ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。   作:甲斐太郎

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P3Pin女番長 巌戸台学生分寮⇒『黄泉転生坂』―③

装備やアイテムをしっかりと揃えた私たちは階段を上がって周囲を警戒しつつ見渡した。

 

窓の外から差し込む柔らかな陽光は眠気を誘う暖かな物。壁はコンクリートで作られた壁ではあるものの、廊下や天井には年季の入った木が使用されていて、なんだか月光館学園とは違う、日本の古き良き学校って感じだ。中でも周囲をきょろきょろと見渡していた優ちゃんが首を傾げながら呟いた。

 

「えっと、ここってもしかしたら八十神高校かもしれません。文化祭で入っただけで、はっきりとは言えませんけれど」

 

現実に存在している学校をモチーフとされていることを聞き、総司くんが何者かに操られ、彼の記憶や知識が利用されているという話に信憑性が出て来た。

 

後方にはエントランスに続く階段があるだけなので、私たちは廊下の先へ進もうとする。しかし、とある教室の前を通り掛ると同時に扉が開き何かが飛び出してきた。運悪く扉の前にいて、中から出て来た者に攻撃されたのは真田先輩と荒垣先輩の2人。完全に意識外からの攻撃で深くはないものの傷を負った。

 

教室から飛び出てきたのはムーンライトブリッジで戦った覚えのあるクナイを両手に持った者と丸いキグルミのような物であった。

 

『ハハハハハッ!お前らの寝首を掻けるの、待ってたんだぜ!なぁ、影時間を終わらせる英雄御一行さまよ?』

 

『愚鈍なお前たちに教えてやる。いくらあがこうとも、無意味であると』

 

ざっくばらんに切った茶色の髪、ヘッドホンを首に掛けた学生服を着た少年と、青い毛並みの丸いボディを持つキグルミは不気味な黄金色の瞳を私たちに向ける。そして、それぞれが真田先輩たちを傷つけ、帰り血を浴びた武器を舐め上げる。

 

元となった人物がどんな人たちか知らないけれど、シャドウであることには変わりない。私は方天画戟を構え手前にいた茶髪の少年に斬りかかる。

 

大上段から振り下ろした刃を、両手に持っていたクナイを器用に交差させて、変則的な真剣白刃取りを見せた。少年のシャドウは、にやりと私を見て嗤った。そして、攻撃を受け流すと同時に、隙を見せる形になった私の背中に回し蹴りを叩き込んできた。

 

攻撃を受け流されていたことと、背後からの攻撃によって勢いづいたこともあり、私はそのまま前のめりに倒れてしまった。咄嗟に立ち上がろうとしたが、それよりも先に

 

『痛えか?すぐにラクにしてやんぜ!ハハハッ、“ジライヤァ”!』

 

少年のシャドウが言うと同時に、彼の背後に手裏剣を両手に持った人型のナニカが現れる。それがペルソナだと気付いたのは彼がスキルを発した後だった。

 

『切り刻まれな!ガルダイン!!』

 

目の前で黒い突風が吹き荒れたと感じた瞬間、胸ポケットから1枚のペルソナカードが飛び出し私を淡い光で包み込んだ。

 

 

□□□

 

時は少し遡る――。

 

教室から飛び出してきた2体のシャドウの内、少年のシャドウと湊が戦い始めた瞬間、私たちは彼女と引き離された。暖かな陽光が差し込む廊下にいたはずなのに、いつのまにか私たちは黒い霧が立ち込め、周囲の様子を一切知ることの出来ない異様な空間へと移動させられていた。アイギスに確認を頼むと完全に別の場所に移動させられていることが分かった。そして、近くに湊がいないということも。

 

『我は影……真なる我。愚かだな。見て見ぬフリをしていれば、ラクだったものを』

 

どこか聞き覚えのある低い男の声が聞こえたと思うと同時に、辺りを黒く染めていた霧が晴れる。そこにいたのは、顔の半分が掛けたキグルミのシャドウであった。ただし、大きさが尋常ではない。

 

とはいえ、4月からずっと大型シャドウと戦ってきた私たちを動揺させるには至らない。岳羽の回復スキルを受け、傷の癒えた明彦と荒垣の2人のボルテージはすでに高まった状態だ。私は迅速にこいつを片づける必要があると確信し、レイピアをすっとキグルミのシャドウへと向けた。

 

「我々はどうやってでも屋上へ向かわなければならない。お前程度の相手に時間は掛けてはいられないのだ!行くぞ、お前たち!!」

 

「「「「おおっ!!」」」」

 

先手で明彦が『タルンダ』を使い攻撃力を下げる。それと同時に伊織が『マハラクカジャ』を使い全員の防御力を、コロマルが『マハスクカジャ』を使って命中と回避力を向上させた。その間にアタッカーである荒垣と優の2人がキグルミのシャドウに接近し、それぞれの武器を用いて攻撃を与える。私は左手で召喚器を構えると目配せした。

 

「続け!ブフーラ」

 

「お願い、イオ!ガルーラ」

 

「アギラオ弾です」

 

「ジオンガ弾であります!」

 

私、岳羽、天田、アイギスの順で、氷・風・火・雷属性のスキルと攻撃を与える。

 

タルタロスを探索していく上でどうしても戦わなければならない初見のシャドウの弱点を知るために行う第一段階攻撃である。その後、斬・打・貫属性も調べなければならないのだが、それはまた別とする。

 

『皆さん!そいつは氷属性を吸収するようです。そして他の属性にも弱点はないようです』

 

山岸の報告を聞いて、思考する。まるでもなにも、強さや弱点も含めて大型シャドウそのものでないかと。ならばやりようはある。私は空間内にいる全ての人間に聞こえるように声を張り上げた。

 

「相手を弱体化させつつ、こちらの戦力アップスキルを切らすな!私はスキル的に相性が悪い。だから、指揮に徹させてもらう!」

 

私はその場から一歩引いて、視野を広く持つ。

 

5月の時のモノレールに現れた女教皇のシャドウは戦いに集中する荒垣と優の背後に雑魚シャドウを召喚し不意を突いた。その攻撃を受け、優は命に別状はなかったとはいえ1週間もの間、ベッドの上で眠り続ける事になったのだ。あの時と同じ轍は二度と踏まん!

 

するとキグルミのシャドウに動きがあった。我々の中でも攻撃力が高いメンバーの猛攻を受けているにも関わらず、身じろぎひとつしなかった奴が両手を上げたのだ。身体を震わせ、何かをしている様子だった。

 

『皆さん、敵は『コンセントレイト』を使い精神を集中させています!気を付けてください』

 

「全員、防御だ!!」

 

私の指示と敵の攻撃はほぼ同時であった。敵のシャドウが放ったのは私のペンテシレアが使うスキル、『ブフーラ』の全体攻撃『マハブフーラ』であった。メンバーは皆、ギリギリで防御が間に合い大ダメージを受けた者はいなかったものの、氷結属性を弱点に持つ明彦が防御したにも関わらず膝をついてしまっている。『コンセントレイト』で精神力を高めた後の攻撃だったからだと、私は下唇噛みしめた。そのすぐ後に岳羽を救援に向かわせる。

 

キグルミのシャドウの傍で戦う荒垣と優をどうするか、悩んでいると空間内に彼女の声が響き渡った。

 

「ペルソナチェンジ、リャナンシー!」

 

声の主の方を見ると黒い衣も身に纏った銀髪の女の姿が映った。話には聞いていたが、まさか優まで湊と同じく、多数のペルソナを扱えるようになるとは、頼もしい限りだ。それに、彼女が召喚したペルソナは氷結属性を無効化する。すなわち、優はキグルミのシャドウに対し、今後ずっと優勢な状態であることが確定したのだ。ならば私は敵の動きを解析し、全員に指示を出すことに集中すれば良い。

 

「さぁ、気を引き締めて行くぞ。湊は1人で戦っているのだからな!さっさと倒して、彼女の援護に向かうぞ」

 

私はレイピアを鞘に納めると左手に召喚器を持ったまま、空間内を駆けるのだった。

 

 

□□□

 

『オイオイ、マジかよ。それは反則じゃね?』

 

少年のシャドウの困惑する声に導かれるようにして、私が目を開けるとそこには大きな鷲が羽を広げる後ろ姿があった。

 

その鷲は少年のシャドウに対し威嚇するように甲高い咆哮を上げる。その咆哮を聞いて、少年のシャドウの後ろにいたペルソナが消え去った。私は、私を守る様にして悠然しながら、ギリギリと歯が砕けんばかりに歯軋りをする少年のシャドウの前に佇むペルソナの名を呼ぶ。

 

「フレースヴェルグ……」

 

審判のアルカナを持つ鷲の姿をしたペルソナ。

 

少年のシャドウが呼び出したペルソナのスキルが発動した瞬間、私の意思とは関係なく胸ポケットから飛び出して守ってくれた。フレースヴェルグはタナトスと同様に質量を持った状態で存在しているようだが、タナトスと違い私の中から何かが奪われていくような感じはしない。

 

『クソがっ!こんなペルソナを持っているなんて聞いてネェぞ!』

 

そんな悪態をついた少年のシャドウはフレースヴェルグに対し持っていたクナイを投げつけて攻撃してくるが、フレースヴェルグが啼くと同時に発生する突風によって全てが弾かれる。

 

同じ風属性スキルを使うモノ同士の戦いで千日手かと思われたが、フレースヴェルグの羽の随所に散りばめられている宝石のひとつひとつが淡い光を放ちながら宙に浮かびあがっていく。そして、それは一箇所に集まり、徐々に大きな光を放つ物体となっていく。

 

その物体から放たれる光は前に見たことがある。“あの時”は私たちに向けられたもので、恐怖以外の何物でもなかったが、今から放たれようとしているのは私を救うための光。私は小さく、そのスキルを口にする。「メギドラオン」と。

 

 

□□□

 

キグルミのシャドウとの戦いを進めて行くと相手の攻撃には一定のパターンがあることに気付いた。大きな攻撃をする時には必ず前兆があり、それに気を付けていれば被害は最小限に抑える事が出来たのだ。致命傷を避けつつ攻撃を続けて行くと、キグルミのシャドウは形を保てなくなり歪んでくる。

 

形勢が不利になるとキグルミのシャドウはペルソナを封じる攻撃を仕掛けて来たが、ここまでくれば吸収し回復させてしまう氷結属性を除く、全員の最大火力の攻撃をぶち込めば倒せる段階まで来ていた。

 

「各員、自分が持つ最大威力のスキルを叩き込m」

 

私がそう指示しようとした瞬間、キグルミのシャドウが動きを止めて後ろに振り返った。その行為に全員の目が点になる。

 

敵の最大の隙に違いは無いのだが、どういうことなのかを山岸に尋ねようとしたその時、暗闇に包まれていた空間を切り裂くように煌々とした光が舞い込んできた。いや、その光は凄まじい攻撃力を孕んでおり、その光に焼かれたキグルミのシャドウは断末魔を上げつつ消滅していった。

 

唖然とする私たちの視線の先には大きな鷲を従えた湊が立っていて、当人もあまりな状況に困惑している様子であった。

 


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