ハイスクールD×D 赤腕のイッセー 作:nasigorenn
「で、どうしてこうなるんだよ………」
「す、すいません~………」
疲れた溜息を吐き、頭を抱える一誠にアーシアは涙目で謝る。
何故彼がそんな顔をしているのか? それは一誠がゼノヴィアを言い負かした後の話になる。
ゼノヴィアは思考が停止してしまい呆然とした状態になり、それを何とか復活させようとするイリナ。
アーシアはそんな二人にどのような顔をすれば良いのか分からず戸惑い、一誠は悪い訳では無いのだが、まるでゼノヴィアを虐めたかのような感じがして気まずさのあまりバツの悪い顔をする。そしてそんな一誠を見て久遠は笑っていた。
ゼノヴィアが復活するのに要した時間は一時間以上。そして復活した後は、一誠に少し怯えを見せていた。
あそこまで言い負かされて、彼女の中で一誠は自分が信じる主の敵と言っても良い存在になり、同時に言い返せなかった自分の不甲斐なさに怒りを感じる。
主の御心を信じていれば、あそこでもちゃんと言い返せたはずだと。それは逆に言えば、自分の信仰心が足りないということになる。
そんなことはないと言い張りたい所だが言い返せなかったのは事実。それを突き付けられたゼノヴィアは突き付けた一誠に怨みに近い怒りを抱くが、それで何か言おうものなら、また言い負かされそうな気がして怖かった。だから怯えた。
一誠も怖いが、それ以上に言い負かされて自分の信仰心が足りないことを指摘されるのが怖かったのだ。
そんな訳で警戒の色を濃くするゼノヴィア。
そんなゼノヴィアを宥めつつイリナはそろそろ一誠の部屋から出ようと考える。
それを伝えようとするのだがそれを口にする前に、まるでイリナが考えていることが読まれているかのように、意外な所から声が掛かった。
「そいつはやめておいた方が良い。今晩はこいつの部屋にでも泊まったらいいよ」
部屋の主の意見も聞かずにそう二人に言ったのは、それまで一誠とのやり取りをニヤニヤと見て笑っていた久遠であった。
当然そんな意見に反発しないわけがない一誠。
ただでさえ狭い部屋に人を泊められるような余裕などない。
だが、それに対し久遠はニヤリと笑いながら一誠を説得する。
その顔は明らかに邪念に満ちていた。
「いきなり何言い出してやがる、久遠! んなこと勝手に決めんじゃねぇよ!」
「そう言うなよ、イッセー。よ~く考えて見ろよ……彼女達は俺達に会うまで物乞いをしてたんだ。だったら、金なんて持ってねぇんだから当然宿泊するところもねぇだろ。こんな可愛い女の子に野宿なんてさせて見ろよ? いくら何でも変質者が寄ってくるのが目に見えてる。もしくは、そのあまりにも世間離れした恰好の所為で警察の厄介になるのがオチだ。変質者は倒せても、公安には手を出す訳にはいかねぇだろ。いくら裏で教会やら悪魔やら堕天使やらの力が強かろうが、表の公的機関に表立っては干渉出来ねぇ。しかもイリナちゃんは兎も角、ゼノヴィアちゃんの持ってるモンはまずい。どう見たって物騒な代物だ。外国人とはいえ、銃刀法違反が大当たりな代物だ。最悪、警察に没収されるって所だけど、教会がそんな不祥事を起こしたことを知ったらどうなることやら。そんなわけで、今の二人を外に出すのは色々とまずいってことだ。それにゼノヴィアちゃんをこんなに虐めたのはお前だろ。虐めた責任持って止めてやれよ」
「ぐぅ………」
一誠にとって非常に不服な事だらけだが、久遠が言っていることは確かな事実。
否定のしようがないだけに、一誠は反論が出来ない。
特に最後の虐めたせいでこんなになったのだから責任を取れ、というのは結構響いたりしている。
一誠自身、そこまで酷くなるとは思わなかったからだ。
敬虔な信徒はその教えに忠実であり、その教えに存在理由が依存している。
だが、この男は神など端から信じていない。いや、いようがいまいが手を出してこないのなら関係無いと考えている。
だからこそ、宗教の観念が全くと言って良い程に浅い。寧ろこの場合は一誠の主教の見方の方が世間的であり、彼が神頼みをしたのは受験の時に少しでも何かをマシにしたかった時だけある。今のご時世、大体の日本人は必要なときにだけ信仰心も無いのに神に祈るぐらいが普通なのだ。
だからこそ、その役にも立たない神を否定しただけで、ここまでゼノヴィアがヘコむとは思わなかったのだ。故に久遠に言われるまでも無く、結構気にしてたりする。
「でも、いいの? 確かに泊まるところはないけど」
イリナが一誠にどうしてよいのか問うが、一誠は答えられない。
本音で言えば泊めたくない。ただでさえ狭い部屋を余計狭くはしたくない。
だが、ゼノヴィアの方を見ると悪くないのに罪悪感が湧いてくる。その気まずさもあって、NOとは言えない。
それにイリナは顔見知りではある。それを無下にするのは、それはそれで人でなしな対応だ。そこまで冷酷にはなれないのである。
そのためどちらとも言えない一誠。
だが、その思考を傾けるかのように、何とアーシアが二人の宿泊に賛成の声を上げてきた。
「そうですね。確かにもう遅い時間ですし、そうしましょうよ、イッセーさん!」
さっきまで責められていたというのに、彼女は二人の事を慮って一誠に二人の宿泊を勧める。それは純粋な善意。泊まるところがないという彼女達を心配しての意見であった。困っている人がいるのなら悪人でも放っておけない。それがアーシア・アルジェントという少女である。
その優しさにイリナは心から感謝をし、ゼノヴィアは複雑な表情を浮かべる。感謝の心と裏切り者への怒りが混ざり奇妙な感情がゼノヴィアを満たす。
それをどう表して良いのか戸惑っているようだ。
更にアーシアは一誠に懇願するように見つめる。その潤んだ瞳に見つめられた一誠は、あまりの分の悪さに首を縦に振る以外なかった。
この男、身内にはかなり甘いのである。
そんなわけで二人が一誠の部屋に泊まることになったわけだが、これでまだ終わりではなかった。
その後、アーシアが白夜園に連絡を入れたところ、園長から……。
『今日はもう遅いし、一誠君の部屋に泊めて貰いなさい。皆からは私から言っておきますから。それに皆もアーシアさんのこと、応援していますからね。勿論私も』
と言われてしまい、顔を真っ赤にするアーシア。
その件についてアーシアは一誠に伝えると、一誠は凄く疲れた顔をして仕方ないとアーシアも泊まることを認めた。
今まで世話をかけっぱなしだったこともあって、一誠は園長に頭が上がらないのだ。
そういう訳で急遽、アーシア、イリナ、ゼノヴィアの三人が一日だけ一誠の部屋に泊まることになった。
もう決まってしまい、今更駄目とも言えない一誠はこうして頭を痛そうにしているというわけである。
アーシアは申し訳なさそうにするが、一誠はもう決まった事として諦めた。
「まぁ、しゃねぇか」
その言葉と一誠の表情を見てアーシアの顔も晴れ、改めて一誠に感謝を述べるアーシア。
そんなアーシアに苦笑を浮かべる一誠は、取りあえずイリナ達に話しかける。
「まぁ、そんな訳で今日は泊まってけ。狭いからって文句言うんじゃねぇぞ」
「はい!」
「あ、ありがとう、イッセーくん!」
「………感謝はする……」
三人の感謝を聞いて、気恥ずかしくなる一誠は取りあえずそっぽを向いて鼻を鳴らす。それが恥ずかしさを紛らわす行為だということは誰の目から見ても分かることであり、アーシアとイリナは二人してそんな一誠を笑っていた。
三人揃えば何とやら。
アーシアとイリナ、そしてゼノヴィアの三人は一誠の布団の上でお喋りに興じていた。
アーシアとゼノヴィアの間をイリナが取り持つようにして色々な話をしていく三人。最初に話したことは今のアーシアの立場であり、それを聞いたゼノヴィアとイリナは顔を真っ青にした。下手をすれば堕天使と教会で戦争になっていたかもしれないと、ゼノヴィアは内心恐怖し先程までの自分を呪いたくなっていた。
人間、いくら毛嫌いしているからといってむやみやたらに突っかかるものではないと。
だが、アーシアはそんなゼノヴィアを励ます。彼女も世間知らずだが、最近は色々と勉強して多少はマシになっているのだ。なので、ゼノヴィアがした行為も彼女は許す。立場上仕方ない事もあると言うことを分かっているから。
そのことに感謝したゼノヴィアは多少はマシな柔らかさを出しながらアーシアとの会話を行っていく。
その話題は最近の教会であったことや、アーシアの今の生活について。またはイリナからは昔の一誠のことをアーシアが聞き、アーシアからは今の一誠の話をイリナが聞くといったことなど多岐に渡る。
特に一誠の話になると楽しそうにはしゃぐアーシアとイリナ。
そんな二人の様子を見て、ゼノヴィアは『女の子』というものを学ぶべく、二人の話に聞き入っていくのであった。
そして夜はさらに深まるが、三人の間に沈黙が訪れるのはまだ先になりそうだった。
そんな三人とは対照的に一誠と久遠は外に出ていた。
単純に異性といるのが気まずいというのなら、まだ一誠にも思春期の兆しがあるというものだが、そんな青臭い物ではない。
単純に狭いのでいたくない、そんな理由である。
それと同時にもう一つ、一誠は久遠と話をすべく外に出た。
当たり前なのだが、久遠を泊める気など無いので部屋から追い出したということもある。
そんな二人はゆっくりと道路を歩きながら話し始めた。
「なぁ、久遠」
「なんだよ、イッセー」
普通に気楽に、いつも通りに話しかける二人。
だが、その声音は何処か暗い闇を内包していた。
これから話す内容は、あまりアーシアに聞かせて良い内容ではない。
それを意識させる雰囲気を互いに出していた。
だが、口調はそれでも変わらない、いつも通りの口調で一誠は久遠に話しかける。
「正直、今回のあの二人の話、どう思う?」
「そうだなぁ……まぁ、マジな話しだろうよ。でなけりゃ聖剣なんて持ち出さない」
事態の真偽に対し久遠は直ぐに答えた。
聖剣は教会でも至宝の物。それをこうして持ち出したと言ってきた時点で、その問題がどれだけ大きいのかを知らせる。
一誠は真偽の沙汰を確かめると共に、ゼノヴィアが言っていた『犯人』について久遠に聞くことにした。裏の情報に精通している久遠に聞けば、何かしら分かると知っているから。
「それで? 今回の奴等について、何か情報は?」
「う~~~~ん、俺も詳しくは知らないんだけどよ。確かバルパー・ガリレイは聖剣使いを人工的に作ろうとして失敗。その痕跡を消す為に実験体を皆毒殺したってんで教会を追放された研究者の大司教だ。今じゃ教会の汚点として有名だな。それとその首謀者のコカビエルなんだけどよ……確か聖書にも出てた有名な堕天使で、性格は好戦的。風の噂だと総督様とは仲がよろしくなく、シェハムザの旦那がよく愚痴を零してる原因の一つってくらいだよ」
その情報を聞いて、一誠は何かを考える。
そんな一誠を見て、久遠は笑いながらこう聞いた。
「どうだい、何か起こりそうか?」
その質問に対し、一誠はニヤリと笑みを浮かべ実に愉快そうな声で返答する。
「あぁ………こいつは何か……臭ぇ気がするなぁ……絶対に起きんだろ。だからよぉ……ちっとは楽しめそうだ」
好戦的な野獣の笑みを見て、久遠は苦笑を浮かべるのであった。
こうして一誠はこの後一人で帰り、部屋の床に一人横になって寝た。
翌日、イリナとゼノヴィアは任務に復帰すると言うことで一誠達に感謝と挨拶をすると一誠達と別れた。
そして一誠とアーシアは、取りあえず学校にいくために部屋へと戻っていった。