戦略級魔法師の日記   作:小狗丸

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十四頁目「爆炎対爆裂」

 九校戦六日目、そして新人戦三日目。時刻はすでに正午を回っており、試合会場は夏の気温と観客席に集まった観客達の熱気に包まれている。

 

 これからこの試合会場で行われるのは新人戦男子アイス・ピラーズ・ブレイク、その決勝戦。選手達はまだ会場に現れていないが、会場に設けられた巨大スクリーンにはこの後技を競い合う二人の選手の名前が浮かび上がっていた。

 

 第一高校、円城一光。

 

 第三高校、一条将輝。

 

「うわぁ……。沢山人が来ていますね」

 

 観客席にいた美月は周囲を見回して呟いた。彼女の言う通り会場の観客席は満席であり、立ち見客の姿も大勢見られた。

 

 しかも観客席にいる観客は応援の学生や一般客ばかりではなく背広を着た一般客とは異なる雰囲気の大人までいて、その背広を着た大人達は高性能なビデオカメラ等の撮影器具で会場の様子を記録するのに余念がないようだった。

 

「まあ、それは当然だろうな」

 

 美月の呟きに彼女の左隣の席に座っていた森崎が答える。

 

「え? 当然って?」

 

「美月、分からないの? 今から出てくるのは十師族の一条家の御曹子で、この試合は一条家秘伝の『爆裂』の魔法を見ることができる数少ないチャンスなのよ。そりゃあ、少し観察したくらいで魔法の解析ができるわけじゃないけど、それでもデータは多い方がいいでしょ」

 

 森崎の言葉の意味が分からず美月が首を傾げていると、今度は彼女の右隣の席に座っていたエリカが話しかける。

 

 つまりあの試合会場の様子を記録している背広を着た大人達は軍、またはどこかの研究所の人間ということだ。

 

「それに一光の『爆炎』って魔法のこともあるしな。達也から聞いたんだが、あの魔法って一光が自力で開発した新魔法らしいぜ? データを取りに着た連中からしたらそっちも興味があるだろうぜ」

 

 森崎の隣の席に座っていたレオがエリカの説明を補足する。

 

「そうなんですか。自分で新しい魔法を作るなんて円城君って凄いですね」

 

 エリカとレオに説明されても美月は、一光がやったことが魔法師の世界ではどれだけあり得なくて偉大なことなのかあまり理解できず、それだけしか答えることができなかった。

 

「そう、凄いことなのよ。……だというのにミキってば、こんな凄い試合を見ずに何処で何をしてるんだか」

 

 エリカはここにいない幼馴染み、吉田幹比古のアダ名(本人は否定しているが)を口にする。少し前から自分達と別行動を取り出した幼馴染みが今一体何をしているのかをエリカが考えていると、決勝戦開始のアナウンスが流れてきた。

 

「出てきたぞ」

 

 森崎の言葉を合図にしたかのように試合会場に一光と将輝の姿が現れる。二人とも昨日と同じ漫画の衣装を身に付けていたが、観客達はそれを笑ったりはしなかった。

 

 一光も将輝も格好はふざけているが、その実力はプロの魔法師と比べても遜色がないことが昨日の試合で分かっている上、二人の表情は観客席からでも分かるくらい真剣であったからだ。

 

「………」

 

「………」

 

 一光と将輝は無言で睨み合うようにお互いの挙動を観察しており、そうしているとやがて試合開始のブザーが会場に鳴り響いた。

 

「「………っ!」」

 

 試合開始のブザーが鳴ってからの一光と将輝の行動は全く同時であった。

 

 携帯端末型のCADと拳銃型のCADを構えるのも同時。

 

 CADから起動式を読み取るのも同時。

 

 読み取った起動式から魔法式を構築するのも同時。

 

 そして魔法を発動する時の自分だけの合図を実行するのも同時であった。

 

 一光がCADを持つ左手とは逆の右手の指を鳴らし、将輝が拳銃型CADの引き金を引く。

 

 次の瞬間、試合会場に二つの大爆発が起こり、新人戦男子アイス・ピラーズ・ブレイク決勝戦は終了した。

 

 

 ※

 

 

 §月∪日

 

 負けた。

 

 負けてしまった。

 

 今日に行われた男子アイス・ピラーズ・ブレイク決勝戦で、ボクはいよいよ一条将輝と戦うことができたのだが……その結果はボクの敗北。

 

 試合開始のブザーが鳴った瞬間、ボクと一条将輝は即時にCADを操作して魔法を発動させて、魔法を発動させるスピードは互角だった。

 

 ボクの「爆炎」と一条将輝の「爆裂」は全くの同時に試合会場に炸裂して、互いの陣地にある氷の柱の群れを一瞬で消し去ったのだ。そしてそれもまた全くの同時である。

 

 その為、大会の運営委員は会場に設置してあったカメラの映像を確認して、先に相手側の氷の柱を破壊した方を勝者とすると発表。そして次のアナウンスが告げた勝者の名前は一条将輝であった。

 

 

 大気中に爆発を起こしてその熱と衝撃で氷の柱を破壊したボクの爆炎より、氷の柱そのものに干渉して爆発させた一条将輝の爆裂の方がわずかに速かったらしく、その差はコンマ数秒程しかなかったらしい。

 

 ……だが、それでも負けは負けだ。

 

 試合に負けた時、ボクはこれ以上ない悔しさと同時に申し訳なさを感じていた。

 

 アイス・ピラーズ・ブレイク。

 

 この競技で確実に勝つのであれば、ボクは爆炎よりも「あの魔法」を使うべきだった。しかしボクは一条家の爆裂と勝負がしたいことから爆炎の魔法を使い……そして負けてしまったのだ。

 

 決勝戦で一条将輝に負けてしまったことで、九校戦で三高に逆転の可能性を与えてしまった。

 

 全てボクの責任だ。

 

 一条家の爆裂に拘りすぎ、自分の爆炎を過信しすぎたボクの責任だ。


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