ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。   作:甲斐太郎

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P3Pin女番長 チャリオッツ&ジャスティス戦―③

8月6日(木)

 

旧日本帝国陸軍の地下施設跡にて相対することとなった大型シャドウの姿を視認した瞬間、古いけれど確かな情報を持つアイギスと、剣士としての直感から目の前の相手がヤバイ存在と認識した優ちゃんが声を張り上げた。

 

「敵シャドウの射線上に入ったら駄目であります!」

 

「こいつが攻撃行動時は本気で逃げないとまずいです!」

 

2人は私たちに向かって警告を発すると、敵シャドウの両側に移動して攻撃を引きつけるように息を合わせて動く。パーティーの前衛を務めるはずであった2人の行動に緊張が走るメンバーの前に、敵シャドウの全貌が露わになった。

 

キャタピラを動物の手足のように使って4本足で立つ、一昔前の主力兵器。恐らくここに来るまでに見て来た手記の主が作った旧日本陸軍の兵器、それを乗っ取ったものだろう。

 

『これが……ここに来るまでにあったキャタピラの正体!?敵タイプは正義……じゃなくて、戦車?あ、あれ?』

 

風花の戸惑った声が頭に響く。風花のペルソナであるルキアは後方支援専門。これまでも私たちをずっとサポートしてきた信頼のおける仲間の能力。それでも識別できないなんて……。

 

「あれ、じゃなくて!もろ戦車じゃん!こんなの、どうしろっての!?」

 

「岳羽落ちつけ。5月のモノレールの時と同じだ。こいつはあくまでシャドウだ。我々の攻撃は通じる」

 

動揺するゆかりを宥めたのは美鶴先輩であった。普段は壁を感じる2人であるが、戦いの最中にそんな2人の関係は邪魔でしかないので、ゆかりもそこは割り切っているのか、特に反論することなく深呼吸して武器を構える。

 

それを確認した美鶴先輩もレイピアを構え、シャドウを見据えようと視線を前に向けた瞬間、敵シャドウが私たちに向けて砲口をこちらに向けて発射態勢を取った。

 

「は?」

 

順平の惚けた声が空間内に響く。現在私たちは坂を下り終えたばかりの言わば通路内に固まった状態だ。部屋に入り切っておらず、左右には壁があって身動きが取れない。そんな私たちにアイギスと優ちゃんが『絶対に逃げろ』と警告した敵シャドウの攻撃が放たれようとしている……。

 

「っ!?みんな、早くここから離れて」

 

「もう駄目、間に合わない!?」

 

ギシギシと錆びた歯車が回る音が止まった瞬間、敵シャドウと私たちの間に入り込んだ影が放たれた砲撃をその身で受け、私たちを守った。着弾の衝撃で煙が充満していたが、それが晴れるとそこにいたのは左腕を失い全身がボロボロ状態のアイギスがふらふらと身体を揺らしつつもその場に立っている姿があった。

 

「皆……さん、大丈……夫です……か……」

 

「アイギス、あなた……」

 

アイギスは顔をこちらに向けて私たちが無事であることを確認するとその場に崩れ落ちた。鋼鉄の肉体を持つ彼女でこうなるなら、ペルソナの恩恵を受けているとはいえ生身の肉体しか持たない私たちが受ければどうなるかなんて言わなくても分かる。

 

私は沈み込みそうになった心に喝を入れて奮い立たせ皆に指示を飛ばす。

 

「真田先輩、優ちゃんと一緒にあいつの注意を引きつけてください!順平はアイギスを安全な場所に移動させた後は砲口の向きに注意して皆のサポートをお願い!ゆかりも砲口の向きに注意を払いつつ、遠距離からの魔法攻撃と回復を!美鶴先輩も敵シャドウには極力近づかないようにして魔法攻撃をお願いします。私は敵シャドウの正面に立って、注意を引きつけつつ攻撃します!」

 

「ちょっと待ってよ、湊!それって危険すぎるじゃない!」

 

「大丈夫だよ、ゆかり。私には、こいつを相手にするのに持って来いのペルソナがあるから!」

 

私は心配するメンバーを余所に心を落ち着け、目的のペルソナを呼び出す準備をする。そして、召喚器を用いて呼び出した。

 

「来て!『クジャタ』」

 

私の背後に大きな山のような巨体を持つ牛のようなペルソナが顕現する。総司くんとのコミュである審判のアルカナを持つペルソナ。私が持っている他のペルソナと違い、成長しないというハンデがあるにも関わらず、有り余るステータスと耐性、そしてスキルを持つ頼もしい力。

 

「順平、相手がこんな奴である以上、アイテムは惜しみなく使ってサポートして!」

 

「ああ。任せとけっての!」

 

順平はトレードマークである野球帽をアイギスの頭に被せると道具を入れているバックをぽんっと叩いて了承するように私に向かって親指を立ててサムズアップする。私もそれを見て頷くと敵シャドウに目を向ける。すると、車体の両脇につけられた機関銃が火花を散らしつつ、自分の横で牽制してくる優ちゃんと真田先輩に発砲をするところであった。

 

優ちゃんは持ち前の直感と鋭い動きで、真田先輩は今までの戦いの経験を元にした軽いフットワークで攻撃を掻い潜り反撃に転じた。

 

「ポリデュークス、ソニックパンチ!」

 

「ウシワカマル、五月雨斬り!」

 

両サイドからの攻撃に敵シャドウは苦悶の声をあげてその身を捩った。戦車の身体を持つからと言って防御力がそのまま外見通りという訳でないと言うことが証明された瞬間でもあった。私は攻撃のタイミングを見計らっていた美鶴先輩とゆかりに指示を飛ばす。

 

「2人とも今がチャンス!」

 

「ああ。ペンテシレア、ブフーラ!」

 

「来て、イオ!ガルーラ!」

 

大きな氷の飛礫と、対象を斬り裂く突風が吹き荒れ敵シャドウのその身を刻む。

 

砲口での攻撃にさえ注意を払っていれば問題ないと思っていたら、敵シャドウから奇妙な駆動音が聞こえて来た。様子を窺う私たちの前で、敵シャドウの砲口が浮かび上がった。

 

「「はぁっ!?」」

 

車体も四つ這いの姿から起きあがって2足歩行となると、車体の底となる部分に顔があることに気付き、風花がナビで戸惑った理由が分かった。つまり、

 

『砲塔部分が正義のアルカナを持つシャドウ、車体部分が戦車のアルカナを持つシャドウ。2体が合体していたから、ルキアでも分からなかったんだ……』

 

正義のアルカナを持つシャドウ『ジャスティス』は物理法則を無視して空間内を飛び回り、凶悪な攻撃力を持つ砲口を前後左右に加え上から攻撃が放てるようになった。戦車のアルカナを持つシャドウ『チャリオッツ』は攻撃手段が機関銃だけに制限されると思ったが、前足にあたる部分を手のように使って近くにいた優ちゃんと真田先輩を攻撃している。5月にタルタロスで戦ったエンペラーたちとは比べ物にならない攻撃力だとのこと。

 

「優ちゃん!避けろ!!」

 

順平の焦った声を聞き、視野を広げるとジャスティスの砲口が優ちゃんに向いており、なおかつチャリオッツの攻撃もそれを補佐するようになっていた。優ちゃんもそれに気付き回避行動を取ろうとしたが、チャリオッツに阻まれうまく行動できず、ジャスティスから放たれた砲弾をその細い体躯で受けることとなってしまった。

 

「「「優ちゃん!!」」」

 

彼女の身の無事を確かめようとした私たちの前で不可思議な現象が起こる。直撃したはずの優ちゃんに怪我はなく、ジャスティスから放たれた砲弾は彼女の前に現れた白い壁のようなものに進行を邪魔されている。そして、次の瞬間。白い壁に阻まれていた砲弾が向きを変えて空中に佇んでいたジャスティスに直撃したのだ。ジャスティスは思いもよらなかった攻撃を受け、絶叫を上げつつ消滅する。私たちにとって一撃必殺な攻撃は相手にとっても一撃必殺であったようだ。

 

「それはともかく、残りは耐久力の高いコイツだけって……なんだぁ!?」

 

順平の慌てた声に何事かとチャリオッツを見ると、その横には今消滅したはずのジャスティスの姿があった。私たちは確実にジャスティスが消滅するのを見届けたのにも関わらず、悠然とチャリオッツの横に浮かんでいるその姿に戦慄する。

 

「風花、何が起こったの?」

 

『間違いありません。チャリオッツが、サマリカーム……完全蘇生魔法を使用しました。恐らくジャスティスも同様の攻撃が使えると思われます』

 

「ということは……」

 

「2体同時に倒す必要があるということか……」

 

風花の分析を聞いた美鶴先輩が、こいつらの倒し方を提案した。確かに相方が倒された瞬間、攻撃の手を止めすぐに蘇生させるということは同じタイミングで倒さなければ、同様の行為を繰り返すことに他ならない。

 

『気をつけてください、皆さん!復活したジャスティスは先ほどよりも素早さが高くなっています』

 

能力を強化された状態で復活とか、厄介なことこの上ないなぁ。

 

 

 

 

「くそ、またしくじった!」

 

「もうこれで何度目なの……」

 

真田先輩とゆかりの嘆くような声が空間内に響く。私たちが失意に沈む中、空間内を自由自在に動き回っていたジャスティスが動きを止め魔法スキルを発動し、装甲に傷一つないチャリオッツが復活する。風花のアナライズによれば攻撃力と防御力、そして素早さと命中率を上がった状態らしい。

 

「総司の飯と道具が無かったらとっくの昔に全滅していたな、湊っち」

 

「うん。でも正直、総司くんの道具はもっと他にバリエーションが欲しかったよ」

 

優ちゃんが持っていた『総司くん特製お守り』は開戦当初に使用され効果も残っていないし、ゆかりの魔力とスキル強化のアクセサリーも役立ってはいるけれど、切り札になりえていない。それは壁役となっている私の分まで特別課外活動部の皆の回復を一手に担っているからだけれど、どう考えてもジリ貧になりつつある。

 

2体同時に倒す。言葉にすれば簡単だが、命がけで戦っている中ではそんな悠長なことは言っていられない。このままでは私たちの回復アイテムが切れる方が先に来てしまう。

 

分離時に狙っても体力の残り方がまばらになってしまうので、合体時のみに攻撃を集中するようにしているが、分離すると同時にジャスティスは空間内を縦横無尽に動き回り、こちらは攻撃を当てる事が出来ない。そしてチャリオッツが私たちに攻撃をしかけてきて、こちらが思わず反撃して倒してしまい、無傷の状態で復活するという悪い流れが出来上がってしまっている。なにか手はないか……私は周囲を見渡す。

 

「チッ、ダメージを受けすぎたみたいだな……。くっ、せめてジャスティスの動きさえ封じることが出来ればいいのだが……」

 

美鶴先輩が逃げに徹しているジャスティスを睨みつけながら悔しそうに呟いた。ジャスティスが動きを止めるのは2つの行動をするときだけだ。1つは大きな砲口から砲弾を発射し私たちを攻撃する時、そしてチャリオッツを復活させようとする時だ。後者は私たちから離れ、攻撃の射程圏外で行うため攻撃のしようが無い。つまりジャスティスを攻撃するには、相手が攻撃するその瞬間を狙わなければならないってことだ。

 

そういえば、クジャタのスキルにボディバリアっていうのがあった。確かあれは、皆が受けるダメージを私が代わりに受けるっていうものだ。どう“受ける”のだろうか。ダメージのみなのか、それともシャドウの攻撃対象が私に移るのか。後者であれば、私に攻撃を集中する2体のシャドウを皆で集中攻撃できるかもしれない。

 

ただし、それは私が2体のシャドウの攻撃の集中砲火を受けるっていうことに直結している。正直、ものすんごく怖い。けれど、このままいったら全滅という最悪のシナリオがある以上、贅沢は言っていられない。私が考えている通りになるとは限らない。でも、試す価値はある。

 

私は大きく息を吸って、皆に聞こえるように大きな声で指示を出す。

 

「次の合体形態でダメージを与えたら皆は一旦、距離を取って。私に考えがある!」

 

「ほ、本当ですか?」

 

「確かにもう体力も魔力も限界だ。次がラストチャンスだぞ」

 

戦闘開始時と変わらず前衛で攻撃と撹乱を担当していた優ちゃんと真田先輩が確認するような声を上げる。私の近くにいた美鶴先輩や順平も訝しげに私を見ているが、他に代案がないので渋々と行った様子だが従ってくれるようだ。

 

「分離形態になったらジャスティスは逃げ回ると思うから、皆は攻撃から避けるのに集中して!そして、2体が近付いた瞬間に自身の最大火力をぶつけて!もうこれしか方法はないから!」

 

私がそう言い切ると優ちゃんや真田先輩の動きにまたキレが戻る。私はバクバクと鳴る心臓を押さえる様にして胸を押さえる。すると、後方からゆかりが声を掛けて来た。

 

「湊、その作戦大丈夫なの?」

 

「うん。たぶんだけど、きっとうまくいくよ」

 

私はゆかりの方へは振り向かずに背中越しに告げる。ゆかりが近づいて来る気配を感じたけれど、私は合体形態のシャドウが分離しようとしているのを見て駆けだした。そして皆が距離を取ったその空間に飛び込み、召喚器をこめかみにつけて引き金を引く。

 

「クジャタ!ボディバリア!」

 

一目散に距離を取ろうとしたジャスティスは急に方向転換し、私の方へ砲口を向けて戻ってくる。そして、目の前のチャリオッツはキャタピラに覆われた前足を私に向かって振り下ろしてくる。迫りくる大きなその腕はまるで私の命を奪う死神の鎌のよう。

 

迫りくる衝撃の恐怖から目を閉じる私。

 

脳裏に浮かんだのは笑顔の総司くんの姿だった。

 

それと同時に頭に直接、どこか懐かしい気がする優しい声が聞こえた気がする。

 

私はその優しい声に言われた通りの言葉を口にした。

 

 

 

『アトラス』と……。

 

 

 


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