戦略級魔法師の日記   作:小狗丸

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十一頁目「懇親会」

 §月∈日

 

 九校戦の選手と技術スタッフに選ばれてから数日後。大会の準備などで忙しい日々を送っていたらあっという間に九校戦の日がやって来た。

 

 九校戦の競技が行われるのは明日からで今日は懇親会だけなのだが、今日は色々なことが起こった。

 

 まず最初に一高から九校戦の期間中に泊まるホテルにバスで移動中、隣の道路を走っていた車が突然事故を起こしてボク達が乗るバスに突っ込んできたのだ。

 

 幸いにも市原先輩と深雪さんと十文字先輩の魔法のお陰で車がバスに激突するという事態は避けられたが、事故を起こしてバスに突っ込んでくるまでの車の動きがどうも不自然な気がした。さりげなく、気づかれないように最小限の魔法を使って、車がバスに激突するように軌道を修正したように見えた。

 

 そう思ったのは達也も同じだったようで、事故の後で達也は車に魔法の痕跡がないか念入りに調べていた。

 

 ……もしかしてこれって先日、風間少佐が言っていた正体不明の犯罪組織の仕業なのか?

 

 それからは特に大きなトラブルもなく無事にホテルに着いたのだが、ホテルのロビーに行くとレオに幹比古君にエリカさん、美月さんに真白さんがボク達の応援団として先回りしていた。しかも懇親会ではエリカさんの実家である「千葉家」のコネを利用してウェイトレスやウェイターといった会場のスタッフに紛れ込んでいたし……。

 

 そんなエリカさん達の行動力に驚いたらいいのか呆れたらいいのか悩んでいたその時、ボクは偶然にも会場の中にいる「彼」の姿を発見した。

 

 一条将輝。

 

 第三高校の一年生で一条家の次期当主。

 

 ボクが九校戦に参加した理由、ボクが今も憧れ続けている「爆裂」の魔法の使い手がそこにいた。

 

 一条将輝の姿を確認したボクは、気づいた時には彼に話しかけていた。会話はとても短いものであったけど、一条将輝が渡辺先輩の予想通り、新人戦のアイス・ピラーズ・ブレイクとモノリス・コードに参加することが分かったのは大きな収穫であった。

 

 

 

 

 

「一条将輝さんですね?」

 

「え?」

 

 第三高校の一年生、一条将輝が懇親会の会場で友人達と話をしていると、突然誰かに話しかけられた。

 

 将輝に話しかけてきたのは、今大会で第三高校の最大の強敵とされている第一高校の制服を着た男子生徒であった。

 

「そうだけど君は……」

 

「貴方、一体何の用? 見たところ第一高校の方のようですけど、もしかしてスパイでもしに来たのかしら?」

 

 将輝が聞くより先に、彼の隣にいた同じ第三高校の女生徒、一色愛梨が男子生徒に問いただす。

 

 愛梨は今大会で第一高校に強いライバル心を懐いており、自然と男子生徒を見る視線が険しくなるのだが、男子生徒はそんな彼女の警戒心を露にした視線を全く気にした素振りも見せずに口を開いた。

 

「スパイでもしに来たか……。そうだね。ある意味ではそうなんだろうね」

 

「なっ!?」

 

 あっさりとスパイをしに来たと認める男子生徒に、愛梨を初めとするその場にいた第三高校の面々は思わず虚を突かれた表情となるのだが、男子生徒はそれに構わず将輝に話しかける。

 

「一条将輝さん。君が九校戦で参加するのは新人戦のアイス・ピラーズ・ブレイクとモノリス・コードか?」

 

「……何?」

 

 自分が参加する競技を言い当てられて将輝は目の前にいる男子生徒を見るが、男子生徒は先程から全く感情を見せない無表情でこちらを見ているだけだった。

 

「……ああ、そうだ」

 

「そうなんだ。ボクも新人戦のアイス・ピラーズ・ブレイクとモノリス・コードに参加するんだ。もし対戦することになったら、その時はよろしくお願いするね。教えてくれてありがとう」

 

 別段、隠すことでもなかったので将輝が答えると、男子生徒はそれだけ言って小さく頭を下げて礼をするとそのまま立ち去ろうとした。

 

「待ってくれ。君の名前を教えてくれないか?」

 

「……一光。第一高校一年、円城一光」

 

 将輝に名前を聞かれて男子生徒、円城一光は足を止めて短く名乗ると、今度こそ振り返りもせずに将輝達の元から立ち去って行った。


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