ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。   作:甲斐太郎

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『単純度数AAA(トリプルエー)お気楽度数TTT(テレッテッテー)逆襲の全力空転スラッガー!伊織順平!!』

「よっしゃ、行くぜぇ!!」

『書く絵は前衛的!無気力攻撃は積極的!選んだ男はテレッテッテー!チドリ!!』

「……で?」




P3Pin女番長 SEESシャドウ戦―②

ムーンライトブリッジに現れた順平の姿をしたシャドウの合図によって生み出された人型のシャドウはただ向かってくるだけで避けたり、攻撃を受け流したりするだけで対処は楽だった。しかし、特設されたリングより先には優ちゃんがぶつかって気絶したのと同様の透明の壁が出現していて先に進むことが出来ない。

 

それ以前にリングに囚われているゆかりとアイギスを助けないといけないのだけれど。

 

「ん、こいつら」

 

「動きを、……止めた?」

 

荒垣先輩と天田くんが困惑の声を上げた。今までずっと私たちにただ向かってくるだけであった人型シャドウたちが足を止め、武器を持ったまま霧が立ち込めるムーンライトブリッジ上空を見上げている。奴らが現れた直後に拳を打ちこんで拘束されていた真田先輩も解放されたようで訝しがっている。

 

私たちは顔を見合わせた後、ゆかりとアイギスが囚われているリングに駆け寄った。透明の壁に阻まれた向こうには機能を停止したアイギスを抱きしめるゆかりの姿があった。

 

「ゆかり!アイギス!」

 

私は透明の壁に方天画戟を打ち付けるが、刃が当った箇所に波紋が出来るだけで壊すことは出来そうにない。

 

必死に2人へ声を掛ける私たちであったが、リング内はちょっと雰囲気が微妙であった。その理由は気まずそうに口笛を吹いている順平のシャドウと、頬を引き攣らせ唖然としているゆかりの姿のためだ。

 

「ゆかり……どういう状況なの?」

「湊……。それが、急に攻撃を止めちゃったのよ。アイギスがほぼ完封されちゃったから、身構えていたんだけれど」

 

困惑した様子でゆかりが視線を上げる。そこにいるのは水色の野球ユニフォームを身に纏った順平のシャドウと黒いゴシックロリータファッションの紅髪の少女のみ。今夜の満月のように不気味な黄金色の瞳が……って、あれ?

 

『へぇ、世界が変われば存在も変わるのか。やり取りからして、“お前”が俺っちの世界の“アイツ”みたいだな。ああ、安心しろよ。俺っちはもうゆかりっちたちを攻撃しない。が、このリングはもうしばらくこのままだから、暇つぶしに話でもしようや』

 

そこにいた順平のシャドウの瞳は本物の順平と同じ瞳をしており、敵意もなくなっていた。喋り方も私たちの知る順平のそれと変わりない。その様子と言葉に厳しい表情を浮かべていた美鶴先輩が尋ねかけた。

 

「目的はいったい何だったんだ?」

 

『おお、“若かりし頃”の桐条先輩じゃないっすか。ほほう、まだこの時は“普通”の格好だったんすね。……ええっと目的っすか。言葉通り、足どめっすよ』

 

順平のシャドウは苦笑いを浮かべながら言い切った。言葉の端々に気になる単語があったけれど、話が進まないので基本スルーする。尋ね返してこないのを見て、順平のシャドウは言葉を続ける。

 

『現状を確認すっけど、このメンバーがいて俺っちがいないところを見るとあの日だろ?9月5日のハーミット戦。俺っちが寮の屋上でストレガのメンバーであるチドリと相対する日だ。ちなみにチドリは俺っちの後ろにいる彼女だ』

 

順平のシャドウが親指を立てて、後ろに立つ少女をサムズアップする。順平のシャドウに指差されたチドリという名の少女の姿をしたシャドウはゆらゆらと身体を左右に揺らしてその場に佇んでいる。ただその手には荒垣先輩と同様の大きな斧を持っておりアンバランスさが際立っているが。

 

「今も私たちが知るお前は寮の屋上にいるのか?」

 

『いんや、寮からは追い出されているんじゃねーの。腐ってもペルソナ使いだしな。つか、さっき言った足どめの件なんだが、ぶっちゃけた話、桐条先輩や真田サンは関係ないんすよ。目的は、お前だ』

 

順平のシャドウはまっすぐ私を見つめながら、そう言い切った。ムーンライトブリッジにいる仲間全員の視線が私に集中するのが分かった。私は手に持っていた方天画戟の柄をぎゅっと握りしめる。

 

『さっきまでは全然、手も足も口まで操られていたけれど、今は何の拘束もない。つまり、俺たちが辿ったあの結末にはどうやっても辿りつかなくなったってことだ。だから、こんなことも言える。……あんたたちは全員、幾月のおっさんに騙されていたんだってこともな』

 

「「「はぁ?」」」

 

急に真面目な顔をした順平のシャドウが告げた言葉に美鶴先輩を始め、ゆかりや風花も疑問の声を上げた。天田くんはコロマルと一緒に首を傾げている。

 

『こんなこと、いきなり言われても信じられないかもだけれど、事実だ。実際に“俺たち”は裏切られた。そして、桐条先輩の親父さんは死んじまった』

 

「な、なんだと!?どういうことだっ!!」

 

美鶴先輩が声を荒げて、私たちと順平のシャドウやゆかりたちがいるリングを隔てている透明の壁に勢いよく殴りかかった。当然、ビクともしない訳だが、衝撃は伝わったらしくゆかりはアイギスを抱えたままビクビクしている。

 

『まぁ、アレっすよ。屋久島で見せられたビデオは幾月のおっさんが手を加えたものだったんすよ。アレも全部出鱈目でゆかりっちの親父さんは世界を守った側だったって訳』

 

「なぁっ!?ちょ、ちょっと待って!?」

 

次々と齎される情報にてんやわんやになるメンバーたち。特に身内のことを言われた美鶴先輩とゆかりの2人がテンパっているが、逆に落ちついているメンバーもいる。私と荒垣先輩である。

 

「どう思います、荒垣先輩」

 

「さぁな。さっきまで、俺たちを狙っていたあいつ等を見てみろよ。現れた時よりもディティールが良くなって、顔つきや服の細部まで分かる程じゃねぇか」

 

私は荒垣先輩に言われて初めて気付いた。確かに先ほどまで子供が作った泥人形のようだったシャドウたちは完全な人型となっていた。その人型のシャドウに共通するものは、キグルミの物以外が眼鏡をかけていることだろうか。

 

その内の扇を持ち優雅な振る舞いをする者と武器は何も持っていないが軽快なフットワークを刻む者の姿は夏休みに出会った少女たちを彷彿させる。けれども、それらはリングに釘つけになっている私たちには一瞥もくれずに上空を見上げたままだ。

 

『俺っちも人の事を言えないんだけれどよ、お前らも齎される情報を鵜呑みにしていちゃ駄目だぜ。間違ってもソイツに全部を押しつけんのは良くな……って、やべぇ!ここで俺っちにお前らを足止めさせていたのは、最後の大型シャドウが来るまでの時間稼ぎだったのか!!』

 

ヘラヘラと笑いながら美鶴先輩やゆかりの質問に答えていた順平のシャドウであったが、霧を吹き飛ばして上空に現れた十字架に吊られた大型シャドウを見て大声を上げた。

 

私たちは咄嗟に武器を構えたが、大型シャドウから発せられるプレッシャーに足が竦み上がる。あまりの戦力差に私の心は先日の死神との戦いがフラッシュバックし、普通の女の子らしい悲鳴を上げる。ゆかりは青褪め肩を震わし、真田先輩と美鶴先輩は距離を置こうとする。コロマルと天田くんは気絶したままの優ちゃんと風花を自分たちの背に隠そうとしている。

 

だが、順平のシャドウが言う“最後の大型シャドウ”に攻撃を仕掛ける者たちがいた。先ほどまで私たちを襲って来ていた元々は泥人形だった人型シャドウたちだ。戦法は変わらず手に持つ武器で延々と攻撃するだけだが。

 

「私たちの手伝いをしてくれているってこと?」

 

リングで怯えていたゆかりが放った言葉に順平のシャドウは大きく首を横に振った。

 

『さっきも言っただろ、ゆかりっち。幾月のおっさんが言っていた大型シャドウは倒したら拙いんだ。世界に終焉を齎す『ニュクス』っていう化け物を生み出すことにしかならねぇ。だが、このままアイツラに“取り込まれちまう”のも拙い。前者はまだ猶予があるが、今起きていることは完全なイレギュラーだ。出来るならばアイツラより先にあの大型シャドウを倒さ『ヒュッ』ないと……って、あれ?』

 

リングの中央にボトリと落ちた順平のシャドウの生首。

 

切られた個所から血が噴き出すようなことはなかったけれど、斬り落とされるのと頭が宙を舞って落ちるのを直視してしまったゆかりは順平のシャドウと目が合った瞬間に気絶し、風花が天田くんも目を手で覆いつつ甲高い悲鳴を上げた。それを聞いて何事かと先輩たちが振り向いたと同時に手に持った斧を勢いよく振り下ろし、順平のシャドウの首から下の身体を真っ二つに切り裂いた紅髪の少女のシャドウが口を開いた。

 

『シャベリスギダ』

 

その容貌からはまったく想像が出来ない、しわがれた低い男性の声。順平のシャドウは頭部だけの状態でカラカラと笑いながら言い返す。

 

『おいおい、急に俺っちを自由にしたのはそっちの不手際じゃねーか。俺っちはこれでもシャドウワーカーの1人なんだよ。あんまり舐めるんじゃねぇぞ』

 

『ククク、笑止。タダノ人数合ワセニ過ギナイ癖ニ』

 

順平のシャドウと謎の言い合いをしていた紅髪の少女のシャドウが、彼の生首に斧を振り下ろすと同時にガラスが割れるような音が鳴り響き、私たちの行動を制限していた透明の壁が消えて無くなった。順平のシャドウに止めを刺した紅髪の少女のシャドウもただの泥へと戻ってしまい最終的には何もいなくなってしまった。

 

当然、大型シャドウと戦っていた人型のシャドウも跡形もなく消えて無くなった。ただし、十字架に吊られた大型シャドウを、自らを構成していた黒く意思を持った泥で埋め尽くして取り込んだ後に。

 

ゆかりとアイギスを介抱し、意識が戻ったのを確認した私たちは話し合いを行う。順平のシャドウから齎された情報はあまりに多く、見逃すことの出来ない類の物だったからだ。

 

「美鶴、順平のシャドウが言っていたことは要するにどういうことだったんだ?」

 

「ちょっと待ってくれ、明彦。私も混乱しているんだ」

 

確かに美鶴先輩の言うように情報量が多すぎかつ内容が複雑すぎるため、うまくまとめるのは難しい。私自身に関係することだけをまとめても、内容が濃い。

 

今まで得て来た情報もまとめて考えてみる。

 

・10年前の事故は美鶴先輩のお祖父さんが引き起こした

 

・実験によって生み出された死神のアルカナを持つシャドウを倒すために、アイギスが戦いを挑み、ムーンライトブリッジにて死闘が繰り広げられる

 

・この戦いに一般人であった私や両親が巻き込まれる

 

・死神のアルカナを持つシャドウを弱らせることは出来たが倒しきれなかったアイギスは素質のあった子供(私)に封印することでその場を収めた

 

・月光館学園に私を呼び戻したのは幾月理事長

 

・理事長の言うとおりに全ての大型シャドウを倒してしまうと「死の宣告者」と呼ばれる者が現れる。

 

・世界に終焉を齎し、全ての生命に死を齎す「ニュクス」と呼ばれる人間では倒せないラスボスが現れる

 

・なんやかんやあって終焉は回避されるが、私は死ぬ

 

 

「うん。普通は信じないよね、こんなの。けれど、順平のシャドウは言っていた、自分の知る道筋には総司くんと優ちゃんはいなかったって。私たちの関係も、もっとギスギスしていたって」

 

鍵を握るのは総司くんと優ちゃんであることは間違いない。それにこんなところで立ち止まっていても先に進めない。結局の所、私たちだけでは何も解決しないのならば、前を向いて行かないといけない。

 

「行こう、皆!問題に直面するのは後でいいよ。今はただ前に進もう」

 

私は率先して歩み始める。その後を、困惑した様子の皆がついてくるのであった。


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