記憶を崩した者達~メモリーブレイカーズ~   作:如月ルイ

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六話 消え行く神歌

チャイムを何度か鳴らしたのだが、一向に出てくる気配がない。

ドアノブに手を掛けるとカチャリと音がした。

扉の鍵は開いていたのだ。

 

ギィーッ

扉を開いてなかを確認する。

 

「エルさーん?いますかー?」

……………………。

机の上の花瓶は倒れていた。

 

返事がない。

「居ないのか?」

紅月も不安そうに中を覗きこむ。

 

「……うっ………」

どこからか呻き声が聞こえた。

 

「居るんですか!?エルさん!?」

「うっ…………」

呻き声は二階から聞こえてきている。

 

「上か!!」

紅月が階段まで走って止まる。

 

「どうしたんだ!?紅月!!」

「…………血」

俺よりも先に紅月に近づいた神無月は階段を見て呟く。

確かに階段には、大量の血痕が飛び散っている。

 

「おかしいぞ。」

紅月は血痕を指で触る。

「この血は…………まだ新しいぞ。」

「新しい?どうしてだ?だって田中さんは…………まだここに来てないんだろ?今向かってる最中じゃ…………」

「ちょっと待って…………」

神無月は地面に置いた紙に「目」と書いた。

その瞬間に紙に赤い目が現れる。

 

「すべてを見通す目よ、我にその力を…」

その瞬間に紙に現れていた目は閉じて消えた。

「いったいなにを……っ!」

俺が訳の分からぬまま神無月を見ると、神無月の左目が赤く染まっていた。

 

「………?」

紅月も心配そうに神無月を覗き込む。

 

「……いた。」

神無月は片目を押さえつつそう言った。

「いたって……どこにだよ。」

「……学校に向かってる」

神無月の目から徐々に赤い色が抜けていく。

神無月の式紙って、すごいな。ホントに。

まてよ?学校って………ここのすぐ近くの学校なのか?

つまり、エルさんより先に一色先生のを捕食しに行ったのか?

それじゃあ、この血はいったい………

 

「とにかく!二階にいくぞ!」

「まて!紅月は神無月と一緒にここで待っててくれ。」

「な!何でだ!?」

「お前らには刺激が強すぎるかもしれないかに決まってるだろう!!」

 

俺が血を見るのは……何度目になるんだろうな。

紅月は平気かもしれないが、神無月を一人でここにおいておくわけにもいかないからな。

 

「…………分かった。待ってるから、な?」

「はぁ、俺は平気なんだがな。まぁ、いい。神無月と二人で待ってるから、絶対戻ってこいよ?」

「分かってるって!それじゃ!」

階段を駆け上がる途中で「………二人きり。」と聞こえてきた。

もしかして…………いやいや、神無月があいつを好きなわけがないよな……いや、ありえるかもな。

 

「エルさん!!」

二階に到着すると、目に写りこんだのは、赤く染まった床に倒れているエルさんだった。

 

「う…………君は…………誰……だ?」

「僕です!涼ですよ!!」

抱き抱えて呼び掛けるが意識が朦朧としているのかエルさんの視点が合っていない

 

「りょ…う……なのか……?」

「そうです!エルさん!どうしてこんなに血まみれなんですか!?いったい何が………」

 

エルさんは赤く染まった床の端を指差した。

「あそこ…から………影が………」

「影………?」

指差した方向には、黒い焦げ目が広がっていた。

 

「アイツは…力のある…俺を……殺…しに…きた…」

「アイツ……?いったい誰なんですか!?」

「アイツ……は……影から…現れる……」

エルさんは口から「ゴポッ」っと血を吐き出した。

 

「はぁはぁ………すまない…な……ヤツは…次…先生を…殺しに……ここで…食い止め……ておけば…」

「…………。」

____影が先生をを狙ってる?

 

「エルさん!しっかりしてください!!」

「……………もう…………お別れみたいだな………」

「え?どうかしたんですか!?」

 

ザザッ!

 

「っ!なんだ………これ……!!!」

床や壁に飛び散った血が俺の手首に腕輪のように集まり始める

そして、それは紅月の着けている腕輪と同じ形で固まった。

 

「これは………紅月の………」

「くっ…………俺はもう……もたない………早く…先生の………所へ……行け!」

エルさんの目は次第に光が消えていく。

 

「エルさん!!」

「すまないな……」

いくつもの光の塊がエルさんから出てくる。

この光はいったい……

 

「エルさん!!しっかりしてください!!すぐに救急車を!!」

「いや………いいんだ……もともとは………俺はこの世界の生命ではないんだ。病院へ行っても意味がない」

エルさんは、さっきよりも楽に話している。

痛みなどの感覚器官が壊れてしまったのかもしれない。

 

「この世界の命じゃない?」

「あぁ………。それを知っていて……先生は優しくしてくれた………俺はな………本当は……」

エルさんは一呼吸置いて目を閉じる。

 

「____神様なんだ。」

「っ!?」

神様!?

ありえない!

しかし、エルさんがこんな状況で冗談を言うわけもないし、本当に…………?大体、今まで起きたことを考えると、神様がここにいても不思議ではないか…………

 

「俺は、天界で大神に地上の悪を正せと………命令された。でもな、そんなことはどうでもよかったんだよ………………でもな、あのデパートで……お前が仲間を助けるのを見て、気が変わったんだよ」

あのデパート?

 

っ!あのデパートって、もしかしてエルさんに初めてあったあのデパートか!

確かに俺は、洸が瓦礫の下敷きになってしまうのを防ぐために突き飛ばして助けた。

 

「だから俺は………お前を………正しいことをするやつを……守りたいと思った。」

「っ!!もしかして!あの時、瓦礫を切断して俺を助けたのは………!!」

「あぁ。俺だ。………ぐっ!少し話しすぎたな………。」

エルさんの体は足から徐々に光の固まりになって消えていく。

 

「まぁ………俺が言いたいのはな……お前はお前の正義を貫き通せ………そうすれば、多くの命も、お前の大切な仲間も救える………」

胴体まで光になって消えていく。

「俺は……天界でお前の活躍を見守ってやる………だから……」

首も、光になって消えた。

「____最後まで、生きろ!」

「エルさんっ!!」

ピカッ!!!

部屋が目映い光に包まれる。

伸ばした手は空を切った。

 

「う………うっ………エル……さん………。」

視界が揺らいで真っ赤な床に雫が落ちた。

 

『心配するな。神は死なない。お前を見守ってるからな。』

頭のなかに響く声は確かにエルさんの声だった。

 

「………絶対に自分の正義を貫いて見せます。だから………見守っていてください!!」

俺はすぐに立ち上がった。

そして、早足で階段を駆け下りた。

 

「涼、どうだったんだ?」

「エルさんは………消えたよ。」

「っ!!」

紅月は驚いた表情をしたが、俺の気持ちが分かったのか、すぐに無言でそとへ向かった。

 

「涼……人が死ぬのは……すごく自然なことだ。」

「あぁ。分かってる。」

神無月はエルさんが神様だということを知らない。

確かに人はいつか崩れてしまう。

 

____だから、人は崩れないように壊さないように生きるんだと思う。

 

「今……涼がしないといけないのは先生を助けること…………そして、あの子を助けることだろ………?」

「あぁ………」

「先にいってるからな…………」

「………。」

神無月は心配そうにしながらも外へ向かった。

 

家族に迷惑をかけた俺は…………

 

「俺って……………」

っ!!止めろよ。みっともない。言っちゃダメだ。

「どうして…………」

言うなっ!!

「____生きてるんだろうな」

 

また、涙が床に黒いシミを作っていく。

 

そして俺は、その場に手をついて倒れる。

「うっ、くそっ!どうして!どうして俺なんかが!!」

「生きてていいじゃねぇか。」

「っ!」

顔をあげると紅月と神無月が立っていた。

「………そんなこと………悩んでたのか」

「はぁ、もしかしてお前……」

「……………。」

俺には二つ上の姉がいた。

今はもういないが………。

 

「あれは、事故なんだろ?だったら、あの人のためにも前を向いて生きようって思わないのか?」

「………生きることは、大変なこと………他人、友達、家族を傷つけてしまうことかもしれない。でも………生きることをやめたら、それこそ……みんなを傷つけてしまう。」

「…………。」

あぁ、忘れてた。だけど思い出したよ。俺には……

 

「「だから行こう」」

 

____こんなにいい友達がいるじゃないか。

 

二人が伸ばしてきた手をとって立ち上がる。

 

「ありがとうな。」

「友達ならこれくらい当たり前だろ?」

「………気にしないでいい。」

「それより、お前の腕に付いてるのって………」

「あ、これは………エルさんがくれたんだ。」

「………そうか。」

ズガガガガガガガッッッッッ!!!!!

「っ!なんだよこれっ!」

地面が大きく揺らぐ。

 

「………まずい、先生とあの子が戦ってる。」

神無月は、式紙を使っているようだ。

俺達は、エルさんの家を出てここに一番近い学校へ向かった。

 

確か、今日は研究会議が『星海中学』で行われているはずだ。

先生!僕たちが行くまで持ちこたえてください!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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