なにはともあれゴールドバッジゲットである。
おかしいな。ケーシィと戦った記憶しかないや。
バリヤードはどうして血まみれで倒れていたのだろうか。
あはは。謎だね。
「またいつでも来なさい。オレンちゃん」
「今度はわたしが“レンジ”の時に、本気で戦いましょう。」
「オレンちゃんがいいわ」
「わたしは男です」
「それでもよ」
もうやだ。エリカお姉さまで慣れたつもりだったけど、なんでこう、わたしは美幼女なのよ
イケメンがいいの! イケメンが!
顔立ちが整っていても女顔じゃモテないわ!
最近はどんどんオレンちゃんが女の子に近づいている気がしてならない。レンジはちゃんと男としてのプライドがあるけれど、オレンちゃんの時は“かわいい”と言われてうれしくなっちゃうのがすごく悔しい。
それに、だんだんと思考が分離していくような気がするし、本格的に二重人格にならないか、不安で仕方がないよ。
ねえレンジ。わたしたちの思考が分離してしまったらどうするよ
>しらね
そうだった。レンジはそういう適当な人間だった。
聞いたわたしが馬鹿だったよこんちくしょう。
ふんだ、もう知らんわい。こんなカチューシャ。ぽーいとはぎ取って、隣にいたフゥの頭に着けてあげた。
オレンちゃんと違って似合ってないわ。
フゥには美ショタ度が足りないな。
「あ………」
「何残念そうにしてるんですか、ナツメさん。」
「いえ、なんでもないわ。それじゃ、また今度、フゥとランの二人は筆記試験を受けに来なさい。その時には“オレンちゃん”を連れてくること。いいわね」
「「 は、はい! 」」
ガシッとフゥとランの肩を掴んで催促するナツメさん。
しょうがない。そこまで言うなら、フゥとランを
オレンちゃんも女の子扱いされるのは、口では拒否する癖にまんざらではなさそうだもんな。
俺も膝の上に乗せられたら背中に当たるおっぱいの感触とか堪能するし。
「それじゃ、また来るよ。」
「「 ありがとうございましたー! 」」
ランとネコミミ付けたフゥがナツメさんに頭を下げて、待たせているタクシーに乗り込み、タマムシシティに帰ることになりました。
☆
あ、ニャースのカチューシャはちゃんとタクシーの中で返してもらえました。
運転手さん、領収書ください。
☆
「びっくりしたよ」
「まさかレンジが」
「あんなに可愛くなるなんて」
「雰囲気も全然違うんだもん」
タマムシシティに帰って、タマムシマンションに到着すると、さすがにもう夜だ。
もうすこし時間を考えて行動すればよかった。
思い至ったらすぐに行動するのも、いいことばかりじゃないな
「僕も自分の美幼女っぷりにびっくりだ。でもちゃんと男だよ」
オレンちゃんの心は女のかもね
乙女心のオレンちゃんだ。
「
普通の水色のリボン付きカチューシャを頭に装着。
「
フゥとランにウインクをして見せ、
そして、カチューシャを取り外す。
「ちなみに僕をこんなふうにした元凶はエリカ様だよ。」
ポカンと口を開いて俺を見つめるフゥとラン。
当たり前だ。
そんな奇天烈な人間が居たら誰だってそんな反応になる
「ちなみに、これらが僕とオレンちゃんのトレーナーカード。何の因果か、IDも二つ分持っているんだよね。この事は内緒ね? 誰かに言いふらしたりしたら―――エリカ様が泣いちゃうからやめてね。僕が女装してるのはトップシークレットだから、みんなには内緒だよっ」
ちょっと冗談めかして口元に人差し指を持ってくる
「それじゃ、また明日、トレーナーズスクールで会おう。予習を忘れるなよ。明日は授業が終わったらすぐにナツメさんのところに行くんだから。」
「わ、わかった」
「また明日………」
きっとこれから今日のことや俺のことを話しながら帰路に着くのだろう。
気を取られて予習復習を忘れるなよ。
フゥとランに手を振って分かれる。
さて、俺も明日の授業の構成と授業計画を考えないとな。
その前におなかがすいた。
「おばーちゃん、ただいまー。お腹すいた―!」
「おや、おかえりレンジ。もうすぐ晩ごはんができるから、待っててね」
「はーい。っていうか、手伝うよ。何すればいい?」
そういや、トキワの森に入って行ったくりむちゃんとレッドは大丈夫なのだろうか。
主人公だから大丈夫だとは思うんだけど………ちょっと心配だなぁ
☆ くりむside ★
「ほら、だから俺は暗くなる前にポケモンセンターに戻ろうって言ったんだよ」
夜よ!
レンジくんを探して森の中を歩いていたら、いつの間にか、もう夜になっちゃった………
「うぅ………ごめんね、お兄ちゃん」
あたりは真っ暗。お兄ちゃんの“ヒトカゲ”の尻尾の炎であたりを明るく照らしながら道を歩く。
歩き疲れて足が棒になっちゃった。
それに、実はもう帰り道がわからないほど森の奥に来てしまっている
あたりは不気味な雰囲気だし、きずぐすりで私のフッシーの治療をして、今日のところはここら辺で野宿かしら。
「レンジ君は大丈夫かな………」
「心配いらないよ。きっと彼は今ごろ自分の家に戻っているはずだ」
「それならいいんだけど………」
「それに、もしレンジがまだトキワの森の中にいたとしても、レンジのポケモン達が彼を守ってくれるさ。それよりも、俺達は野宿の準備をしないとだろ。お腹もすいたし、ポケモンセンターへの道も、もう遠すぎて戻れそうにないからね」
「う………ごめんなさい」
「反省しているなら早くテントを張っちゃいな」
「はぁい」
お兄ちゃんにそう言われて、簡易テントを設置していく。
ギャアギャアとオニスズメの鳴き声があたりに不気味に響いて余計に怖さを増している
私がテントの準備をしている間、お兄ちゃんがヒトカゲの尻尾の炎を使ってお湯を沸かしていた。
インスタントの食品を食べるためだ。
私の分もある。何から何までありがとう、お兄ちゃん
☆
「眠れないわ。」
時刻は8時。辺りはもう真っ暗だ。
家では明かりがあるからもっと遅くまで起きていられるのだけれど、野宿となれば夜中に明かりは無いし、漫画もない。することもないので寝るしかない。
しかし、こんな時間に寝る習慣はないので、そう簡単には眠れないのよ。
だというのに、隣のテントで寝ているお兄ちゃんときたら、もう寝息を立てているんだから。もう。
それに………。夜の森は不気味で、木々のさざめきも鳥の声も風の音も。全てが化け物の声に聞こえてしまい、初めての野宿に少しワクワクしていたのが恥ずかしいくらい怖いのよ。
「うぅ………なんでこんなことに………」
レンジ君を傷つけてしまい、それを謝りたかったから彼を追ってトキワの森に入ったというのに、彼に会えずじまい。はては迷って森の中で野宿だ。
はぁ、なにもかも、うまくいかないなぁ
こんなことならお兄ちゃんの言うとおり、すぐにポケモンセンターに戻っておけばよかった………
「そりゃあ、自分が頑固だからでしょ」
「え?」
声が聞こえてきたため、テントの外に顔を出してみる
しかし、外には誰もいない
「上だよ。こっち」
「………?」
その声に釣られて上を見上げると
「やあ。」
「あ、レンジくん! 探したよ! でもなんでここに?」
そこに居たのは、私がずっと謝るために探していた、レンジ君だった。
彼は膝の上にイーブイを乗せて、傍らに見たことのないポケモンを携えて木の上に座っていた
3歳児の彼がこんな夜中に一人で森の中の、しかも木の上で座っていたのだ。
考えてみれば不気味な光景だった。
「そりゃあ、僕だってあんな別れ方をした後、トキワシティをしばらく拠点にするって言った人が僕の後を追ってトキワの森に入ったってのにその森から帰って来なかったら心配もするよ。ユンゲラー。念力で地面まで降ろしてもらえる?」
「シィ………!」
「ありがと」
レンジ君は傍らにいたポケモンにそう命じると、不思議なことに、イーブイを抱き上げたレンジ君はふわりと体を浮かせ、ゆっくりと地面に足を着けた
「なんでトキワシティを拠点にしているはずの人がまだトキワの森にいて、テントを張ってるの?」
「そ、それは………レンジ君を探していたから………」
「あんな別れ方をして、しかも理由が僕を探していたっていうから、僕も強くいえないけどさ。さすがに夕方には戻れるようにしようよ。その頃には絶対に森から出てるもん。夜の森はあぶないんだよ?」
「うぅ………でも、あなたも居るじゃない」
「僕は無敵だからいいの。晩御飯を食べ終わってから直ぐに確認に来てよかった………大変な目に遭ってたらどうしようかと思ってたからね。」
なんか心配そうにしながらも釈然としない答えを返される。
そうだ。レンジ君はこういう人の神経を逆なでする嫌な子だった。
なんだかむっとなって言い返したくなってしまう
「そういうあなたは、もう寝る時間なんじゃないの? キミみたいな子共が夜に抜け出していたらお母さんが心配するよ」
「はん、まだ8時だよ。そんな時間に寝るなんてもったいないことはできないよ。あと6時間はポケモンの勉強時間に当てられるね」
言い返したら鼻で笑われた。
なんなのこの子! むかつくむかつくむかつくー!
「それに、僕はお母さんなんていないから、心配してくれる人はいないんだよ。」
しかし、続くその言葉に、私は口から出かけた文句を飲み込む
親が、いない?
心配してくれる人も、いない?
それは、とてもさみしい事だと思った
「まぁ、おばあちゃんなら居るんだけどね。っていうかそれはどうでもいいんだよ。とにかく大丈夫そうで安心したよ。僕はもうおうちに戻ろうかな。」
「え、それを確認するためにわざわざトキワの森に戻ってきたの?」
「そだよ。あ、そうだ。何時間も森の中に居たからわかっているだろうと思うけど、トキワの森はビードルがとにかく多い。毒針に気を付けてね。僕が持ってるモモンの実と毒消しと、あとキズぐすりをおすそ分けしてあげる。」
そう言って、彼は自分のバッグの中から毒消しとキズぐすりとモモンの実を取り出して、私に手渡してくれた
毒消しって、たしか100円よね………それをこんなに………
それにキズぐすりも………
「あ、ありがとう」
「どういたしまして。今日ここで野宿するんだったら、明日は朝早くからトキワの森で修業を積めるんだよね。だったらポケモンも全力で戦えた方がいいからさ。」
どこまでも、
それが彼の行動の原動力なのだろうか
「その………ごめんなさい」
私のためを思って言ってくれたことを不快に思って、勝手に拒絶していた私が、すごく小さく思えてしまい、謝罪は簡単に口から零れ落ちた
口は悪いけれど、彼はポケモンのことを思って私にこれだけのことをしてくれたのだ。
「ん、なんのこと?」
そういってすっとぼけるあたりに、彼の悪意を感じる
「レンジ君を拒絶してしまったこと。あれは、私が悪かったわ。本当にごめんなさい」
「うむ。許してしんぜよう。僕は心が広いからね!」
「………どこがよ」
「あれ、耳が聞こえないのかな、心がだよ!」
許して貰えたけれど、彼の口の悪さも私に謝るべきだとおもうな。
やっぱり、私は彼のことを好きになれそうにない!
「にひひ、じゃあね、僕はもう帰るよ」
「今度会ったら、バトルでコテンパンにしてやるんだから!」
「できるんならね。その時は相手になってあげるよ。ユンゲラー、タマムシまでおねがい。」
そう言い残し、彼は私の目の前から消えた
あれも、ポケモンの力………なのかしら。
傲岸不遜なあの態度。自信に溢れた生意気そうな顔。
どれをとっても嫌いなあの少年の事が、寝る前まで頭から離れなかった。
レッド「………?」
レッド「………(チラ)」
レッド「………(フッ)」
レッド「………。」
一方その頃のフゥとラン
フゥ「オレンちゃん、可愛かったなぁ」
ラン「カチューシャだけなのに、まるで別人だったね」
フゥ「また、会えるかな」
ラン「今度レンジに頼んでみようよ」