ハイスクールD×D 赤腕のイッセー 作:nasigorenn
彼は異世界の彼と出会う その1
冥界で今、とある戦いが起こっていた。
それはこれからの未来を決めるために避けては通れない争い。
和平を成功させた三大勢力が次に取りかかったのは、目下の脅威である『禍の団』に対抗するために他の神話体系との協調することであった。
そのため、まず最初に話を持ち込んだのが、ドイツなどを中心に東ヨーロッパに影響を持つ神々『アースガルズ』。所謂北欧神話の神々である。
その話を受けた向こうの長たる主神『オーディン』はその意見に賛同し、直ぐに協調への話し合いが冥界で行われる事となった。
元から世界の勢力の変動の様子を見て、オーディンはそれが必要だと昔から考えていたらしい。
そのため、その話し合いは何事も問題無く済んだ……はずであった。
だが、そうはならない。その協調に反対する者が現れたからだ。
その者の名は『ロキ』。オーディンと同じ北欧神話、アースガルズの悪神である。
彼の者は他の神話体系との協調など認めぬと叫び、実はアースガルズの皆が危機としている『神々の黄昏(ラグナロク)』を引き起こそうとしていた。
そのためには主神を殺しても構わぬとオーディン達に牙を剝き反逆した。
最初の時はその場に居合わせたアジュカ・ベルゼブブによって強制転移と強固な結界による強制封印で冥界の果てに飛ばされて無力化したが、そんなものは時間稼ぎに過ぎない。
よって直ぐに悪神ロキを討伐することになり、そこで動かせる戦力としてリアス・グレモリーとソーナ・シトリー、その眷属達とアースガルズからはオーディンの護衛として来ていたロスヴァイセが向かうことになった。
通常、この程度の戦力では勝てない。だからこそ、勝つための手段が送られてくるまでの間、彼女達はロキを縛り付け時間稼ぎをしなければならない。
そしてリアス達討伐隊は転送されロキがいる場所へと飛んだ。
その先に待っていたのは、予想通り封印を打ち破って出てきたロキ。そして彼の息子である神殺しの大狼フェンリル、その子であるハティとスコル、そして五大竜王の一角である大蛇ミドガルズオルムが待ち構えていた。
そこから始まった激戦。一誠が匙がロキの相手をし、リアスとソーナ達が他の敵を相手に戦う。
数こそ一誠達が有利だが、その戦力はロキ達の方が上。
苦戦を強いられる一誠達は次第に追い詰められていくが、必死に食らい付いていく。
そして遂にロスヴァイセが連絡を受け、転送された逆転の切り札。
全てのものに裁きを下す絶対の鎚『ミョルニル』がその場に現れ、ロスヴァイセからオーディンの言伝で一誠がそれを使うことに。
「イッセー!」
「はい、部長!」
やっと来た逆転の可能性に気合いを込め、一誠は主の意を酌み闘志を燃やしながらミョルニルを掴もうと進む。
だが、その手は届くことはなく、あと少しの所で一誠は飛び出して来たフェンリルに噛み付かれてしまった。
そのまま牙によって身体を穿かれ、真っ赤な血を流しながら空中へと投げ出される一誠。あまりのダメージに赤龍帝の鎧も砕け散って解除され、彼は地面へと叩き着けられた。
「イッセーっ!?」
あまりの衝撃なのか砂煙が立ち上がり一誠の姿が映らなくなる。だが、それでもフェンリルに噛み付かれた所を見たリアスやその仲間達は如何に一誠が致命傷を受けたのかが分かり、悲痛な声を上げる。
神をも殺す牙を持つフェンリル。その牙に貫かれたら悪魔である一誠など持たないだろう。確実に致命傷であり、現場にもう治療薬であるフェニックスの涙はもうない。つまり、一誠の生存は絶望的であった。
「よくもイッセーをっ!!!!」
一誠がやられたことに激怒し、リアス達がロキ達に向かってさらに攻撃を仕掛けていく。皆一誠がやられたことで仇討ちだと狂気に染まりながら戦い、リアスは相打ち覚悟で魔力を高めていった。
その戦いは激しいが、ロキはそんなリアス達を無力だと嗤う。もう自分にとって危険であるミョルニルを振るえる者などいないから。一番の厄介者である一誠はもう死んだのだから、その抵抗は無意味だと、哀れだと蔑ながら。
しかし、そんな戦いを繰り広げている中、先程一誠が叩き着けられた場所の砂煙から何かが出てきた。
「うぇっ、げほ、げほ、げほ……ったく、なんだよ、こいつは!? いきなり飛ばされたと思ったら煙いのなんの。おい、久遠、どうにかならねぇのかよ」
「さぁね。煙いっちゃぁ煙いが、だからってこんなの吹き飛ばすのに術使いたくねぇし。そこから出ればいいだけの話だろ」
「ちっ……あぁ、クソ、あのクソ総督! 帰ったら覚えてろよ」
砂煙から出てきたのは、駒王学園の制服を着た兵藤 一誠であった。その身体は傷一つなく、まさに健康そのもの。
悪態を付きながら砂煙から出てきた一誠は辺りを見回しながら考え込む。
「ここはどこだよ? 空の色からして冥界だとは思うけどよぉ」
事態がどのようになっているのかなどまったく分からない彼。
「がぁぁあああぁあぁあぁああぁあああぁあぁあぁああああああ!!」
そんな彼の姿を見て咄嗟に襲い掛かるフェンリル。
「に、逃げてイッセー!」
「イッセーさん!?」
「一誠先輩!」
「一誠君!?」
「イッセー!?」
それまで戦闘に集中していたリアス達は一誠が無事なのかと言うことよりも、再び襲い掛かるフェンリルの牙が一誠を噛み砕こうとしていることに悲鳴を上げた。
よく考えれば分かるはずなのに、どうしてあんな事になって無傷でいられるはずがない一誠が怪我の一つなく立っているのか、そのことに疑問を持たなかったのか? 彼女達は皆、あまりの苦戦に追い詰められてそこまで考える余裕がなかったのだ。
唸り声を上げながら突進するフェンリル。その姿を見た一誠は、咄嗟に赤龍帝の籠手を発現させるとフェンリルに向かって………。
「いきなりなんだよ、犬っころ! こっちはテメェに何もしてねぇのに仕掛けてくんじゃねぇっ!!」
思いっきり左拳を叩き着けた。
その衝撃でフェンリルの顔が歪み、血を吐きながらフェンリルは吹き飛ばされる。
その光景を見たロキはあまりの衝撃に驚愕した。
「何故貴様が生きている!? フェンリルの牙を受けて無事なはずなどっ!」
それはリアス達も同じであり、開いた口が塞がらなくなる。
そんな驚いている周りの中、驚かせた張本人である一誠は不機嫌そうに顔を顰める。
「まったく、いきなり飛ばされた先で犬に襲われるなんてついてねぇ」
そんな一誠に未だに立ち続けている砂煙の中から呆れ返った声がかけられた。
「おい、イッセー。ありゃ犬じゃなくて狼だろ。見た事ねぇサイズだけどよ。そんなこともわからねぇのかよ」
「あぁ? 狼? 犬と違いなんてねぇだろ」
「まぁ、お前さんからしたらケロベロスだろうと犬にしか見えねぇだろうけどよ」
そんな下らないやり取りをしている一誠に、ロキが警戒を込めて声をかける。
「何故無事なのだ、貴様。我がフェンリルの牙を受けて無傷でいられる訳が無いというのに。それにこの気配……どうして貴様は人間の気配を発している!?」
いきなり悪魔だったはずの一誠から人間の気配しか感じられないことに驚くロキ。
リアス達はそれまで気付かなかったが、確かに言われて見れば今の一誠から悪魔の気配がないことに気付いた。
そして驚き言葉を無くす。人間を悪魔にすることは出来る。それが転生悪魔のシステムなのだから。だが、逆は有り得ない。悪魔を人間にすることなど不可能なのだ。
だというのに、ならば何故、今の一誠からは人間の気配がするのか。
その答えは本人に聞く以外はないだろう。
当の本人と言えば、上空から見下してくるロキを不機嫌に睨み付けていた。
「あ? テメェ何言ってやがる。それよりも見下しやがって、ケンカ売ってるってんなら買ってやるよ」
まさに不良のような態度。そんな態度を取られたロキは当然青筋を立てる。
「どういう手品を使ったのかはわからないが、随分と嘗めた口を叩いてくれる。その生意気な口、二度と叩けぬようにしてやろう。もう一度我が息子の牙で貫かれるがいい。行け、フェンリル、ハティ、スコル!」
ロキの命を受け、それまで戦っていたリアスとソーナの眷属達を弾き飛ばしながら一誠に向かって飛びかかる三匹の狼。
そんな獣に襲われそうになっている一誠は、それまでリアス達が見た事もない凶悪な笑みを浮かべながら叫んだ。
「OK、何でかは知らねぇが、テメェが売ってきた。そんでオレが買った。だからテメェをボコる! 徹底的になぁ! 久遠、リハビリ代わりだ。思いっきり行くからテメェの身はテメェで守りな!」
「あ、おい、イッセー! ったく、まったく聞いてねぇ。あまりに暴れて地形を変えんなよ」
砂煙が晴れ始めると共に浮かび上がる人影に向かって一誠はそう叫ぶと、凶暴な肉食獣の如き笑みを浮かべながら力を込める。
「いっくぜぇえぇえぇええっぇええぇええぇえええぇええぇえええ!!」
冥界の果てで、赤き凶暴なる暴君のオーラが吹き荒れた。
次回は何故一誠達が来たのかが明かされます。