早速感想評価ありがとうございます。頑張っていきます。
展開は少し遅めですが了承してください♪
では、どうぞ!
2012年11月7日、13:30。《ソードアート・オンライン》正式サービスが開始され、俺はその時間ぴったりに、この世界へと降り立った。3ヶ月前初めてテストプレイヤーとしてダイブしてこの地に自身の体が降り立った瞬間を、俺は昨日のことのように覚えている。自分じゃない自分が俺の意思と共に動く。妙な感慨を覚える。
俺は《始まりの街》をぐるりと見回す。煉瓦造りの街並み、革の防具を着けた美形男女の群れ、中世っぽいBGM。全てが、現実の秋葉原と全く異なっていた。一人の人間が全く違う自分へと成り代わり、その人物を演じているのだ。当然、見せる姿は現実とは違う。
この《ソードアート・オンライン》、略してSAOの設定は中々におもしろい。舞台は100層からなる鉄の空飛ぶ城、アインクラッドであり、プレイヤーは第一層から順番にその層のボスを倒していき、次の層へと進む。これを繰り返して100層まで到達するのが主な目的だが、それ以外にも遊び方がある。プレイヤーはスキルを習得できるが、戦闘スキルのみならず料理、裁縫、釣りなど様々な生活スキルがある。つまり、この城にて生活もできるのだ。
この圧倒的な自由度に惹かれた人間は多数いる。それを示す証拠として、ナーヴギアとSAOの完売という事実が存在する。そんな争奪戦を勝ち抜き、俺が今ここにいられるのは僥倖以外何ものでもない。
俺は近くに噴水に腰かけた。先程俺は興奮の余り大声で叫んでしまったため、相変わらず周囲の向ける視線が痛いが、路傍の雑草ほどの人間の向ける視線など、気にかけることはない。
ラボメンたちには、この場所を伝えているのでそろそろ来るはずなのだが。案の定、俺の姿を見た誰かが笑顔で駆け寄った。
「あれ? あなたはオカリンさんですか?」
こんな話し方をするのは一人しかいない。俺は誰だか確信した。
「ああそうだ、まゆり」
俺は顔を見上げていった。俺に話しかけた人物は、かなりかわいかった。だが、中身がまゆりだと知っている俺はときめきもしない。
「よかったー。オカリンじゃなかったら恥ずかしかったのです」
まゆりはてへへと喜んでいた。
まゆりのアバターの容姿は基本的には現実と変わらない。ただ、若干長身で顔も細目になっている。言うなれば、天然のダメダメ女子がモデルレベルの超絶美少女になったというところだろうか。中身は何にも変わっていないが。
「しかし、まゆりは分かりやすいな」
「うん。でもオカリンはそっくりさんなのです」
俺はフッと笑い、そうだろうなと返す。
俺の容姿も現実と余り変わらないようにしている。何故なら、そこまで俺の容姿が嫌いというわけではないからだ。別の自分になりたいとも思わない。俺は鳳凰院凶真として生きていたいだけだから、変える必要などないのだ。
俺とまゆりが下らない話をしていると、一人の男が現れた。
「あれ?そこにいるのはオカリンと……まゆ氏?」
「ん? 誰だ貴様は?」
俺は思わず問いただす。何故なら、見覚えのない人物だからだ。体型は余りに細く、容姿は端麗だ。何もかもが完璧すぎるイケメンだと思わせる人物など、ラボには存在しない。まあこの俺くらいか。
どうでもいい自画自賛をしながら俺はじっとその男を見る。男は、やれやれというポーズを取った。
「呼び名でわかんねーのかよ。僕だよ、橋田だお」
「お前ダルか!? 全く気がつかなかったぞ!!」
「でもダル君……全然違う気がするのです」
「これがネトゲの醍醐味でござる」
痩せてしまったダルはえっへんと胸を張る。どうやらこいつにも、ダイエット願望があるようだ。だったらまずこういってやろう。ジャンクフードを食うなと。
「ええい、だったらダルよ。ダイエットをしろ」
「してるお、ダイエットコーラを毎日飲んでるお」
「そんなんではだめだ、運動をしろ。まゆりを見てみろ。あいつは食いしん坊なのになぜ太らないかというと、毎日父とランニングをしているからだ!」
「まゆしぃは食いしん坊じゃないよ~!」
まゆりにとっては聞き捨てならない言葉に反応したまゆりは俺に突っかかってきた。一瞬至近距離になるが、この天然女はまるで意識していないのだ。そこが手に負えない。俺はそっとまゆりを離すと、憎悪の視線で睨むダルを見てぎょっとする。
「……リア充爆発しろお」
「ま、待てダルよ! 別にいちゃいちゃしているわけではーーー」
「うるさいんだお!」
ダルが暴れ始めた。自分にだって彼女がいるくせにと心中で思いながらも俺はため息をつくと、二人の女子が現れた。
「凶真、マユシィ! こんにちニャンニャン!」
「岡部くん……こんにちは……」
「あ、もしかしてフェリスちゃんに萌郁さん?」
「そうだニャ!」
「ねえ、椎名さん……そこの、岡部くんと争っているの……だれ?」
「ああ~えっとね、ダル君だよ~~」
「そうニャの? 全然違うのニャ!」
「私も……驚いた……」
女性陣が話している間に俺はダルの暴走を止めて、新たに来たフェイリスと指圧師に向き直る。 フェイリスのアバターは本人とは余り変わらず、髪の色もピンクである。まあ容姿が変わらないのは彼女のメイドとしてのプライドなのだろうか。
対して指圧師は、かなり変わっている。顔は凛々しく、戦場の申し子とまで言わせてしまうような強さが見えた。だが、ボソボソとか細い声で喋られては台無しである。
「おお、これはフェイリスたんに桐生氏ではござらぬか。しかし二人ともすっげえかわいいアバターだお」
「ありがとにゃん」
ダルの誉め言葉にフェイリスは甘い声でお礼を言う。言われたダルはでれでれと気持ち悪い笑みを浮かべている。
「おいダルよ。貴様、彼女がいながらフェイリスにでれでれしているのか?」
「無論由季たんは大切だお。だが、やはりフェイリスたんもいいんだよね」
先程も言ったがダルには彼女がいる。阿万音由季だ。彼女とはコミケで会い、それ以来交際を続けている。そしてーーーあと5年後には子供を授かるのだ。俺の世界線漂流を助けてくれた少女、阿万音鈴羽が生まれるのだ。だからダルの浮気は心配する必要はないのだが、どうしても見過ごせない。何が起こるかわからないのが、シュタインズゲート世界線だ。
「ダル君、浮気はダメなのです」
「ま、浮気なんてしないけどね」
ダルはそういって噴水に座る。指圧師もその横に座り、二人してこの世界を堪能しているようだった。
「あの……すみません、あなたは岡部さん、ですか?」
突然そばから声をかけられた。振り向くとそこには、女子がいた。気弱そうな目、今にも泣きそうな表情、女の子よりも女らしい奴。
「ルカ子よ。俺の名前は……鳳凰院凶真だ!」
「はぅ……すみません」
俺の真名を間違えるとは、我が弟子としてどうなのだと思ったが、そこはどうでもいい。ルカ子のアバターは現実と変わらず可愛い容姿だ。しかも、この世界では女のようで。革のスカートを着用している。
「ねえねえルカ君、何で女の子なのかな?」
まゆりがその質問をする。ルカ子は少し恥ずかしそうに答える。
「ボク、女の子って間違えられるから、いっそ女の子にしようかって……。それに何でだろう、女の子だった僕を思い浮かべちゃうんだよね……」
その台詞を聞いた瞬間俺はドキッとする。一度、ルカ子が女の子になった世界線へと行き、実際にデートまでしたことがあるのだ。ルカ子はそのときに俺のことを好きだといった。だが俺はその思いを踏みにじってしまった。
ルカ子はもうそのときのことを覚えていないが、誰しもが、リーディングシュタイナーを持っているのだ、思い出してしまうことだってある。まあ俺みたいに克明には覚えていないのだが。
「るか氏、ネカマ願望あったん?」
「ね、ねかま……ってなんですか? 橋田さん」
「ネトゲとかで男なのに女になったりする奴のことだお。まあるか氏はもはや女の子だから問題はあんまないけど」
ダルの言葉にルカ子は黙ってしまった。その空気を入れ換えるべく俺は言葉を発する。
「さてと……これでほぼ全員が揃ったな。後は紅莉栖を待つだけだな」
「クリスちゃんか……まだかな~~」
まゆりが噴水に座りながら足をパタパタと石畳に叩きつけると、指圧師が細い声で俺を呼んだ。
「岡部くん……あれ、牧瀬さんじゃない?」
「ん?」
俺は指圧師の指差す方向を見る。そこには、長く輝いている赤の髪をした女性がいた。背は小柄で顔はやや幼い。だが、ひと目でわかった。あれは牧瀬紅莉栖だ。俺が恋している、牧瀬紅莉栖だ。
紅莉栖はきょろきょろと回りを見渡している。どうやら俺たちを探しているようだが全く見つからないらしい。俺は紅莉栖に近づいた。
紅莉栖もこちらが近づいてくることを悟って俺を見る。最初は警戒心が見えたがすぐに消え、俺の顔を見上げた。
「Hi」
紅莉栖の短い挨拶を俺は目を閉じて聞く。
「久しぶりだな、クリスティーナ」
俺は穏やかな声でわざとあだ名で呼んだ。案の定、紅莉栖は食い付いてきた。
「だから私はクリスティーナでもない。牧瀬紅莉栖だ」
変わっていない。彼女は変わっていない。俺のつけたあだ名に反抗心を見せる彼女は、変わっていない。俺は微かに安心した。
吊られた目は相手を寄せ付けない印象を与え、スラッとした体は研究者だと感づかせるものである。普段はツンツンしているが、根は優しいことを俺は知っている。
俺は噴水にいるラボメンたちの元へ向かう。まゆりを始め、全員が紅莉栖との再会を喜んだ。まゆりは思いきり抱きつき、ダルは茶化し、フェイリス達は思いきり笑っている。俺はそれを遠くから眺めた。俺も紅莉栖と早く話したいと急かす気持ちが巻き起こる。だが、それは自重する。今はこの空気を、大切にしたい。ラボメンが心からの笑いを浮かべている瞬間を味わいたい。俺が守ってきたものを、ずっと見ていたい。
俺は頃合いを見て皆に声をかける。
「では、ラボメンが揃ったところで、そろそろ¨オペレーション・ナイト¨を開始する!」
「ちょ、初耳な訳だが」
「相変わらず中二は治ってないのね……」
「ーーーこのオペレーション・ナイトの概要はズバリ……俺によるレクチャーである!」
大袈裟すぎだっつーのとか、中二病などと言う言葉を無視し、俺は言葉を続ける。
「お前たちにこのゲームの魅力を教えてやるにはまず、戦闘だ! 剣でしか戦えない世界だが、臨場感を味わえるのだ。詳しくは、この鳳凰院凶真が教えてやろう」
「え~~まゆしぃはコスが欲しいのです」
「フェイリスはメイド服がいいのニャ」
「あるわけなかろうが!」
場違いなことをほざいているバカ女どもに突っ込む。確かに裁縫スキルを極めれば自分で作って手に入れることは出来ないことはないが、今では絶対に無理だ。
「つーかさ、僕的にはもう少しこの始まりの街を楽しみたいんだが」
「同感ね。あんたは先にβテストでやってるからいいけど私たちはこの街すらよく知らないのよ」
「フェイリスもちょっと見てみたいのニャ」
ぐっ……揃いも揃って俺に歯向かうとは……。
ただ、ラボメンたちの意見ももっともだとも思う。俺はこの始まりの街を腐るほど見たが、彼女たちは一度も見ていないのだ。案内から先にしても問題はないだろう。別に魅力を伝える時間はたっぷりあるのだ。また俺たちは遊べるのだ。
「ええい、わかったわかった! いいだろう、この鳳凰院凶真がこの街の案内をプァーフェクトにこなしてみせようではないか」
「やったぁ~~!」
「……うれしい……」
「さすがオカリン、僕らにできないことを平然とやってのける! そこに痺れる憧れるぅーー! 中二的な意味で」
「ええい黙れスーパーハカー! ほら、とっとといくぞお前たち!」
「ハカーじゃなくてハッカーな」
「さ、いきましょ皆」
紅莉栖がそういうと俺は胸を大きく張って歩き始めた。ラボメンへの始まりの街の案内が始まった。現実世界にはない武器屋、道具屋、雑貨屋などや、大きな広場、見世物ステージなどがあり、ラボメンたちは歓声をあげていた。途中新参プレイヤーに話しかけられたり、リア充プレイヤーに遭遇してダルが暴走したりと色々あったが、俺は案内でよかったなと思ったのだった。ラボメンが喜ぶ顔が見られたのだから。
「あー楽しかったー!」
「結構歩いたけど、足は痛くないんですね……」
「この世界では痛覚はないからよ。疲労感はあるとは思うけど、少なくとも筋肉痛とは無縁の世界だわ」
「全ての感覚神経がシャットアウトされているからな」
「全部……本物、みたい……」
「凶真がおごってくれたサンドイッチ、美味しくて感動したニャ! それもこれも、クーニャンのお陰だニャン!」
「クリスちゃん、ナーヴギアをありがとね!」
「ああ、いや、別に大したことはしていないわよ。アーガスにいる知り合いに余ったの譲ってもらっただけだから……」
「ウェイウェイウェイ! フェイリスにまゆりよ、何故この俺に感謝をせんのだ!?」
「オカリンはあんま関係ない希ガス」
「関係あるだろダル! 俺はお前たちを案内したのだぞ!! おまけにお前たちの昼食まで買ってしまった始末だ!」
「じゃんけんに負けたからでしょ? それに恩着せがましいわよ。そういうんだから感謝もされないのよ」
「なぬっ!? 助手の癖に生意気な!!」
「だから私は助手じゃないといっておろうが!!」
黄昏時。
俺たちラボメンは、アインクラッド外周部分にて他愛ない会話を繰り広げていた。皆で同じ笑いを共有し、宝石のように煌めく記憶を積み上げていく。柵に腕をのせて俺は皆の笑う顔を飽きずに見つめ続けていた。まゆりが天然で可笑しなことをいって笑わせ、紅莉栖が時々@ちゃんねる語を交え、ダルがHENTAI発言をし、ルカ子は健気に話に応じ、フェイリスが場を盛り上げ、指圧師は微笑みながらその会話を楽しんでいる。俺は、幸せだ。仲間とこうして下らないことで一緒になれるのだから。
胸に込み上げてくる感慨を飲み込み、俺は再び高らかに宣言する。
「では、これより、ラボへと帰還する! 戦士の狂乱をしようではないか!」
「ラボでのパーティーのことですねわかります」
「うんー! まゆしぃたくさん食べ物持ってくるね!」
「フェイリスもログアウトしたら急いでラボに戻るのニャ! 全速前進DAニャ!」
「ボクも参加していいんですか……?」
「当たり前だ! ラボメンは全員参加許可を与えている。指圧師、お前も来い」
「……あり、がとう」
「私も、参加していいのよね……岡部」
紅莉栖の問いに俺は苦笑する。声のトーンを落とし、妹をあやすような口調で答えた。
「お前が来なくてどうするのだと言うのだ、クリスティーナ。お前の帰還祝いなのだぞ」
「そうなんだ……ありがとね」
珍しく紅莉栖が素直だった。俺はドキッと来てしまった。憎まれ口でも言われるのかと思ったのだが。だからつい、どぎまぎした口調になった。
「お、お前がこうも素直なのは、少々やりにくいな」
「な……!? こ、このバカ岡部!!」
「何だと、この天才HENTAI少女!!」
「HENTAI言うな!!」
わーわーと俺と紅莉栖が言い合っている間、ルカ子とまゆりが落ちようとしていた。ログアウトするには、指を揃えて右腕を降ってメインメニューを開き、ログアウトボタンを押すだけだ。それらの作業をしているところを見ながら俺は声をかけた。
「では、ラボで待っているぞまゆり、ルカ子」
「はい、お先に失礼します」
「じゃあねー!」
二人は先程俺が案内している最中に教えたログアウト方法でログアウトしようとした。
だが、俺たちは知らなかった。
これが始まりだった。この瞬間から、孤独の観測者を、大きく振り回すこととなった。長きに渡る戦いが、魔眼の持ち主を巻き込んでいくこととなった。
「あれ、ログアウトボタンが……ないよ……?」
まゆりが発したその言葉は、嘘のようにその場の空気を止め、不思議にも談笑に浸っていた他のラボメンたちの鼓膜をはっきりと揺らしていた。
さあ、いよいよ……開幕ですな。
用語解説
・全速前進DA!
人気カードバトル漫画、「遊戯女王」の登場人物、海馬瀬姫が発した台詞。よくニコニヤ動画や、Mewtubeのネタ動画とかの素材に使われる。ただし今は雷ネット翔の方が人気が高いため、余り流行っておらず、時代遅れネタともなりつつある。
元ネタは遊戯王の海馬瀬人から。
では、感想お気に入り登録などお待ちしております。