ボス攻略です、ではどうぞ。
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攻略会議から一日たって午前十時になると、トールバーナにはすでにたくさんのプレイヤーが集まっていた。士気は高いようで、絶対に倒すという意思がギラギラと燃えたぎっているようだった。
俺たちのパーティーも全員揃っていた。もちろん、昨日いかなくていいと言われた紅莉栖の姿もあった。紅莉栖の目は、かなりキツくなっており、まともに視線を合わせられない。
「何よ岡部、じろじろ人の顔を見て」
そして追い討ちをかけられる始末である。隠し通してうやむやにするか、いっそう強い視線を浴びせられるかの二択を迫られた俺は迷うようにえーとを繰り返す。
そのようすに呆れたのか、紅莉栖は表情を崩して苦笑した。
「別に起こってないわよ。何もそこまでビビらなくてもいいじゃない」
「そ、それもそうだな……。紅莉栖、昨日はすまん」
「いいわよべつに。あんたも色々悩んでいるってことがわかったし、私のことも分かってくれたようだし」
昨日の夜、俺は紅莉栖にラボから抜けた方がいいかもしれないと提案した。そうしたら俺は烈火のごとく怒られた。その罰として紅莉栖の涙を受け止めたのだが……紅莉栖の奴は俺の胸の中で眠りに落ちてしまった。だから俺もそのまま寝たのだが、正直寝不足感が半端ない。座りながら寝たのだから、寝心地が悪いことこの上ない。だが、それはダルも同じだったようだ。
「ふぁ~眠ぃお……」
「そうだな……」
俺が同意の頷きを返す。しかしダルは何故かこちらを睨んでいた。
「誰のせいだと思ってるんだよ。オカリンと牧瀬氏のせいだろうが」
「いや、何故かさっぱりわからん」
ダルは露骨なため息で返して、いっそう声を荒げる。
「昨日オカリンと牧瀬氏、僕のベッドのところにいたんだろうが!! お陰で僕は1階の椅子で寝るはめになったんだお!! どうしてくれんだよ!!」
そういえば、俺と紅莉栖が夜を明かした部屋は、俺とダルの部屋だった。これはダルに申し訳ないことをした。今度何か奢ってやるか。
「すまなかったなダル。失念していた。今度昼飯奢るから許してくれ」
「ま、別に気にしてないからいいんだけどさ。むしろ気にしているのは性的なものなんだけどな」
「馬鹿を言うな! そんなことするわけなかろうが!」
俺は叫ぶも、この生粋のHENTAIは尚も続ける。
「え~そんなはずないっしょ? 二人きりの男女が夜にすることといったらあれしか……」
「黙れHENTAI!!」
「HENTAIじゃないお、HENTAI紳士だお」
キリッと声をさりげなくかっこよくしようとしていたが、まるで意味がない。中身が最低だからだ。やれやれと思いながら、俺はキリトとアスナの方を振り向く。彼らは彼らで僅かだが会話しているようだった。二人が黙りこくって、俺たちラボメンだけが喋るような状況は余り好ましいものではない。一応暫定とはいえ、パーティーリーダーだ。キリトたちも率いて、戦わねばならない。俺は改めて気を引き閉めた。
その後しばらくして6人パーティー×8のレイドと呼ばれるボス討伐隊は、ボス部屋のある迷宮区へと出発した。モンスターが殆どエンカウントしない森の中を通っていくルートでいくことになっている。
森の中は案外明るかった。日の光が木々の隙間から入り込み、穏やかに地面を照らす。飛び交う小鳥たちの鳴き声が鼓膜を心地よく揺らし、透き通った空気がボス戦前の緊張して凝り固まった脳を解していく。
俺は歩きながら、後ろを着いてきている他のパーティーメンバーたちに告げた。
「確認するぞ。俺たちあぶれもののG隊は取り巻きのルインコボルト・センチネルを相手するんだ。ダルと俺がソードスキルで跳ね上げるから、紅莉栖とキリトとアスナはその隙をついてスイッチしてくれ」
「了解だ」
「分かったお」
「理解したわ」
紅莉栖とダルとキリトからは心強い返事が聞こえた。しかし、アスナだけは首をかしげた。意味が分からないようだ。
紅莉栖もそれに気づいたようで、アスナに教えてあげた。
「スイッチっていうのは、そのままの意味で交代って意味よ。要は、誰かがソードスキルで敵の攻撃を弾いたあとに敵の隙をついて飛び出して攻撃する連携テクニックのことね。分かったかしら?」
「はい、ありがとうございます」
アスナは理解したようだ。ただ、とりあえずアスナの前では、ネットゲーム独特の言い回しは避けた方が良さそうだなと感じた。
ただ、最低限覚えてもらわなければいけない表現はある。まだ時間は長いので、教えることにした。
アスナへのスラングレクチャーを行っている間にも迷宮区へと一行は入っていく。現れる敵は基本無視の方針で進んでいき、どうにかボス部屋へとたどり着く。
ボス部屋の扉はぎちっと閉じられており、重厚な感じを思わせる。扉には化け物のレリーフがあり、緊張感に拍車をかけていく。
皆のざわつきが大きくなったが、ディアベルの剣がボス部屋前の地面に突き刺さった瞬間、静かになる。続いて、ディアベルの声が、攻略組の面々に届く。
「聴いてくれ皆! 俺から言うことはたったひとつだ」
ディアベルの頼もしい声と爽やかな笑顔はたちまちにプレイヤーをまとう緊張感を振り払った。やる気は十分だ。視線はディアベルに集められ、闘志があふれでている。
ディアベルはそれをしっかりと受け止めてグッと拳を握ると、宣言した。
「勝とうぜ!」
ディアベルの声に、皆は頼もしい声で応えた。士気が高まったところでディアベルは扉をそっと開いた。重々しいドアの音に再び緊張の糸がピンと張られる。表情も険しくなっていき、周囲に警戒の目線を張り巡らせる。
ドアを開くとそこは果てしない闇だった。長く長く続く、廊下のようなステージにボスはいる。空気は冷えきっており、ますます不安感を煽られる。
やがて、深い闇の奥から、爛々と何かが紅く光った。その紅い点はやがて上昇し、それに伴って左右にある松明がぼっぼっと燃え上がり、奥へ向かって数を増やしていく。奥には、爛々と目を光らせるボス、《イルファング・ザ・コボルトロード》が玉座から立ち上がっていた。
2メートルは優に越える巨大な体躯、どたぷんと風船のように膨れ上がった腹、兎を醜くしたような顔面は、まさにベータテストの時に経験したボス戦に現れた奴と全く瓜二つだった。武器も変わっていない。奴の手に握られているのは、円盾と骨の斧だ。恐れることはない。前回と一緒なのだから。
「ゴルウウウウウウゥゥァァアアアアアアアアッッ!!!!」
自分の玉座に無断で立ち入ったものたちに対する怒りの咆哮を俺たちに浴びせた。同時に、奴の前に3つの光の柱が現れた。そこから生み出されたのは、取り巻きのルインコボルト・センチネルだった。白い鎧に身を通し、右手には小さなこん棒が握られていた。身長は1メートルちょいだが、油断していると致命的なダメージを取る敵である。十分に留意して臨まなくてはならない。
ボスとその取り巻きが出現し、取り巻きは俺たちへと駆けていった。それと同時に、ディアベルは叫んでいた。
「攻撃開始ぃっ!!」
ディアベルの合図と共に、皆は鬨の声を挙げて駆け出した。ハンマー使いが率いるA隊が先に飛び出して、その後ろを、ミスターブラウンに似ているスキンヘッドの男が率いるB隊、ディアベル率いるC隊、両手剣使い率いるD隊、さらにその後ろをキバオウ率いるE隊、長柄使いのF隊、そしてあぶれ組のG隊が並走していく。
作戦はこうだ。
まず、A隊とB隊がボスのもとへと向かい、ボスの攻撃をブロック、あるいはF隊の長柄武器特有の阻害スキルを用いてボスや取り巻きの動きを乱れさせていき、出来た隙をついて火力部隊であるC隊、D隊がボスを集中攻撃する。取り巻きに関しては、E隊をメインに殲滅していき、あぶれ組のG隊が取りこぼしを倒していく、というものだ。
中々にいい作戦だと思う。シンプルな分、穴も少なく戦いやすい。これならば、勝てる可能性は十分にある。
早速作戦通り、A隊とB隊が、ボスの斧の一撃をブロックする。火花が飛び散るなか、果敢にC隊とD隊が突っ込んでいき、ボスにダメージを与えていった。
「A隊は前に出てボスの攻撃をブロック、B隊はその後もターゲットを取り続けろ!! そしてC隊D隊は大技でボスに攻撃するんだ!!」
ディアベルのてきぱきとした指示にパーティーは応えた。ボスのHPは確実に減っていき、大した被害も出ていない。これはいい流れだ。
「E隊F隊G隊、センチネルをボスに近づけるな!」
「了解!」
ディアベルの新たな指示に俺は応える。俺はまっすぐにセンチネルのもとへと飛び込み、ソードスキル《スラント》を繰り出した。最初の戦闘の時は俺は怖がってしまった。奴等が本気で俺たちを殺しに来ていると思うと体が動かなくなるのだ。だが、そうはいっていられない。紅莉栖やダルの命までかかっているこの戦いに、俺は負けるわけにはいかないからだ。
センチネルのこん棒が光を帯びて振られる。俺はそれを狙って、ライトブルーに光る片手剣を振り上げた。激しい衝突音とノックバック、盛大に飛び散る火花の熱をゆっくりと感じながら、俺は後ろにいる紅莉栖へと叫んだ。
「紅莉栖! スイッチだ!!」
「分かったわ」
俺に攻撃を弾かれたセンチネルはのけぞり、体勢を立て直すのに必死だ。その隙を、紅莉栖の右手に握られている短剣が突いた。
だがセンチネルはそれでは倒れなかった。紅莉栖はさっと身を引いて距離を取り、センチネルの攻撃に備える。
「ダル! 弾け!!」
「オーキードーキー!」
将来の娘の口癖を言いながら、ダルは両手剣を握りしめて飛び出していく。センチネルのこん棒はダルを殺そうと向かってくるが、ダルは怯まずに重そうな剣をブンと思いきり振り上げた。
つんざくような金属音が周りを揺らし、先程よりも大きいノックバックをセンチネルに与えた。
「キリト氏、スイッチだお!!」
「分かった!!」
後方にいたキリトがダッシュでセンチネルのもとまで行き、ソードスキル《バーチカル》を放った。踏み込みと共に垂直に剣が降られ、センチネルをポリゴンの粒子へと変えていった。
ーーーこいつ、中々の手練れだ。
俺はキリトの戦闘を見て察した。
キリトはソードスキルの使い方をよく知っている。ソードスキルの性質1つとして、威力のブーストがある。確かにモーションさえシステムに認識させれば発動し、それなりのダメージを与えられるのだが、実は裏技として、その威力を増加させる方法がある。それは足を踏み込み、腕の振りを加えて剣速を速くすることである。このテクニックを知っているか知らないかで随分と変わってくるのだが、キリトはそれを知っていて、それを実践していた。もしかしたらこいつは、ベータテスターなのかもしれない。だとしたら、頼もしい限りだ。
俺はキリトの観察を止めて、G隊の皆に叫ぶ。
「よし、紅莉栖とアスナは右のセンチネルを、俺とダルとキリトが左を仕留める! いくぞ!」
「了解!!」
その他メンバーのはっきりとした応対を耳にして、それぞれ散っていく。今のところは死者どころか、大ダメージを受けているプレイヤーはいない。ボスのHPもそろそろ瀕死の赤になることだろう。
ーーー頼む、このまま上手くいってくれよ……!
俺は痛切にそう願いながら、地を蹴った。
***
キリトはセンチネルを相手にしながらも、2つ感心していることがあった。
1つはアスナの実力だった。アスナはネットゲーム用語ひとつ知らない初心者で、全く戦力にならないことが心配されていたが、それは杞憂だった。アスナの武器は細剣でしかも使うソードスキルが高速の一突きを繰り出す基本技の《リニアー》のみだが、その使い方が完璧だ。
センチネルの弱点は喉の辺りでその辺りを狙えば高確率で一発で倒せる。しかし喉の辺りはかなり面積が狭く、常人ならばまず当たらないのだが、アスナはほぼ100%当てているのだ。そのお陰で威力の乏しいリニアーでも高威力を叩き出せるのである。
また、リニアーを益々強力にさせているのは、圧倒的な剣速である。常人が使うリニアーなら俺は視認できるが、彼女の使うそれはまるで別世界だ。剣先が霞んで見えて、初見ではまず躱せない。もし彼女が生粋のゲーマーならば、恐らくぶっちぎりのトッププレイヤーだ。恐ろしい才能である。
2つ目は、キョウマたちの連携である。リアルでも知り合いのようだが、彼らの意思疏通は相当なものだ。
キョウマが主に指示を飛ばしているようだが、彼は後ろを振り返らずに指示をしている。そこに誰がいるのか、感覚で分かっているのだ。
そして、クリスやダルもキョウマの指示を瞬時に理解し、的確に戦っていく。
「クリスティーナ! スイッチだ!!」
「だから私はクリスティーナでも助手でもないといっておろうが!!」
しかも、このような余裕のある掛け声も出来ると言うのだからすごい。
アスナの強さとキョウマたちのすさまじい連携により、センチネルはどんどん葬られていく。これならば、勝てる。
やがて、ボスの体力がどんどん減っていき、ついに最後のゲージが赤くなると、ボスが激昂し始めた。あれは、ボス特有のバーサク状態であり、武器を変えたりステータスが上昇したりする。第一層のボスは、ベータテストの情報だと、前者のように斧からタルワールという曲刀に持ち替えて戦うのだが。
「グルウアァッ!!」
短くボスは吠え、円盾と斧を遠くへと放り投げた。
「情報通りみたいやな」
前線にいるキバオウがそう呟く。攻略会議の時にみたガイドブックにも、武器変更の可能性があると記述されていた。もちろん、タルワールに変わると書いてある。
ボスは腰に下げられている獲物の柄に手をかけて抜き払った。鋭利で殺意の塊を濃縮したような、巨大で味気のない武器だ。先はV字で割れており、きらっと刃が光を反射する。獲物は曲がっておらず、ピンと直線を描いてーーー。
瞬間、キリトの脳に電撃的な閃きが襲いかかった。何だこの感じは? 何だこの違和感は? 何だこの記憶の齟齬は……?
前に視たときとは何かが違う。体格? 叫び声? 違う、武器だ!!
あの直線を描く、美しくそれでいて圧倒的な冷たさが溢れだすそのデザインは……野太刀だ。ということはまさか……。
キリトの推論が達する前に、後ろから誰かが叫んだ。ディアベルだ。
「下がれ、俺が出る!!」
右手に握られている片手剣は黄色く発光している。恐らく最後に攻撃を決めるつもりだろうーーー。
だが、キリトの意識はディアベルに向けられていなかった。ボスが握っている野太刀は曲刀ではなく、刀だ。ということは、使うソードスキルは、曲刀カテゴリーの技ではなくーーー。
恐らく殆どの、いや、たった一人しか知らないスキル、《カタナ》スキルを使ってくる。
ディアベルはそれに気づいておらず、雄叫びをあげながらボスへと迫る。
「駄目だ、下がれ!! 全力で後ろに飛べ!!!!」
キリトは喉が張り裂けんばかりに叫ぶ。だが、その声は虚しくーーーボスの放つソードスキルのサウンドエフェクトに掻き消されてしまった。
ボスはばっと垂直に飛び上がり、体を捻る。野太刀に威力を溜めていき、深紅の光を湛えて、一気に降り下ろされた。その後、コボルトロードの巨体はぐるぐると水平に周り、ディアベルを切りつけた。
軌道は水平、角度は360度の広範囲ソードスキル、《旋車》が発動したのである。
「ぐわぁっ!?」
ディアベルは悲鳴を挙げて、地面へと倒れる。しかも、頭には黄色い光が漂っている。それは、《スタン》と呼ばれる状態異常であり、その名の通り、一定時間動けなくなる。
これは不味い。俺は駆け出そうとした。しかし、ボスはそれを許さなかった。ボスの野太刀に新たな輝きが生まれたのである。あれはまさかーーー《浮舟》!?
凶悪な輝きを秘めた刀は気絶しているディアベルを躊躇なく下から払い上げた。ディアベルの体は高く打ち上げられ、空を舞った。《浮舟》自体はただ打ち上げるだけのそんなに威力のある技ではない。が、この技は、スキルコンボに繋げられるというのが特徴だ。浮いているのであれば自由は取れない。まさに格好の的だ。
ディアベルは、初見であるはずであろうスキルに対処しようと、空中で反撃のソードスキルを繰り出した。しかし、システムは惨いもので、彼の最後のチャンスすら受け付けなかった。空振りになった一撃でどうにもなるはずがなくーーーボスのソードスキル、《緋扇》の餌食となった。上、下、トドメの突き攻撃が全てクリーンヒットし、ディアベルのHPを削っていった。
ディアベルの肢体は軽々と投げ飛ばされ、遥か遠くの床へと背をぶつけた。恐らく今彼の体には、恐ろしいほどの不快感が襲いかかっていることだろう。キリトは真っ先にディアベルのもとへと駆け出そうとしたが、その前にキョウマが駆け出していた。
キリトは足を動かしながら、ボスを見る。ボスは吠え始め、プレイヤーを威嚇していく。指揮官のディアベルを軽々と吹き飛ばしたこと、まさかのパターン変更が起こったこと、楽勝ムードが壊されたことがプレイヤーたちの戦意を削り取っていき、動けなくなっている。
俺は不安を振り払うように、キョウマの後を追った。
***
「ディアベル!!」
俺は駆け出していき、ディアベルの元へと滑り込む。先程の連続技は震えるものがあった。ベータテストの時には見たことのないものだった。曲刀スキルでは見たことはない。だが、今はとにかくディアベルを死なせるわけにはいかない。俺は腰からポーションを取り出してディアベルの口へと運んでいく。
ディアベルはかなりの衝撃を食らったようで、尚も呻き続けている。側にあるHPゲージはだんだんと減少していき、空になりつつある。ポーションを飲ませないとーーー死んでしまう。
だが、ディアベルは俺のポーションを遮った。
「何故だ! 飲め、早く!!」
「キョウマ……すまない……俺の代わりに……」
ディアベルはここで潔く死ぬつもりかもしれない。だが、それだけは止めてほしい。何故ならば、俺は人の死を何も美しいものだと思ってないからだ。まゆりや紅莉栖は俺の目の前で何度も死んでいった。もう俺は死は見たくない。例え、本人が潔く死にたいと思っても、願ってもだ。
「何をバカなことを言っている! 早く飲め!!」
俺は手を払って無理矢理ポーションを口に入れさせた。すると、液体がディアベルの口の中に流れ込んでいき、ゲージの減りが止まる。ポーションは徐々に回復するという感じであるので、一気にフル回復というわけにはいかない。
ポーションを飲み干したディアベルを起こすと、俺は怒鳴った。
「何故飲むのを拒んだんだ! 気持ちもわかるが……死に急ぐのだけは止めろ!!」
俺の叫びにディアベルは生気をとられたように力が抜けていった。己がどれだけおろかな行為をしたか、ようやく理解したようだった。
「すまないキョウマ。俺が馬鹿だったよ。死んではいけないんだな」
「ああそうだ。お前がいなければ、もうこのゲームは終わりなんだぞ!」
「……分かったよキョウマ」
ディアベルは、謝ると立ち上がり、剣を手に取った。そしてここでようやく、俺の後ろについてきたキリトにディアベルは声をかける。
「君の指示を聞くべきだったね。俺の勝手な行動で迷惑をかけたな、すまなかったね」
「いや、何となくそんな感じがしただけだ。変なスキルを使ってくるんじゃないかって」
キリトはそういうが、恐らくあれは嘘だ。確信もなしにあんなことを大声で叫べやしない。恐らくキリトは、ベータテスターだろう。
「隠す必要はないぞ、キリトよ。お前はベータテスターだろう?」
「……やっぱばれるよな……」
キリトは気まずそうな表情をする。恐らく糾弾されると思ったのだろう。だが、俺やディアベルにはそんな気はない。
「案ずるな。俺たちもベータテスターだ。お前の仲間だ」
キリトは一瞬俺たちの顔を見て、拍子抜けしたような表情をした。
「そうだったのか……? しかしディアベルがベータテスターだというのは意外だ……」
「ああ、まあね。といっても、キリトは俺がベータテスターだってことは察してたんだろう?」
「まあ、最後に飛び出していったところで勘づいてはいたけど、まさかそうだとは思わなかったな。あんたがラストアタックボーナス狙ってたっていうのも意外だったさ」
ラストアタックボーナスとは、ボスにトドメをさせたプレイヤーのみが取得できるボーナスのことで、レアアイテムが手に入るのだ。これを手に入れれば、ゲーム進行は大幅に楽になる。だからディアベルはなにも言わずに一人で突っ込んだのだ。俺も薄々は察していたのでそこに関しては糾弾する気はない。命知らずなところは非難するが。
ディアベルは苦笑いをしながら頭をかいた。
「ラストアタックボーナス、狙ってたのばれちゃったか……。さて、それはともかくだ」
キリトはボスの方を遠くから睨む。向こうでは指揮が乱れており、混乱状態だ。一刻も早く、整えなければ死者が出るかもしれない。
「どうするか、ディアベルよ」
俺はディアベルに促した。ディアベルは顎に手を添えながら暫し考え、キリトに質問した。
「キリト、あれは本当に曲刀スキルではないのか?」
キリトは首を黙って縦に降る。
「あれはカタナスキルだ。プレイヤーは今のところ使えない。一応第10層のモンスターも使えるんだけどな」
「そうか……分かった。とにかくキリト、君はボスの攻撃の軌道を皆にその都度伝えてくれ。回避優先で頼む!」
「分かった!」
キリトはそう返事すると、前線へと戻っていった。残された俺とディアベルは、首を同時に降り、目だけで伝え合う。
ーーーここからが本番だぞ、ディアベル。
ーーーああ、ただのボス戦だけじゃない。俺たちベータテスターの運命もかかっているんだ。いくぞ、キョウマ!!
疎通は十分。あとは、駆け出すだけだった。
ディアベルは生存にしました。というのは、やりやすいですし、友人をオカリンは見捨てませんから。オカリンがディアベルを生かしたんです。
用語解説はありません。
では、感想やお気に入りお待ちしております。