魔法科高校の加速者【凍結】   作:稀代の凡人

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予約投稿の際に誤って即時投稿してしまいました。
あれって分まで指定しないとダメなんですね……。

すぐに削除しましたが、読んでしまった方はそれと同じ内容となります。

申し訳ありません。


第32話

次の土曜日。

俺は、俗に言う社交界デビューというものを迎えていた。

 

が、まさかこんなところでいきなり気力を削がれるとは思わなかった……。

 

「えーっと、これは合わないからこっちですかね?いや、しかしこっちの方が……」

 

「あの、桜井さん。適当なところで切り上げてください。……正直、面倒なので」

 

「何を仰いますか。四葉の御曹司の社交界デビュー、下手な格好をしていっては四葉自体が侮られることにもなりかねません」

 

「それは、そうですが……」

 

「それに、和也君の格好次第では隣にいる真由美様も馬鹿にされることになりますよ?」

 

「桜井さん、いくら時間や金を使っても構いません。持てる力を総動員して、俺を完璧に着飾ってください」

 

「畏まりました」

 

後で冷静になって思い返してみると、この時桜井さんは満面の笑みだった気がする。

 

また、上手く転がされた……。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

自宅に迎えに来た車に乗り、パーティ会場へと向かう。

 

今日参加するパーティの主催者は七草弘一。

つまり、会場は七草家だ。

 

今回は、各家の持つ派閥を横断して名家が集められている。

 

十文字、一条、九島などの十師族のほか、百家からも幾つか集められている。

 

その中で今回の俺の役目は、次代の四葉家も安泰であると示すこと。

そして、七草家との友好を見せつけることだろう。

 

十師族でも勢力の大きい四葉と七草の友好を示すことは、他家に対して大きな牽制となる。

 

まあこれまで、というか叔母上と弘一殿が犬猿の仲だったというのに突然これで他家が二家が友好だと見るかと言えば、そうは思ってくれないのだろうが。

 

ただ、うちや七草を潰そうとしているものがいたらここで動かざるを得ないだろう。

 

もし万が一にでも本当に四葉と七草が結んでいたとしたら、早いうちにどうにかしないと本当に手が付けられなくなる。

 

それを炙り出そうというわけだ。

 

そんなことを考えているうちに、会場である七草家へと着いた。

 

「ようこそいらっしゃいました、和也殿」

 

「お迎えありがとうございます、名倉さん」

 

迎えに出たのは、真由美さんのボディガードも務めている名倉さん。

 

「叔母上は?」

 

「真夜殿でしたら、既に控え室でお待ちです。案内させましょう」

 

「お願いします」

 

名倉さんは別の人間を呼び寄せて俺を案内するように言いつける。

 

「……ああ、その前に」

 

「はい?」

 

案内役について行こうとした瞬間、名倉さんに呼び止められる。

 

この人が言わなければならないことを忘れるはずもない。

ならば、このタイミングで声を掛けたのは俺の意表を突いて何らかの反応を引き出すためだろうが……一体なんだ?

 

少々あからさまに警戒した俺を見て、名倉さんは微笑みつつ言う。

 

「真由美お嬢様が昨晩から和也様のお越しを楽しみにしております。よろしければお先に」

 

「……分かりました」

 

警戒するような内容から大きく外れており、意表を突かれたからか。

慌てて冷静を装ったものの顔が熱くなってしまい、名倉さんに笑われる羽目となってしまった。

 

この分は、悪いが雇い主で発散させてもらおう。

部下の監督不行き届きということで。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

案内役は、とある部屋の前で立ち止まった。

 

「こちらでございます。では、ごゆっくり」

 

その言葉にすら含みを感じてしまうのは、俺の考えすぎだろうか。

あの案内役も腹の中で笑い転げてやしないか?

 

まあいい、今はこちらだ。

 

「真由美さん、和也です。入ってもよろしいですか?」

 

軽くノックをして、声を掛ける。

ここで何も言わずに入るのは、よほど礼儀を知らない奴か鈍感系主人公だけだ。

多分、後者の場合はその後ラッキースケベが待っている。

 

「どう……ちょっと待って!お願い!」

 

「分かりました」

 

中で慌てている様子が容易に思い浮かぶ。

 

どうせ最初は使用人だと思って許可を出そうとしたのだが、和也という名前に頭が後から追いついてきて自分の状況を確認し、とても見せられる状態では無かったから慌ててストップをかけて片付けているのだろう。

 

しばらくして、物音が収まる。

 

「……どうぞ、入ってちょうだい」

 

「失礼します」

 

ドアを開けると、真由美さんは少しバツが悪そうに椅子に座っていた。

 

「和也くん、いらっしゃい」

 

「お邪魔いたします。……あれ、真由美さん。その格好でパーティに出るんですか?」

 

普段着というわけではなかったが、この規模のパーティに出るには少々物足りないような服を身に付けている真由美さんに問い掛けると、苦笑しながら手を振る。

 

「まさか。シワになっちゃうから、もう少ししたら着替えるの。和也くんはその服、すごく似合ってるわ」

 

「ありがとうございます」

 

流石は桜井さんの見立てといったところか。

その代わりに着替えさせられまくってかなり疲れたのだが。

あれは乗せられてしまった俺が悪い。

 

「それで、どうしてここへ?和也くんとはパーティの直前に会うのだと思っていたのだけれど」

 

不思議そうに首を傾げる真由美さん。

俺はその問いにニヤッと笑う。

 

「真由美さんが、昨日の夜から俺と会うのを楽しみにしていたと名倉さんから伺いましてね。これは先に会わなくては、と参ったわけです」

 

「……もう、名倉さん……余計なこと言わないでよ……」

 

元凶である名倉さんに文句を言う真由美さん。

頬を染めながら拗ねるように言っても可愛いだけなんですが。

 

「というわけで、俺の用事は終わったのですが……流石にこれでさようならも味気ないですね」

 

前半を聞いて顔を青くし、後半を聞いてホッと安心し、その後自分の感情の動きを見られたことに気付いて顔を赤くする。

真由美さんの百面相が面白い。

 

このまま真由美さんを弄るのも楽しいと思うのだが、やり過ぎて機嫌を損ねるわけにはいかない。

 

「そうですね……パーティで知っておくべきことなどを教えていただけますか?」

 

「良いわ、教えてあげる」

 

だがまあ、話題を決めておいても話は逸れるもの。

真由美さんとの歓談が楽しくて思ったよりも長い時間を過ごしてしまったのは、ご愛敬である。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「失礼します、叔母上」

 

「どうぞ」

 

少々バツの悪い思いで部屋をノックし、入る。

 

「遅かったわね。待ちくたびれたわ」

 

「申し訳ありません」

 

「よほど真由美さんとのお話が楽しかったのね?」

 

「……申し訳ありません」

 

「良いのよ。婚約者との仲を深めるのはとても大切なことだもの。……さて、本題に入るわよ」

 

このまま弄り倒すのかと思いきや、あっさりと引いた叔母上に思わず驚いてしまう。

 

「よほど、切羽詰まっているのですか?」

 

「……貴方、時間が分かってる?話しておかなければならないことがたくさんあるのよ。今日相手にするのは皆大物ばかりよ?足をすくわれる訳にはいかないの」

 

「……申し訳ありません」

 

「……はぁ、それはもう良いけれど。では良い?よく聞きなさい」

 

俺はパーティ開始寸前まで叔母上の話を聞いた。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

そして、パーティ開始の20分前になった。

そろそろ主催者は会場で準備を整え待ち始めるころだ。

 

なんて思っていると、部屋にノックの音が響く。

 

「はい」

 

誰だろうか。

叔母上は先ほど出て行ったのだが、自分の控え室に戻るのにまさかノックをする訳もないし……。

 

「和也くん、わたしよ。入ってもいいかしら」

 

「真由美さん?まあ、どうぞ」

 

俺の許可を待って扉を開けて入ってきたその姿に、思わず息を呑む。

 

パーティ用の服に着替えたのだろう。

あいにくと色の名前には詳しくないので正確な所は表現出来ないが、夜会の女性の正装であるイブニングドレスからアクセサリーから全てを薄い水色?に統一した装いだった。

 

耳元に四葉のクローバーをモチーフとしたピアスを付けているあたりは中々面白いと少ししてから思ったのだが、最初に見た瞬間はただただ見惚れるばかりだった。

 

「どうかしら、和也くん」

 

「……よく、お似合いですよ」

 

どうにかそれだけの言葉を絞り出すと、真由美さんは嬉しそうにはにかみながらありがと、と微笑む。

 

「……どうして、ここへ?真由美さんはそろそろ会場入りしなくてはならないのでは?」

 

「わたしは今日和也くんの婚約者として紹介されるじゃない?だったらもう四葉の家の人間として振舞っておいたほうが良いかなぁって思って」

 

なるほど。

俺と真由美さんの親密さをアピールするのが目的だから、そちらの方がいいのか。

 

「……それに」

 

ボソッと付け加えた真由美さんに首を傾げつつ先を促すと、恥ずかしそうに言葉を続けた。

 

「このドレスは今日のために新しく仕立てたから、最初に和也くんに見て欲しいなあ、って」

 

……なんだこの可愛い生き物は。

俺は、再び熱くなる頬を抑えることができなかった。

なんとなく直視していられなくなって、目を逸らして時計を見る。

5分前、か。

 

今日対峙する相手を思い浮かべ、次第に冷静さを取り戻す。

 

「真由美さん、そろそろ時間です」

 

「本当だ。それじゃあ、行きましょうか」

 

「はい」

 

――さあ、いよいよ表舞台だ。

 

俺は、魑魅魍魎の集う会場へと足を踏み入れた。




お読みいただき、ありがとうございました。

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