九校戦の五日目、そして新人戦の二日目が終わった日の夜。九校戦に参加する一高の選手と技術スタッフは全員、ホテルのホールに集まって夕食会を開いていた。
今夜の夕食会は九校戦も中盤ということで、各校の選手達と技術スタッフ達が意見交換をしたり鋭気を養ったりする目的で大会側が設けたものだ。今頃は一高以外の八校も、別のホールで夕食会を開いていることだろう。
夕食会に集まった一高の面々は、有力選手である三年の渡辺が競技中の事故でリタイアしてしまったという暗いニュースがあったがそれでも総合成績は現在トップであるため、全員表情が明るかった。
中でも一年生の選手達は特に表情が明るく、その様子は「浮かれ上がっている」といった感じだったが、それは仕方がないだろう。何しろ一年生達は既に新人戦で充分すぎる好成績を出しているのだから。
女子スピード・シューティング、一位から三位の上位独占。
男子スピード・シューティング、優勝。
女子バトルボード、一名が予選一位の成績で予選突破。
男子クラウド・ボール、優勝。
女子アイス・ピラーズ・ブレイク、三名が予選上位の成績で予選突破。
男子アイス・ピラーズ・ブレイク、一名が予選上位の成績で予選突破。
この結果だけを見ても凄いのだが、その勝利の内容は更に凄かった。
女子スピード・シューティングを優勝した北川雫は新魔法「能動空中機雷」を競技中に披露。
男子スピード・シューティングを優勝した森崎駿は「クイックドロウ」と「ドロウレス」の高等技術を使いこなし、決勝で三高の「カーディナルコード」の一つを発見した天才魔法師「カーディナル・ジョージ」こと吉祥寺真紅朗に勝利。
女子アイス・ピラーズ・ブレイクの予選突破を果たした司波深雪は、A級の魔法師でも発現が難しい振動系魔法「インフェルノ」をその並外れた魔法力と卓越した技術で見事に発現。
そして男子アイス・ピラーズ・ブレイクの予選突破を果たした円城一光は、独自に開発したという一条家秘伝の魔法「爆裂」に似て非なる魔法「爆炎」を使い、その圧倒的な破壊力を見せつけた。
これだけの結果を前に浮かれるなと言うのは中々難しく、二年生と三年生の上級生達は我が事のよう喜んでいる一年生達を苦笑を浮かべながらも見守ることにした。
そんな一年生の集団の中心にいるのは各種目で優勝や上位入選、あるいは予選突破した選手達。そして技術スタッフで唯一の一年生である司波達也であった。
「……何というか、俺がここにいるのは場違いじゃないか?」
「そうか? 別にそんなことはないだろう?」
「そうです! 森崎君の言う通りです!」
司波達也が大勢の選手達に囲まれて居心地の悪そうな顔をして呟くとそれを聞いた森崎駿が答え、達也の妹である司波深雪が力強く森崎の言葉に賛同する。
「お兄様はもっとご自分に自信を持ってください。お兄様の完璧なCADの調整に大胆かつ繊細な戦術が一校の勝利に大きく貢献していることは、ここにいるほとんどの方がお認めになっているのですから」
深雪の言葉を聞いて回りに集まっていた一年生の選手達が頷き、達也に近づいてきた二人の男子生徒も同様に頷く。
「そうだね。ボクも深雪さんの言う通りだと思うよ。達也の実力はもうここにいるほとんどの人が認めている。認めていないのは、一科生のプライドが強すぎる一部の人間だけ」
「……あんなのはプライドなんて上等なもんじゃねぇだろ。ありゃただの思い込みだ」
達也に近づいてきた二人の男子生徒は円城一光と石金竜玄だった。
「……何だか、絵になるよね? あの四人」
女生徒の一人が達也と、彼の回りに集まった一光と竜玄に森崎を見て呟く。この四人は一年生の男子生徒の中では才能も実力も抜きん出ていて、さっきの女生徒の発言はそれを感じ取っていてのものであった。
司波達也。
円城一光。
石金竜玄。
森崎駿。
後にこの四人は、生徒会や風紀委員に部活連と様々な方面で一校の有名人となり「一高の四天王」と呼ばれるようになるのだが、それはまた別の物語である。
「(……それで達也? 例の件はどうなっている?)」
一光が達也に小声で話しかける。例の件、というのは大会を妨害しようとしている「無頭龍」の調査のことである。
「(その件は大丈夫だ。幹比古に協力を頼んである。お前は自分の試合に専念しておけ)」
小声に話す一光に達也もまた小声で答える。達也の調査によれば大会中に行われた妨害は精霊魔法によるものだそうで、それの調査に精霊魔法に詳しい古式魔法の使い手である幹比古が協力をしてくれているそうだ。
達也の言葉に一光は小さく頷くと、この話は今日のところはこれで終わりにして夕食会を楽しむことにした。
この作品の幹比古は達也と一緒に無頭龍の調査をしていく中でかつての魔法の実力を取り戻していきます。
つまり幹比古、そしてレオはモノリス・コードには出場する予定はないということです。……この意味は分かりますね?