ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。   作:甲斐太郎

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P3Pin女番長 選択の結果―① Rルート

8月19日(水)

 

巌戸台学生寮の玄関には私服姿の3人の少年と、美鶴先輩が会話していた。

 

「伊織、鳴上、天田。今朝、お父様から連絡が来たんだが、どうやら理事長を探しているらしい。出かけた先で見かけることがあったら私に電話してくれ」

 

「了解っス。じゃあ、行こうぜ。総司、天田少年!」

 

「このゲーセン初めて行くところなんだよね」

 

「カラオケ2時間歌い放題の料金が95%offとか行かなきゃ損ですもんね」

 

そんなことを会話しながら外出していく彼らを見送った私たちは大きく安堵のため息をついた。

 

順平にゲームセンターやカラオケ店の割引チケットを渡して、総司くんと天田くんの2人を率いて遊びに行かせる。順平に誘われた2人は嬉々として何の疑いもなく出かけて行った。これで作戦の第一段階は終わった。

 

彼らをラウンジから見送った私たちは時間と周囲の状況を見て動き出す。

 

「ここ最近の総司くんの行動というか、言動というか。そういうの見ていて思ったの。彼って湊のこと、もしかしたら女として見ていないんじゃないかって」

 

「確かに。夏祭りの夜に女の子の方からあんな誘い文句を言っているのに、添い寝するだけって……。扱い方がもはや優ちゃんレベルだよ。……いや、妹のように扱っているっていう意味だからね」

 

階段を上がりながらゆかりと風花がそんなことを言う。確かにこの“気持ち”を自覚した屋久島旅行以降、結構アピールしてきたつもりだが未だに手応えがない。ここはひとつ、てこ入れが欲しいところなのだ。

 

「しかし、総司さんの部屋を捜索する理由はなんでありますか?」

 

「アイギスさんって、本屋やコンビニに男しか集まらない区画があるの知っているでしょ。女の人のいやらしい写真集とか、エッチな漫画とか。そういった如何わしいものを持っているのが普通なんだよ。……実物、見たことないけど」

 

「優さん、それでは貴女の方が耳年増であることを宣言しているだけであります」

 

「はぅあっ!?」

 

私の後ろでアイギスと優ちゃんが話ししている。アイギスには手伝ってほしいことがあると昨夜の内にお願いしていただけで、内容は知らせていなかった。そして家主が出かけて行った直後、先輩たちに知られないように気をつけながら伝えると微妙な表情をされた。「家主の許可なく部屋に侵入するのはいかがなものか」、と。直後、ゆかりの伝家の宝刀「あんたが言うな!」の言葉と共にチョップが彼女の頭に振り下ろされたのは言うまでもない。

 

巌戸台学生寮2階の奥。ここが総司くんに割り当てられた部屋である。アイギスのピッキングにより何の問題もなく部屋に入ることが出来た。夏祭りの翌日、目覚めた時と変わらずしっかりと整理整頓された部屋を見て、ゆかりと風花が面食らった。

 

「えぇ~……。男の子の部屋としては殺風景すぎるでしょ」

 

「ははは……。順平くんの部屋は魔境だもんね」

 

「私は兄さんの部屋くらいしか知らないんですけれど、“普通”はこうじゃないんですね?」

 

年頃の男子の部屋のイメージとしては、着た服を脱ぎ散らかして、壁には好きなアイドルのポスターが掛ってて、机の上は教科書やノートが乱雑に置かれている。そんなイメージだったのだが、総司くんの部屋はゆかりが言った通り殺風景すぎる。必要最低限のものしかないって感じだ。

 

「クローゼットの中も衣装ダンスとゲーム機とテレビ以外に、優さんが探しているものは無いようであります」

 

気付けばドアを開けて右側の方にあるクローゼットをアイギスが開いて物色していた。衣装ダンスの引きだしの中も衣服が綺麗に畳まれ、服の色がグラデーションになるように敷き詰められている。その様子を見て、私たちの中の何人かの身体がぐらっとなった。

 

「入り口の左手にはすぐ洗面台。奥にはベッドがあって、窓に向かって勉強机が置かれているっと。セオリーだとベッドの下と勉強机の中が怪しいですよね」

 

優ちゃんがまるで宝物さがしをする少年のようなキラキラとした瞳を私たちに向けながら言う。捜索対象はあなたのお兄さんなんだけどなー。

 

「湊、とりあえず探そう」

 

「うん」

 

私たちはそれぞれ気になる所を重点的に捜索していく。だが……。

 

「部屋中を探したけれど、そういったもの無かったね」

 

「無くてほっとしたけれど、思春期の男子としてはどうなの?何、女の身体に興味無いってどんだけ不毛なの。そんなのダメでしょ」

 

「まさか総司くんが天田くんに優しいのは、それが理由?」

 

風花の何気ない気持ちから発せられた言葉に立ちつくす私たち。とてつもない敗北感によってどんよりとした空気が生み出される。発言をしてしまった風花もどことなく居心地悪そうにしていることから、本当になんとなくで言ってしまったことなのだろう。

 

「皆さん、見てほしいであります」

 

「どうかしたの、アイギス」

 

クローゼットで探索を続けていたアイギスが床の上にテレビを置いた。何の変哲もないそれに首を傾げていると、アイギスがそれを持ちあげながら言う。

 

「一見、何の特徴もないありふれたモデルのテレビでありますが、持ちあげると分かります。普通のテレビと同じようにある程度の重さがあるのですが、持ち上げると重心がずれるんです。つまりこのテレビの中の物が動いている証拠であります」

 

「確かに普通のテレビだと中身が動くなんてことありえないよ。だって、そんなんじゃすぐに壊れちゃうし」

 

風花がそう言ってアイギスの考察を肯定する。するとアイギスはその気になるテレビを分解し始める。程なくしてカバーが取り外され、中にあった物が外気に晒される。だが、それは私たちが期待していたようなものではなかった。

 

「これって、ただの辞典じゃない。なんでこんなものが?」

 

「隠す意味が分からないであります」

 

テレビの中に隠されていたものは『現代国語辞典』や『全訳漢辞海』といった分厚い辞典で、総司くんの行動の意味を推し量れる者はここにいなかった。一番怪しそうなものでさえ、意味の分からないもので私たちのやる気はガタ落ち状態。

 

でもせめて、総司くんのホモ疑惑だけはどうにか払拭させて欲しい。好きになった人がホモショタ好きなんてやだぁー。

 

「ん。なんかはみ出てる。……んにゃあっ!?」

 

その時、優ちゃんが素っ頓狂な悲鳴を上げた。見ると顔を真っ赤にして一枚の写真を握ってワタワタしている。彼女の足元には英和辞典が転がっていることから、あれから何かが出て来たらしい。私はその英和辞典を手元に引き寄せるとパラパラとめくった。そして、気付いた。辞典のページの所々に写真が挟まっていることに。写真が挟まっているページを開き、その写真を見てみる。

 

それにはお尻の部分の水着を直す仕草をしている私とゆかりが映っていた。ちょっと後ろを振り向きながらの行為なので、ちょっとセクシー……?

 

「ちょっ、嘘でしょ!?」

 

「あわわわわわわわわ」

 

どう見てもエロ目線で見られていることに間違いない写真でした。他にも辞典の間から見つかった写真には、ビーチチェアに寝転がっている美鶴先輩の胸が強調されて撮られたものや、私たちを見ながら胸を押さえて落ち込んでいる優ちゃんの写真、四つん這いになって砂浜でお城を作っている私の写真など、バラエティに富んだ物が山ほどあった。

 

「こ、これで、総司くんも女体に興味があるって、分かって、良かったじゃない」

 

「気になるのは、これを撮った人物であります。ちょいちょい背景の方に総司さん本人が映っていることから、彼が撮ったものではありません」

 

「でも、こんなものが撮れる人物なんて。いったい誰が……」

 

「いや、アイギスさんしかいませんよね」

 

「「「はい?」」」

 

先ほどまで顔を真っ赤にして身悶えしていた優ちゃんが、一枚の写真を私たちに手渡してくる。そこに映っていたのは水着姿の私と手をつなぐ撮影者の手と青いワンピースの一部分。

 

「つまり、アイギスが見た動画を切り取って画像化したものを現像したってこと?」

 

「そんなことが出来るのは……」

 

私たちの脳裏に浮かんだのは、ダジャレ好きなおっさんの姿であった。

 

 

◇◇◇

 

 

私たちは現在、優ちゃんに連れられてとある住宅街を歩いていた。総司くんの部屋で見つけた私たちの水着姿の写真なのだが、あれにはほとんど指紋がついていなかった。あれを総司くんがおかずにしている可能性はかぎりなく低かったのだ。そこで提案されたのは、鳴上家にある総司くんの自室に行くことだった。優ちゃんでさえ、月光館学園に転校して学生寮に移って以降は足を踏み入れていないらしい。普段は鍵が掛っていて入れないが、アイギスがいるので問題なく入ることが出来るだろうとのこと。

 

玄関の鍵を優ちゃんが開けて入ると中は蒸し風呂状態だったらしく、冷房をつけてまわってくるから木陰で待っていて欲しいと言われたので自動販売機で冷たいジュースを購入し涼みながら待つことしばし。

 

「それにしても、あっついよねー」

 

「夏だし仕方ないよ」

 

「これが噂に聞く女子トークでありますか」

 

「いや、フツーにしゃべっているだけなんだけれど……」

 

私は会話しているゆかりたちから少し離れた所で、彼女たちの話を聞いていた。飲んでいた缶ジュースを飲みほしたこともあって、購入した自動販売機まで歩いて行く。目的は隣に置かれたゴミ箱に缶を入れる為。けど、自動販売機前に立っていた青い髪の男の子と目が合った。

 

「こんにちは」

 

「え?……こ、こんにちは」

 

どこかファルロスに似た雰囲気の少年から声を掛けられ、私は足を止める。炎天下の中、ミンミンと鳴き続けるセミの声が耳に残る。少年は月光館学園の冬服を着てるにも関わらず、汗ひとつかいていない。

 

「どこかで会ったことありました?」

 

「ううん。初対面だよ。ただひとつ、確認に来たんだ」

 

「確認……ですか?」

 

「そう。君は自分が交わした契約の内容を覚えているかい?自分の決めたことに責任を持つっていうあれのことだよ」

 

「ええ。まあ……」

 

「それはよかった。ほらお友達が呼んでいるよ、早く行った方がいいんじゃない?」

 

言われたまま振り向くとゆかりが大きく手を振りながら私を呼んでいた。どうやら部屋の準備が出来たらしい。右手に残る缶の感触に、ここに来た目的を思い出して自動販売機に目を向けると、会話していたはずの少年の姿はどこにもなかった。まるで最初から誰もいなかったように。

 

缶をゴミ箱に捨てて、ゆかりたちと合流し鳴上家に上がり込む。そして案内された総司くんの部屋の鍵をアイギスが開錠する。踏み入れた彼の部屋は寮の部屋と同じく殺風景で趣味のもの以外は最低限しかない。とはいってもその趣味のものが多すぎる訳ですが。

 

ジャックフロスト人形の山。ガネーシャ貯金箱が箱に入ったままピラミッドのように積み上げられている。本棚にはぎっしりと小説が置かれており、全部読もうと思ったら1カ月は掛りそうなほどある。金物ラックが2つ置かれ、大小様々なプラモデルがポーズを決め立っている。

 

「ここも目に付く場所にはないと考えた方が自然よね」

 

「とりあえず、探してみようよ」

 

そう言ってゆかりたちは寮の総司くんの部屋を探索した時と同じ要領で捜索していく。まぁ、寮の時と違ってガードが緩かったのか普通にグラビアアイドルの写真集だとか、目的が完全に袋とじだなと分かる週刊誌などが見つかった。傾向を見るに総司くんは胸よりもお尻の方が好きの様だ。

 

「なんか意気込んできた割にはあっさりと見つかったね」

 

「見つけたのは無難なものだけど、中学生だとこれくらいが限界かな」

 

見つかった雑誌類を前にしてゆかりと風花が話す。優ちゃんは本棚に置かれた本を眺め、アイギスはクローゼットから取り出した段ボールを開けて中身を見ている。私は風花の隣に座って見つかった雑誌を手に取る。

 

「雌豹のポーズか……。どこでしろっていうの」

 

「そりゃあ、総司くんのベッドの上でじゃない?」

 

「うわぁ、このグラビアアイドルがつけているのって、Tバック?湊ちゃん、今度一緒に買いに行ってあげようか?」

 

「興味あるの風花?」

 

「えっ!?ないよ、全然ないよ。けど、湊ちゃんには必要だと思うの!」

 

私はゆかりと視線を合わせて頷く。風花って意外と腹黒なのではなかろうかと。

 

「こんなん見つけたであります!!」

 

そう言ってアイギスが持ってきたのは1冊の大学ノート。表紙には【ネタ】【設定】の文字が書かれている。本棚を物色していた優ちゃんに、これは何なのかを尋ねると、小さい頃に時折総司くんが書いていたものらしい。双子の自分にさえ頑なに見せようとしなかったもの。

 

「ああ、総司くんの黒歴史が詰まっているってことね」

 

そう言いながらゆかりは大学ノートの表紙をめくった。優等生を絵に描いたような総司くんが小さな頃に書いたという、それの中身が気になった私たちは覗きこんで目を点にした。

 

「何これ?」

 

「えっと……」

 

総司くんが小さい頃に書いたというそれには、現状の私たちのことが書かれていた。未来予知とかそんなレベルではなく、この大学ノートに書かれている内容通りに進んで行っていることに私たちは全員言葉を失くしていた。

 

「何これ、気持ち悪いくらい的中しているんですけど」

 

「今まで戦ってきた大型シャドウのことだけでなく、これから戦うことになるハーミットやストレングス、フォーチュンにハングドマンのことが書かれてあるであります。それに10月4日と11月4日のこれは見過ごすことはできません」

 

10月4日は荒垣先輩が死んで、11月4日には理事長の裏切りと美鶴先輩のお父さんが死ぬって書かれている。こんな詳細なことまでも総司くんは最初から知っていたのに、どうしてあんな……。

 

「総司くんは、一体何者なの?」

 

「聞きに行きましょうよ。今なら間に合います。荒垣先輩のことも、美鶴先輩のお父さんのことも、大型シャドウだってこれ以降を倒さなければラスボスのニュクスも降りて来ないってことですよね?」

 

一番ショックを受けているはずの優ちゃんの提案に頷く面々。

 

「それは出来ないよ」

 

だが、立ち上がる前に声を掛けられた。聞き覚えのない声に困惑するゆかりたちであったが、私はすぐに声の主が分かった。

 

「さっきの……」

 

「僕の事はどうでもいい。耳を澄ましてごらん、聞こえてくるだろう?」

 

青い髪の少年が耳に手をかざすと、廊下の先から音が聞こえてくる。何やら重大な事故が起きた直後のような野次馬の声を含めた騒がしい音が。

 

「これも君が選択した結果さ。君の中に眠るデスは僕が貰って行くから安心して、……絶望するといいよ」

 

青い髪の少年が私の肩に触れる。身体の奥底に眠っていたナニカがごっそりと消えた感じがして、私はその場におもわず膝をついた。そして、知ることになる……。

 

 

この世から1人いなくなったことを……。

 

 

◆◆◆

 

 

『こちら人身事故のありましたポートアイランド駅です。帰宅ラッシュと重なり、混雑状態で動くことができません。目撃者によりますと被害者は13歳から15歳くらいの少年で、電車を待つために友人や弟らしき子どもとホームで待っていたところ、背中を押され構内に落下しそのまま急行の列車に轢かれたとのことです』

 

 

『加害者の40台後半の男はすぐに駅員に捕えられたとのことですが、【新しい世界には滅びが必要】【私は次の世界の皇になる】といった意味不明の言葉を発しており現在警察にて事情徴集が執り行われています』

 

 

『被害者の身元が判明しました。月光館学園中等科3年の――――』

 


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