☆月□日
今日はあまりツイていない日だ。
今日は風紀委員の仕事もなく、早く帰れたので思う存分研究ができると思っていたのだが、帰ってきた途端に電話がかかってきた。電話に出てみれば相手はボクが所属している日本軍の部隊、一○一旅団独立魔装大隊の隊長、風間少佐だった。
風間少佐は、反魔法国際政治団体「ブランシュ」の日本支部が近々ボク達がいる一高に何かのテロ行為を行おうとしているという情報を掴んだので、それの調査に協力するようにボクに命令をだした。
命令の内容は理解できたけど何でボクだけ? ボクと同じ部隊で同じ高校に通ってる達也は?
そう思って風間少佐に質問をすると、達也は先日からブランシュの下部組織「エガリテ」に所属していると疑われている一高の女生徒に声をかけられているらしく、彼女との会話から得られた情報を元にブランシュを探っているのだとか。
……ボクは夜の街を走り回って敵の情報を探っているのに、達也は女生徒と楽しくお話をしながら敵の情報を掴むって、何だか納得がいかない。
☆月■日
今日はもう本当にいい加減にしろよ、と言いたくなった。
風間少佐から命令を受けてから一週間。ようやく調査が一段落ついて今日くらいはゆっくりできると思ったのに、放課後突然「学内の差別撤廃を目指す有志同盟」とやらが放送室を乗っ取るという事件が起きたのだ。
有志同盟と名乗る彼らは全員一高の二科生で、彼らの要求は一科生と比べて不当な扱いを受けている二科生の待遇改善の要求だそうだ。
それを聞いてボクは馬鹿馬鹿しいと思うと同時に、有志同盟が風間少佐からの情報にあったエガリテに所属している……というか洗脳を受けて協力者にされている一高生徒であることを思い出す。彼らがこの様な動きを見せたということは、近いうちにブランシュも動きだし、ボクの出番がくる日も近いと言うことか。
結局、この放送室の立て籠り事件は達也の機転によってあっさり解決。
放送室に立て籠った有志同盟の一人が先日達也に声をかけた女生徒、壬生先輩だったので彼女の連絡先を聞いていた達也は「生徒会や部活連は有志同盟との交渉に応じる。あと壬生先輩の自由は保証するので放送室の扉を開けてほしい」と壬生先輩に言った。
ここで重要なのは達也が保証したのは「壬生先輩の自由」だけで、他の有志同盟のことは何も言っていないところ。
達也の詐欺に近い交渉にそれを間近で見ていた森崎君は「司波って性格悪くないか?」と呟き、ボクはそれに「人が悪いだけだよ」と答えた。
そして放送室を乗っ取った有志同盟をボク達風紀委員が取り押さえると、そこに七草先輩が登場。学校に判断を委ねられたと言う七草先輩は有志同盟と話し合いを行い、二日後に生徒会と有志同盟との公開討論会を開くことが決定した。
……ブランシュが動き出すとしたら多分その日だろうな。
☆月△日
人の予感というのは悪いものほどよく当たるものだとボクは思う。
ブランシュは俺の予想通り、有志同盟による放送室の立て籠り事件から二日後、生徒会と有志同盟との公開討論会の日に行動を起こした。
公開討論会では生徒会代表の七草先輩が、有志同盟の感情や勢いに任せた主張を具体的な事例や数字で一つずつ潰していき、次第に七草先輩による演説会になっていった。
そして「演説会」で七草先輩の一科生と二科生との間にある意識の溝をなくそうという意見が一科生と二科生の両方に受け入れられて、討論会を見に来ていた全ての生徒が拍手を七草先輩に送っている時にブランシュの部隊が一高に襲撃を仕掛けてきたのだ。
ブランシュの襲撃の目的は一高の図書館からこの国の最先端資料を盗み出すことで、有志同盟の行動も襲撃はそのための誘導だったらしい。
最初こそ襲撃に成功して有利に戦えていたブランシュの部隊だったが一高はただの学校ではない。優秀な魔法師を育成する名門であり、教師だけでなく生徒の中にも魔法を使った戦闘技術が高い者が大勢いる。
ブランシュの部隊はすぐに一高の教師陣と風紀委員、そして戦闘力が高い上級生によって取り押さえられた。図書館に潜入した部隊も達也と深雪さんによって捕縛されて、今回のブランシュの作戦は完全に阻止できたと言えるだろう。
ボク? レオと森崎君と一緒になってブランシュの部隊と戦っていたよ。
※
ブランシュの襲撃を鎮圧してから数時間後。日が沈み始めた頃、保健室に数名の男女が集まっていた。
「……さて、問題はやつらが今、何処にいるのか、ということですか」
「……達也君。まさか、ブランシュと一戦交えるつもりなの?」
保健室に集まっていた数名の一人、達也が言うとそれを聞いた真由美が訊ねる。
「その表現は妥当ではありませんね。一戦交えるのではなく、叩き潰すんですよ」
「その行動には許可を出すことはできんな」
真由美の質問に言葉の過激度を上昇させて答える達也だったが、部活連の会頭である十文字克人が即座に却下する。
「少し前に軍から連絡がきた。ブランシュのアジトは既に突き止めており、これから攻撃を仕掛けるそうだ。だからここから先は手出し無用。万が一アジトに近づけば命の保証はできんとのことだ」
「何だよそりゃ? 俺達だと足手まといになるとでも……」
「そうですか。分かりました」
「え? 達也?」
克人の言葉に思わず不機嫌になって言うレオだったが、あっさりと引いてみせた達也の態度に驚いて彼の方を見る。
(十文字先輩に連絡した軍とはまず間違いなく一○一旅団独立魔装大隊。となればアイツも動いているはず……)
そこまで考えると達也は、ここにはいない友人に向けて心の中で呟いた。
(すまんが後は任せるぞ、一光。……いや、『光一』)