ざっくり!コレクション   作:S16

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赤城ブチギレ!鎮守府崩壊の危機

 

 「提督、お時間の方、宜しいでしょうか」

 執務室で提督が長門と龍驤を相手に話をしていると、加賀が訪ねてきた。

 

 「あれ、加賀やんやん。どうかしたん?」

 龍驤の言葉に加賀は聞き流すことが出来なかったらしく、反応する。

 

 「やんが一つ、多かったみたいだけれど」

 「加賀やんって、あんたのあだ名やで」

 「そんなあだ名はついていません」

 「ウチがつけてやったんや。あんまり冷たい事言ったらアカンで」

 そう言うと龍驤は屈託のない笑みを浮かべる。加賀は龍驤に強く言い返そうとはせず、やれやれといった風に本題に入った。

 

 「赤城さんが呼んでいるんです」

 呼んでいるという言葉に違和感を覚え、言い間違えを諭すように、提督が答える。

 「赤城が、用事があるようだな。いいぞ、連れてきてもらっても」

 「赤城さんが、呼んでいるんです」

 言い間違えでは無かったようだ。

 

 「呼んでるって、呼ばれてもなあ…」

 「来る理由しかない、来ない理由なんてないって言っているんです」

 「主張が強いな」

 「ここで動いてしまったら、今までの苦労が水の泡だ、とも言うんです」

 「艦娘が水の泡とか、あんまり言って欲しくないけど」

 「そこを何とか…。あなた達からもお願いしてくれないかしら」

 長門は水を向けられると、少し考えるようにしてから言った。

 

 「提督。加賀やんがここまで頭を下げているんだ。きっと、何かあるに違いない」

 「そうやで」龍驤が続ける。

 「せっかくの加賀やんのお願いや。どっちが来るとか来ないとか、そんな事はどうでもいいんとちゃうかな」

 加賀は、このままあだ名が定着するのは嫌だなあと思いつつも、流れを優先して、再び提督と向き合う。

 

 「提督。どうにかお願いできないかしら」

 「うん、いいよ」

 「急に軽すぎるやろ!」

 すかさず龍驤がツッコむ。

 「ありがとうございます提督。では、私が赤城の所まで案内しますね」

 3人は加賀の後を追い、執務室を後にした。

 

 「うわ!めっちゃ怒ってるやん!」

 加賀に連れられて間宮亭に着くと、テーブル席には仁王のような顔をした赤城が一人、腕を組んで座っていた。

 「ウチ、あんなところに行くのは絶対に嫌やで」

 気配を察したようで、赤城がギロリ、と龍驤を睨む。

 

 「ひい!目が合うてもうた!もう駄目や!」

 「赤城を何だと思っているんだ龍驤。とにかく、席に座ろう」

 逃げようとする龍驤の腕を長門が掴むと、渋々といった形で、席に着いた。加賀が赤城の横に座り、3人はそれに向き合うような席順となる。

 

 「赤城。加賀に呼ばれて来たんだが」

 提督が話しかけるも、赤城は答えようとしない。

 「赤城?具合でも悪いのか?」

 赤城は、ふう、とこれ見よがしにため息をついた後、加賀に耳打ちをする。うんうんと頷いて見せた後、加賀は提督に言う。

 

 「見て分からないのか、と言っています」

 「………」

 何故直接言わないんだと思いつつも、言われるままに辺りを見渡してみる。テーブルには空の食器があるぐらいで、これといって気になる点は無い。

 

 「別に…、何かあったようには見えないけど…。なあ、龍驤」

 「そうやな…、ごちそうさまなんかな、ぐらいにしか…」

 提督と龍驤の答えが気に入らなかったらしく、赤城が頭を抱える。加賀が3人を睨みつけるも、全く見当がつかない。気まずい沈黙が続いた後、ようやく赤城が口を開いた。

 

 「来ないんですよ…」

 「え?」

 「だから、おかわりが、来ないんですよ」

 とりあえず、赤城がしょうもないことで怒っているという事だけは分かった。

 

 「赤城はおおぐらいだとは聞いていたが、ここまでとは…」

 呆れたように、提督は言う。

 「私だって、少し遅れるくらいだったら何も言いませんよ。あ、今頑張って作ってくれてるんだな、私のためにって。でも、こんなに待たせるのであれば、話は別です」

 「こんなにって…、どのぐらい待ってるの」

 「5分位ですけど」

 「………」

 「私の中では、既に30分は経ってますけどね」

 そのぐらい待った気になってる、という事だろうか。

 

 「ちなみに、何のおかわりを待ってるんや?」

 「から揚げ定食です」

 「定食のおかわり…、まあ、揚げるのに時間がかかってるのかも分からんな。頼んでんのやろ?」

 「えっ?」

 赤城が意外そうな顔をする。

 

 「いや、だから。頼んだんやろ、から揚げ定食のおかわり」

 「頼んでませんよ」

 「…っ!」

 龍驤が言葉を失う。

 「赤城、そのために待ってるんだろう。から揚げ定食頼んだから」

 「だから、頼んでませんよ」

 提督の問いにも、赤城が返事を変える事は無かった。

 

 「頼んでへんのに、おかわりなんか来るわけないやろ!」

 たまらず、龍驤が赤城に叫ぶ。

 「大きな声を出さないで下さい」

 赤城が人差し指を立てて見せる。

 

 「もし私がから揚げ定食のおかわりを頼んだら、店員さんにどういう風に見られるか、考えてみたらわかる事でしょう。ただでさえ大盛を頼んでいるのに、まだ食べるんだってビックリされるに違いないわ」

 言いながら、赤城は手で顔を隠して見せる。意外にも、恥じらう気持ちがあったのだ。というか、大盛を食べた後だったのか。

 

 「次に来た時に、1人でいるのに『定食は1人前で宜しいですか』って聞かれたら、どう責任とってくれるんですか。えっ、私1人ですよって顔しても、それは存じたうえです、みたいな対応されたら」

 赤城の話を聞いていると、何とも言えない気持ちになってしまった。

 

「だからこそ、私は、じっと待つことに決めたんです。この人はおかわりをしたいけど恥ずかしがり屋さんだから言えないんだなって。この人は気を遣わないといけない人なんだって、店員さんが分かってくれるまで、私は何も言わないし、ここを動くつもりは一切ありません」

 そう言い切ってしまうと、赤城はプイッと横を向いてしまった。

 

 「どんだけ気の利いた店員を期待してん。そんなもん、来るわけないやろって」

 「頼んでないですけど、もしかしたら来るかもしれないじゃないですか」

 「二人とも、いい加減にして」

 様子を見かねてか、加賀が仲裁に入る。

 

 「確かに赤城さんはおかわりを注文しなかったかもしれない。けれども、赤城さんはその分苦しんだわ。今だって、こんなにつらそうにしている」

 加賀が赤城の方を振り返ると、示し合わせたかのように、赤城は苦悶の表情を浮かべる。

 

 「赤城さんの苦労を考えたら、頼んだか頼んでないかなんて、本当に些細なこと。長い間、赤城さんは待ったの。空腹に耐えながら、今か、今かと好機が来るのを待ちわびた。ついには耐えきれず、私を呼んで、恥を忍んで提督にまで助けを求めたわ」

 3人は、加賀は一体何を言うつもりなんだろうと、ぼんやり聞いている。

 

 「その結果が、何?提督には呆れられ、同じ艦娘には蔑まれて…。これじゃあまるで…、まるで赤城さん、ただの馬鹿じゃない!」

 まさしくその通りだったので、3人はしばらく何も答えることが出来なかった。

 

 

 

 「赤城」

 提督が、赤城と向き合って言う。

 

 「赤城がつらいっていうのは、分かっているつもりだよ。厳しい演習をひたすら繰り返す毎日だ。時には命がけの出撃の任についてもらった事も、1度や2度じゃない。もはや我が鎮守府において、赤城無しではやっていけないと言っても、決して過言ではないだろう。本当に感謝をしている」

 もちろん、お前たち3人もだぞ、と続ける。

 

 「だからと言って、お前だけを特別扱いするつもりは決して無い。ただ、他の艦娘を含め、多少のわがままには目をつむってやるつもりでいる。こういう事はあまり言うべきでは無いというのは、分かっているつもりではあるのだがな」

 提督が頬をかくような仕草をする。

 

 「しかし、仲間たちに心配をかけるというのは、感心しない。加賀は俺をここまで連れてくるために、何度も頭を下げた。長門や龍驤だって、お前の事を思っているからこそ、ここまで来てくれたんだぞ」

 3人がめいめいに頷く。

 

 「何か思うところがあれば、遠慮なく仲間たちに相談するといい。みんなはきっと、お前の話に耳を傾けてくれる。もちろん、俺の所に来てくれてもいい。これでも俺は、お前たちの提督だ。何でもというわけではないが、多少は役に立つこともできる」

 威厳を見せつけるかのように、提督は胸を張って見せた。合図が来たと言わんばかりに、龍驤が続ける。

 

 「赤城はうちにとっての、目指すべきライバルであって欲しいんや。こんな感じに落ちぶれてる様を見たって、ウチは勝った気せぇへんからな」

 「水臭いぞ赤城。私たちは共に戦地を潜り抜けてきた仲間だ。遠慮なんか、する必要もない」

 長門も龍驤に続く。

 「提督、龍驤、長門…」

 赤城が少し、瞳を潤ませる。すると加賀が、赤城の両肩に手を乗せて向き合い、言った。

 

 「私は、赤城さんはいくらでもワガママをしても良いと思ってる。あなたはそれだけの事をしてきた。あなたにはそれだけの権利がある。でも、私は知っている。赤城さん、あなた、本当は……」

 加賀は赤城の目を見ると、

 「もう、これ以上言う必要はないみたいね」

 優しく、微笑んだ。

 

 「私、つまらない事で悩んでいました。私は大飯くらいだって。そんな根も葉もない噂に悩まされて…」

 実際によく食べるのだが、その分の仕事はしてくれている。

 「食べる事だって仕事です!」

 今のは聞こえなかった事にした。

 

 「えへへ!私、安心したら、何だかもっとお腹が減ってきちゃいました!」

 言っていることは始めと比べて悪化しているが、ようやく、本来の赤城を取り戻したような気がした。

 「私、今度こそ、ちゃんと頼んでもいいですか?」

 提督は、苦笑しながらも、頷く。

 

 「すみません」

 赤城が店員を呼び止める。

 「チョコレートパフェ下さい」

 「から揚げちゃうんかい!」

 

 龍驤の渾身のツッコミは、鎮守府中に響き、島風がちょっとビクッてなった。

 


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