魔法科高校の加速者【凍結】   作:稀代の凡人

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第14話

例の件(・・・)について話した後は、話題が途切れ静寂が車内を支配していた。

 

俺は、ちょうど良い機会かと思って口を開く。

 

「……最近、母上の体調が徐々に落ち込んでいっています」

 

「……それで?」

 

「いえ、私からは何も言うことはありません。ただ、もう一年もありませんよ(・・・・・・・・・・・)?」

 

その言葉に叔母上は目を閉じて黙り込む。

この二人の確執が一体どの程度のものなのか。

それは当人同士にしか分からないが、決定的な決裂にまでは至っていないはずだ。

恐らくは、すれ違いでしかないのだろう。

ならばせめて死ぬまでに改善してほしいと思うのは、お節介だろうか。

 

その後、叔母上の口から出た言葉は今とは関係のないものだった。

 

「和也さん。一年したら、深雪さんたちとは違う場所に引っ越しなさい。一人ではあれだから人を付けるけれど。学校もそちらから通ってちょうだい。必要な金と家はこちらで用意するわ」

 

「はあ。しかし、なぜですか?」

 

「貴方は七草と婚約したのでしょう?」

 

「はい。……ああ、分かりました。しかし、パーソナルデータはどうしますか?」

 

「それも用意するわ。どうせ第一高校に入学する時にひつようなのだから」

 

「なら、ついでに他の2人の分も用意しておいて下さいね」

 

「2人?……まあいいでしょう。分かりました」

 

「よろしくお願いします」

 

さらっと兄さんの入学も確約出来るか試みてみたのだが、了承を貰えたらしい。

まあ原作でも入学していたし大丈夫だとは思っていたのだが、一応というやつだな。

 

そうして俺たちは、旧山梨県との県境近くにある四葉家へと帰っていった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「和也、おかえりなさい」

 

「ただいま、姉さん」

 

屋敷へと帰った俺を迎えたのは、たまたまそこを通りかかったらしい姉さんだった。

 

「母上の容体はどう?」

 

今朝から母上は体調を崩して寝込んでいた。

俺が家を出た時には桜井さんが付きっ切りで看病していたのだが。

 

「お昼前には落ち着いたわ。今は大事をとって寝ているけれど、もう大丈夫らしいわよ」

 

「そうか、それは良かった」

 

母上が体調を崩してしまうのは、最近よくあることだった。

 

いや、体調を崩すこと自体は俺たちが生まれる前からあるにはあったのだ。

だが、沖縄戦を境に最近その間隔が徐々に短くなってきている。

 

初めは無理な魔法行使の影響が怪我やストレスのせいで表に出ただけだと思っていたのだが、最近になってもう一つの大きな要素に気がついた。

 

アンティナイトだ。

 

母上のサイオン感受性が鋭すぎるほどに鋭いことに加え、過度の魔法行使による体調の悪化に伴ってサイオン波への抵抗力も低下している。

そういえば原作でもあれを食らった後つらそうにしていた気がする。

 

ということは、知っていて敢えて介入しなかった俺にも責任がある。

 

先ほど叔母上にあの様なことを言ったのも、その罪悪感と責任からなのかもしれないな。

 

そんなことを考えていると、姉さんがこちらに問いかける。

 

「貴方はどうだったの?」

 

「俺?」

 

「お見合いしたんでしょう?七草真由美、だったかしら。どうだった?」

 

「どうって……美人だったけど?」

 

そんなことを言うと、姉さんにジト目で睨まれる。

じ、冗談ですから。

 

「……外面(かお)じゃなくて内面(なかみ)の方よ」

 

「そう言われても、今日はほとんど話していないからなあ。何とも言えないよ」

 

精々がからかったら反応がすごく面白いぐらいのものだが、そんなことを言ったら「女の子に何をしたのかしら」とお説教コースなので言えるはずもなく。

 

と、そういえば忘れない内にこれを先に伝えておこうか。

前に婚約の話を伝え忘れてて酷い目にあったからな。

 

「姉さん、1年ぐらいしたら俺は東京の近くに引っ越すらしい」

 

「え、何で?」

 

さっぱり意味がわからない、というような顔に説明をする。

 

「俺は十師族の一人、それも直系の長女と婚約をしたわけだ。当然彼女は他国の諜報機関や他の十師族にもマークされている。そんな彼女が連れて歩く男など、調べられないはずがないよね?今のところ俺と兄さんや姉さんとの繋がりは無いと思わせる方針だから、少しでもバレる可能性を下げる為に遠くの家に住むってこと」

 

「……ということは、中学も?」

 

「うん、転校する。念の為に兄弟ではなくそれなりに仲の良い友人として振舞っておいてよかったよ。これならば足は……まあつかないでしょう」

 

早い内、それこそ幼少期から殆ど正式な次期当主として扱われていた俺は、兄さんや姉さんたちとも扱いが違った。

 

叔母上の指示で、始めから偽名で小学校からやってきたのだ。

家も隣同士ではあったが違う家だし。

今のような長期休暇中はこちらに泊まっているということになっているが。

使用人は俺の家には一人もいらないといって置かなかったから、一人暮らしは問題なく出来る。

隣に桜井さんがいたし、殆ど兄さんたちと一緒に行動していたので身の守り的な意味でも問題はなかった。

 

元々は[分解]と[再成]という奇跡的な異能を持った兄さんと四葉との外に見える繋がりを極小にして将来俺が表舞台に立った時に切り札として使えるよう隠しておいたのだが、まさかこんなに早くそれが役に立つとは。

 

「……ということは、貴方にもとうとうガーディアンが付くのかしら。誰なのか楽しみね」

 

「ん、ああ……そうだね」

 

それなら心当たりはなくもないけど……まあ言わないでおこうか。

外れるかもしれないし。

 

「というわけだから。兄さんにもその内言っといて。俺忘れるかもしれないから」

 

魔法の知識とかならスッと頭に入ってくるのだが、こういうことってすぐ忘れてしまう。

本当に困ったものだ。

このあと会う予定はあるが、本題のことだけ言って忘れてしまうかもしれないので。

 

それを知っている姉さんも、仕方がないなあ、という風に笑って頷いた。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「あ、いた。兄さん」

 

「ん、何だ?」

 

屋敷内を捜索し、コンピュータを弄っている兄さんを発見する。

 

「ちょっと真面目な話。今時間ある?」

 

「……ああ、大丈夫だ」

 

近くの手頃な椅子に腰掛け、兄さんと向かい合う。

 

「それで、話って何なんだ?」

 

「叔母上から仕事のお話」

 

「……叔母上から、か」

 

なんかこの人は叔母上に対して過剰に反応しすぎだと思うんだが。

どんだけ敵対心持ってるんだよ。

全てを鵜呑みにしないでもう少し真実(・・)を知る努力をしても良いと思うんだけどなあ。

 

まあ、今日の話はそれとは関係ない。

 

「正確には俺への仕事なんだけどね。兄さんは助っ人扱い」

 

「お前に?一体どんな仕事なんだ?」

 

「とある研究所の破壊」

 

さらっと告げた俺に、兄さんの表情も少し引き攣る。

 

「それはまた……穏やかじゃないミッションだな。四葉の禁忌にでも触れたのか?」

 

「さあ、そこまでは。ただ、兄さんのことを考えると一緒に行った方が良いと思うけどなあ」

 

もちろん俺が楽になるという理由もあるが。

 

兄さんは自分の為になるという意味を掴めなかったらしく、首を捻る。

 

「俺のことを考えると?」

 

「うん。この前の沖縄の件。覚えてないわけないよね?あの時、俺がいない歴史の話をしたでしょう」

 

「ああ、したな。確か……桜井さんは亡くなるんだったっけか」

 

「そう。それを聞いて、何か思わなかった?」

 

俺の問い掛けに、兄さんは顔を伏せる。

 

「……俺には、力が足りない。それは分かっているよ。だからこそ今鍛えているんだが……ああ、実戦経験を積めということか」

 

どうやら途中で思い当たったらしい兄さんに、頷いてみせる。

 

「正解。兄さんは生まれつき[分解]と[再成]しか使えない。人工魔法演算領域のことは別にしてね。その二つを磨き上げる、或いは体術を鍛える。まだ完全ではないにしろ、その辺は今までもやってきたでしょう?ならば後は経験を積むしかないと思うんだ」

 

俺の言葉に兄さんも納得するところはあったらしく、何度か頷く。

 

「なるほど、な。ということはある程度何を使っても良いのか?」

 

「その場にいる関係者は皆殺しだからね。[マテリアル・バースト]とか使わなければ大丈夫だよ」

 

「そんなものは使うか」

 

ボケた俺に兄さんが噴き出し、釣られて俺も笑ってしまう。

 

「……という訳で、日程は3日前には伝える。いくら遅くても夏休み中だと思うけど。時間帯は多分真夜中だね」

 

「了解。それじゃあ俺はCADのメンテでもしておくよ」

 

「そんなん無くても普段からやってるくせに」

 

兄さんの言葉に笑いながら返し、俺はその部屋を出ていった。




お読みいただき、ありがとうございました。

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