ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。   作:甲斐太郎

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P3Pin女番長 プリーテス戦ー①

5月9日(土)

 

今日は満月で、影時間の中で出会った不思議な少年から“試練が来る”と予告された日。

 

あの言葉が気になり、私はどこにも寄り道をせずに寮へ帰る。幸い今日は土曜日で、総司くんがご飯を作りに来てくれる日である。足取りは幾分か軽かった。だから…

 

「こんなのあんまりだよ……」

 

期待が大きかった分、落ち込む反動も大きかった。

 

出張から帰ってきた両親と一緒に食事をするということで桐条先輩に外泊届を出し家に帰ってしまった優ちゃん。優ちゃんが寮にいないということは総司くんがご飯を作りに来る必要もないので、本日の昼食と夕食は自前で準備しなくちゃならない。

 

今夜の影時間はいつもと違うことが起きる可能性が高いのに、優ちゃんいない&総司くんのご飯の恩恵がないのはもの凄く痛い。

 

順平はこれから出かけるらしい。私もどこかで食べてこないと……。

 

 

夕食はゆかりと待ち合わせて、定食わかつ巌戸台店で食べる。

 

出されたものを食事しているとゆかりが箸を置いて話しかけてきた。

 

「ねぇ、湊もある程度作れるんだよね」

 

「うん、勿論。自炊しないといけない時期もあったし」

 

「……優ちゃんも作れるらしいからさ、私たちで平日は当番制にして作らない?材料費は桐条先輩に言ったら出してもらえるだろうし」

 

私も魚のフライをしっかり咀嚼して飲み込み、頷いた。

 

何もかもを総司くんに任せようとするからいけないのだ。せっかく土曜日は来てくれるって言ってくれているんだから、日曜日まで食べられるようにカレーやビーフシチューなどのものを作ってくれるように頼めばいいんだし。

 

「ゆかりは火曜と金曜が部活だったよね。そして優ちゃんは月曜、水曜、金曜が部活。……私が火曜と金曜を担当して、ゆかりが月曜と水曜、優ちゃんが木曜で、1回してみようか」

 

「とりあえず3人分でね。順平たちも後から食べたいって言ってきたらその時に考えよっか」

 

「そうだね」

 

その後も私とゆかりはご飯を食べつつ談笑して時間をつぶし、寮へと帰るのだった。

 

 

 

そして、深夜。巌戸台分寮内に緊急招集の警報が鳴り響いた。

 

作戦室に駆けつける私たち。

 

「何スか!?敵スか!?」

 

「タルタロスの外で、シャドウの反応が見つかった。詳しい状況は解らないが、先月出たような“大物”の可能性が高い」

 

順平の質問に桐条先輩は私たちに状況の説明を続ける。

 

影時間は知覚できない一般の人にとって“無い”もののため、その間に街を壊されたりなどすれば矛盾が生じてしまう。桐条先輩としてはそれだけは絶対に阻止したいようだ。

 

「ま、要は倒しゃいいんでしょ?やってやるっスよ!」

 

桐条先輩の説明に順平は軽く答える。

 

豪胆なのか、それとも考えなしなのか、ゆかりが呆れたように抗議の声をかける。

 

「また、あんたは……」

 

順平とゆかりのやり取りを一瞥した桐条先輩は、拳を鳴らしてやる気を見せている真田先輩に向き直り一言、釘をさす。

 

「明彦はここで理事長を待て」

 

「なっ……冗談じゃない!?俺も出る!」

 

「まずは身体を治す方が先だ。足手まといになる」

 

「なんだと!」

 

桐条先輩の指示に真田先輩は大声をあげて抗議するが、完全に怪我が治っていない真田先輩を戦闘に参加させるつもりは桐条先輩になさそうだ。

 

「明彦……もっと彼女たちを信用してやれ。皆、もうタルタロスを探索し実戦をこなしているんだ」

 

「……くそ」

 

桐条先輩の説得に納得がいかないのか真田先輩は悔しそうに表情を歪ませている。

 

「まかして下さい!オレ、マジやりますからっ!」

 

そんな真田先輩を見て順平は自信を込めて宣言する。それを見ていた桐条先輩は思案するように眉を顰めさせた後、私に向き直った。

 

「仕方ないな……結城。現場の指揮を頼む」

 

「やっぱりそう来るんスね……」

 

その言葉を聞き、順平はあからさまに落胆する。

 

「鳴上がいないから戦力は落ちるが頼むぞ……できるな?」

 

「了解です」

 

桐条先輩の確認に私は短く答え、ゆかりと順平に目配せした。ゆかりは頷いてくれたが

 

「つーか、もうこのまま、リーダー固定っぽいよな」

 

と、順平は小さな声で呟き私を見ることはなかった。

 

「美鶴は外でのバックアップに準備がいるだろう。他の3人は先行して出発しろ」

 

「駅前で待っていてくれ、すぐに追いつく」

 

真田先輩の言葉を引き継ぎ、桐条先輩が指示を出す。私たちは指示に従い作戦室から出て階段を降りた。

 

 

 

 

「まだかな……」

 

「すぐ来んだろう」

 

指定された巌戸台駅前で、桐条先輩を待つゆかりの呟きに順平が何気なく答える。

 

ゆかりはその言葉に答えることなく、何気なく夜空を見上げている。

 

「今夜は満月か……なんか、影時間に見ると不気味ね」

 

「確かに、もの凄く大きい上に明るいしね」

 

私たちの言葉を聞いて順平も夜空に浮かぶ月を眺める。すると遠くからエンジン音が聞こえてくる。

 

「……ん?なんだぁ!?」

 

その音に最初に気づいた順平が立ち上がって音の発生源を探っていると、タルタロスで支援機材を搭載していたバイクに乗った桐条先輩が到着した。私たちの前でバイクを止めエンジンを切った桐条先輩は颯爽と降り立ち、ヘルメットを外す。

 

「遅れてすまない。いいか、要点だけ言うぞ。情報のバックアップを今日はここから行う。君たちはタルタロスのように動け」

 

色々と聞きたいことがある私たちのことは放っておいて、桐条先輩は説明を続ける。

 

「シャドウの位置は、駅から少し行った辺りにある列車の中だ。そこまでは線路上を歩くことになる」

 

「え、線路を歩くって、それ、危険なんじゃ」

 

順平は桐条先輩が乗ってきたバイクを見ながら言う。

 

「心配ない。影時間には機械は止まる。無論列車も、動くはずがない。このバイクは“特別製”だから例外だがな」

 

桐条先輩は順平を含め私たちに向かって微笑む。

 

「それに状況に変化があったら私が逐一伝える。よし、では作戦開始だ!」

 

桐条先輩の指示に従って私たちは駅構内に入り線路に降り立った。

 

『そこから200メートル前方に停車しているモノレールがあるはずだ。乗客に被害が出るとマズイ。急行して……いや、待て』

 

「どうしたんスか、桐条先輩」

 

急に言い淀んだ桐条先輩の声。順平は何か変わったことがあったのかを尋ねる。

 

『この反応は戦闘をしているのか?戦っているのは鳴上と、……荒垣っ!?』

 

荒垣っていう名前に私は聞き覚えはないけれど、桐条先輩にとっては意外な人だったようだ。それに、優ちゃんがすでに戦っているなんて

 

「2人とも急ごう。何が起こっているのかわからないけれど、私たちならきっと大丈夫だよ」

 

「うん」

 

「おう!さっさと行こうぜ、リーダー!」

 

私たちはそれぞれ武器を握りしめ、モノレールへと走るのだった。

 


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