ステルス・ブレット   作:トーマフ・イーシャ

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感謝と恋慕と謝罪

結衣side

 

最近、何にも集中できない。

 

もともとあたしは何かに集中することが苦手だけど、最近はそれが悪化している。原因はなんとなく分かっている。数日前、ヒッキーを訪ねてきたミワ女の制服を着た綺麗な人。その人はヒッキーを連れて帰って行った。それから胸にモヤモヤした何かを感じるようになった。

 

 

 

 

 

入学式の日の朝、車に轢かれそうになったサブレを勾田高校の制服を着た人が助けてくれた。その時に足と車が接触し、そのまま救急車に連れられて行ってしまった。その入学式のあと、同じクラスの比企谷という人が交通事故にあって入院していると担任の先生が言っていた。きっとその人が今朝サブレを助けてくれた人なんだって思った。先生に彼が入院している病院を聞いてみたが、学校も把握していないだとか。その代わり、彼が住むアパートの住所を教えてもらった。

 

あたしは買ってきた菓子折りとともに、その家を訪れた。病院に入院していないが学校に登校していないということは、自宅で療養しているハズだ。正直、怖かった。事故が起きた原因はあたしだ。なにか言われるかもしれない。

 

チャイムを鳴らす。アパートの玄関の戸が開いて、少女が出てきた。

 

「は~い、えっと、どちらさまで?」

 

「あ、えっと、由比ヶ浜結衣です。比企谷さんのお宅ですか?」

 

「はいそうですが」

 

「えっと、比企谷八幡くんはいますか?」

 

「あ~すみません兄は今、家にいなくて。それで兄とはどういった関係で……?」

 

「あ、えっと同じクラスで」

 

「そうですかそうですかお見舞いに来てくださったんですね~」

 

「えっと、そんなところです」

 

「どうしてお見舞いを?」

 

「え?」

 

「同じ中学からあの高校に行った生徒は兄だけです。そして入学式の日に事故に遭った。つまり兄の学校のクラスメイトとは一切の面識がない。クラスを代表して一人で……という風にも見えません。もしそうならあらかじめ学校からアポが入るでしょうし、持ち物も色紙とか手紙とかそういうものを持ってるようには見えません。面識のない兄のお見舞いをあなた一人だけでする理由がない。何が目的ですか……?」

 

妹さんにすごく疑われている気がする。顔が怖い。かなり警戒されている。

 

「えっと、入学式の日にサブレを散歩してたらリードを放しちゃって、そこに車がきたところに比企谷八幡くんに助けて頂いたんですけど……、えっとその時に……」

 

「なるほど、つまり兄はその……サブレ?を助けようとして事故に遭ったと。そういうことでしたか~お兄ちゃんこんな綺麗な人とフラグ立ててたなんて」

 

「えっと、その」

 

「ああごめんなさい兄は今面会拒絶状態でしてね~おそらく退院するまで会えないと思いますよ」

 

「え、そんなひどいけがだったの!?でも、先生は骨折だって!?」

 

「骨折で入院……学校にはそう通してたんだね……。いえ、けがに関してはそれほど大した事ないです。むしろ数日で回復するかと。ただその病院のほうが特殊というか……そういうことなんで、もしよかったらお菓子と伝言か何かあれば承っておきますよ?」

 

「あ、それじゃあお願いします。助けてもらってありがとうって言ってもらっていいですか?」

 

「了解です!小町にお任せ~♪」

 

「小町……さん?それと、事故のことはごめんなさい!」

 

「いえ、それは気にしないでください。兄ならきっと勝手にやったことだからって言いますよ」

 

「……ありがとう」

 

「それは兄に言ってやってください!」

 

「うん、ありがとう!それじゃあね!」

 

私はアパートを後にする。まだ本人に直接言えたわけじゃないけど、胸に刺さったとげが少し抜けたような気がした。

 

 

 

「やっぱり、小学生じゃなくてああいうちゃんと胸のある人がお姉ちゃんになってくれるほうが小町的にポイント高い!」

 

 

 

 

 

結局、お菓子を渡してからの進展はない。彼は数日で病院から退院し、登校するようになったが、いつも彼は一人だった。誰かと話しているのを見たことがない。そのうえたまに学校を抜けたり数日間休んだり、体に包帯を巻いた状態で登校することが多かった。そういうことがあるたびに小さく笑ったり本人がいないところでいろいろ言われたりしている。そういうことを聞くたびに愛想笑いをして話を合わせてしまう自分が嫌になる。

 

今までの経験上、ハブれている子に話しかけるとあたしがハブられてる子の仲間と思われてあたしもハブられてしまう。だから動けない状態が続いた。あたしの周りにはいつも誰かいる。誰かといることは楽しいし、そういう存在がいるのは嬉しいことだけど、それが今は邪魔に感じる。それでも、切り離す度胸もない。あたしって、嫌な奴。

 

気が付くと彼を目で追っている。だけど何も出来ない。そんな状態が一年間続いて、あたしは二年生になった。

 

彼……ヒッキーとは同じクラスになったけど、それでも何も出来ない状態が続いていた。そんな中現れたのがミワ女の制服の人だ。彼女がヒッキーを連れて行くのを見ていて、なぜか胸がモヤモヤした。なぜ?いつも見ている男の人と仲良くする女の人が現れて嫌な気持ちになる。それってつまり嫉妬?あたしがヒッキーのことが好きで、だから他の女の人と話しているのが嫌?

 

これが、恋?

 

そう思うと、顔が真っ赤になる。あたしはお礼がしたいからヒッキーを見ていたのではなく、好きだから見ていた?だから目で追っていた?だから嫉妬をする?

 

恋だと言われると違うと言いたくなるが、恋だと今の気持ちも説明がつく。あたしはヒッキーが好き?サブレも助けてもらったし、嫌いじゃないと思う。でも好き……なのかな。

 

恋をすると世界が変わるというが、恋かもしれないと自覚してもすこし変化するのだろうか。ヒッキーがいる教室はそれだけで色鮮やかに見えるし、いないと冷たい空気になっているように感じる。ヒッキーが電話で何か話しながら必死の形相で授業を抜け出したときはカッコいいと思ってしまったし、姫菜に紙を渡していたときは胸がモヤモヤした。

 

そして昨日、昼休みに出て行った雪ノ下さんと一緒に出て行ったヒッキーがその日の授業……どころか今日の最後の授業になっても登校していないヒッキーのことを思うと胸がキュッてなる。もしかして、雪ノ下さんとヒッキーは付き合って……?じゃあ、この前のミワ女の人と姫菜は?もう、分からない。あたしはヒッキーが好きなの?ヒッキーは誰が好きなの?

 

「……ヶ浜、由比ヶ浜!」

 

「ひゃ、ひゃい!」

 

平塚先生があたしを呼んでいた。

 

「どうした由比ヶ浜、ぼうっとして……体調でも悪いのか?」

 

「いえ、大丈夫です……」

 

「ふむ……今日の授業はこれで終わりにしよう。残り五分残っているが、板書が終われば自習とする。由比ヶ浜、ちょっと来い」

 

「は、はい……」

 

あたしは言われたままに平塚先生についていく。先生はそのまま近くの階段の踊り場に連れてきた。

 

「それで、何か悩みでもあるのか?私で良ければ、相談してくれないか……?」

 

まさか先生に「ヒッキーが好きかもしれない」なんて相談は恥ずかしくて出来ない。でも相談に乗ってもらえるなら、ちょっと打ち明けてみようかな……。

 

「実は、お礼を言いたい相手がいるんですけど、なかなか言えなくて……」

 

「ふむ、お礼か……。それはどうやってお礼をしたらいいか分からないからか?送り物はいるのかとか、何を言えばいいか分からないとか」

 

「……それもありますけど、きっかけがつかめなくて……」

 

「きっかけか……なら、手作りクッキーなどはどうだ?メッセージカードなどに礼を書いて、クッキーと一緒に袋に入れてしまえば、あとは勢いで渡すだけでいい。直接言葉を伝えるとなると変なことを言ってしまったりして失敗するかも知れないが、この方法なら渡すだけで済むぞ。メッセージもクッキーも事前に用意できるからな。それに、クッキーなら向こうも嬉しいから受け取って貰えるだろう」

 

「そうだ!その方法なら……!でも、あたし、クッキーなんて作ったことないし……」

 

「それは私もないな……なら、放課後、この教室に行くといい」

 

そう言って先生は紙きれに学校の地図みたいなのを書いて渡してきた。

 

「ここは、生徒のお願いを叶えてくれる場所だ。必ず叶うかは分からんが、ここへ行ってみるといいだろう」

 

「ここは?」

 

「私が顧問をしている奉仕部の部室だ」

 

と、チャイムが鳴り響いた。先生は紙きれを眺めていたあたしを残したまま去っていった。紙を眺めながら、あたしは教室に戻った。

 

行くかどうかはとりあえず放課後に決めよう。あたしがヒッキーを本当に好きかどうかもそのときに考えよう。

 

 

 

 

 

放課後、地図にある教室をノックする。中から「どうぞ」という声。恐る恐る入る。

 

教室には、雪ノ下さんがいた。きょろきょろしてると、見知った男子がいた。ヒッキーだ。

 

「な、なんでヒッキーがここにいんのよ!?」

 

「……や、俺ここの部員だし」

 

いや、今日学校休んでたじゃん!なんで学校にいんの!?

 

「で、あなたは誰?」

 

なんで小学生がいるの!?あなたが誰!?

 

「由比ヶ浜結衣さん、ね」

 

「あ、あたしのこと知ってるんだ……」

 

なんか普通に話を進めるからヒッキーと小学生がここにいるのが当然だという気がしてきた……。

 

「あのあの、あのね、クッキーを……」

 

そこまで言ってヒッキーを見る。ヒッキーに渡すクッキーなのにヒッキーに聞かれるのはちょっと……。

 

「ちょっと『スポルトップ』買ってくるわ」

 

「私は『野菜生活いちご一〇〇いちごヨーグルトミックス』でいいわ」

 

「八幡、私オレンジジュース」

 

え、なんでみんなそんなナチュラルにパシってるの?

 

 

 

帰って来たヒッキーからコーヒーを受け取る。こういうさりげない気使いとか出来るんだ……と思ってコーヒーのラベルをみると『男のカフェオレ』。どうして女子のあたしにこのチョイス?

 

「由比ヶ浜さんは手作りクッキーを食べてもらいたい相手がいるのだけれどクッキーを作る自身がないから手伝ってもらいたいそうよ」

 

わざわざヒッキーがいないところで話したのに、あたしが話したことほとんど話されてる気がするよ……。実名はあたしも出してないから問題ないけど……。

 

そんなわけで家庭科室に移動してクッキー作りを開始!一回目の挑戦!大丈夫!確かに初めてだけど、雪ノ下さんもいるし、何とかなるよ!………………………………完成!……完成?ヒッキーが木炭なんて失礼なことを言うけど、食べればきっとおいしいよ!

 

みんなクッキーを持って、いざ、実食!

 

……まずい。なんで砂糖あれだけいれたのに苦いんだろ……?

 

ちらりとヒッキーを見る。すごい脂汗かいてる……。

 

「……あーその、なんだ、まずいことを承知で覚悟して食えば全く食えんことも「うえっほ!ゲホ!ゲホ!えっほ!うえっ……なにこれ、マズ……おえっ」……ないかもしれんな」

 

なんか気を使ってくれたのに小学生がむせこんでて台無しだよ!まあ一番台無しなのはこのクッキーだけど。

 

その後才能がないと言った私にカッコいい暴言を吐いた雪ノ下さんはクッキー作りに取り掛かる。店で売ってそうな綺麗なクッキーを作り上げた。あたしのクッキーとは大違い。

 

「おいし~~八幡おいしいよこのクッキー!こんな女が作ったって分からなかったらもっとおいしいのに!」

 

小学生が笑顔ですごいこと言ってる。ヒッキーもおいしそうに食べてる。

 

「由比ヶ浜さん、再挑戦しましょう。努力に憾みなかりしか、よ」

 

そうだよね。努力出来る人を羨ましがっていてもダメだよね(※違います)。

 

その後あたしはクッキー作りに再挑戦。けど出来たのは雪ノ下さんのに比べると見た目も味も食感も比べものにならないくらい悪い。食べられないことはないけどこれじゃあ……。

 

その後ヒッキーが一〇分で本物のクッキーを作ると言ってあたしたち三人を外に出す。売り言葉に買い言葉で出てきたが、よく考えるとオーブンで焼くだけで三〇分ぐらいするよね……?

 

小学生が心配そうな顔をしている。そういえばこの子はなんなんだろう。いくらなんでもヒッキーと雪ノ下さんの子供とかじゃないだろうし。

 

あたしはかがんで目線を同じ高さにして話しかける。

 

「えっと、あなたの名前は……?」

 

「鶴見留美」

 

「そ、そうなんだ……」

 

そっけない対応。なんかヒッキーみたいなところがある。見れば見るほど不思議な子だ。

 

年齢の割に落ち着いている。小学生とは思えない落ち着き方だ。さっき雪ノ下さんのクッキーを食べていたときは年相応だったのに。

 

髪型も特徴的だ。いや、これ、髪型なのだろうか。おでこのあたりから生えた髪の毛よりも少し太い毛が膝下まで垂れており、ときおりピコピコと動いている。まるで犬のしっぽみたい。

 

「ねえ、学校はどうしたの?」

 

「学校なんて行くだけ無駄だし」

 

「そんなことないよ。学校、楽しいよ」

 

「あなたはね。あとそこの女も」

 

「あら、あなたが学校に行くのはおかしいのではないかしら?教育を受けるのは『人間』だけでしょう?」

 

「そうだね、『人間』じゃないから受けないの。『人間』はおとなしく飼育小屋で勉強してればいいよ」

 

「え?ちょっと、人間じゃないって、どういうこと?」

 

「由比ヶ浜さんも知っているでしょう?『人間』ではないのに『人間』の女の子のような姿をしている存在を」

 

「え、それって……」

 

『呪われた子供たち』。ガストレアウィルスを体内に保有する赤い目をした人のこと。

 

「え、でも留美ちゃんの目、赤くないよ!?」

 

「特殊な訓練によって力を発動しない時は目の赤化を抑えることが出来るのよ。小賢しい知恵ね」

 

「いちいちそういうこと言ってるから友達が出来ないんだね。人の弱みを見つけるとねちねちとつついてくる」

 

「あら、私は事実を言っているに過ぎないわ」

 

この子が『呪われた子供たち』……。みんな『呪われた子供たち』を嫌っていることは知っている。そういう話になると、みんな口をそろえて消えればいいとか外周区に帰れとか言う。あたしもその中で話を合わせるように同じことを言う。でも、あたしは知っている。クラスで誰かをハブるときも同じようにしていることを。

 

確かに『呪われた子供たち』が怖いかと言われれば怖い。体内にガストレアウィルスを持っているということは近くにいたりすると感染するかもしれない。けど、誰かにハブられたりするのはきっと悲しいし、辛いと思う。

 

「あ、あの!それでどうして留美ちゃんはここに……?」

 

「由比ヶ浜さんも言っているわよ。ガストレアは東京エリアから出ていくべきだと」

 

「そうなの?」

 

「ち、ちが、そうじゃなくて、どうして高校に来てるのと思って。飛び級……とかじゃないよね?」

 

「ああ、それは、ちょっとね」

 

質問の返しに戸惑っているみたい。と、家庭科室の戸が開いてヒッキーが中に入るように促す。入ってみると、テーブルの上にはボロボロのクッキーがある。

 

これが本物のクッキー?見た目も味も大した事ない。大口叩いておいて出来たのがこれなの!?怒りを感じる。こんなクッキーしか出来ない人にさっきまで好き勝手に言われたのが腹が立つ。

 

けど、ヒッキーが残念そうな顔で捨てようとするのを見て、胸が苦しくなった。ヒッキーはヒッキーなりにあたしに何かしてくれて、それなのに綺麗なクッキーをヒッキーが焼けなかったことに怒るなんて、まちがってる。それなのにあたしのせいでそんな顔をさせちゃったなんて、嫌だ。

 

ヒッキーが捨てようとしたクッキーを奪い取って口に収める。その後、このクッキーがあたしがさっき作ったものだと言われた。そして綺麗なクッキーを作ることよりも努力して作ったことをアピール出来るクッキーのほうが男心を揺さぶれると言われた。

 

そういうもの……なのかな。それは手を抜いてるだけなんじゃないかな……。

 

「……ヒッキーも揺れるの?」

 

「あ?あーもう超揺れるね」

 

そっか。なら……。

 

「もう一回、教えてもらっていい?」

 

「え、続けるのか?」

 

「うん、だって努力したことを伝えるならちゃんと努力してからじゃないとね!」

 

あたしがそう告げると雪ノ下さんが感心したように笑っていた。ヒッキーも留美ちゃんも笑ってる。あたしも笑ってしまう。やっぱり、あたし、ヒッキーが好き。理由は自分でもよくわからないけど、好きなんだと思う。だって、その好きな人とこうやって笑い合うのがすごく幸せなんだもん。

 

 

 

「クソッ!!!」

 

 

 

いきなりヒッキーがあたしと雪ノ下さんに覆いかぶさるように押し倒す。そのまま尻もちをついてしまう。と、家庭科室が爆発した。赤い炎と黒い煙が上がり、床板があちこちに飛んでいる。思わず目を閉じてしまう。

 

恐る恐る目を開けると、天井が広がっていた。けどさっきまでヒッキーがいたはずなのに。それにヒッキーにのしかかられていたときの感触がまだある。誰かがあたしの上にいるはずなのに、誰もいない。

 

「留美!ここでこいつらの護衛を頼む。俺は襲撃者を追う」

 

ヒッキーの声が聞こえるけど、姿が見えない。襲撃者?何が起こっているの?

 

「でも、私が行ったほうが速いよ!?」

 

「いいから。恐らく、お前も戦闘になる。その時は、お前が雪ノ下を守るんだ」

 

「……分かった」

 

上にのしかかられていた感触が消えた。何がどうなっているのか全然わからない。

 

「まさか本当に必要になるなんて……」

 

「雪ノ下さん?何か知ってるの!?どうなってるの!?」

 

「説明はあと!とにかく逃げるよ!」

 

留美ちゃんの手には拳銃と黒いナイフ。どうしてそんなもの持ってるの……?

 

留美ちゃんのあとを追って家庭科室の戸へ駆け寄る。

 

「止まって!」

 

留美ちゃんの声に反応してあたしと雪ノ下さんは足を止めた。

 

ドゥン!という大きな音を立てて戸が吹き飛ばされた。あのまま止まらなかったら間違いなく戸と一緒に吹き飛ばされてた。

 

戸があった場所には、一人の女の子がいた。青がかった髪をした小学生くらいの女の子。目は真っ赤に光っていて、手には真っ黒な鎧みたいなのをつけてる。

 

「えーっと、たーげっとは黒い髪の人だっけ。……あ、いた!」

 

女の子はすごい勢いで走って来て、その手を振り下ろす。瞬時に前に出た留美ちゃんがナイフで受け止める。けど力負けしたのかそのまま膝をつく。女の子は跳ねるように後ろにさがる。留美ちゃんも拳銃を構える。

 

「あれー?あなた、イニシエーター?残ってるのはプロモーターって聞いてたのに。さーちゃんの嘘つき」

 

「残念ね。爆発物を投げ込んだのはあなたのプロモーター?今頃八幡が追ってるよ」

 

「そう、けーちゃんは序列四〇二三位、モデル・ヒポポタマス。けーちゃん」

 

「けーちゃん……コードネーム?まあいいや、私は序列一三万五八〇〇位、モデル・コックローチ。鶴見留美」

 

そう言うと留美ちゃんはけーちゃん?に拳銃を向けて撃つ。けーちゃんは手の鎧で弾丸を弾いている。

 

「とにかく、離れましょう。このままでは巻き添えをくらってしまうわ」

 

雪ノ下さんに手を引かれて家庭科室の隅に移動する。

 

入り口付近では留美ちゃんとけーちゃんがナイフと鎧を打ち付けあっている。と、ざわざわした声が響いてくる。きっと、さっきの爆発音を聞きつけて様子を見に来たんだろう。

 

「ちぇっ、誰か来ちゃった。じゃあ、帰るね。バイバーイ」

 

けーちゃんは窓から飛び降りてどこかへ行ってしまった。

 

いったい何がどうなっているの……?

 


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