戦略級魔法師の日記   作:小狗丸

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「円城一光の挑戦状」

 新人戦モノリス・コード予選最後の試合、四高との対戦で一光は試合会場の市街地ステージを一人で歩いていた。

 

 チームメイトである森崎と竜玄は自陣のモノリスの守りに回っていて、一光が一人で敵陣へと向かっているのは彼の強い要望であったからだ。一光はこの試合で「ある魔法」を使って恐らく試合の様子を見ているであろう一条将輝にある種の宣戦布告をするつもりであり、自分の無茶な要求を聞いてくれた二人のチームメイトに内心で感謝の言葉を告げた。

 

(森崎君。竜玄君。ボクのワガママを聞き入れてくれてありがとう。……っと、そろそろ来るか)

 

 隠れたりせず無防備と言っていいくらい堂々と姿を見せながら敵陣へと歩いていく一光が気配を感じるのと同時に、物陰や廃ビルの窓から四高の選手達が姿を表してCADを構える。四高の選手達はすでに起動式を展開しており、普通の選手であれば対処が間に合わず魔法の集中砲火を受けるだろう。

 

 だが円城一光はただの選手ではなく、非公開ではあるが日本に三人しかいない戦略級魔法師であり実戦経験を持つ軍人で、このような状況でもすぐに対応を取ることができた。

 

(ああ、そこにいたんだ。……グラム・デモリッション)

 

 一光は念じるだけで膨大な量のサイオンを四高の選手達に向けて飛ばすと、四高の選手達が展開していた起動式は強大なサイオンの波に吹き飛ばされて霧散してしまった。

 

「「「…………!?」」」

 

「遅いよ」

 

 パキン☆

 

 突然、展開していた起動式が消えてしまい棒立ちになる四高の選手達だったが、その隙を一光が逃すはずがなく、一光は左手に持つ自分のCADを操作すると次に自分の指をならした。

 

 その瞬間、四高の選手達の周囲にある壁や床が爆発した。

 

 

 

「壁や床が爆発した? 爆炎の魔法とは違うようだが……」

 

「………!? あれはもしかして……? でも、そんなまさか……」

 

「だが、それしか考えられないだろう」

 

 一光が四高の選手達に魔法を使ったその時、一高が使用している作戦室でモニターで試合の様子を見ていた渡辺摩利が疑問を口にして、七草真由美が自分の考えに戦慄の表情を浮かべ、十文字克人が真由美と同じ考えに至って重々しく口を開く。

 

「た、達也君。今、円城君が使った魔法ってもしかして……」

 

「はい。七草会長が予想した通り、一光が使用したのは『爆裂』の魔法です。壁や床の爆発は内部にある水道管の水を使ったものですね」

 

『…………………!?』

 

 真由美の質問に司波達也が何かを堪えるようなポーカーフェイスで答えると、真由美を初めとした作戦室にいた全員は達也の言葉に大きな衝撃を受けて絶句した。

 

 それはそうだろう。なにせ十師族の一条家の秘伝、爆裂を今まで無名で、しかもまだ学生の少年が習得していると聞いて驚くなと言う方が無理な話である。

 

「で、でもちょっと待って! 爆裂は殺傷性ランクAの魔法で、モノリス・コードでは使用禁止だったはずよ。それは円城君も知らないはずがないのにどうしてここで使っているの?」

 

「一光の爆裂は一条将輝の爆裂と比べて人体への影響力が強くなく、機械等の無機物を爆発させることしかできないみたいなんです。それを更に威力を弱めたことで大会側も使用許可を出してくれたんです」

 

 珍しく慌てた様子を見せる真由美に達也はポーカーフェイスを保ったままで答える。そしてそのポーカーフェイスはやはり何かの感情を必死に押さえ込んでいるように見えた。

 

「……し、司波。円城はいつ、爆裂の魔法を習得したんだ?」

 

「使えるようになったのは九校戦が始まる少し前だと本人は言っていました。……しかし起動式の解析と再現はずっと前にできていたそうですが」

 

 今度は摩利にショックの抜けきらない顔で聞かれて達也は、ついに今まで堪えていた苦笑を思わず表情にだしてしまったが、作戦室にいる面々は驚愕を深めるばかりで彼の表情の変化に気づく余裕がなかった。

 

「十師族の秘伝の一つを再現して自分のものとするとはな。……む?」

 

 モニターを睨み付けるように見ていた克人は、モニターに映る試合会場の異変に気づいた。モニターの中の四高の選手達は全員、一光の爆裂の直撃を受けたはずなのだが誰も戦闘不能になっておらず、ダメージを受けた体を引きずるように一光から逃げようとしていた。

 

「なるほど。それで一光はこの試合を一人で挑んだというわけか」

 

 それを見て達也はモニターの中の友人がしたいことを理解して納得したように一人頷いた。

 

「達也君? 一人で納得していないで、どういうことか教えてくれない?」

 

「すぐに分かりますよ。……ほら」

 

 達也が真由美にそう言うのと同時に、モニターの中の一光は四高の選手達を追い詰めて今度は爆裂ではなく自身が開発した魔法、爆炎で吹き飛ばして戦闘不能にした。

 

「ようするにこの試合は一光から一条将輝への挑戦状なんですよ。

 一光が一条将輝に強い対抗心を懐いていることは知っていますよね? 一光はわざと手加減した爆裂を使ってから爆炎で四高の選手達に止めをさすことで、恐らくこの試合を見ているであろう一条将輝を挑発したかったんだと思います。

 挑戦状の内容は多分……『一条将輝。お前の自慢の爆裂はボクも使えるが、ボクは爆裂などは使わず爆炎だけでお前と戦う。明日のモノリス・コードの決勝トーナメントではボクが勝つ』と言ったところでしょうか?」

 

「……負けず嫌いもここまでくると立派ね」

 

 達也が代弁した一光の一条将輝への挑戦の意思を聞いた作戦室の面々は、驚きを通り越してもはや呆れた表情となっており真由美が皆の気持ちを代表して呟いた。

 

(……それにしても爆裂を習得したことで爆破の魔法が『二つ』から『三つ』なったな。全く一光の奴、以前に俺のことを『日本で最も凶悪な魔法師』と言っていたが、お前の方が凶悪なんじゃないか?)

 

 達也は苦笑いを浮かべながらモニターの中の一光を見て内心で呟いた。




一光は達也が言ったように爆炎、爆裂、そして今は秘密の魔法を合わせた全部で三つの爆破の魔法が使えるという設定です。
三つ目の爆破の魔法は横浜騒乱編で使わせる予定です。(それまでどのくらいかかるか分かりませんが……)

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