戦略級魔法師の日記   作:小狗丸

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十頁目

 §月↓日

 

 選手に比べて技術スタッフの数が全く足りないという深刻な問題を解決するために、九校戦初の選手兼技術スタッフとなったボクこと円城一光。

 

 やることは自分のCADを自分で調整して、時間があれば達也の調整の手伝いをするというもの。

 

 ……うん。確かにボクは子供の頃からCADを触ってきたからそれくらいの作業ならできるけど、やっぱり選手と技術スタッフを兼業するのは色々と無理があると思うんだ?

 

 七草先輩達も「流石にそれは大変じゃないの?」と言ってくれたのだが達也の奴、どんな手を使ったのかは知らないが異議を唱えた先輩方全員を説得しやがった。達也には絶対詐欺師の才能があると思う。

 

 というか達也ってば、知り合った三年前から常々思っていたけど、ボクに対してだけマジで人使いが荒すぎない? 前に本人は「それだけ一光を信頼しているんだ」と言っていたけど、こんな信頼はいらない。

 

 そんなことを考えていると夜に風間少佐から軍の極秘回線で連絡がきた。

 

 風間少佐の話は要約すると「どこかの犯罪組織のものと思われる武装集団が、九校戦が行われる場所で何やら怪しい行動をしているのが何回か目撃されたので、九校戦では達也共々注意するように」というものであった。

 

 正直、勘弁してくれ、と思った。

 

 九校戦ではボクにとってとても大切な試合があるんだ。それをどこかの犯罪組織ごときに邪魔されたくはない。

 

 そんなボクの気持ちを表情から読みとってくれたのか風間少佐は「こちらでもなるべく手はうっておく」と言ってくれたので、ボクは「よろしくお願いします」とわりと本気でお願いした。

 

 

 

 §月〓日

 

 少し前に真白さんと一緒に知り合いになった幹比古君の態度が何やら気になる。

 

 初めて会った時も幹比古君は竜玄君を気まずそうな表情で見ていたが、今ではそれに加えてボクに達也と森崎君を羨むような探るような目で見てきているのだ。

 

 そんな幹比古君の態度が気になって、竜玄君と真白さんに幹比古君の過去に何があったのか聞いてみたら、二人とも最初は渋っていたが教えてくれた。

 

 竜玄君と真白さんの話によると幹比古君は古式魔法の名門、吉田家の次男でかつては「神童」と呼ばれて、実力は吉田家次期当主である兄を上回るものであったらしい。過去形なのは昔に行った魔法の儀式に失敗して、その後遺症で力のほとんどを失ってしまったからだ。

 

 竜玄君と真白さんの石金家は、元は古式魔法師の家系でそのことで今も吉田家と関わりを持っていて、二人も幹比古君と古い知り合いらしくそれで今の話を知っていたということだ。

 

 なるほど。竜玄君と真白さんの話で幹比古君のあの態度の理由が分かった。

 

 竜玄君に気まずそうな表情を見せるのは、かつての力を失った自分を見られたくないという思っているから。

 

 そしてボクと達也に森崎君を羨むようで探るような目で見るのは、かつての力を取り戻す、あるいはそれに代わる力を手にいれようと考えているから。

 

 儀式に失敗する前の幹比古君は優秀な魔法師だったのだろう。それが魔法の技能を失ってしまっては、その絶望は計り知れないだろう。

 

 ボクだって今の魔法の技能を失ってしまったと仮に想像するとそれだけで背筋が寒くなる。

 

 友人として幹比古君には頑張ってほしいと心から思う。




次回からいよいよ九校戦に突入しようと思います。

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