ハイスクールD×D 赤腕のイッセー 作:nasigorenn
彼だってやるときはやるんですよ(笑)
ディオドラがアーシアに強引に迫った……もとい、そうしようとして一誠に嗅ぎ付けられて腕を折られた日から数日が経過し、リアス達は部室内で戦意を上げながら佇んでいた。
それというのも、本日は冥界において若手悪魔によるレーティングゲームが行われるからだ。勿論試合を行うのはリアス達であり、対戦相手はディオドラである。
アーシアが狙われているとあって、イッセーは特に戦意を顕わにしていた。
あの日の後日、ディオドラから正式にゲームに勝ったらアーシアをいただくと言われたからだ。その事にイッセーは怒りを燃やしているというわけである。大切な妹のような守るべき存在を毒牙に掛けようと強引に迫る輩を許せるわけがない。だからこそ、このゲームは絶対に負けられないと彼は決意を固める。そしてそれはリアス達全員も同じ気持ちだ。
そんなリアス達を見送るのは、アザゼルと一誠、それに久遠の3人だ。
ゲームに参加することなどないので、こうして見送る立場になっているというわけである。
しかし、本当はそうではない。
それを一誠は自前の感で、久遠はアザゼルの表情から察した。
だが、敢えて聞かない。何故なら、きっとそれは目の前に居る連中に聞かれたくないからこそ、話さないのだと何となく分かるから。
故に黙っているというわけだ。そんな二人の顔を見て、すでにアザゼルはばれていることを察していた。
「それじゃ……行って来るわ」
リアスのその声にアザゼルは普通に送りの言葉を掛ける。
そのまま転移魔法陣によって彼女達は赤い光と共に冥界へと転移した。
それを見送った後、改めてアザゼルは一誠と久遠に向き合った。
「それで……もう既に感づいているとは思うが……」
頬を掻きながらそう口にするアザゼルに一誠はニヤリと笑みを浮かべながら答えた。
「まだ何なのかまではわからねぇが……テメェが何か腹に抱えてるってのは何となくな」
それに便乗し、久遠も不気味さを感じさせる笑みでアザゼルに言う。
「そしてそれはグレモリーの姫様達の前では言えないこと。つまりバレると厄介なことになりかねない案件ってことですよね。差し詰め………ディオドラ・アスタロトの裏に居る奴等を引っ張り出す『餌』ってとこかと」
二人の答えにアザゼルは軽く溜息を吐いた。
年齢的には此方のイッセー達と何ら変わらないというのに、何故世界が違うだけでこうも察しが違うのか? 寧ろその察知の良さには内心で舌を巻くくらい驚かされたものである。
この二人の前では隠し事など出来そうにないとアザゼルは思い、仕方ないと話すことにした。
「まったくもってその通りだよ。アイツ等にバレたら怨まれるだろうがなぁ。実はディオドラ・アスタロトの裏には『禍の団』が居るって情報があって、それで連中をおびき寄せようって寸法なのさ。ディオドラの野郎はどうにも調子付いてアーシア・アルジェントにご執心だから丁度良かったのさ。それにしても……何で気付いた?」
そこがアザゼルが気になるところであった。
この二人は何も言っていないアザゼルの考えを大まかとはいえ言い当てたのだ。その根拠や理由を知りたいと思うのは当然のことだろう。
それに対し、一誠はにやっと笑いながら答える。
「あのキナ臭い野郎の腕を掴んだとき、本当なら捥ぐつもりでやったんだが折れただけだった。それなりに力があるってのは分からなくもねぇが、そんな程度の割に野郎は随分と余裕ぶってやがったからだよ。それまで自分は絶対に負けねぇ、そんな嘗めきった感じだ。流石に腕を折られてびびったらしいけどな。キナ臭い上に妙に余裕があるってのは、それだけそいつが臭い証拠だ」
一誠なりの感性から来る答え。しかし、それは彼の過ごしてきた時間の中で磨かれてきた確かなものであった。
そして今度は久遠が答える。その顔はいつもと同じ笑顔だが、はっきりとした自信が見てとれた。
「詳しくは知りませんが、此方の時間と合わせてもアーシアちゃんが教会を追放されたのは同じ時期。なのに今更接触してくると言うのはどうにも……遅すぎる。そして会ってからの執心っぷりがどうにも腑に落ちませんよ。あれは女の子を欲してるって言うよりも、もっと別の何かだ。人間だろうが異形だろうが、プロポーズの基本は変わらない。そのセオリーで考えれば、奴さんはどう考えたって嫌われてふられるコースをまっしぐらですよ。つまり行動と目的の一致が可笑しい。また此方で俺なりに調べた所、どうにも不自然なことが多い。ディオドラと戦う予定だったグラシャラボス家の当主の事故死、それに彼の自信満々な様子。お姫様だってそれなりに強いことは知られているはず。何せ魔王と同じ滅びの魔力を使うのだから。だというのに緊張した様子が見られない。自分が負けるなんてことを絶対に考えていないっていうのは、自信過剰も行きすぎです。それを逆に考えるのなら、つまりそれだけ勝てる要素がある。もしくは……勝負など端から気にしていない。目的さえ達成出来れば後はどうとでもなると思っている。何よりここ最近まで息を潜めるように静かだったディオドラが行動を急に起こし始めた。それはつまり、ここ最近に何かを手に入れたか、もしくは巨大な後ろ盾を得た……そんな所でしょう。そして丁度良さそうな組織が『禍の団』……正解でしょう?」
久遠のはっきりとした説明にアザゼルは再び深い溜息を吐いた。
逆に此方の方が驚かされた。
ほんの僅かな接触だけで、そこまでのことを調べ上げたというのだから。世界の違いというよりも、これは経験の違いなのだろう。新鮮な情報を一早く調べ使えるのかを吟味するのが『仲介屋』の仕事の一つだと久遠は答える。
それにアザゼルは圧巻するしかなかった。
そしてこれからの行動を彼は二人に伝える。
「アイツ等が囮になっている間にオレ達は仕掛けてきた『禍の団』を迎え討つって寸法だ。既に各勢力には応援を頼んである。だから戦力的には問題ないんだが……アイツ等にオレは怨まれるだろうなぁ」
勝手に囮に使われていたと知れば、確かに怨まれるだろう。それを言いながら苦笑するアザゼル。だが、それは仕方ない事。囮が囮だと知れば、妙にぎこちなくなるものだ。それが玄人なら兎も角まだ未熟なリアス達なら尚のこと。それでディオドラやその背後に居る『禍の団』に作戦を感づかれては元も子もない。
そんな考えを察し、妥当だと考える久遠。一誠は面倒臭そうな顔をしていた。
「それにお前さん等はあくまでも異世界の人間だ。此方の世界の厄介事に巻き込むのは良くねぇだろ。その力は確かに魅力的だがな……」
遠回しに手伝ってくれたら嬉しいと言うアザゼル。
しかし、この男達が情で動く訳が無い。答えは当然NO、なのだが………。
「そうだな……アイツ等の手伝いだったらしても良いぜ」
「イッセー!?」
一誠がOKを出したことに驚く久遠。
そんな久遠に一誠は軽く冗談染みたような感じにこう言ってきた。
「せっかくの旅行だってのに、最初以外は全部喰っちゃ寝ってのは土産話もつまらねぇもんだろ。そろそろ帰り時って頃合いだし。最後くらい思い出を作るのも悪くねぇだろ」
それを聞いて久遠は信じられないと一誠を見ていた。
「まさかお前からそんな事が出るなんて………本当にお前、イッセーか?」
「おい、テメェ。どういう意見だよ、そいつは。たまにはそう言ったって悪くねぇって話だってのに」
まさか無料で働くと言ってきた一誠に驚きを隠せない久遠。彼の今まで知っている一誠からすればまずあり得なさそう………いや、一つだけ思い当たる節があった。
故に久遠はそれを一誠に問う。
「それで……本音は?」
その問いに一誠はニヤリと悪どい笑みで答えた。
「連中はどうにも何かに巻き込まれやすいみてぇだし、ここ最近暇で仕方なかったんだ。少しは遊びたいって思うだろ。それに連中を見てる分には退屈はしなさそうだ」
途轍もなく自分勝手な答え。それを聞いて久遠は納得した。
要は暇だったので遊びたいだけ。その点で言えば、確かにリアス達といると退屈はしなさそうだ。何せ問題事が向こうからやってくるのだから。
その言葉に久遠は少し呆れつつも、仕方ないかと同意した。
無料働きは御免だが、彼も又退屈だったのだから。一誠が暴れているところを見るのはそれなりに面白いからこそ、同意したのだ。
「そういうわけだ。アイツ等の手伝いだったら行ってやるよ」
その言葉にアザゼルは不安を覚えつつも了承した。
せめて伝えなかった分、この二人がいればイッセー達は安全だと。
この時、彼も又選択を間違えたのかもしれない。この男達のことを甘く見ていたのかも知れない。
退屈で暇を持て余していた化け物が遊び場を見つければどうなるのか?
その答えを彼はこの騒動の最中に知ることになるのであった。
そんなことを知らずにゲームの会場へと転移したリアス達。
しかし、アナウンスも何も聞こえないことから彼女達は異常があることに感付き始めていた。
その予想通り、突如上空に浮かび上がる大量の魔法陣。それらは全て旧魔王派に所属する者達のものであり、それを見た途端にリアス達は『禍の団』に襲撃されたことを察した。
そのまま戦闘になるかと思われたが、その前にアーシアの悲鳴が上がり一同はその方向へと顔を向けると、そこには気を失い宙吊りになるアーシアと彼女の足を掴んで浮遊するディオドラの姿があった。
ディオドラの姿に驚くリアス達にディオドラは嘲笑いながら彼女達を煽りに煽り転移する。自分が『禍の団』に協力していることなどを暴露しながら。
その事に怒りを燃やすリアス達だが、アーシアを追うには目の前で増え続けている敵をどうにかしなければならない。その数はかなり多く、空が覆われるかもしれないほどに多い。
アーシアを目の前で攫われたことでショックを隠せないイッセー。
リアスや朱乃は敵の多さに自分達の力でどうなるかを考えつつも悲観しそうになっていた。
そんな中、突如として彼女達の目の前に転移魔法陣が展開された。
見た事もない複雑な術式。そんな魔法陣から現れたのは、見送った一誠と久遠の二人である。
「なっ!? なんで貴方達が……」
いきなり現れた二人に驚くリアス。
そんなリアスを気にも留めず、一誠は久遠に笑いかける。
「な? 言った通りだろ」
「本当に騒ぎに巻き込まれてるなぁ、こりゃ」
囮とはいえここまで敵に囲まれているとは思わなかったのか、久遠は周りを見て呆れていた。
そんな二人のマイペースな様子にリアス達は当然突っ込むわけだが、そこで久遠は簡単に彼女達に説明する。今回の件に関して、リアス達は囮に使われたなど色々。それを聞いて不満が爆発しそうなリアスだが、今はそれどころではない。
今も尚敵は増え続けており、確実に自分達は窮地に追い込まれているのだから。
危機に追い詰められ精神を焦りで焦がされるリアス達。そんな彼女達と違って一誠と久遠は普通にしていた。
彼等も又周りを見渡し現状を理解はしている。それでも、その余裕は崩れない。
「んで、この後どうするんだ?」
久遠は一誠にいつもと変わらない様子で問いかける。
この問いは殆どの意味が『お前が暴れるのか?』という意味と同意だ。
しかし、今回一誠はいつもと違う答えを返してきた。
「たまにはお前が殺れよ。こいつ等、どう見たって雑魚ばかりだ。やっても面白そうにねぇ」
「はぁ? お前何言ってんだよ。俺、攻撃用の術とか苦手だって言っただろ! しかもこの数とか面倒だっての」
いつもと違う答えに焦る久遠。
彼は結界などのような防御は得意だが、相手にダメージを与えるような術は不得手だ。それは一誠も知っているはずなのに何故だと食い付く。
すると一誠はニヤニヤと笑いながら答えた。
「うっせぇよ。いつも俺ばかりやってんだから、たまにはテメェがしろっての。それにだ………たまには暴れねぇと、錆び付くぜ」
その言葉にうんざりとした様子を見せる久遠。
経験上で知っている。こういう時の一誠はまったく人の言うことを聞かない。彼なりの暇だが、たまには相棒の暴れるところも見ておきたいといったところだろうか。戦闘が不得手な久遠にとってそれは酷としか言い様ない。
そう思って断ろうとも、周りは待ってはくれないのだ。
仕方なく………本当に仕方なく、久遠は深い、それこそ金欠で貧困に喘いでいる一誠なんかよりも深い溜息を吐いた。
「あぁ~、もう面倒臭い! 後でお前の奢りだからな!」
「ちゃんとしたら奢ってやるよ……(一番安いラーメンだけどな……何を奢るとは言ってねぇし)」
ちゃっかり一番値段の低いものを奢ると決める一誠。普段ならそれを見抜き突っ込む久遠だが、面倒臭さのあまり今回は見抜けなかった。
そんな久遠はリアス達に少し大きな声で話しかける。
「全員こっちに集まってくれ! でないと巻き込んじまうからさ!」
普段はそこまで大きな声を出さない久遠が感情を顕わにした声を出したことで驚くリアス達。皆久遠の指示に従って彼の元に集まり、リアスは久遠に問いかける。
「一体何をするつもりなの? 確かに貴方の結界は強いのは知ってるけど、このままじゃ何も変わらないわ!」
そんなリアスの言葉を無視し久遠は上空に意識を向ける。
そんな久遠に一誠はニヤっと悪どい笑みを浮かべながら言葉を掛けた。
「殺っちまえ」
そして久遠は動き出す。
口から放たれるは今までリアス達が聞いた事の無い呪文。そして手は同時に印を結び続け、久遠の呪力が膨れ上がっていくのをリアス達は肌で感じ取った。
その力だけでも魔王と同じくらい強大。
術が完成したと共に、久遠はその術名を口にした。
『結界反転 圧爆殺』
その途端、彼女達に見える世界が全て固定された。
いや、実際にはそう感じられただけだ。世界は動いている。
しかし、それまで包囲していた悪魔達はそうではなかった。
『っっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!?!?』
身体が動かない。それまで構えていた武器が一ミリとも動かない。
まるで何かに押しつけられているような、そんな感じを彼等は感じた。
しかし、それは一瞬のこと。それ以降彼等は何も考えられなかった。
何せ……………。
空一面が真っ赤に染まったから。
夕陽ではない。
では何か? それは液体だった。
赤い液体が空を覆い、そして鉄臭い匂いが辺り一面を覆い尽くす。
ある場所を境にして冥界の空は二色に別れた。境より上はいつもと変わらぬ紫色の空。そして境より下は真っ赤に染まった。
その液体と共に、それまでいた敵の姿は一切ない。
そして降ってきた赤い雨にリアス達の顔は青ざめた。その雨の正体が分かったからこそ、彼女は叫びそうになった。
その正体は………血だ。
ある場所を境に、その場を包囲していた敵は皆、全て血へと成り果てたのだから。
あまりにも残虐な光景に目を剝くリアス達。吸血鬼であるはずのギャスパーでさえ衝撃のあまりに気絶した。
そんな中、朱乃は何とか声を振り絞って久遠に問う。これは一体何をしたのかと。
「こ、これは一体………」
恐怖の入り交じった声。無理も無いだろう。悪魔でも堕天使でも、ましてや彼の友人である赤龍帝でもない本当にただの『人間』が、あの大規模な悪魔の軍勢を一瞬にして無残な姿に変えたのだから。
その問いを受けて、久遠は疲れたと言わんばかりに答える。
「あぁ、あれは単なる結界だよ」
「嘘です! 結界であんなことが!」
久遠の何気ない解答に朱乃は噛み付いた。
結界というのは基本、守るためのものだ。それがどう使えばこんな大量虐殺ができるのか? その答えを聞いていると朱乃は怒りと恐怖を込めながら久遠に叩き着ける。
少し恐い剣幕の朱乃に久遠は頬を掻きつつ、小学生でも簡単に分かるよう説明を始めた。本当は面倒でしたくないが、朱乃の顔が恐かったからというのは内緒の話だ。
「いいか、結界ってのは詰まる所壁を張る能力だ。そして壁と壁が挟まり合えばどうなるか? 本に挟まれたゴキブリや押し花と一緒さ。ただ、その力を思いっきり込めてやれば隙間なんて無くなるってだけ。その結果がこれってわけ」
久遠がやったことは単純だ。結界を二枚張り、それを使って挟んで潰しただけ。
ただし、それが悪魔でも出来ないくらい広範囲であり、あの軍勢を一瞬で潰しただけである。この時点で既に一誠同様、久遠も人としてどうかと思われる。
目の前で起こった大虐殺に言葉を失うリアス達。地面は血で濡れ川や池が出来上がっている。久遠が自分達用の傘代わりの結界を張らなければ今頃全員血まみれだっただろう。
そんな虐殺を平然と行った久遠に一誠は笑いかける。
「鈍ってないようでよかったじゃねぇか」
「ふざけんなよ、馬鹿。これを使うと疲れるから嫌なんだよ。俺は裏方でのんびりとしていたいっての。こういうのはお前の仕事だってのによぉ」
不満ありげにする久遠に一誠は愉快そうに笑いかける。
その様子にきっと彼女達は思っただろう。どちらが悪魔なのか分からないと。
そんなリアス達だが、事態は変わらない。まだアーシアが攫われたままなのだから。
リアスは気を取り直し、皆に声をかける。
「と、取りあえずこれで周りの敵は居なくなったわ。急いで神殿まで行ってアーシアを助けましょう!」
そしてリアス達は神殿に向かって駆け出すのだが、血でぬかるんだ地面はあまりにも走りづらくなっていた。