戦略級魔法師の日記   作:小狗丸

4 / 21
三頁目

 ☆月◎日

 

 昨日、服部副会長を模擬戦で倒して正式に風紀委員に認定されたボクは、達也と森崎君と一緒になって風紀委員の詰所に向かっていた。

 

 聞いた話によると風紀委員というのは生徒会、教職員、部活連のそれぞれが推薦した生徒がなるものらしく、森崎君は教職員からの推薦で風紀委員となったらしい。

 

 森崎君は先日の件もあって達也を意識していて、風紀委員の詰所に着くまでの間も彼に何度か鋭い視線を向けており、達也は別に気にしていないようだったが二人の間を歩くボクは正直結構疲れた。

 

 そしてようやく風紀委員の詰所に辿り着き、先輩の風紀委員の皆さんと待っていると、風紀委員長の渡辺先輩がやって来て開口一番に「いよいよ今年も馬鹿騒ぎの一週間がやって来た」と告げた。

 

 何でもこの一週間は各部活の新入部員勧誘期間で、かなり強引な新入部員の勧誘が行われているらしい。しかもこの期間は部員獲得の為のデモンストレーションを行うためという名目で、本来であれば生徒会役員や風紀委員といった一部の生徒以外、携帯や使用を禁じられているCADの使用が許可されていて、学園中がいたる所で魔法が飛び交うカオスな空間になるのだとか。

 

 ……そりゃあ、渡辺先輩だって馬鹿騒ぎの一週間って言いたくなるよ。というかボク、今の説明を聞いて帰りたくなってきたんだけど。

 

 風紀委員のミーティングが終わり、いよいよ出動しようかとしたら達也は渡辺先輩に風紀委員の備品のCADを貸してほしいと言い出した。……それも二つ。

 

 普通、CADを二つ同時に使おうとするとサイオンの波動が干渉を起こして、ほとんどの場合魔法が発動しなくなる。

 

 それを知っているせいか森崎君はCADを二つ借りた達也を「所詮はハッタリで取り入っただけか」といった失望と侮蔑の目で見ていた。

 

 友人がそんな目で見られるのはボクの本意ではないので森崎君に「達也の後をつけて様子を見てみよう」と提案をしてみた。最初は渋っていた森崎君だったが「達也の本当の実力が見られるかもしれない」と言ったら最終的には了承してくれた。

 

 パトロールを兼ねた達也の追跡(達也は気づいているだろうが)を開始するボクと森崎君。

 

 途中で達也がエリカと一緒に学園内を回っているのを見て森崎君が「パトロール中だぞ。何を女連れで歩いている」と怒っていたが、ボク達が言えることじゃないからね? それ?

 

 そんなことをしているとついに達也の実力を見られる場面と遭遇した。

 

 体育館で剣道部の壬生先輩と剣術部の桐原先輩が何やら口論を起こして決着をつけるために剣道の試合を始めたのだ。

 

 試合は壬生先輩の勝ちでこれで終わればそれまでだったのだが、その後桐原先輩は振動系・近接戦闘魔法「高周波ブレード」、殺傷性ランクBの魔法を使用。日本刀と同じ切れ味をもった竹刀で壬生先輩に襲いかかる。

 

 これにはボクと森崎君も止めようとしたが、それよりも先に行動を起こしたのが達也だった。

 

 達也は壬生先輩と桐原先輩との間に滑り込むと、ブレスレットタイプのCADをそれぞれ装着した両手首を交差させてそこから強力なサイオン波を放った。それによって桐原先輩の魔法が効力を失い、その隙に達也は桐原先輩をねじ伏せる。

 

 この場にいた人間でボクと本人以外に、達也が何をしたのか理解できた人間はいないだろう。

 

 その後、桐原先輩が倒されたことで逆上した剣術部の部員達が達也に一斉に襲いかかるのだが、達也はそれを涼しい顔で卓越した体術でさばいていく。そんな達也を森崎君は目を大きく見開いてずっと見ていたのだった。

 

 そして放課後。ボクと森崎君は委員会への報告で遅く遅れている達也を待つ、深雪さんとエリカに美月さん、レオ達と合流する。

 

 深雪さん達は最初、森崎君を見て驚いた顔をしていたが今日は喧嘩にはならず、報告を終えた達也を交えて帰り道にある喫茶店で軽食を取ることにした。そしてその席で森崎君は達也に「昼間のあの騒ぎ、お前はどうやって桐原先輩の魔法を解除した?」と聞いてきた。

 

 森崎君の質問に対し、達也は「この話はオフレコで頼む」と断ってから、あれは「キャストジャミングの理論を応用した特定魔法の妨害」だと説明してくれた。

 

 二つのCADのうち片方のCADで打ち消したい魔法と同じ起動式を展開し、もう片方のCADでそれとは逆の現象を引き起こすー魔法の起動式を展開。そしてその二つCADを交差させて起こるサイオンの波動を無系統魔法として放つことで、ある程度の魔法を妨害できると達也は言った。

 

 世間一般で知られている魔法妨害の手段は「アンティナイト」という軍事物質を使用した魔法妨害波「キャストジャミング」だけなので、今達也が言ったアンティナイトを使用しない魔法妨害の手段にその場にいる全員が絶句した。

 

 それから達也はこの魔法妨害の手段は、まだ理論が完全ではないという理由と、現在の社会基盤を揺るがしかねないという理由から公表するつもりはないと言って、その言葉にここにいる全員が深い感銘を受けた。中でも一番感銘を受けているのが森崎君だった。

 

 話を聞き終えた森崎君は達也に今まで内心で蔑んでいたことを謝罪し、他の皆にも一科生や二科生という色眼鏡で見ていたことを謝罪した。

 

 その時の森崎君はまるで憑き物が落ちたかのような爽やかな表情をしており、それを見たこの場にいた全員が「この人、誰?」と思ったのはボク達だけの秘密である。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。