戦略級魔法師の日記   作:小狗丸

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入学編
一頁目


 ☆月★日

 

 いきなりだが、今日から日記をつけることにした。

 

 今日からボクも国立魔法大学付属第一高校、略して一高に入学する新入生で一科生だ。

 

 入学式の開始時間よりも一時間近く一高に行ってみると、校門をくくってすぐの所で三年前からの知り合いである司波達也と司波深雪の兄妹が言い争っている現場に遭遇する。いや、あれは言い争っていると言うより、深雪さんが兄の達也に一方的に怒鳴っていると言った方が正しいだろう。

 

 深雪さんが言っていることは要約すると「自分が新入生の総代として入学式で挨拶をするのはおかしい」、「実技はともかく入試の成績は達也がトップなのだから、入学式での挨拶は達也がすべきだ」という二点。

 

 まあ、深雪さんの気持ちは少しくらいならわかる。深雪さんは重度のブラコ……お兄様大好きっ子だし、ボクだって友人の達也の晴れ姿を見てみたいと思う。

 

 そんなことを考えていると達也は、深雪さんをあっさりとなだめて、兄妹というよりは恋人同士のような甘ったるい空間を作り出した。

 

 ……本当に仲がいいよな、この兄妹。

 

 とにかくこれでようやく話ができるなと思い話しかけると、今度はボクが深雪さんにメチャクチャ怒られた。

 

 実はボク、入試の成績は達也に次ぐ二位で、魔法の実技は深雪さんと同じくらいで、本当だったら新入生総代として入学式の挨拶をするのはボクだったのだ。でもボクは大勢の人の前で話をするのが苦手で挨拶を辞退し、その代わりに白羽の矢が立ったのが深雪さんで、深雪さんはその事を怒っているのだ。

 

 まあ、これも達也が上手くなだめて深雪さんを入学式の準備をしている講堂に送り出すと、その後は達也と二人でベンチに座って時間を潰すことに。

 

 それでそろそろ時間かな、と思った時にこの一高の生徒会長の七草真由美先輩がやって来て俺達に話しかけてきた。達也は相手が「十師族」ということで警戒心を懐いていたが、俺は純粋に綺麗な人だなと思っていた。

 

 七草先輩が名乗った後でボクと達也が名乗ると、七草先輩は俺達のことを知っていたみたいでとても驚かれた。

 

 入学式での深雪さんの挨拶は所々、今の魔法師社会を否定するようなきわどい発言があったが、それでも好評だったようで入学式は無事に終了した。

 

 その後のクラス分けでボクは深雪さんと同じ1ーAだと分かり、達也に「俺がいない時はボクが深雪さんを守ってやってくれ」と頼まれた。

 

 ……本当に仲がいいよな、この兄妹。

 

 

 

 ☆月○日

 

 ……昨日も思っていたけど、この学校って変な差別意識があるよね。

 

 一高の毎年の新入生は二百人。そして魔法実技の成績から見て上位百人を一科生、下位百人を二科生と区別しているのだ。

 

 しかもご丁寧に一科生には花のエンブレムが印されている制服を、二科生には花のエンブレムが印されていない制服を与えているという徹底ぶり。ここまできたらもうある意味感心する。

 

 そんな学校に入学したせいか、一科生の新入生にはすでに歪んだエリート意識にどっぷりと漬かってしまったのが何人か見られた。

 

 今日知り合った森崎君なんてまさにその典型である。

 

 森崎君の実家である「森崎家」は、拳銃の外見をした特化型CADを用いた高速で魔法を発動させる技術「クイックドロウ」で有名な上、ボディーガード派遣会社を経営しており、森崎君自身も何度かボディーガードの仕事を経験した実戦経験のある魔法師らしい。

 

 そんな森崎君だから自分の魔法師としての才能に、一科生に選ばれたことに誇りを持つのは分からないでもないが、放課後に口論となった二科生の生徒に攻撃魔法を使おうとしたのは頂けない。

 

 何とか魔法の発動を止めることが出来て、説得したら分かってくれたけど、このようなことはこれっきりにしてほしい。何せそのすぐ後に厳しい顔をした七草先輩と風紀委員長の渡辺先輩がやって来て、達也が上手く誤魔化してくれなかったら色々と厄介な事になって、最悪停学処分にもなっていたのだから。

 

 でもそれからすぐに森崎君達と口論をしていた二科生、柴田美月さんと千葉エリカさん、西城レオンハルト、それに同じクラスの光井ほのかさんと北山雫さんと友人になれたのでヨシとしよう。

 

 五人とも話してみるととても気さくな人達で全員名前で呼んでくれていいと言ってくれた。

 

 だが駅までの帰り道にレオンハルト、略してレオに森崎君の魔法を妨害した方法を聞かれ、素直に「グラム・デモリッション」を使ったと言うと、達也と深雪さんを除いた全員に驚かれて珍獣を見るような目で見られた。……解せぬ。


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