魔法科高校の加速者【凍結】   作:稀代の凡人

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第39話

「――なるほど。確かにその可能性は否定できないだろうな」

 

頷いて考え込む服部先輩。

何がなるほどなのかというと、お昼休みに話していた件のことだ。

 

兄さんは風紀委員の仕事があるので、今ここにはいない。

渡辺先輩は風紀委員の助力も必要だろうとのことでここにいる。

 

しかし、話し合いに参加しないでそっちで楽しそうにやってるのは何でなんですかね?

 

俺と服部先輩が話を進める中を、真由美さんをはじめとする生徒会の他の面々は楽しそうにおしゃべりしていた。

特に真由美さんは傍目に見ても分かるほどご機嫌である。

 

昼休みの時に、俺と兄さんの掛け合いで拗ねてしまった真由美さんを懐柔するために今度の休みにどこかへ遊びに行こうと言ったのだが。

まさかここまで機嫌が上昇するとは想定外だった。

 

まあ、面倒な話は男性陣で済ませてしまうとするかね。

 

「となると、確かにその手は良いかもしれん。だが、七草会長を壇上に立たせるのはいくらなんでも危なすぎないか?良い的にしかならないような気がするんだが」

 

「心配されるのは屋外からの狙撃などの遠距離攻撃ですが、確認したところ公開討論会が開催出来そうな場所の中で屋外から壇上を狙撃出来そうなポイントのある場所はありませんでした。まあ設計上当然でしょうが。となれば可能性として残るのは屋内からの生徒による攻撃、あるいは外部から侵入してきた敵による攻撃の二つです。ならば、問題ありません。俺が命に代えても全て潰します」

 

「心意気だけでどうにかなるものではないぞ?」

 

「討論会の開催時には常時[領域干渉]を発動しておきますから、魔法に関しては心配いりません」

 

「……それで魔法は全て防げるというのか?」

 

「十師族レベルで特定の魔法に特化していなければ防げます。校内で潰せないような魔法が使えるのは精々が十文字先輩ぐらいでしょう」

 

姉さんの[コキュートス]や兄さんの[分解]と[再成]も[領域干渉]では防げないのだが、それは言わなくていいだろう。

というか言えないし。

 

「十文字会頭が敵に回る可能性は除外して考えても問題ないだろう」

 

苦笑する服部先輩に、頷く。

 

俺としてもその可能性は考えられないし、考えたくもない。

 

「となると残るのは校外から侵入した敵ですが、先日の件で早期警戒システムが整備されたので侵入に気付かないうちにやられることはないでしょう」

 

先日の産業スパイ共を手引きして自分で潰すというマッチポンプの結果、校内の警備は強化された。

 

具体的に言うと、機械的な警備の穴を徹底的に無くし、人による巡回もするようにさせた。

 

さらにこれまで侵入者を察知しても職員や一部の生徒にしか報告がいかなかったシステムを見直し、侵入者を察知したらすぐに全校生徒の所持する端末に警戒情報が送信されるようになった。

 

我が校は日本の未来を担う優秀な魔法師の卵が集まる魔法科高校である。

 

例えばUSNAのスターズなんかが侵入してきたら話は別だが、大抵の相手ならばCADさえあれば生徒達で自衛できるし、侵入者の存在を知ってさえいれば色々と対応も出来るだろうということだ。

 

それを思い出したのか、服部先輩も頷く。

 

「それに加えて生徒会役員や風紀委員で周りを固めれば危険は最小限に抑えられるか。確かに討論会で生徒会長が壇上に立たない訳にはいかないし、それならば会長の身に万が一はないだろう」

 

一応、人的なもので最悪の最悪を想定すると学校敷地外からの戦略級魔法というものもあるが、そんなのはどう頑張っても防ぎようがないので目を瞑る。

第一そんなこと起こってたまるか。

 

「では、会長の警護に関してはこの辺にして。次は会場内にいない生徒達をどう守るか、ですね。まあ、後は十文字先輩が来てから話す事にしますか」

 

「そうだな。とは言ってもそろそろ来る頃だろうが」

 

そう言った瞬間、来客を知らせる音が鳴る。

 

「噂をすれば、だな」

 

服部先輩は少し笑って来客者を迎えに行った。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「なるほど。おおよそ状況は把握した」

 

「……壬生は、そいつらの手から解放はできないのか?」

 

一番上は言わずもがな十文字先輩で、その下は十文字先輩と共に来た桐原先輩である。

 

「おそらく、壬生先輩を含む奴らの仲間となっている方々は皆マインドコントロールかそれに類似するものを受けていると思われます」

 

「マインドコントロールだと?」

 

「ええ」

 

驚きの声を上げる十文字先輩に頷いてみせる。

 

「これは飽くまで確証のない情報ですがね。壬生先輩は自分の剣を馬鹿にされた、と仰っていました」

 

「ああ、そうだな……って、やっぱり聞いていたんじゃないか」

 

口を滑らせてしまった俺を兄さんが睨む。

 

「……まあ、それは良いとして。では誰に馬鹿にされたのか。あそこまで強烈な感情を抱くまでに至るには、何かしらのエピソードがあったはずです。ですから、それを調べてみたんですよ」

 

「どうやって?」

 

「……私にも私なりの伝手があるということです」

 

鋭い視線を向けてくる十文字先輩をはぐらかす。

 

「そのエピソードというのはですね……渡辺先輩。昨年の新入生勧誘週間の際に、壬生先輩に勝負を持ちかけられたことがあるそうですね?」

 

「ん?……ああ、確かにあった。断らせてもらったがな」

 

「それは何故?」

 

「何故か、だと?そんなの、私では勝負にならないからに決まっている」

 

「それは、渡辺先輩の方が実力が下、という意味ですよね?」

 

「勿論だ。私が習った剣はあくまで魔法との併用を前提としているからな。魔法もありの実戦でならば話はまた別だが、純粋な剣の腕では私はその時点でもう壬生には敵わなかったさ」

 

「ですよね……」

 

「それがどうしたんだ?」

 

溜息を吐く俺に渡辺先輩が首を傾げる。

 

「壬生先輩は、そのことを真逆の意味に解釈していました」

 

「真逆?」

 

「はい。壬生先輩は、『自分では相手にならないから無駄だ。もっと相応しい相手を選べ』と言われたと仰っているそうです」

 

「それは確かに真逆だな。どうしてそんな勘違いを?」

 

桐原先輩の、そこにいる一同を代表するかのような疑問。

 

「そうですね。可能性としては二つあります。一つは渡辺先輩の言い方が紛らわしかったというもの」

 

「……いや、そんなに紛らわしくは無かったと思うぞ?私は確かこう言ったんだ。

『済まないが、私では到底お前の相手は務まらないから、お前に無駄な時間を過ごさせてしまうことになる。それよりも、お前の腕に見合う相手と稽古をしてくれ』

と」

 

「それが本当ならば、その時点では壬生先輩は誤解をしていなかったということになります。……いえ、渡辺先輩を疑っているというわけではなくてですね?物事に絶対はないわけですから。

さて、となると俺の思いつく限りでは残る可能性は一つですね。すなわち――」

 

――記憶を改竄されたという可能性です。

 

俺の言葉に、何人かが息を呑む。

 

「これが、先ほど言ったマインドコントロールにも繋がってくるわけです。ここまで記憶が変わっているとなると、外部からの干渉があったと考えるのが自然だと俺は思います。洗脳、と言ってもいいですが、言動を見る限り現状そこまでの段階には至っていないでしょう。飽くまで思考を望む方向に誘導されている程度だと思われます。

 

そして、精神系に詳しい人に聞いたところマインドコントロールからの解放は非常に困難を伴うそうです。本人の了承の上ならば色々と手はあるらしいのですが、了承が取れるわけがありませんし。そもそも了承が取れる時点で解放されているでしょう。そして証拠も何もない以上、強硬手段にも出れませんから」

 

現状では、少なくとも俺には壬生先輩を合法的に解放する手段は思いつかない。

出来ることは、犠牲を極力減らして背後に控える組織、ブランシュを叩き潰すことだけだ。

 

「……それで、俺たち部活連執行部は何をしたら良い?」

 

他に打開策を思いつかなかったらしく、渋い表情の十文字先輩がそう問う。

やはり、このまま行くしかないらしいな。

 

「そうですね。部活連には、万が一外部からの侵入者があった場合に被害を最小限に抑えられるように各部活動の配置をお願いしたいと思います。例を挙げると各部活動の活動場所を近くに纏めるだとか、事務室の近くに配置するだとかですかね」

 

「なるほどな。それでは……」

 

その後、下校時刻まで掛けて俺たちは計画を立てていった。




お読みいただき、ありがとうございました。

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