Steins;Gate 観測者の仮想世界   作:アズマオウ

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アズマオウです。

シュタゲとSAOのコラボ小説を書きました。よろしくお願いします。

設定はあらすじの通り、2012年からスタートです。もし2022年から始めてしまうとかなり時間がたってしまう上に、彼らの考え方とかも結構変わってきちゃうので、色々難しいのです。
まあとりあえずそういうことで。ほとんど文庫版と相違ないので。



プロローグ

 世界線変動率、またの名をダイバージェンスが1.048596であるこの世界線の名前は¨シュタインズゲート¨という。未来にディストピアも第3次世界大戦も起こらない、ただひとつの世界線。無数の世界線の記憶を保持できる¨リーディングシュタイナー¨を所持している孤独の観測者¨鳳凰院凶真¨こと¨岡部倫太郎¨は、大切な幼馴染み、¨椎名まゆり¨と心を通わせたツンデレ天才脳科学者¨牧瀬紅莉栖¨を救うため幾度もなくタイムリープを繰り返し、ついに二人とも生存するシュタインズゲート世界線へと到達した。

 その1年後、孤独の観測者をシュタインズゲートは一度拒み、0.000001%違うR世界線へと幽閉したが、牧瀬紅莉栖による過去改編によって岡部を救い出し、再びシュタインズゲート世界線へと戻ることができた。

 こうして孤独の観測者は役割を終えて、平穏な日々を過ごす。彼が守り抜いた仲間と共に、ちっぽけな建物にてかけがえのない思い出を築き続けている。

 

 だが、その一年後。岡部はまたもや、運命に裏切られ始める……。

 

 

 

***

 

 

 暑さが和らぎ、寒くなり始めた11月。俺ーーー岡部倫太郎は、秋葉原にあるおんぼろビル、大檜山ビルの二階に設立されている¨未来ガジェット研究所¨にてパソコンのマウスのホイールを回していた。今俺が見ているのは、大手掲示板サイト¨@ちゃんねる¨である。トップページには、新着スレッドが挙げられていて、エロ関係、アニメやゲーム関係、ニュース速報などがあるが俺は目もくれずに脳科学のスレッドを覗く。ただ、2011年あたりは、そんなにめぼしい話題はなかった。脳科学スレッドには基本現れるはずの¨栗ご飯とカメハメ波¨が現れなくなったと言うことから、どうでもいい話題しかないのである。

 ただ、最近は別だ。俺は¨ナーヴギアについて語るスレ98¨を開く。その中の最新の50レスをざっと見ていく。

 

 

 

892 名無しのアーガス [sage] 201211/6 11:43:48 ID:j7WisVoq0

 

 おまいらSAO買った?

 

893 名無しのアーガス [sage] 201211/6 11:44:57 ID:k3qalPfe0

 

>>892

売り切れたんごwwwww

 

894 名無しのアーガス [sage] 201211/6 11:49:19 ID:y5xdmQws0

 

つーかさ、マジでナーヴギアって何なの? 俺ファムコン世代だからよくわかんね

 

895 名無しのアーガス [sage] 201211/6 11:55:32 ID:k3qalPfe0

 

過去スレ見ろよks

 

896 名無しのアーガス [sage] 201211/6 11:59:21 ID:r3dfsQzw0

 

つhttp://kusomiso.tekunikku.com/tugihashonben/

 

アーガス本社のリンク先

口で説明すんのめんどい。

 

897 栗ご飯とカメハメ波 [sage] 201211/6 12:04:24 ID:b2xczKnp0

 

>>894

ナーヴギアと言うのは、夢のゲーム機。神経をシャットアップし、直接信号を脳に送り込むことによって、仮想空間にて現実と同じように振る舞える。

ま、簡単に言えば、全身麻酔状態で仮想空間にまるごとは入れちゃうっていうもの。

 

>>896

お前は正真正銘のホモだということが実証されたぞw

 

 

 

 やはりな、と俺は感じた。こういった脳科学に関するスレッドには必ず¨栗ご飯とカメハメ波¨がいるのだ。その人物は結構煽るのが得意なのだが、逆に煽られると弱い。まさに、¨牧瀬紅莉栖¨らしい。

 その先をホイールしてもめぼしい情報はなかった。俺はウィンドウを閉じて情報収集を止める。

 その直後、ノックが数回聞こえた。一瞬体を竦ませてしまうのはもはや条件反射といってもいい。何故なら俺は、襲撃者に、殺されかけたことが幾度もあるからだ。だから、ノックが聞こえる度に、襲われるのではないかという恐怖が生まれるのだが、ゆったりとしたそのリズムで誰が叩いているか分かる。俺は安心してドアの前まで向かい、鍵を開けた。

 

「あ、オカリン! トゥットゥルー!」

 

 ドアの前にたっていた少女が、奇妙な挨拶と共に声をかける。俺は入れというように、道を開けて招き入れた。

 フリルのある帽子を被り、薄い紺のジャンパーを来ている。その下も薄い紺のワンピースで、彼女は余りファッションには拘ってないようだ。目は大きく、幼さが全面的に強調されている。身長は俺よりもやや小さく、妹のような感じを覚える。

 少女は腕に下げられているビニール袋をテーブルに置き、中に入っているものを出す。入っていたのは、冷凍食品の¨ジューシーからあげナンバーワン¨と、バナナ、おでん缶の牛スジ味が3本という、余り健康に良さそうなものではないものだった。もちろんこれを食べるのは少女である。

 

「全く、お前も好きだな……毎日食べてて飽きないのか、まゆり」

 

 俺は少女ーーー椎名まゆりに呆れ声で言う。正直もう俺は飽き飽きしている。唐揚げはうんざりだ。

 だが、まゆりは屈託のない笑顔でうんと言った。

 

「だって、ジューシーからあげナンバーワン、美味しいからー」

「そうか、やはりまゆりは食いしん坊だな」

 

 俺の発言にまゆりは頬を膨らませて不平の声を漏らした。

 

「まゆしぃは食いしん坊じゃないよ~!」

 

 本来であれば女の子にそういった発言はNGだ。だが、まゆりと俺は幼馴染みだ。この程度の掛け合いなど、許せる間柄だ。因みにまゆりは自分のことをまゆしぃと呼ぶらしい。

 まゆりはそう言いながらもモグモグとバナナを食べている。矛盾している。我先へと食しているのはお前だろうが。

 

「説得力皆無だな……」

 

 まゆりは俺の突っ込みに対して満面の笑みでスルーし、あっという間にバナナを平らげてしまった。

 まゆりは、そういうやつなのだ。食いしん坊で能天気な発言を繰り返す。だが、俺はそれを短所だとは思っていない。むしろそれがまゆりなのだ。まゆりの屈託のない笑顔は、俺にとってはかけがえのないものだ。

 俺はこの笑顔を守るために戦ってきたんだ。数多の世界線漂流を通して、この笑顔を取り戻したんだ。今この世界線でバナナをもぐもぐと食べているまゆりを、見ることができるのだ。そう思うと、俺は心から良かったと思える。

 

「……どうしたの、オカリン?」

 

 まゆりはきょとんとしながら俺を見る。俺はどうやら見つめていたらしい。いかんいかん。

 

「いや、何でもない」

 

 俺はそう答えて、ポケットにある今時古い開閉式携帯を見る。メールは来ていない。それを確認してパチンと閉じると、まゆりが俺に尋ねてきた。

 

「ねえねえオカリン。今日って、クリスちゃんが帰ってくる日、だよね」

「いやそれは明日だぞ、まゆり」

 

 クリスちゃんと呼ばれた女性ーーー牧瀬紅莉栖の帰ってくる日を訂正した俺は、ふっと笑う。そう、明日は俺の恋人が帰ってくるのだ。無論今はアメリカに飛んでいて、なかなか会えないのだが、明日には彼女に会えるのだ。内心嬉しかった。

 

「そっかー。でも、会えるの楽しみだね、オカリン」

「ふ、ふん。楽しみと言うわけではないが……まあ、ラボメンとして歓迎はしてやろうではないか」

「オカリンはツンデレさんなのです」

 

 うるさいと俺はまゆりを黙らせる。だが、まゆりというのは可笑しな人間で、人の恋沙汰をにやにやと笑って干渉するのだ。まだ、俺の右腕のように罵倒してくれた方がいい。

 まゆりと些細な話をしていると、再びノックが聞こえた。今度は少しリズムが早く、力強い。

 

「はーい、今開けまーす!」

 

 俺もまゆりも誰が来たかすぐにわかった。まゆりがドアを開けると、一人の男が苦しそうな表情をしていた。両手には重そうな紙袋が下げられている。

 

「ふい~~……やっとついたお……」

 

 脱力した足取りでのろのろと研究所ことラボに入る。まあラボといっても、小さなサークルでしかなく、イカツイ実験器具とかが大量にあるわけではないのだが。

 男は太り気味の体をソファーに沈み込ませて、重そうな紙袋をどさっと床に置く。

 

「ダルくん、それなぁに?」

 

 まゆりが男ーーダルこと、橋田至に尋ねる。ダルは汗だくになった表情で答える。

 

「新作のエロゲと同人誌だお。ま、エロゲの方は四十八マンもびっくりするゲームだから期待してないけど」

「ダルくんはえっちだねえ~~。でも、四十八マンって誰だっけ?」

「かのクソゲーオブザイヤー大賞を受賞した四十八(仮)のアスキーアートだお。ま、ネタだお」

「なるほどねぇ」

 

 ダルは、アクティブな萌えオタクである。エロゲーや二次元アニメはおろか、3次元メイドに挙げ句の果てには機械にまで萌えを見出だすという、特殊な男だ。しかも、ハッキング能力も凄まじく、セキュリティが厳重に敷かれているSERNのハッキングにも成功したほどの腕の持ち主だ。まさに俺の右腕にふさわしい力を持っているが、そのせいでひどい目に遭ったのだった。

 また、ダルにはデリカシーがない。女子であるまゆりに向かって平気でエロゲーの話をするのだ。そしてそれに不快感を示さないまゆりもどこかずれている気がする。

 

「全く、ダルよ。何故たくさんゲームを買うのだ? しかも良質なゲームでもないはずだ」

「いやぁ……声優が神だから、買うしかないと思ったのだぜ。ま、さすがに四十八(仮)の様にはならんしょ」

「製作会社が違うからな……。ってそんなことはどうでもいい。ルカ子やフェイリスは見なかったか?」

 

 俺は話題を切り替え、ダルに質問した。ダルは早速さっきまで俺が使っていたパソコンを起動しながら答える。

 

「いや、見てないお」

「そうか、分かった」

 

 恐らく買ってきたエロゲーをやり始めるのであろう。俺は放っておいて冷蔵庫へと向かい、俺の愛用知的飲料であるドクトルペッパーことドクペを取り出した。ふたを開け、ぷしゅっと吹き出した炭酸が乾いた喉を刺激し、潤していく。多少薬品臭いが、それこそがこのドクペの魅力のひとつである。だが、残念ながらこの美味なる炭酸飲料の価値を理解してくれる人物は、俺とその恋人しかいない。

 俺がドクペを飲み干すと、またもやノックが響く。今度は控えめなノックだ。再びまゆりが出迎えにいく。

 すると、二人の女子、いや、男女がいた。

 

「キョーマ! こんにちニャンニャン!」

 

「おか……いえ、凶真さん、こんにちは」

 

「あー、フェリスちゃんにルカ君だ! ようこそいらっしゃいました!」

 

 まゆりに案内されて二人は入る。一人は、フェイリスこと秋葉留美穂で、猫耳を着用している。小柄で猫のような容姿をしていて、このラボの近くにあるメイド喫茶¨メイクイーンニャン×2¨の人気メイドとして働いている。

 一方は、ルカ子こと漆原るかである。すらっとした細い体に美しい黒髪、透き通るような瞳を持っていることから女そのものなのだが……だが男だ。顔は白く、無駄な肉がついていない。だが、男だ。巫女服が大変似合うことを知っている。だが、男だ。

 彼女、いや、彼は、柳原神社の主の息子でおとなしく、ばか正直だ。そのため、まゆりの趣味のひとつであるコスプレの対象にさせられたり、バカなカメラ小僧に対しても強く言えない。まゆりと同じで、庇護欲が掻き立てられる存在なのである。

 まゆりは二人に麦茶を差し出してルカ子に話しかけた。

 

「ルカ君、おでん缶食べる?」

「い、いやいいよ。僕さっき朝御飯食べたから……」

 

 ルカ子は少食である。まゆりが食いしん坊だというのもあるのだが、ルカ子はご飯をおかわりしないそうだ。

 

「あ、じゃあフェイリスが食べるニャン!」

「いいよ~~」

 

 フェイリスが割り込んできて、まゆりのおでん缶を貰う。フェイリスの家はかなり大きく、高層マンションに住んでいるほどのお嬢様だ。だというのにこんな安っぽいものを何故食べるのだと思うが、フェイリスはお嬢様だということをまるで意識していない。そこがフェイリスのいいところではある。

 そんなほのぼのした空気が流れるなか、ダンと強い音が響く。一同が振り向くとそこにはダルが憤怒の表情でパソコンをにらんでいた。

 

「ふざけんなお!! 何でバグが起こるんだお!! こんなの物売るってレベルじゃねえぞおい!!」

「五月蝿いぞダル。クソゲーだからといってラボメンを驚かせるな」

 

 俺はダルの元まで向かい、たしなめる。ダルはすまんおと謝り、エロゲーを止めてブラウザを開く。どうやら@ちゃんねるに批評を書き込むらしい。俺はやれやれとその場を去り、まだ残っているおでん缶を手に取った。

 

「まゆり、これ食べていいか?」

「いいよー」

 

 一応許可をとっておいて、缶を開ける。プラスチックのスプーンと共に掻き込み、濃いめのおでんを味わっていた。その時、ノックがまたもや響いた。こちらもまた控えめで、どこか遠慮がちだ。

 まゆりがてくてくとドアの前まで行き、出迎える。そこには、長身の女性がいた。

 

「あー、萌郁さんだ!」

「……こん、にちは……」

 

 まゆりの元気な声とは対称にか細い声で挨拶する。

 

「遅いぞ閃光の指圧師(シャイニング・フィンガー)! お前が最後だ」

「ごめん……なさい」

 

 俺に叱られた女性ーーー閃光の指圧師こと、桐生萌郁は、そそくさに部屋に入る。すらっとした長身と、豊満な胸、流れるようで、流れるような髪のおかげで美人といえるのだが、俺はどうしても警戒してしまう。何故なら、彼女はとある世界線で俺たちを裏切ったからだ。俺たちを襲い、まゆりを何度も殺したのである。無論そんな事実は俺しか覚えておらず、まゆりとこうして屈託なく話せている。まあ、もう彼女は俺たちを裏切ることはしない。ここは、平和が約束されたシュタインズゲートなのだから。

 俺は指圧師に抱いていた警戒心を解いて、歩み寄った。

 

「で、どうして遅れたのだ?」

 

 彼女はじっと俺の顔を見つめる。その後、ポケットをまさぐり、携帯を取り出した。パカッと乾いた音と共に携帯は開かれる。そしてーーー霞むほどの速度で指が動いた。

 数十秒後、俺の白衣のポケットの中でブーブーと曇った音が響いた。メールだと思い、それを取り出して確認する。

 

From:閃光の指圧師

Subject:ごめーん☆

本文:今日ね、ちょっと仕事が多くて遅れちゃったorz

ゴメンネ(ToT)

それはそうと、今日はなんのために呼び出したのかな? 私聞いてないんだけどなあ……?

でも、なんかすごく今日は気分いいんだ、だって久しぶりにラボに来られたし(*≧∀≦*)キャハッ!!

 

 数十秒でこれほどのメールを打てるというのだ。恐ろしい能力だ。俺はこれを、¨閃光の指圧師¨と名付けている。まあこの能力の習得には彼女の辛い過去があるため余り深く話せない。今さらメールと現実のキャラが違うところは突っ込まない。

 指圧師が来たところでラボラトリーメンバー、略してラボメンが勢揃いした。本来ならばあともう二人いるが、一人はまだ生まれていない。俺は、ふっと笑いながら全員に声をかけた。

 

「では、ラボメンが勢揃いしたところで、第2022回、円卓会議を開始する! 全員、円卓につけぃ!」

 

 俺は未来ガジェット研究所の恒例行事、円卓会議の開始を宣言した。ラボメン全員で話し合う貴重な情報交換の場なのである。

 

「円卓などないのでPCの前でいいすか?」

「全く、意識が足りんぞダル」

 

 俺は意識の足りない不届き者を注意するも、本人はテコでも動かないことくらいわかっている。

 

「では、これより円卓会議を開始する!! では、今回の議題はーーー」

「待つニャ凶真! 今ここで円卓会議を開いたら……奴等が動き出してしまうニャ!!」

「なぬっ……!?」

 

 ちっ、フェイリスめ……。

 彼女は重度の中二病であるゆえ、俺の台詞に己の妄想をぶちこむのである。俺の言葉はすべて真実だが、彼女の言うことは妄想なので、ブレーキが効かない。こうなればーーー。

 

「だがフェイリスよ。こうでもしないと、¨機関¨に対抗する術を考えられぬではないか。奴等はまだ動き出さないはず。それに動き出したところで、俺の右腕に秘められし力があれば問題はない」

「確かに凶真の力は絶大だニャ。でも、奴等は¨幻想殺し(イマジン・ブレイカー)¨の力を開発し始めているニャ。だからどんな力でも一瞬にしてーーー」

「ーーーというわけで今回の議題を発表する! それはズバリ……」

 

 乗って然り気無くやめさせようとした俺がバカだった。もうこれ以上付き合ってられるか。俺は無理矢理話を打ち切った。フェイリスがあれ? という表情を浮かべて俺を見つめるなか、静寂が流れる。そして、効果的だと思った瞬間に、俺は口を開いた。

 

「ーーー《ソードアート・オンライン》についてだ」

 

 その言葉を放った瞬間、皆はああと話を理解するそぶりを見せた。

 

「ああ、SAOっしょ? 世界初のVRMMORPGでナーヴギア対応ソフト」

 

 ダルが説明を加える。

 

「ねえねえ……げいあーるえもえもおーあーりぴーじー、って何かな?」

「ゲ、ゲイって……まゆりちゃん、VRMMORPGだよ。簡単に言えば、ネットゲームだよ」

「ほえーそうなんだー。まゆしぃは名前しか知らなかったのです」

「私、も……」

「フェイリスは一応知ってるニャン」

「まゆ氏、まさかの腐女子なん?」

「ええいまゆりに指圧師よ、何故名前しか知らんのだ!?」

 

 一部のラボメンの無知さに俺は厭きれ声をあげる。だが、これが未来ガジェット研究所の実態だ。何故なら、本当に科学に強い人間はダルと牧瀬紅莉栖と俺しかいないためである。しかも俺はせいぜい常識を知っている程度だ。他のメンバーは俺の知り合いだからという意味でラボメンにしたまでだ。無論、彼女らは大切な存在であり、替わりなどありえない。

 

「だってまゆしぃはゲームしないもん。オカリンだってほとんどゲームしないじゃん」

「まあな。だが、脳科学とかに関係するからな」

 

 そうまゆりに言っている間に再び携帯が鳴った。手に取ると、やはり指圧師からのメールだった。内容は『SAOについて詳しく教えて(・ω・`人)』だ。俺はため息をついた。

 

「では、SAOについて簡単に説明するぞ。さっきダルがいった通り、SAOは世界初のフルダイブRPGだ。全身がすっぽりとゲーム世界に入るんだ」

「えー! オカリンゲーム機に吸い込まれちゃうの?」

 

 まゆりの馬鹿げた発言をスルーしたいが、あらぬ誤解をされても困るので否定しておく。

 

「違う。神経をすべてシャットアウトして、直接脳に信号を送り込むことによって、仮想空間で自由に動き回れるようになるのだ。分かりやすく言えば、全身に強烈な麻酔をかけられた状態で夢の世界に行ける、ということだな」

 

 実際これは@ちゃんねるにて紅莉栖が書いていたレスのものを拝借したものだが、一応これがしっくり来る。

 

「よくわからないけど、すごそうなのです」

「そうだね、まゆりちゃん」

 

 まあまゆりに理解を期待しても無駄だということは知っている。

 

「ネトゲとしての質も高いらしいお。βテストの評判もよかったし。で、何で円卓会議のテーマがそれなん?」

 

 ダルが質問する。もっともな質問だ。俺は、ニヤリと笑い、ダルをビシッと指差した。

 

「よくぞ聞いたスーパーハカー。何故第5821回円卓会議のテーマをSAOに選んだのか、教えてやろう……」

「いや、回数間違ってる件について。それに僕スーパーハッカーだし」

 

 ダルの突っ込みを無視し、俺は全員を見回す。そして、高らかに叫んだ。

 

 

 

 

 

 

「ラボメン全員で、そのゲームをやるためだ!!」

 

 

 

 

「……………………」

 

 沈黙した。そしてそれが、数秒間続く。俺は何故か恥ずかしく感じてきた。

 

「おい、なんか言わんか!?」

 

 俺は黙り込むラボメンたちを叱咤する。だが、返ってきたのはダルの指摘だった。

 

「いや、どう考えたって無理っしょ。だって、SAOはもうとっくに予約終了しているんだぜ? しかもナーヴギアは完売したし。オカリンがβテストに受かったけど、一台しかないし」

 

 ダルは視線を研究室へと向けた。研究室の埃っぽい棚の上に紫色のヘッドギアが置かれてある。あれは、俺が《SAO》のテストプレイ、通称βテストに参加した際に購入したものだが、俺しか当選しなかったため、一台しかない。

 だが、俺には秘策がある。

 

「ふ、そんなこともあろうかと、俺は秘密兵器を用意したのだ。そろそろ来るはずなのだが……」

「秘密兵器とか、中二病乙」

「黙れ! 俺は中二病ではない!!」

 

 まあ、実際秘策はあるのだが。俺はラボにある壁時計を睨む。

 その瞬間、ノック音が聞こえた。来たなと俺は確信し、まゆりにドアを開けるよう命じた。まゆりは開けまーすとドアを開けると、そこには配達員がいた。

 

「失礼します。えっと……岡部倫太郎さんのお宅でよろしいですか?」

「ああ。ダル、PCの近くの判子を取ってくれないか?」

「はいよ」

 

 ダルはポイッと判子を投げつける。危うく俺はキャッチし、配達員のもつ箱に印鑑を押す。

 

「ご苦労だった」

「じゃ、失礼しまーす」

 

 そういうと、配達員はそそくさに出ていった。バタンとドアがしまると、全員の興味がこの箱の荷物に集中した。

 

「凶真さん……これはなんですか?」

 

 箱の大きさはかなり大きく、両手で持ってもきついくらいだ。重量もあり、大人一人でも難しい。

 俺は、開ければ分かるさといい、ガムテープを剥がす。するとーーー。

 

「ナーヴギアとSAOのパッケージだお!! しかも、5つあるお!」

「すごい……でも、凶真さんこれどうやって?」

「さすが凶真ニャン!!」

「フゥーハハハ!! この鳳凰院凶真の力をもってすれば、この程度のことなど造作もーーー」

「あ、宛名がクリスちゃんだ!クリスちゃんがプレゼントしてくれたんだ!」

「あ、ホントだお」

 

 まゆりめ余計なことを……。

 俺はまゆりをじとっと見つめながらも、このナーヴギアの輸送をしてくれた紅莉栖に感謝していた。

 俺はラボメンと共にSAOをやりたいという旨を紅莉栖に話したことがある。すると紅莉栖は、アーガスとコネ持ってるからナーヴギアを譲って貰うよう頼んでみるという心強いレスポンスが返ってきたのだ。

 だから明日の紅莉栖の再会も、SAOですることになった。現実でも会いたいが、どうせならばと思った次第だ。

 

「ということで……これで全員がソードアート・オンラインを遊べるのだ! 紅莉栖はもう自分のがあるらしいから大丈夫だ。明日の紅莉栖との再会もそこで行う!」

 

 俺の宣言に皆が喜んだ。当然だ、もう遊べないと思っていたゲームが遊べるのだから。指圧師もカタカタと無表情でメールを打ち続けているが、恐らく指圧師のメールは歓喜の表現に溢れているだろう。

 

「やったニャ! フェイリスもSAOやりたかったのニャ! クーニャンには感謝しないとニャ!」

「そうだね、明日あったらクリスチャンにお礼言わなきゃね」

「凶真さん、ありがとうございます!」

「オカリンにしてはGJなのだぜ」

「してとはなんだしてとは」

 

 ダルの発言に突っかかりながらも、俺はその光景を何時しか目に焼き付けていた。皆がこうして平和に笑えている。この世界線は、素晴らしい世界線なのだ。皆の思いを犠牲にしてここまでたどり着いた世界線だが、これでいいんだ。誰も死なずにこうして笑い会えるのだから。きっと、これでいいんだと思う。きっと……。

 

 その後、明日の集合時間などを話して、解散とした。ラボの中がここまで熱狂的になったのは、初めてではないのかと言うくらい皆が楽しみにしていた。夜一人になったときでも、俺は充実した気持ちになっていた。

 

 

 2012年11月7日、日曜日、午後13:30。

 円卓会議から一日たった次の日の昼、俺はラボのソファーに横たわった。頭にヘッドギアを被り、電源を起動する。他のラボメンは自宅にてダイブするようだ。だからラボには俺一人しかいない。

 紅莉栖は今ごろ日本のどこにいるだろうと、ふと頭をよぎる。彼女は昨日の時点でもう日本へと来ていたはずだ。ということは今日ラボに来るのだろう。

 でも、これからまた彼女と会えるのだ。気にすることは、ない。

 重厚な起動音が鼓膜を揺らす。徐々に視界が暗くなっていく。そして、俺の口から言葉が発せられた。

 

「リンク・スタート!」

 

 ピシャァッと弾けるような光が視界を覆い、一瞬の加速感を覚える。そう、俺はこれから仮想世界へと誘われるのだ。現実とは大きくかけ離れていて、かつて圧倒的な興奮を覚えた場所に。虹色の光彩が走り、暗転する。数秒後。

 

 石畳の上に俺は立っていた。目を覚ますと、俺の手が見える。無精髭など一切生えていない綺麗すぎる手、革の防具を着用している己の姿、回りに広がる煉瓦造りの街並み。全てに見覚えがあった。

 

「ふふ……フフフ……フゥーハハハ!! 帰ってきたぞ! ついに帰ってきたのだっ! 鳳凰院凶真、ここに爆☆誕!!」

 

 高らかに俺は叫び、大いなる興奮と、向けられる冷ややかな視線を味わっていたのだった。

 

 

 この仮想世界に入り込んだことが、彼の運命を大きく変えることとなったのであったとは、知る由もなかった。孤独の観測者を、残酷なほどに振り回そうと、ゆっくりとなにかが動き始めていた。

 




いきなり一万字越えちゃったよ……。
ナーヴギア理論はまた詳しく説明できればと思います。
あと今回出てきた下らない用語の解説です。

http://kusomiso.tekunikku.com/tugihashonben/
ホモサイト。出典は、未来ガジェット公式ホームページのblogに張られているURLから。主に伝説のホモ漫画、くそみそテクニックに関係するページだと思われる。

・四十八(仮)
2007年にクソゲーオブザイヤー(今年一番のクソゲーを決めるスレッド)を受賞したクソゲー。バグが多くシナリオもひどいことで有名。これを元にしたアスキーアート、四十八マンが誕生した。元ネタはPS2ソフトの四八(仮)。(本当にクソゲー)

・幻想殺し

某人気超能力アニメに登場した能力名。元ネタはもちろん、とある魔術の禁書目録の上条当麻の能力。

・ファミコム

1980年代に発売されたゲーム機。ハイパーマリオシリーズやリンクの伝説などが発売され世界的な大ヒットになった。元ネタは任天堂のファミリーコンピュータ。スーパーマリオシリーズやゼルダの伝説を売り出した。

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