プロローグ
「何で………」
小さな街の小さな公園に広がる雪。
その中に独りの俺は………いや、正確に言うと独りになった中学一年生の俺、仲田涼(なかた りょう)は、足下にじわじわと広がる妙に赤黒く鮮明に見える液体と、今となっては誰かもわからない友達を見つめていた。
さっきまでは楽しく話していたのに
俺が余計なことを言ったから?
「違う…………そうじゃない」
じゃあ何故、目の前で友達が…………死んでるんだ?
なにも思い出せない……思い出したくない。
目を強く閉じて、涙が溢れそうになるのを抑える。
「ねぇ、君………?大丈夫?」
「えっ?」
顔を上げると、目の前には水色の髪止めをして、冬だと言うのに短めのスカートを着た同い年くらいの女の子がたっていた。
…………見覚えがある。この子は………?
大丈夫?って大丈夫な訳がないだろ。目の前で友達が死んだんだから。
そう思って、足下を見る。
「えっ!何で?」
足下には、真っ白な雪が積もっているだけだった。
さっきまであったものが無いなんておかしい。いったい何が………
「どうしたの?何かあったの?」
女の子は、こっちを心配そうに見て聞いてきた。
この人にさっきまでここには死体があったなんて言ったら、変な人だと思われてしまうに違いない。
「いっ、いや。何でもないです。すみません。」
「でも君、なんか汗だくだよ。冬なのに。」
この子の喋り方、立ち振舞い。何処かであった気がする。何処かはわからない。
「いや、何でもないんです………。あの、何処かで会ったことあります?」
俺が女の子に問い掛けると
「………いや、ないと思うよ?」
と答えてきた。
勘違いか………。
そろそろ日が暮れる。いったん家に帰って、電話してみよう。あいつが電話に出なければ今あったことは………
「ねぇ、君ってなんて名前?」
「えっ、僕は………永田 涼ですけど………。」
何故いきなり、名前を聞くんだこの人は……。
「そうなんだ。私は、田中 愛華(たなか あいな)。よろしくね?」
よろしくって、もう会うこともない人に何でそんなことを?
また、足下を見たがやはりそこに彼の血もなにもありはしなかった。
「じゃ、涼君。また、どこかで。」
「えっ?」
あわてて前を向いたがそこに、女の子の姿は無かった。
「また独りかよ………。」
時計の針は、6時を指していた。
あの時に、何があったか思い出せない。あいつが何か言っていたような気がするんだが。
考えないでいよう。今は………。
不思議な感覚と不安を抱えて、真っ白な地面に一歩踏み出した。はずだった。
う~ん。どう?面白くなかったでしょ?