ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。   作:甲斐太郎

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P3Pin女番長 SEESシャドウ戦―①

?月?日(?)

 

満月にやってくる大型シャドウの1体であるハーミットを倒し、クラブエスカペイドから外に出るとポロニアンモールは1m先も見通せない濃い霧に包まれていた。

 

「えっ?何、この霧……」

 

「うわぁ、こんなに深い霧はじめて見ました!」

 

ゆかりと天田くんがそれぞれの感想を述べる。私も同意するように頷いていると、店舗から出た先輩方が血相を変えて話し合いを始めた。

 

「なんなんだ、これは!?」

 

「数年近く、ここに住んでいるがこんな霧はみたことねぇな」

 

「それに、まだ“影時間”だろ」

 

真田先輩の一言でいつもの調子を取り戻した美鶴先輩が風花に周囲の状況を調べる様に指示を出す。だが、その成果は芳しくないようで私たちは手探りするような形で寮に向かって歩き出すこととなった。幸いアイギスのナビゲートもあり、どこか変なところに迷い込むようなことはなく、私たちはムーンライトブリッジまで歩いてこられた。

 

「全然、霧晴れないわね」

 

「いくら何でもおかしいです。ルキアの能力も阻害される霧なんて」

 

「前方にナニカいるであります」

 

私は咄嗟に武器である方天画戟を構える、ついでにペルソナもネメアーをセットして奇襲に備える。濃い霧が出ていて戦闘に支障を来たすとはいえ、条件は相手も同じだ。影時間の中で自由に動けるのはペルソナ使いだけ。今の所、確認されているのは私たち特別課外活動部の面々を除けばストレガの連中だけだ。皆も同じ考えなのか、武器を構えその時を待つ。

 

そして、濃い霧の向こうに人影が浮かび上がるのを確認した私は皆の顔を確認し、その人影に向かって話しかける。

 

「こんばんわー。どちらさまですか?」

 

後方で何人かがずっこけた音がした。ゆかりの冷たい視線が背中に突き刺さるが、もしかしたらストレガじゃない可能性もある訳で。けれど、聞こえて来た返事は私たちの誰もが予想していなかった陽気な声であった。

 

『オレオレ、皆ノヒーロー順平サンッスヨ!』

 

霧の向こう側でテレッテッテーのポーズを決める順平の姿に、戦闘態勢を整えていた先輩たちが明らかなため息を大きくついた。

 

「はぁっ!?順平、あんた今まで何をやっていたのよ。今日が何の日か分かっていたんでしょ!!」

 

私の謎の問いかけに尻もちついていたゆかりが緊張を感じさせない順平に文句を言おうと立ち上がって、霧の向こう側へ歩み出そうとしたが、その手をアイギスに引かれ立ち止まった。目を白黒させるゆかりを余所に、霧の向こう側をじっと見据えるアイギスが言葉を紡ぐ。

 

「そこにいるのは順平さんではありません。皆さんは何に見えているでありますか?」

 

その言葉を聞いた私たちは、順平だと思って下げていた武器を構えなおす。

 

『ッハハハハ!気付クノガ遅イゼ、ユカリッチ、アイチャンヨゥ!サァ、ハジメヨウゼェ!!』

 

霧の向こう側にいた順平、いや順平の姿をしたナニカがバットを空に向けて掲げると、4本の柱が降ってきて地面に突き刺さった。その直後、柱が不気味な光を放つ。

 

「ゆかり先輩、アイギスさん!」

 

柱の内側にいる2人の下へ行こうと優ちゃんが駆けだすが、

 

「ぷぎゅっ!?」

 

優ちゃんは私たちとゆかりたちを隔てる見えない壁にぶつかってノックダウン。その場に崩れ落ちた。それと同じタイミングで強風が吹き荒れ、ムーンライトブリッジ上のみであるが、霧が晴れる。橋のど真ん中に設けられたリング。ボクシングやプロレスなんかで使われるリングっぽいものの中に寄り添い合うゆかりとアイギス、そして水色の野球ユニフォームに袖を通した大人っぽくなった順平が佇んでいた。黄金色の瞳を爛々と輝かせ、バットを肩に乗せてニヤニヤと軽薄な笑みを浮かべている。

 

『クハハハハ!『ぷぎゅっ』ダッテヨ、ダッセーナ。モウ少シ、考エテ行動シロヨナ。ツッテモ、俺モ人ノコトヲ言エル立場ニネェガナ』

 

優ちゃんの醜態を見て嗤っていた順平らしきナニカであったが、急に真面目な顔をして帽子のつばを握る。それが何故か、何かを後悔しているように見えた。

 

しかし、次の瞬間には先ほどと同じ軽薄な笑みを浮かべ、肩にかけていたバットをすっとゆかりとアイギスの2人へと向ける。

 

『マァ、コンナコトハ二度トネェダロウシ、タノシマナキャ損ダヨナァ。ケド2対1ハケッコウキツイ。ダカラ、頼ムゼ。“チドリ”』

 

順平らしきナニカがそう言うと、彼の隣に黒い泥の様なものが集まって形を為していく。まるで子供が粘土で遊んで人型を作っていく工程を見せつけられているような光景であったが、ある程度形が整うと霧がその人形を包み込んだ。そして霧が晴れるとそこには黒いゴシック調のドレスを着た赤い髪の少女が立っていた。

 

『……』

 

『コレデ2対2ダ。サァ、戦オウカ。遠慮ハイラネェゼ、見テイタダロ、俺タチハ作リダサレタニセモノダ』

 

順平らしきナニカはバットを、赤い髪の少女は斧を構える。対するゆかりとアイギスは躊躇いながらだが、それぞれの得物を構える。

 

『アアソウダ、見テイルダケジャツマラナイダロウカラヨゥ。ソイツラトデモ遊ンデオイテクレヤ』

 

順平らしきナニカがそう言うと、先ほどのチドリという少女を作った時のように黒い粘土のようなものが形を為していき、人型を模った。ただ、こちらに現れたのはリングにいる彼らとは違い不出来な物。

 

学ランを着た刀を持った者、

 

クナイを両手に持った者、

 

扇を持ち優雅な振る舞いをする者、

 

武器は何も持っていないが軽快なフットワークを刻む者、

 

ガタイの良い肉体を持った者、

 

小柄であるが銃を持った者、

 

丸いキグルミの様な物。

 

それがいくつも現れる。

 

「くっ!風花、アナライズをお願い!天田くんは優ちゃんを守って、真田先輩は」

 

「指示は必要ない、こういう奴らはただ殴ればいい」

 

そう言って真田先輩が近くにいたガタイの良い肉体を持った敵を殴る。しかし、そのまま黒い粘土に殴った拳がずぶずぶと呑みこまれてしまった。ぐっぐっ、と力任せに引き抜こうとするが微動だしない。

 

「な、なにぃっ!?」

 

「「このド阿呆!」」

 

慌てたような声を上げる真田先輩に対して、美鶴先輩と荒垣先輩が怒鳴るのも当然であった。その様子を見ていた他のメンバーは距離を取る。

 

「皆さん、アナライズは済ませました。このシャドウたちは攻撃を全て吸収します。物理攻撃も意味を為しません。よって、リングでの戦いが終わるまで回避するしか方法がありません」

 

「あくまで時間つぶしって、訳か。だが、それだけのためにこんな奴らを用意はしないよな。“普通”」

 

「ええ、何かあるって考えて行動した方がいいですね。まぁ、真田先輩のことは試金石だと思って諦めましょう」

 

こめかみを押さえてため息をつきつつ武器である斧を使ってシャドウを斬り飛ばす荒垣先輩と背中合わせになりつつ、向かってくるシャドウの対処を行う。ちらりとリングを見れば、ゆかりもアイギスと一緒に順平らしきナニカと戦っている。

 

「湊さん!」

 

「っ!!」

 

天田くんの声を聞き、リングに逸らしていた視線を戻し、方天画戟を振るい寄って来ていたシャドウを斬り払う。このシャドウたちはただ向かってくるだけなので、こうやって自分の傍には近づけさせない方法を取るしかない。今回は簡単に終わったと思ったのに……。

 

「……うぅ、大型シャドウ戦でズルしちゃったからかなぁ」

 

「それ、関係なくないか」

 

私の呟きに、荒垣先輩が小さくツッコミを入れるのであった。

 

 


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