俺は、自分で自分を制御出来なくなっていた。
「ダメ!それ以上近付いちゃ!!」
田中さんの叫びもむなしく、俺は、歩みを止めなかった。
『君は、助けたいか?』
頭の中でまた声がした。
レウロか?それ以外に考えられない。
『もう一度聞く。助けたいか?』
「………ああ。助けたい!どんな事をしてでも!」
『了解した。後悔するなよ………人の子よ。』
その瞬間、左手に持っていた本から何かが俺に流れ込んできた。あのときとは違う、冷たく重い物だ。
「…………。」
そして、本を開く。
田中さんも俺を見て異変が起きたことに気付いた。
「………レウロの書ね………」
そう言って、田中さんは立ち上がった。
「……………。」
俺………いや、レウロ!何をする気なんだ!?
『滅する。』
滅するってなんだよ!?
それは、考えなくても分かることだった。
『殺すということだ。』
やめろよ………
本に目がいくと、そこには、消されていた文字が現れていた。
そして、俺の体を乗っ取ったレウロはその文字を唱えようと口を開いた。
「魔を滅し、操られし人の子を助けよ。」
その瞬間、田中さんの頭上から白く輝く柱が何本も落とされた。
バシュンッッ!!!!
血飛沫が青い青い空に舞った。
俺の体は自由を取り戻した。が、グヂャグヂャになった田中さんを見つめることしかできなかった。
「………な……んで?やめろっていったのに………。」
『………後悔するなよといった。』
俺の足元に赤い血が流れてきた。
それを見た瞬間吐き気が込み上げてくる。
「うっ!」
手で口を押さえる。
『お前は、あの子を助けたいといった。何をしてでもと。』
確かに俺はいった。しかし、こんなのは望んでいなかった。
『私は、君の願いを叶えた。あの子は完全にあの本に呑まれていた。つまり…………。』
「田中さんを助けると言うことは、あの子を殺すことだったのか!?そんなのっ!」
それでもレウロは、『これ以外はどうしようもなかった。』といい続けた。
それを聞いているうちに俺は、頭のなかが真っ白になり真っ赤になったコンクリートに倒れた。
「んっ?」
俺は保健室のベッドで目を覚ました。
そして回りを見渡した。が、あの本は無かった。
「良かった。夢だったのか…………。ん?」
横に置かれていた小さな段ボールから青い瞳がこちらを見つめていた。
「にゃーん?」
「………。」
この猫がいる。つまり、夢じゃなかったということか。
「田中さん………。」
この手で田中さんに殺してしまったと考えると、また、吐き気が込み上げてきた
ガラガラとドアが開き現れたのは、神無月だった
「…………大丈夫か?」
「えっ………あ、あぁ。」
「………心配した。」
神無月は、ベッドの上の俺と目線があうようにイスに座った。
「…もうすぐ…紅月も。」
そう言ってドアを見つめた。
ガラガラ
「………おい。涼………」
「ん?どうした?」
紅月は、何故か額に青筋を浮かび上がらせ怒っていた。
すぐに何故怒っているのか気付いた
「…………あっ。」
神無月がこの気まずい空気をなんとかしてくれるのかと思い、目をやると神無月は、膝に乗ってきた猫をなで始めた。
「紅月…………ごめんな。お前を巻き込みたくなかった。」
ただそれだけだった。友達に迷惑を掛けるのは嫌いなんだ。
「………わかった。」
紅月は、そう言ったがまだ物足りないと言う表情で指をポキポキとならし始めた。
「しゃーねぇから、ほら。顔面に一発で許してやるよ。ほら。」
次に右手をぐるぐると回した。
「ひっ!!ごめっ!!」
ボゴッ!バゴッ!
二度目の謝罪は、届かなかった。
「ふぅ。スッキリスッキリ~。」
「………お前、一発っていったのに今、完全に二発殴ったな。しかも脳天に。ほら、たんこぶできてんぞ!!」
そう言って自分の頭を撫でる。すると、神無月も俺の頭をなで始めた。
「おっ、おい!何やってんだ?」
「………痛かったか…………?」
紅月のパンチは、前から来てあの距離だと続いて出せるのは、アッパーだ。よく考えると頭上から拳を下ろせるのは…………。
神無月の方をみると、猫が怯えた表情で神無月をみていた。
「……殴ったの………神無月か?」
「………すまん…つい…」
女の子が、つい人を殴ったりするか!?
しないだろ!!しかも、後ろから!?
「……ごめん……」
目をうるうるとさせつつ、下から覗き込む形で謝ってきた。
「べっ、べつにいいよ。」
目線を逸らして言った。
……………田中さんは、死んだのか?これが現実なのかいまいち分からない。
「なぁ、二人とも。屋上で何があったか、よく覚えてないんだ。教えてくれないか。」
「…………記憶喪失。」
「いや、違うけどな。屋上で…………田中さんが死んでたろ?」
聞くのが怖い。
「誰だ?その人。田中?」
「えっ、ほらあの睨んでた女の子だよ。」
変な感覚と保健室特有の香りが脳を刺激する。とても嫌な感じだ。
「………そんな人………知らない。」
「神無月はしらないか。紅月は?」
紅月の方に目を向けて問い掛けると
「あぁ。あの人か。」
すこし下を向いて紅月は、話始めた。
「…………ふぅ……。涼。よく聞けよ、あの人は……」
そこまでいって紅月は口を閉じたのだった。
窓に目をやると雨が降っていた。
どうなったのだ?田中さん。