「さて、どうする?」
「……………。」
「あの黒い本は、ほぼ完全に田中さんの体を侵食しているはずだ。」
「………助けられないのか?」
「それは、俺にも分からない。」
神無月は涼が入っていった崩れた校舎を見つめている。
「うぐっ!!」
「先生!大丈夫ですか!?やっぱり救急車を!」
一度救急車を呼ぼうとしたのだが、先生はそれを拒んだ。
「大丈夫だ。それより二人は…………」
「涼は田中さんの所へ行きました。」
「そうか…………。」
「紅月。これを…………」
いつの間にか神無月は手に粉薬を持っていた。
「俺は水を持ってないぞ?」
「腕輪使って…………。」
は?腕輪?これは守るためのもので、液体にはできないはずなんだが。
「どうやって?」
「…………粉薬を包んで。」
あぁ、そうか。
粉薬をを腕輪の能力で包んで先生に飲んでもらって、胃まで届いたら能力を解くってことか。
俺は神無月が紙の上にのせている薬に能力を使った。
粉薬を俺の作った赤いカプセル状のもので包んだ。
神無月は先生にそれを飲んでもらった。
「………ゴクッ。」
「5,4,3,2,1。紅月、もう良いよ。」
「え、あ。分かった。」
俺は能力を解いた。
そこそこ能力を使うのにも馴れたな。
「すまんな。あの子を救えなくて、さらにはこんなにズタボロなんて。情けない。」
「いえ!それは違います!先生は僕たちが来るまでずっと耐え抜いてくれました!」
「そうか……………。」
ズガンッッ!!!
校舎の恐らく教室と思われる部分から煙が上がった。
田中さんが暴れているのだろうか。
「何とかしないとな。そうだ。神無月、お前の式紙で涼を援護できないか?」
「…………出来る。」
そう言うと、神無月は紙を取り出してペンで『神』と書いた。
ボフッ!と煙が上がり、見たことのあるヤツが現れた。
「あ!お前!」
「おやおや、神無月様。また、私を召喚するとは、余程重要なことなんでしょうね。」
「……………あたりまえ。」
「先月のようにお風呂掃除などはもうしませんからね?」
「カグヅチ………涼を守ってこい。」
神無月は式紙を使って炊事をやらせていたのか。
俺にも一人欲しいな。
いや、俺にもメイドやら、執事やらがいるんだがな。
「承知しました。それでは行って参ります。」
カグヅチは俺が瞬きをした瞬間にどこかへ消えていた。
恐らく、校舎へ向かったのだろう。
「…………あの子をどうやって救う?」
「そうだな………それが問題だな」
前は、涼を白い本を黒い本に投げて消滅させたが。
今回は本がない。
黒い本は田中さんに侵食して同化しているし。
侵食か………
「っ!!」
「…………どうかした?」
「神無月。思い出してくれ。」
「…………何を?」
「黒い本は田中さんに侵食した。」
「…………うん。」
「じゃあ、白い本は?」
俺がそこまで言うと、神無月は「………そうか。」と言った。俺の言いたいことがわかったのだろう。
「そうだ。つまり、白い本は涼にも侵食しようとしたはずだ。その時に、涼の体にも少しでも、侵食したなら………?」
「…………………………………成長をして体を侵食しているはず。」
「当たり。」
神無月は何をすれば良いかわかったようで、俺よりも先に立ち上がった。
「待ってくれ。神無月はここで先生を見ていてくれ。」
「うん………分かった。」
神無月は式紙を使ってこちらの様子を見ることが出来るし、遠くからでも、援護できるはずだ。なら、神無月の役目は先生を見ながら、こちらの援護をすることだ。
「待て、蓮。」
俺が崩れた校舎に向かおうとした時、先生に呼び止められた。
「何ですか?」
「死ぬなよ………生徒が死んじまったら、俺は保護者に会わせる顔がない。それに、お前は…………」
「分かってます。大丈夫ですよ。すぐに、涼と田中さんをここにつれてきますから。」
先生。頼むから俺に死亡フラグを立てないでくれ。
フラグ回収したら、シャレにならん。
俺は半泣きになりながら崩れた校舎へ向かったのだった。