしゅん、ばしゅんという連続瞬時加速の音を引き連れ、炎の翼をはためかせて。

 オッドアイの少女がそのすべての出力を前面に向けて、巨大なまでの焔の壁を形成。天帝機の常軌を逸脱している破壊の奔流。その総てを防ぎはじめる。

 

「優奈!」

「言ったでしょ、覇王狼龍はハイパーで無敵だって! だから……こんなモン!」

「何言ってやがる!」

「やるって言ってんだよ、私が!」

 

 叫び声と共に、まるで闘志を燃料にしているかのように炎の壁はその勢いを増していく。

 そして。

 

「防ぎきってやったぜ…………ざまぁみろ……」

 

 有言実行。

 優奈と新たなアクシアは本当に、天帝機の主砲。あまりにも異常な数値のダメージを誇る、狂気の奔流を防ぎきったのだ。

 

 ただし、その代償は大きく――。

 

「デート諦めてまで、さ……やってやったんだ……必ず、倒せ……よ?」

 

 すでに四肢の先端から粒子となって消失していき、強制帰還プログラムを作動させてしまっていた。

 炎の翼はその発生装置を全て破損させ、右の非固定部位は消滅。他の部位だって満身創痍そのものという有様。

 おまけに、既にPICもまともに働いていないのだろう。アクシアは急速に高度を落とし、自由落下しはじめる。

 

「ほら、最後の、置き土産も……してやっから――」

 

 だが、まだ優奈はやることがあるといわんばかりにネクロ=スフィア展開の力を行使。

 残った左の非固定部位の隠し腕と、両手には()()()()()()()()()()()

 

「テメェ、それはまさか……!?」

「私と……お姉ちゃんとナギ……こいつは……その……怒り……だ!」

 

 かつての戦い、新宿の街で。

 四天王を狩ったあの恐るべき弾丸。それが今、最強を謳う無人機の帝――天帝機へと発射されていく。黒い弾丸を吐き出した発射装置は粉々に砕け散ると当時、赤黒い弾丸は吸い込まれるように巨大な標的へと着弾していく。

 そして。

 

「刃マシマシ痛み(ツラ)め、ってね……!」

 

 舌を出して煽った優奈が消えていくと同時、三つの着弾地点。

 つまりは頭部と両翼に、刃でできた鉄の華を咲かせていく。

 これで機動力と、最大火力の砲口は失われた。

 

 あとは!

 

「神崎優奈、鏡ナギ!! くそ、この糞共が!!!」

 

 もうここにはいない相手への恨み言を叫びつつも、私達に対する悪足掻きを一式がやめることはなかった。

 まったく、その諦めの悪さをIS学園時代にやっていれば、すこしは違っていたものを――!

 

「来るな、来るんじゃねぇ!」

「はぁぁぁぁぁぁあぁぁぁああああああッ!」

 

 空裂から発射された斬撃のエネルギー波が、敵の右手を穿ち。

 

「うおおおおおおおおおおおっ!」

 

 満身創痍の白式の、最後に残った射撃武装――雪羅が、敵の左腕をドロドロに溶かしていく。

 

 どうやら防御はすべてフィールドに頼り切っていたらしく、本体の装甲材質はそこまで強いものではないみたいだ。

 次々と一夏のフルアーマー白式から発射される武器が、展開装甲で形成されていくあらゆる武装が、奴の天帝機。その装甲と砲口を片っ端から破壊して回っていく。

 これでもう、至高龍の最後の状態にさほど差異はないという段階まで追い込むことには成功している。

 だから、もう――あと本当にひと踏ん張りだ!

 

「覚悟、一式白夜!」

 

 一夏の零落白夜による、残る全シールドエネルギーを用いた最後の一撃。それが天帝機の胸、最後に残った一式のクロノグラフ・メイガスめがけて振り下ろされていく。

 

「死んで、たまるかってんだよおおおおォ!」

 

 しかし、それはむなしく奴の抵抗に阻まれた。

 

 剣の色を虹色に変化させた一式はAICで白式を拘束。

 続けざまにBTビット、衝撃砲、浮遊する剣、ミサイル……それら私達代表候補生の武器全てを使い、強引に一夏を倒しにかかる。

 むろん動けなくなっているあいつに防ぐ手段など、ない――!

 

「一夏ぁぁあぁぁあああああああっ!」

「来るな、箒!」

 

 なら、せめて。

 絢爛舞踏で回復させて、なんとか!

 

 そう思い接近したのが、拙かった。

 

「――くっ!」

「箒ぃぃぃぃっ!」

 

 爆発の衝撃に飲まれ、私にまでダメージが及んでしまったのだ。

 幸い絢爛舞踏によってシールド・エネルギーに余裕はある。

 

「ひゃはは……一夏の野郎も倒してやったぜ……!」

 

 まるで臨海学校の最初の出撃の時のように。

 

 もう一夏はいない。残っているのは私だけ。

 それが辛い記憶を思い起こさせていくが――。

 

『箒ちゃん、今は簪ちゃんの仇を! あいつを!』

 

 次元間通信から聞こえてきた、楯無さんの声。

 それを聞いて、今はあいつに止めを刺すのが先決だと、無理矢理な形で不安を思考から追い出していく。

 だが、しかし。

 

「武器が……武器がなけりゃ、テメェもどうしようもねぇな……ええっ!?」

 

 奴の言う通り、雨月も空裂も、それどころか非固定部位まで損傷。

 展開装甲で新しい武器を作ろうにも、もはやどうしようもない。

 

「いや、まだだ――!」

 

 ネクロ=スフィアの力さえあれば!

 

「うおおおおおおおおおお!」

 

 機体は瞬く間に元に戻っていき、紅椿の二刀流による攻撃。いまだクロノグラフの強引な稼動によって硬直しっぱなしの奴へと斬撃を放つ。

 

 しかし。

 

「なぜ、倒せない……!?」

 

 崖っぷちであるのは、間違いない。

 もう残るシールドエネルギーはたったの1と表記されていたはずなのに。

 

 なぜか、その1がどうしても削れなかった。

 

「馬鹿、が……俺は天帝だぞ。負け犬になるわけが……ねぇだろうが!」

「何を言って……」

「天帝絶対防壁――俺のクロノグラフは……一撃で、ライフ全部と…………同じダメージを与えられねぇ場合は、シールドエネルギーが1残るんだよ……!」

 

 この期に及んで、奴はまだ保身に走っていた。

 そんな武器、私の紅椿にはあるわけがない。

 一夏なら、ともかく―――どうすればいいんだ!?

 

「万に一つも、てめぇらに勝ちはねぇ! また四天王機を呼び出し、至高龍を再生させて第二ラウンドに入ってやるぜ! あっひゃっひゃ!」

『至高……龍を、また……!?』

 

 通信機越しに聞こえてきたのは、シャルロットの唖然とした声。

 

 もし、そんなことになれば。

 今度こそ、勝ち目などあるはずがない。

 

 また至高龍から天帝機と闘って、勝つなんてできるわけがないからだ。

 

 涙があふれ出てきそうになるが、それをさっきアーリィ先生から言われたアドバイスによってかき消していく。

 まだだ、諦めるな、諦めてたまるか……!

 たとえ白式の……一夏のように、一撃必殺の武器を持たずとも、何か方法が……!

 

「一夏――一夏?」

 

 その名を口にした、瞬間。

 ある手段が思い浮かぶ。

 

 これなら、きっと――いや、もうこれしかない!

 

「諦めて泣くのか? 不様なもんだぜェッ!!」

「それは……どうかな?」

 

 そうだ、違う。

 

 これは好機だ、奴が自ら弱点を教えてくれたのだから。

 なにせ、あとはあいつに一機分のダメージを与えるだけでいい。

 それだけで、勝ちは確定するのである。

 だったら!

 

「何を言ってやがる? まぁ雪片でもありゃ、話は別だったかもしれねぇがなァ……ひゃひゃひゃひゃ――」

「あるさ、ここにッ!」

 

 絶対に持ってない筈の剣が、私の手に集った粒子から形成されていくのを。

 

 奴は、ありえないものを見るような目で見てきた。

 

 まぁ、無理もあるまい。普通しっかりと心に刻み付けられるのは、一番よくみている機体。つまりは自機だけのようなものなのだから。

 

 だけど、私は――私は!

 

「う、うおおおおおおっ!」

 

 毎晩毎晩、記憶のない頃もずっと! 

 

 この剣を、夢で見ていたのだから!

 

 だから、紅椿よりも打鉄よりも、なによりも思い出せると、胸を張って言える!!

 

「馬鹿な、どうしてテメェが! てめぇがあああああああああああああッ!?」

 

 最期の最期、叫ぶ奴に対し。

 

 破邪の剣は、炸裂した――!

 


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