戦略級魔法師の日記   作:小狗丸

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十五頁目「石金家の秘伝」

 §月∩日

 

 九校戦七日目、そして新人戦四日目。今日の競技は新人戦ミラージ・バットの予選から決勝、そして新人戦モノリス・コードの予選だ。

 

 新人戦ミラージ・バットではほのかさんと里美スバルさんの二人が無事に優勝となった。二人が優勝できた最大の勝因はやっぱり達也が調整したCADだろう。

 

 最小の起動式で最大の効果を発揮した達也の調整したCADの性能には、他校の技術スタッフの全員が悔しがって誰かが「まるでトーラス・シルバーじゃないか!」と叫んでいた。

 

 あっ。誰が言ったか分からないけど、それ当たり。

 

 新人戦ミラージ・バットが終わったら次はボクが参加する新人戦モノリス・コードだ。

 

 正直、昨日の新人戦アイス・ピラーズ・ブレイクの敗北はまだボクの中にあるのだが、だからこそこの新人戦モノリス・コードで頑張ろうと思う。幸いこのモノリス・コードでも一条将輝が参加するので、ここでリベンジをしてみせる。

 

 新人戦モノリス・コードの予選は一校が四戦して、成績が上位の四校が明日のトーナメント方式の決勝戦に出ることになるのだ。

 

 予選で一高が戦うのは二高と四高、そして六高と七高だ。一条将輝がいる三高と戦うには今日の予選を勝ち抜いて明日の決勝で出る必要がある。

 

 結果から言えば一高は予選の四戦を全勝して明日の決勝に駒を進めた。

 

 予選一試合目の二高戦では竜玄君が石金家の秘伝を、予選三試合目の六高戦では森崎君が達也から授かった新戦術を披露して見せて試合は大いに盛り上がった。

 

 しかし予選四試合目の四高戦でボクが九校戦の前に習得した「あの魔法」を使って、この試合を見ているであろう一条将輝に宣戦布告をすると何故か会場中ドン引き。七草先輩と渡辺先輩、十文字先輩に「お前は自分が何をしたのか分かっているのか」と怒られた上に呆れられた。

 

 ……解せぬ。

 

 あと、ボク達が試合をしている裏で例の無頭龍がまた妨害工作をしようとしていたらしいのだが、それは幹比古君が影で活躍して阻止してくれたと達也が教えてくれた。

 

 ありがとう、幹比古君。

 

 

 ※

 

 

 新人戦モノリス・コード予選一試合目、二高戦。森林フィールドの試合会場で石金竜玄は一人で自陣のモノリスの側に立っていた。

 

「あいつらは敵陣に着いたか?」

 

 今回の二高戦では一光と森崎が二高の陣地に攻めこみ、竜玄が自陣を守るという役割となっていた。今頃は二人とも二高の陣地に辿り着いて攻撃を仕掛けているだろう。

 

「円城の奴、随分と興奮していたみたいだけど大丈夫なのかよ……?」

 

 竜玄は試合前の一光の様子を思い出して呟く。昨日の新人戦アイス・ピラーズ・ブレイクで一条将輝に負けて落ち込んでいた一光は、試合が始まる前は「今度こそ……! このモノリス・コードでは……!」と言って殺気立っていて、気負いすぎて空回りしないかと心配であった。

 

「まあ、森崎の奴も一緒にいるしなんとかなるか?」

 

 森崎は頭に血が上りやすいところはあるが、それでも視野が広いし仲間思いなところがある。森崎が一緒だったら一光の手綱を引いてくれるだろうと竜玄は考える。

 

「……来たようだな」

 

 竜玄が二人のチームメイトのことを考えていると近くから物音が聞こえてきて、そちらを見ると二高の選手が一人、草むらを掻き分けて姿を現した。どうやら二高は守りが二人で攻めが一人と、一高とは逆の編成のようだ。

 

「……!」

 

 二高の選手は竜玄とモノリスを確認すると、拳銃の外見をした特化型CADを構えて起動式を展開する。

 

 それに対して竜玄は腕輪の外見をした汎用型CADを装着した左腕……ではなく右腕を、右手首に装着した「あるもの」を二高の選手に見せるように上げた。

 

 竜玄の右手首に装着されてあったのは「勾玉」と呼ばれている「C」の字の形をした石の装身具であった。

 

「………!」

 

 キイイイイイン!

 

「うっ!? ぐああっ!」

 

 竜玄が右手の勾玉にサイオンを集中させると、二高の選手は「聞こえるはずのない耳鳴り」を聞くと同時に激しい頭痛に襲われ、気がつけば展開していたはずの起動式がいつの間にか消えていた。

 

「な、何だこれは……!?」

 

「聞こえるはずのない耳鳴りに激しい頭痛、そして起動式の消滅。……ここまでヒントがあれば分かるだろ? 『キャストジャミング』だよ」

 

 激しい頭痛に表情を歪ませる二高の選手の呟きに竜玄は何でもないように答えるが、その言葉の内容は彼の態度とは裏腹に二高の選手に大きな衝撃を与えた。

 

 キャストジャミングとは、「アンティナイト」と呼ばれる稀少な鉱物にサイオンを送ることで魔法を妨害する波長を発生させる魔法の妨害手段である。

 

「きゃ、キャストジャミングだと!? お前、アンティナイトを所持しているのか?」

 

「持ってるわけないだろそんなもの。これは石金家にだけ伝わる秘伝ってやつだ」

 

 驚く二高の選手に竜玄はつまらなそうに答えた。

 

 古来より世界各地では「貴金属と宝石には魔を防ぐ力がある」という言い伝えがある様に、貴金属や一部の種類の石には特殊な波長を持つサイオンが宿っている。石金家の先祖はその貴金属や石に宿るサイオンの力を利用する祈祷師の家系で、石金家は先祖から受け継がれてきた異能の力からある魔法技能を開発した。

 

 その魔法技能の名は「石鳴魔防」。

 

 貴金属や石に自分のサイオンを流し込み波長を変化させることによって、魔法を妨害するサイオンの波長を発生させるという技能。

 

 つまり「アンティナイトを使わないキャストジャミング」ということである。

 

 しかしこの技能はどんな貴金属や石からでもキャストジャミングを発生できるというわけではなく、個人によって当然サイオンの波長は異なるため、その個人に適した貴金属や石でないとキャストジャミングを発生させることはできない。その為、石金家に生まれても自分に適した貴金属や石を見つけられず、秘伝を使えない者も珍しくはない。

 

 石金竜玄は幼少の頃に自分に適した石、黒曜石を見つけて石金家の秘伝を習得した魔法師であった。

 

「……ん?」

 

 ヴヴーーーーー!

 

 竜玄が黒曜石の勾玉からキャストジャミングを放ち二高の選手の動きを止めていると、試合会場に試合終了のサイレンが鳴り響いた。

 

「どうやら一光と森崎がやったようだな」

 

 竜玄は一高の勝利を確認するとキャストジャミングを止めて、それと同時に激しい頭痛に襲われていた二高の選手は気を失い倒れた。


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