一校の面々がホテルのホールで夕食会を開いていた頃、別のホールで三高の面々も夕食会を開いていた。
三高の夕食会はそこにいる面々の表情が全員暗い上に、一年生の落ち込みようが特にひどく、一高側とは正反対であったが、それはある意味仕方がないだろう。
一条家の御曹子である一条将輝にカーディナル・ジョージこと吉祥寺真紅朗を初めとして有望な新入生を多く迎えた三高は、今年の九校戦では新人戦を有利に進めることができて上手くすれば自分達が優勝することで、去年一昨年の優勝校である一高の三連覇を阻止できるのではないかと考えていたのだ。
しかし実際に九校戦が始まって中盤の成績を見てみれば、通常の競技でも新人戦でも一高が一位で三高はその二番手という結果。三高の二年生と三年生はこの結果に落胆し、一年生達は上級生達の期待に応えられなかった自分達に不甲斐なさを感じていた。
「まさかここまで一高と差をつけられるだなんて……」
「どうやら僕達は一高を軽く見すぎていたようだね……」
一年生の選手が集まっている席で一色愛梨が悔しげに呟くとそれに吉祥寺真紅朗が苦い顔で答える。
真紅朗は口ではそう言ってはいるが一高を軽く見てはいなかった。ただ認識が甘すぎたのを認めざるをえなかった。
一高で最も警戒すべきなのは十師族の七草真由美と十文字克人、そして渡辺摩利が率いる「最強の世代」と名高い三年生勢だと真紅朗は思っていた。だが一高の一年生勢も三年生勢に負けず劣らず曲者揃いだと、今日までの新人戦で思い知らされた。
「学生とは思えない高等技術に新魔法を使う選手にCADの性能を二、三世代を引き上げる化け物のような技術スタッフ……流石は一高、と言ったところかな?」
「吉祥寺さん! 何を感心しているの!」
「止めろ。一色」
ため息をつきながら言う真紅朗に愛梨は思わず苛立った声を上げるが、それを今まで黙っていた一条将輝が止める。
「一高が予想以上に強敵だというのは充分分かった。だけどジョージ? だからといって諦めた訳じゃないんだろう?」
「当然さ、将輝」
将輝にニックネームで呼ばれた真紅朗は自信ありげに頷いてみせる。
「九校戦の競技はまだ半分残っていて、三高が一高を追い抜いて優勝する可能性はまだある。……ただ、その為にはまずは明日のアイス・ピラーズ・ブレイク。これの男子か女子のどちらかで優勝しないとね」
「アイス・ピラーズ・ブレイク……。やはり女子でも男子でも一高が最大の障害になるでしょうね。女子では司波深雪、男子では……」
「円城一光」
愛梨の言葉を引き継いで将輝が一人の一高生の名前を告げる。
「円城一光か……。そういえば吉祥寺よ。あやつが使っておった『爆炎』とかいう魔法について何か分かったか? わしにはあれが一条の『爆裂』によく似ているように見えたのじゃが?」
三高の女子の選手の一人、四十九院沓子が古風な話し方で聞くと真紅朗は首を横に振ってから答えた。
「あの爆炎という魔法は見たところ、大気中に可燃性ガスを作り出してそれを発火させる魔法だから将輝の爆裂とは全くの別物だよ。それに僕は今まであんな魔法は見たことがないから、恐らくは北山選手の『能動空中機雷』と同じく新魔法だと思う。……信じられないことだけど」
真紅朗の最後の言葉は彼の正直な気持ちであった。
新しい魔法の開発というものは大きな魔法研究所や魔法関連企業が主体となって行うもので、国家規模で新しい魔法を開発するという話も珍しくはない。
真紅朗自身、若くして「カーディナル・コード」を発見した天才と称された科学者にして魔法師なのだが、それでも学生が二つも新魔法を開発したなんて半ば信じられなかった。
「何でもいいさ」
将輝が真紅朗の言葉を切って捨てる。
「新魔法だろうがそうでなかろうが何でもいい。四十九院が円城一光の『爆炎』が俺の、一条家の『爆裂』に似ていると言うのなら、本物と偽物の違いを明日見せつけてやればいいだけさ」