知らないドラクエ世界で、特技で頑張る   作:鯱出荷

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【2019/06/01 追記】
今回の話で、4名から誤字脱字のご指摘をいただきました。

いつもありがとうございます。


【第35話】冥竜王!お許しください!!

----レイザーside----

 

「死ぬかと思った…」

 

バーンによって決戦の場から退場させられた後、魔力を吸収する壁で周囲を覆われた心臓部へ落とされたのだが、気まぐれにやってみた『凍てつく波動』からのマホイミをした途端、壊死するように床が崩れるとは思わなかった。

 

落下直後にルーラでバーンパレスへ戻ろうとはしたのだが、再度ルーラによる侵入を阻む結界のようなものが張られてしまったため、今は諦めてバーンパレス真下の地上で一息を入れている。

 

「レイザー様。今更なのですがこの後、私達と同じように心臓部に落とされた方がいた場合、そのまま地上まで落下するのではないでしょうか?」

 

底部がぽっかりと空いたバーンパレスを見上げながらクーラが言うが、まさか自分が落とされた後にまた落下されるような人物はいないだろう。

…いないよね?

 

「やっちまったことは仕方ない。もう戦場に戻ることもできないようだし、フローラ女王達と合流しようか」

 

「ブローム」

 

付いてきてしまったブロックに対して言うが、急にクーラは何もない方向を睨みつける。

 

「いえ。その前に、退治しなければならない者がいるようです」

 

さすがの俺でも、2回目となったら全てを言わずともわかる。

クーラと同じように『盗賊の鼻』を使い、見つけた人物に『灼熱の炎』を吹きかける。

 

「出てこい、この不審者めっ!!」

 

「君に言われたらおしまいだよ!!」

 

俺の炎を切り裂くようにしながら、アバン先生が首を切り落としたというキルバーンが現れる。

脇にはその自身の首を抱え、使い魔ピロロと共にニヤニヤ笑いながらこちらの驚く様子を楽しんでいる。

 

とっさにその正体をデュラハンやスリーピーホロウといった、元々首がない種族と予測しつつインパスをするが、予想とは違った答えが返ってきた。

 

「…なるほど。胴体や首を切られて平気なのは、後ろの使い魔が操作している人形だったからか」

 

「ふふふ。やっぱりボクの正体を見抜く特技を持っていたんだね。君から距離を取って正解だったよ」

 

こちらの特技を警戒してか、人形の陰に隠れるようにしながらピロロは俺の言葉を肯定する。

 

「まぁ、もうこんな状況だし、どうせここで死ぬ君達には言ってもいいか。僕の上司は冥竜王ヴェルザー様さ。いざという時はバーンを殺すよう仰せつかっていたのさ」

 

ピロロは人形を操作しながら、これまでのようにからかうような口調ではなく、上から目線で語り出す。

アバン先生から聞いた人形の特徴から推測するに、不可視の刃であるファントムレイザーを周囲に設置しているのだろう。

 

「ボクの今の目的は、万が一勇者が大魔王を倒せたとき、勇者一行を始末することだ。だけどボクの位置や正体を見破れる君たちが邪魔だったんだけど、こうして君たちだけが現れてくれるなんて、ボクは運が良いみたいだ」

 

「…たしかピロロがいれば、人形の刃を幾らでも補充できるってアバン先生が言ってたな。さっきから設定している刃は、何本目だ?」

 

途切れることなく人形を操作していたピロロは、なおその動作を止めることなく答える。

 

「さぁ?たぶん100本くらいじゃないかな。一歩でも動いたら、大変なことになるよ」

 

直接刃をぶつけないのは、俺達が見えない刃に囲まれ、恐怖する様を見たい奴の趣味のためだろう。

そうなると次にくるのは、人形に使用している、魔界のマグマと同じ成分である液体に点火し、メラゾーマ以上の火球を投げつける技のはずだ。

 

敵の狙いがわかっているのに、それを黙ってみているつもりはない。

 

「このまま灰になるつもりはないから、精一杯抵抗させてもらうよ。それと覚えときな。奇術師は自分のタネがバレたら、自ら幕を閉じなければいけないんだよ」

 

キルバーンの刃は『輝く息』で凍らせることでも位置を確認できると思うが、敵の小細工を丸ごと無力化させることを優先する。

この技はブロックにも影響が出てしまうが、確実に勝つために体中から霧を噴出する。

 

「うん?黒い…マヌーサかい?そんなことしても、この距離で狙いを外すことなんてありえないんだけどなぁ」

 

ピロロが人形にもたれかかりながら、無駄な抵抗と思っているのか、俺が噴出した霧に無防備に人形ごと包まれる。

 

それを確認してクーラに目配せをすると、察したクーラはピロロに向かって浮遊しながら駆け出した。

 

周囲にばらまいたはずの刃が刺さらないクーラに驚きながら、ピロロは人形を操作しようとしたがそれもできず、クーラによってその手足を引き千切られた。

 

「どうです。レイザー様にかかればこの程度の結果、一瞬で導かれるのです」

 

いや。そこまでしろとは言ってないし、思ってない。

せいぜい手足を縛る程度で良かったんです。

 

「お、お前…何をしたんだ!?どうして空中に固定したはずのファントムレイザーが地面に落ちていて、ボクの人形も思うようにならない!?おまけに呪文まで使えないじゃないか!!」

 

激痛にもだえながら回復呪文をしようとしているのだろうが、先ほどした特技『黒い霧』の影響で、もう数分は魔力によって引き起こされる現象は起こすことができない。

 

「魔界のモンスターで、これを使える奴はいないのか?これは現在かかっている呪文も含めた魔力に起因する効果を全て解除する技で、霧が晴れるまではどんな呪文も使えない『凍てつく波動』の無差別版のような技だよ。当然、魔力で動かしている刃や人形も対象だ」

 

この効果でブロックは駒に戻ってしまったが、魂は復活の玉に送られたので大丈夫だろう。

 

先ほどまでと立場が逆転したものの、さすがにこのままでは手足からの出血でピロロが息絶えてしまいそうなため、霧が晴れたことだし回復呪文を使おうとしたが、頭上に突然何かが現れる。

以前ハドラーが使った、自身の姿を映像で送る呪文だ。

 

『待て。貴様の動きを見せてもらったが、ここは負けを認めよう。その人形をくれてやるから、そいつはこちらに引き渡してもらう』

 

映し出される竜の石像にピロロは驚くが、俺は拍子抜けしていた。

 

「…なんだ。動く石像か」

 

『違う!オレは冥竜王ヴェルザー!!かつてバーンと魔界を二分する勢力を持ち、竜の騎士であるバランを追い詰めた竜だ!!』

 

「わかった、わかった。自分を竜だと思い込んでいる、動く石像だなんて思ってないから。今大事な話をしようとしてるんだから、帰ってくれるか?」

 

『貴様ぁ…!!』

 

動く石像とは思えない圧力を放ってくるが、適当に無視しようとする俺を合流したバランがたしなめる。

 

「レイザー。そいつはヴェルザー本人で間違いない。実際に戦った私が、その声を覚えている」

 

バーンパレスから落下した俺達が見え、様子を見に来てくれたらしい。

そしてバランの説明から、動く石像の正体を聞く。

 

「…なるほど。じゃあ、お望み通りにしてやろうか」

 

バランの説明とキルバーンがしようとしていたことから、決めかねていた対応が確定した。

 

ピロロと人形を囲むように、ゴールドフェザーを突き刺す。

 

「レイザー様。今度は何をするつもりですか?それとその羽は、アバンの物では?」

 

「バーンパレスの床や扉に刺さっていたのを、拾い集めたやつだ。それとアバン先生からは、ダーマの書のお返しに少しだけだがこんな物ももらえた」

 

怪訝な目で見てくるピロロに対して、献花のようにルラムーン草を供えていく。

これだけでは心許ないので、バランにも協力してもらう。

 

「おい、バラン。以前魔界でヴェルザーと戦ったらしいけど、その場所を思い浮かべられるか?」

 

「問題ないが。…お前まさか、バシルーラでキルバーンをヴェルザーの元へ送るつもりではないだろうな?」

 

「そのつもりだ。ついでにちょうど始末に困ってた、不発弾の処理もしてもらう」

 

袋からバーンから奪った黒の核晶を取り出し、人形に括り付ける。

しっかり結んだことを確認してから、人形にも仕掛けられている黒の核晶の起動ボタンを押した。

 

インパスで確認したが、この人形のボタンは押してから爆発するまで10数秒しか猶予がないため、急いでバシルーラの詠唱に入る。

 

『や、やめろ馬鹿者が!…バラン、奴を止めろ!オレとの決着が、このような形で恥だと思わないか!?』

 

自身では動くことができない冥竜王ヴェルザーがバランに言うが、むしろ肩の荷が下りた様子のバランは冷静に答える。

 

「これまで私個人の勝手を貫いてきたのだ。残りの人生は全て家族へ捧げるつもりのため、好都合だ」

 

「ま、待ってくれ!ボクの持っている情報を全て渡す!それに今度こそ、ちゃんと改心する。だから…!」

 

ピロロの命乞いに、詠唱をしながら俺は静かに答える。

 

「…勘違いするなよ」

 

思っていたよりも低い声が出て自分でも驚くが、話を続ける。

 

「俺自身はともかく、自分の恋人や弟を殺されかけたのを笑って許せるほど、俺は人間が出来てない」

 

ゴールドフェザーなどの媒体が働いているのを確認し、俺はピロロに向かってバシルーラを放つ。

 

「故郷へ帰るんだな。お前にも上司がいるだろう」

 

バシルーラが発動したのを確認してしばし待つが、地上で爆発が起こった様子はない。

無事、魔界に送り返せたのだろう。

 

「…クーラもどうかと思っていたが、お前も似たような物だな」

 

引いた様子でこちらを見るバランだが、俺は気にせず、出来ることをやり終わったことに安堵の息を吐く。

 

「そりゃ、俺だって怒るときは怒るよ。…それより向こうの盛り上がりを見る限り、勇者様が帰還されたようだぞ。俺達も、出迎えに行こう」

 

これからは、ようやく特技で生きていけるのだ。

やらなければいけないことは山積みだが、頑張っていけば何とかなるだろう。




ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
レイザーと奇行な物語は、これにて本編終了となります。

次話はちょっとしたエピローグと、その後の勇者達をまとめたおまけ話となります。

【追記1】
レイザーの最後の行動は魔界の勢力を敵に回しそうですが、ダイを救い、キルバーンやヴェルザーに一矢報いるためにこのような結果となりました。

【追記2(という名のサブタイトルのボツネタです)】
■ハッスルダンスを使うまでもない
■お前にもレイザーをあてがってやろうか!?
 →無理やり感のあるパロディは駄目な気がしてボツ。

■絶対死なない死神 VS 生きているなら大魔王にでも迷惑をかける魔族
■「冥竜王!空からレイザーが!!」「早く逃げろっ!間に合わなくなっても知らんぞー!!」
 →ネタを詰め込み過ぎな気がして、却下しました。

■おめでとうございます!応募されていない抽選で、レイザーからのプレゼントが当選しました!
■視聴者プレゼント~当選は発送をもって代えさせていただきます~
 →サブタイトルの本命でしたが、万が一読者プレゼントと見間違える方がいて空喜びさせては申し訳ないのでNG。

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