戦略級魔法師の日記   作:小狗丸

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十三頁目「爆炎の錬金術師」

 §月⊃日

 

 九校戦五日目。そして新人戦二日目。

 

 今日の競技は男女クラウド・ボールの予選から決勝、そして男女アイス・ピラーズ・ブレイクの予選。

 

 ついにボクの出番だ。

 

 男子クラウド・ボールには石金君が、

 

 女子アイス・ピラーズ・ブレイクには深雪さんと雫さんが、

 

 そして男子アイス・ピラーズ・ブレイクにはボクが参加をする。

 

 男子アイス・ピラーズ・ブレイクの対戦表を見てみると、ボクが一条将輝と戦えるのは決勝戦なので今日の予選は絶対に負けられない。

 

 しかも今日は妹と、違う学校に通っている友人達が応援に来てくれていた。皆の見ている前で無様な姿をさらすわけにはいかないので自然と気合いが入った。

 

 先に結果だけを言うと石金君は男子クラウド・ボールで優勝、深雪さんと雫さん、ボクは好成績を出して予選を突破した。

 

 しかし……アイス・ピラーズ・ブレイクは選手が好きな衣装を着て競いあう、ファッションショーみたいな面があるのだが、一条将輝がコスプレをしてくるのは予想外だった。

 

 ……まさかボク以外にもコスプレをする奴がいるとは、流石は一条家と言うべきか。

 

 

 

 

 

「いよいよ次は彼の出番か……」

 

 男子アイス・ピラーズ・ブレイク中、選手の控え室で先に試合を終えた一条将輝が、室内に設けられたモニターを見ながら呟いた。

 

「彼……円城一光のことかい?」

 

 同じ控え室にいた吉祥寺真紅朗が聞くと将輝はモニターから目を離さずに頷く。

 

「ああ……。彼が一体どれだけの実力を持っているのか、正直興味がある」

 

「うん、そうだね。……でも将輝? それはいいんだけど、その前に制服に着替えた方がよくない?」

 

 真紅朗がモニターに注目している将輝に声をかける。彼はアイス・ピラーズ・ブレイクで着ていた衣装のままで、その衣装は左目にスコープをつけて黒地に赤い雲の柄が印されたマントを羽織ったものである。

 

 ……それはどこから見ても忍者漫画に登場する「芸術は爆発だ」が口癖の暁な忍者のコスプレであった。

 

「いや、着替えている間に彼の試合が始まるかもしれない。着替えるのは試合が終わってからにするよ」

 

「……将輝。もしかしてその格好気に入っているの?」

 

「………」

 

 真紅朗の疑問に将輝は答えなかった。そしてそうしている間にいよいよ試合の時間がやってきて、モニターの中で一光が姿を現した。

 

「……何?」

 

「あの格好は……?」

 

 モニターの中に現れた一光の姿に将輝と真紅朗が揃って絶句した。

 

 

「アッハハハハ! 何あれ? 何あの格好?」

 

「……あの格好、昔の漫画であったよな?」

 

 選手の控え室で将輝と真紅朗が絶句していた時、観客席で仲間達と一緒に観戦をしていたエリカが腹を抱えて笑い、レオが口元をひきつらせて呟いた。同じ観客席にいる達也達も皆、似たような表情をして試合会場に立つ一光を見ている。

 

 試合会場に立つ一光は青の軍服を着て、両手に魔法陣が印された白の手袋をつけた格好をしていた。

 

 ……それはどこから見ても錬金術師の漫画に登場する雨の日は無能の国家的な錬金術師のコスプレであった。

 

「……前の試合の一条将輝といい、もはやファッションショーどころかコスプレ大会だな。だがまあ、一光の魔法を考えればあれほどピッタリな衣装はないか」

 

「え、ええ……。そ、そうですね……フフッ」

 

 呆れたように言う達也の言葉に深雪が笑いをこらえながら相槌を打つ。そんな二人の兄妹の会話に森崎が首を傾げる。

 

「一光の魔法を考えれば? 一体どう言うことだ?」

 

「すぐに分かるさ。……ほら、始まるぞ」

 

 達也の言葉と同時に試合開始を知らせる合図が会場に響き渡る。合図が聞こえるや否や、一光とその対戦相手がCADを操作して魔法を発動させようとする。

 

 そして先に魔法を発動させたのは一光であった。

 

 パキン☆

 

 対戦相手より一瞬早く左手に持つCADから起動式を読み込み、魔法式を構築した一光が右手の指を鳴らした。それは彼が着ている衣装の原型である錬金術師が自身の得意技、焔の錬金術を発現させる時に行う動作であった。

 

 スバァン!!

 

 一光が指を鳴らした瞬間、対戦相手の陣地に大爆発が起こって、それによって生じた炎と衝撃がそこにあった十二本あった氷の柱を一つ残らず粉砕した。

 

『……………!』

 

「………」

 

「だからピッタリな衣装だと言っただろう?」

 

 指を鳴らした瞬間に大爆発が起こりその場にあった氷の柱が粉砕するという、作り話が現実のものとなった光景に会場にいるほとんどの人間が絶句した。そんな中で達也は、答えが返ってこないと分かっていても、隣で大きく口を開けて驚いている森崎に笑みを浮かべながら話しかけた。

 

 対戦相手が呆然とした顔でこちらを見ても、会場のアナウンスが自分の勝利を宣言しても、一光はそれを全く気にせず、ここにはいない人物のことを考えていた。

 

(見ているか、一条将輝? これがボクの魔法『爆炎』だ。君の使う『爆裂』の魔法に憧れ続けた末に編み出したボクだけの魔法だ。君の目にはボクの爆炎はどんな風に見えた?)


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