戦略級魔法師の日記   作:小狗丸

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 ☆月▲日

 

 ブランシュの一件が解決してようやくボクの周りに平和な日々が戻ってきた。

 

 学園であんな事件があったせいで生徒達もしばらくは大人しくなり風紀委員の仕事も少なくなったので、今のうちにやりたいことをやっておこうと思う。

 

 爆炎の魔法の改良。爆炎の魔法を効率的に使った戦い方の研究。CADの徹底的なメンテナンス。「あの魔法」の解析と修得。

 

 やりたいことは山程あり、時間はいくらあっても足りない。

 

 そんなわけで今日は徹夜で研究でもやろうかと思ったところで、今から数日後に達也の誕生日があったことを思い出す。

 

 達也と深雪さんは複雑な家庭環境のせいで誕生日と言っても兄妹だけでささやかなお祝いをするだけなのだろう。しかしそれは寂しいだろうと思ったボクは通信回線を開いて知り合い達との同時通話を行った。同時通話を行った知り合いはレオに森崎君にエリカさん、美月さんにほのかさんに雫さんだ。

 

 今から数日後に達也の誕生日があると言ったら全員知らなかったようで凄く驚いていた。

 

 中でも一番驚いたのがほのかさんで、驚かれた後に「何でもっと早くに教えてくれなかったの!」と思いっきり怒られた。

 

 この尋常ではない怒り様、もしかしてほのかさんって達也のことが……いや、止めよう。勝手な推測をするのは双方にとって失礼になるだろう。

 

 とにかく達也の誕生日には帰り道にいつも寄っている喫茶店で誕生日会みたいなものをやろうと提案すると全員が賛成してくれた。

 

 ほのかさんなんかは「はい! 頑張りましょう!」と、背中に炎が見えるくらいの意気込みを見せてくれたのだが、やっぱりほのかさんは達也のことが……いや、下世話な勘繰りは止めておこう。

 

 この手の話は中途半端に首を突っ込むと痛い目に遭うっていうのがお約束だからね。

 

 

 

 ☆月▽日

 

 皆と達也の誕生日会を企画してから数日後。いよいよ今日は達也の誕生日。

 

 学校が終わった帰り道にいつものメンバーで、いつもの様子を装って席を予約してある喫茶店に入ってこれで準備完了。

 

『達也。誕生日おめでとう』

 

 席に座り注文を頼もうとした時に異口同音で言われたお祝いの言葉にポカン、とした表情を浮かべる達也と深雪さん。

 

 うん。この二人のこの表情は中々見られないね。

 

 最初は言われた言葉の意味を理解できていなかった達也と深雪さんだったが、二人はすぐに状況を把握してボクに視線を向けた。

 

「一光。これはお前の企画だな?」

 

「そうですね。この中でお兄様のお誕生日を知っているのは一光君くらいですもの」

 

 訊ねてくる司波兄妹にボクが「そうだよ。たまにはこんなサプライズも楽しいだろ?」と答えると、達也は小さく笑ってから「それもそうだな。皆、今日はありがとう」と礼を言う。

 

 喜んでくれたようで本当に良かった。企画した甲斐があったというものだ。

 

 その後はしばらく皆で話ながら食事をとっていたのだが、途中で誰かが「もう少ししたら一学期の定期試験だったね」と言い、それを聞いて雫さんが「忘れていた」という顔をして、筆記試験が苦手なレオとエリカさんが明らかに嫌そうな顔をした。

 

 魔法科高校の試験は筆記試験だけでなく魔法の実技試験もある為、普通の高校と比べて行われる時期が早くその事を嫌がる生徒が多いのだが、ボクにとっては望むところであった。

 

 何故ならば一学期の定期試験で好成績を出せば夏に行われる「九校戦」のメンバーに選ばれる可能性が高くなるからだ。

 

 九校戦とは一高を含めた日本全国で九つある魔法科高校が競技で競い合う大会で、今年の九校戦には「一条家」の新入生が出るのだ。

 

 一条家。ボクが今もなお憧れている「爆裂」の魔法を操る十師族の一家。

 

 ボクの「爆炎」と一条家の「爆裂」。

 

 一体どちらが上なのか確かめる機会は九校戦にしかない。そう考えると今から夏が待ち遠しかった。


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