☆月●日
朝、学校の教室に行くと森崎君が昨日のことで迷惑をかけたと謝りに来てくれた。深雪さんにもすでに謝ってきたらしい。
いや、本当によかった。昨日、あんな別れ方をしたから、正直もう嫌われてしまったかと思っていたのだ。
別に気にしていないよ、と言って森崎君と仲直りをすると「昨日、どうやって僕の名前を妨害したんだ?」と昨日のレオと同じ質問をされ、昨日と同じように「グラム・デモリッション」を使ったと言うと、昨日と同じように驚かれて珍獣を見るような目で見られた。そしてその様子を見ていた深雪さんとほのかさん、雫さんに苦笑された。……解せぬ。
そんなことを考えていたら深雪さんが昼休みに一緒に生徒会室に来てほしいと言ってきた。何でも七草先輩から昼食に誘われて、そこに何故かボクと達也も連れてきてほしいと頼まれたのだとか。
まあ、別に断る理由もないし達也、深雪さんと一緒に生徒会室に行くことに。すると生徒会室には七草先輩に渡辺先輩、それに初めて見るいかにもなクールビューティーといった感じの女生徒の先輩と、小柄で小動物みたいな感じの女生徒の先輩(?)が俺達を待っていた。
クールビューティーの女生徒は生徒会会計の市原鈴音先輩。
小動物みたいな女生徒は生徒会書記の中条あずさ先輩。
七草先輩は市原先輩のことを「リンちゃん」、中条先輩のことを「あーちゃん」というアダ名で呼んでいたが、二人はそれが不満のようだった。
深雪さんが七草先輩達に昼食に呼ばれた理由は、深雪さんを生徒会に勧誘する為だったのだが、話の途中で達也を風紀委員するという話が出てきた。その話に達也は嫌そうな顔をするが、逆に深雪さんはこれ以上なく嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
まあ、あまり目立ちたくない達也と、世間に兄の素晴らしさを知ってもらいたいと思っている深雪さんだったら、こんな対照的な顔にもなるわな。
……それで? ボクが呼ばれた理由は一体何ですか?
「ん? 風紀委員にスカウトするためだが?」
と、質問したら渡辺先輩に「何を言っているんだ、コイツ?」という顔で言われた。
……いや、何を言っているんですか、渡部先輩?
何でボクを風紀委員にスカウトするのか聞いてみると、昨日の森崎君相手に見せた「グラム・デモリッション」。やっぱりあれが渡辺先輩の目に即戦力になると見られたようであった。
とにかく、詳しい話は放課後にしようと言われて教室に戻ると、森崎君に「一体どんな用事で生徒会に呼ばれたんだ?」と聞かれた。深雪さんは生徒会に、俺と達也は風紀委員にスカウトされたと答えると森崎君は、
「深雪さんは当然だし、お前(一光)はグラム・デモリッションという特技もあるし……それに司波達也も、にわかには信じられないが魔法の起動式を読み取るという特技があるからな……」
と、渋々と納得してくれた。うん。昨日のことを考えるといい傾向に見える。
そして放課後、達也と深雪さんと一緒に生徒会室に行くと、昼休みにはいなかった服部刑部少丞範蔵副会長……長いので服部副会長が達也の風紀委員入りに大反対。
過去に二科生を風紀委員に任命した例はないとか、実力で劣る二科生には風紀委員は務まらないとかいう服部副会長に深雪さんが爆発寸前(というか小規模だが爆発した)といったところで、達也が服部副会長に模擬戦を申し出た。
模擬戦の結果は達也の圧勝。
模擬戦が始まると同時に達也は純粋な体術で服部副会長の後ろに回り込み、「複数のサイオンの波を放ってから合成して相手を重度の船酔いのような状態にする」という攻撃で瞬殺。
こうして模擬戦に勝利した達也は無事、風紀委員に任命されたのだが……何故かその後ボクも服部副会長と模擬戦をすることになった。死なばもろともの達也にはめられてしまったのだ。
……オノレ、達也。
※
一高の建物内にある第三演習室の中で二人の男が対峙していた。
一人は一高の生徒会副会長、服部刑部少丞範蔵。
そしてもう一人は一科生の新入生、円城一光。
「ルールは先程と同じだ。直接攻撃、間接攻撃を問わず相手を死に至らしめる術式は禁止。回復不能な障害を与える術式も禁止。ただし、捻挫以上の負傷を与えない直接攻撃は許可する」
服部と一光の間に立つ女生徒、風紀委員長の渡辺摩利がルールの説明をする。
先程、と言うのは服部は少し前にも一度模擬戦をしていたからだ。
前の模擬戦では服部と、今は壁側で生徒会のメンバーと一緒に模擬戦の様子を観察している二科生の新入生である司波達也が戦い、司波達也が勝利した。
一度敗北したこともあって服部は、相手が新入生であるという油断を排除して今の模擬戦の相手である一光を冷静に観察する。
服部から見た円城一光の姿は「地味」の一言だった。
背は高い方だが太っても痩せてもない体格。
左目を隠す髪型をした青みがかかった黒髪に、感情が全く見えない整っているわけでもなく醜くもない顔立ち。
印象に残り辛く、人混みにまぎれたらすぐに見失ってしまいそう。それが服部の一光の姿を見た感想だった。
だが一光の左手にはタブレットタイプのCADが握られており、すぐに起動できる準備をしてあるのを服部は見逃さなかった。
「それでは……始め!」
「……!」
「……」
渡辺摩利の開始の合図と同時に、服部はブレスレットタイプのCADを、一光はタブレットタイプのCADを操作する。
(よし! 俺の方が発動が早い!)
一光がCADから起動式を読み込む速度を見て、服部は自分の方が速度が早いのを確信する。
現代の魔法師の戦いは、先に魔法を発動させた者が勝利する。
そして魔法師は自分のCADにサイオンを流してCADから魔法の起動式を読み込み、そこから魔法式を構築することで魔法を発動させる。
起動式の読み込みが相手より早かった服部は自分の方が早く魔法を発動させることを、自分の勝利を確信したのだが……、
パキン☆
服部が魔法を発動させる直前に一光は前に差し出した右手で指を鳴らす。そしてそれと同時に、
バァン!
「うわぁ!?」
服部の目の前で小さな爆発が起こり、その爆風が彼の体を吹き飛ばして気絶させる。
「い、今のは……?」
審判役の渡辺摩利だけでなく、その部屋にいる者達は今何が起こったのか理解できなかった。
先程の爆発、威力を最低限まで抑えた収束・吸収・振動系複合魔法「爆炎」を理解できたのは、発動させた本人である一光と司波達也、そしてその妹である司波深雪の三人だけ。
そして彼ら三人以外は知らない。今の魔法が本人の意志次第で、半径数キロメートルの範囲にいる何百、何千という人の命を奪う「戦略級魔法」となることを。