ざっくり!コレクション   作:S16

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物語の最後に『鎮守府は今日も、平和である』という一文があると、何となくいい話だったように感じます。



第六駆逐艦隊を駆逐せよ

「今回のターゲットは第六駆逐艦隊、雷・電・暁・響の4人だ」

 長門は提督と龍驤の前に立ち、執務室のホワイトボードを使って説明を始める。

 

 「テーマは『子供らしさ』で、可愛いらしいドッキリにしたい。仕掛け人もターゲットもほのぼのするような、温かい展開を作りたいと思っている。具体的な内容について話し合いたいのだが、何かいい案は無いだろうか」

流れで議長になった長門が、二人に問題提起をする。

 

 「安易かもしれないけど」

 しっかりとハードルを下げたうえで、提督が手を挙げた。

 

 「4人が食べるおかしの中に、一つだけ辛いのが入っているっていうのはどうだろう。誰が食べるか分からないという遊びもあって、面白いと思うんだけど」

 「安易だな」

 長門が素っ気なく返事をする。

 

 「つかみとしては良い意見だが、どうせなら少し捻りが欲しい。例えば、発想を逆転させるんだ。辛いのが一つだけあるのではなく、辛くないのが一つだけあるというドッキリをする。一人だけ平気な人物がいれば、当然の事ながら仲間割れが期待できるだろう」

 長門の意見に、提督が頷く。

 

 「なるほど。仲間割れというのは言葉が悪いかもしれないが、4人がぷんすか怒っている姿は微笑ましいし、可愛らしいドッキリと言えるかもしれないな」

 意外と悪くない案なのかもしれない。

 

 「次は、龍驤。考えがあれば言ってくれ」

 長門に名出して指名され、龍驤は少し考えた後に口を開いた。

 「昔見たドッキリで、魚の声が聞こえてくるっていうのがあったで」

 口元に手を当て、何か思い出そうとしながら答える。

 

 「子供が部屋で母親を待っていると、水槽にいる魚たちの声が聞こえてくるんや。もちろん、実際には近くに隠してあるスピーカーから声が聞こえてくるんやけど…。そしてその魚が、水槽から逃がしてほしいとその子にお願いをする。依頼を受けた子供は、その魚を逃がすために四苦八苦していく…。大体こんな感じのドッキリやったな」

 言うと、龍驤はどうやといった感じに長門と提督を見る。

 

 「素直に、夢があってすごく可愛いドッキリだと思うよ」

 提督は龍驤に賛成のようだが、一方で長門は不満げである。

 「もう少しインパクトがあってもいいような気がする…。そうだな、例えばその魚を目の前で食べてしまうっていうのはどうだろう」

 何を言い出すんだろうと思いつつ、二人は長門の言葉を待つ。

 

 「それもただパクリと食べてしまうのではなくて…、揚げてしまうんだ。4人の目の前で次々と天ぷらを作っていこう。こうすることで魚が言葉を話すという設定を最大限に生かすことが出来る」

 長門が力説する。

 

 「『熱いよー』とか中途半端な声ではなくて、『あああがああがが!』みたいな、悲痛そのもの。実際に食べてしまうのは…、そうだな。優しそうな雰囲気があって、駆逐艦からも信頼が厚い、赤城にしよう」

 すっかりスイッチが入ってしまったようで、長門の話は止まらない。

 

 「駆逐艦の4人は必死に赤城を止めようとするのだが、好き嫌いはいけないと逆に咎められてしまう。実際に魚の声が聞こえるのは4人だけという設定だから、証拠の無い4人には赤城を説得する事ができない。最終的には4人の内の一人が…、別に全員でも良いのだが、取り押さえられ、口の中に天ぷらを無理やり押し込まれてしまう」

 恐ろしい事を口にしているのだが、表情は真面目そのものである。

 

 「信頼する正規空母に取り押さえられ、自分に救いを求めてきた魚を皮肉にも飲み下した駆逐艦は、一体どんな感情を抱くのだろうか。そうだ!腹の中からもしばらく声が聞こえるようにしよう!『暗い』とか、『出して』とか言わせて…」

 やっと我に返ったようで、長門は提督と龍驤を見る。話にすっかり引いてしまった二人は、冷ややかな目で長門を見ていた。

 

 「ドッキリっていうより完全にホラーやで…。トラウマ植えつけようとしてどないすんねん」

 龍驤は言いながら、以前自分に課せられたドッキリもこんな風に決まったんやろうなあとしみじみ思った。

 

 「ま、まあ。多少行き過ぎた面もあったとは思うが、パニックめいた場面を故意に起こすという展開も悪くはないと思うよ」

 提督が長門をフォローする。

 「む、むう…。何だか申し訳ない…」

 長門は少し、ばつが悪そうにして俯いた。

 

 

 「同じシリーズではあるが、私は魔法使いになる、というドッキリを見たことがある」

 再び、長門が仕切り始める。

 

 「兄弟の内、兄が仕掛け人となり、弟をターゲットにしていた。ある日、兄は魔法使いであることを弟に打ち明け、こっそりと魔法を使って見せるんだ。初めは半信半疑だった弟も、目の前で次々と起こる超常現象を目の当たりにしてすっかり兄を信じ込んでしまう。その過程が視聴していて非常に面白く、実に可愛らしいドッキリだった」

 長門は一旦言葉を切ると、二人に不敵な笑みを見せた。嫌な予感しかしない。

 

 「そこで、魔力が暴走してしまうというのはどうだろう」

 また始まったみたいだ。二人は思わず顔を見合わせる。

 

 「仕掛け人は、あの4人の中なら暁にしたい。最近改二が実装されたし、新しい能力が身についたという設定に全くの無理があるというわけでもないからな。始めは暁が雷・電・響に魔法を使って見せて、魔法使いであることを信じ込ませるようにする。内容はテーブルの上のコップを動かしたり、ロウソクに火をつけたりという、魔法というよりは可愛いらしい手品のようなものだ」

 長門が話を続ける。

 

 「3人が暁を魔法使いであることを認めた所から、本当のドッキリがスタートする。最初に言ったように、次第に魔力が暴走していくんだ。コップは次々と割れて弾け飛び、ロウソクは天井に届く勢いで燃え盛る。テーブルなんかも勢いよくひっくり返してしまって」

 話がどんどんエスカレートしていく。

 

 「3人は暁を止めようとするが、暁にも原因が分からない。要は仕掛け人も騙してしまうという、ダブルドッキリになるな。私じゃないと暁は必死に言い訳をするが、暁が魔法使いであることをすっかり信じている3人はただただ疑いの眼差しを返すだけだ」

 ドッキリという名を借りた、精神的に追い詰めるタイプの嫌がらせとしか思えない。長門の話はさらに続いていく。

 

 「少し間をあけてから、物音を聞きつけたという感じで私が部屋に入って行くが、その瞬間私の頭は炸裂する。要は畳みかけるように衝撃を与えて4人の思考を奪うんだ。赤色を強調するため、部屋は白を基調とした部屋を用意しておこう」

 長門が顔を上げると、提督と目があった。すると、何かを悟ったように長門が提督に頷く。

 

 「部屋の密閉感を出すためにも、炸裂するタイミングは私が扉を閉じた時だな」

 違う、そういう事じゃないんだ。

 

 「返り血をたっぷりと浴びながらも、私じゃないと3人に言い寄る暁。血だまりを進んで行く度にぴちゃん、ぴちゃんと響く靴音は、恐怖感を与えるにはきっと十分な効果がある事だろう。その後には死んだはずの私が蘇り、ドッキリの看板を持ってチャンチャン♪って…」

 「終われるかい!」

 ここでようやく、龍驤がツッコみを入れた。

 

 「さっきから聞いてりゃ何やねん。駆逐艦隊に恨みでもあるんか?」

 「そんな事はない。どうせドッキリをやるなら、きちんとしたものを作りたいだけだ」

 長門が龍驤に言い返す。

 

 「ドッキリさせ過ぎやねん。最初のテーマの『子供らしさ』はどこに行ったんや。長門にとって腹の中から恨み言が聞こえたり、頭が弾け飛んだりする事は子供らしいんか!」

 「泣き叫ぶ駆逐艦を見ると、まだまだ子供だなあという印象を受けないか?」

 「どこに子供らしさ感じとんねん!」

 

 「二人とも、ちょっと。いい加減に…」

 提督が仲裁に入る。

 「龍驤も言いたいことは分かるけど、長門も悪気があって言っている訳じゃないからな」

 「いや、分かってるけどな。一応ツッコんどこうと思って」

 龍驤は切り替えが早い。

 

 「話は過激だったけど、ダブルドッキリっていうのは面白いな。仕掛け人の方も、まさか自分が騙されているとは思ってもいないだろうし。ターゲットのリアクションに期待が高まる仕掛けになるな」

 提督の言葉を受けて、長門が頷く。

 

 「少しずつではあるが、内容がまとまってきたようだな。ここで少し、今までの話を整理してみようか…」

 長門の言葉が終りかけたところで、部屋にノックの音が聞こえた。

 

 「失礼します」

 扉を開けてやってきたのは、金剛型四姉妹の内の一人、榛名だった。

 

 「今ちょうど金剛お姉さま達とお茶会をしているんですけど、クッキーを作りすぎちゃったみたいで…」

 榛名はバスケットの中から袋詰めにされたクッキーを提督に差し出すと、

 「もし良かったら皆さんで召し上がってください」

 ニコリと笑顔を見せた。

 

 「ありがとう。今ちょうど話がまとまりかけていた所だから、休憩がてら頂くよ」

 提督はクッキーを受け取ると、榛名に笑顔を返す。

 「それは良かった。長門さんも龍驤さんもお疲れ様です。私はお姉さま方の所へ戻りますね。それでは失礼します」

 ペコリと頭を下げると、榛名は部屋から退出した。

 

 「じゃあ、早速食べようか」

 言いながら、提督がクッキーを皿に盛りつけていく。

 「ウチはその前になんか、飲み物が欲しいなあ。ずっと喋ってたから、喉がカラカラや」

 「そういうのって秘書艦の仕事じゃないの?別にいいけど…」

 二人の前に盛り付けた皿を置くと、再び提督が席を離れる。

 

 「まあ、一休みするには丁度良いタイミングではあるな」

 長門は何の気なしにクッキーを口に入れてから、気づく。タイミングが、良過ぎはしないだろうかと。たまたまクッキーを作りすぎた時に、たまたま話がまとまりかけていて…、これだけならまだしも、今私たちは何の話をしていた?

 

 長門の頭に、提督の言葉が蘇る。

 『ダブルドッキリっていうのは面白いな。仕掛け人の方も、まさか自分が騙されているとは思ってもいないだろうし』

 まさか、まさかまさか。

 

 おかしのなかに…辛い物が…

 長門の疑念が確信に変わった頃には時すでに遅く、味覚がすっかり脳内に伝わってしまっていた。

 

 「辛ああああああああああいいいいっ!!!」

 長門が顔を真っ赤にして叫びだす。

 「ひっかかったな!」

 提督が急いで奥から戻ってくる。

 

 「あっはっは!なんて顔をしているんだ!長門!」

 成功したのが余程嬉しかったのか、提督は満面の笑みを浮かべて高笑いをする。涙目になって悔しがる長門と、その横で笑い転げている提督を見て、龍驤はついつい微笑んでしまうのであった。

 

 

 鎮守府は今日も、平和である。

 

 

 


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