ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。 作:甲斐太郎
『審判』はタロットカードの20番目の大アルカナ。
構図はラッパを吹く天使と甦る死者たちが描かれる。
このラッパを吹く天使はガブリエルをモチーフとされており、そのため審判のカードは『最後の審判』をイメージしていると思われる。永遠の命を与えられる者と地獄に落ちる者に分ける場面と言える。
なんで、こんなことを考えたのかと言うと、八十稲羽で総司くんや優ちゃんの叔母さんである堂島千里さんからもらった『ボロボロのお守り』を彼に渡して、『もう大丈夫だから』という伝言をつたえ終わると、総司くんがぽつりぽつりと話し始めたのだ。
そして、話し終えた彼に優ちゃんに言っているように協力することを伝えると頭に響いたのだ。
―我は汝、汝は我
―汝は隠されし絆を見つけたり。
―此処に《審判》のアルカナ紡がれん
と。
8月2日(日)
あと1時間くらいで日をまたごうとしている巌戸台分寮の屋上にて、月明かりの下で野菜や果物の手入れをしていた総司くんに声をかけたところまでは良かったのだけれど、いざ何を話せばいいのか分からなくなり、混乱することになってしまった。
総司くんは声をかけられた側なので、私が話すのをずっと待っている状態だ。私はタルタロスやシャドウのことや、これから起こることを知っているのではないかという本当に聞きたいことは置いておいて、まずは八十稲羽で会った堂島千里さんから預かっているものを彼に渡すことにした。
「総司くん、これ……」
「はい?……あ、これってもしかして僕が作ったお守り?」
「うん。千里さんに会ってね、預かってきたんだ。『私たちはもう大丈夫だから、総司くんは自分のために時間や能力を使っていいんだよ』って伝言ももらったよ」
「そうですか。……まだ死亡フラグは消せていないんだけれど」
総司くんは手渡されたお守りを見ながら小さく何かを呟いたが聞き取れなかった。総司くんはお守りをポケットに入れると立ち上がって、伸びをして振り向いた。
「あれ、もしかしてまだ何かあるんですか?」
「えっとね、もうちょっとお話がしたいんだけれど」
私が上目遣いでお願いすると、総司くんは照れるのを隠すようにしながら頬を掻きつつ、私の隣に座る。そこで、私はちゃんと千里さんからの伝言の意味は分かったのかを尋ねる。
「千里さんの伝言はちゃんと分かった?」
「とは言ってもですね、結城先輩。分かんないですよ、そんなことを言われたって。叔母さんたちにお守りを送っているのだって、皆さんに料理を振る舞っているのだって、僕が好きでやっていることなんだし」
総司くんは腕を組んで悩むように首を傾げ始める。
そこで私は千里さんから聞いた優ちゃんがいじめられていたこと。そのいじめから優ちゃんを助ける為に、総司くんが奇抜な格好をしたり、変なものを蒐集し始めたりしたっていうことを伝えてみた。
「……そんなこともあったっけ。……覚えていないや。■■■■■いる僕なんかよりもずっと、優の事の方が、この世界で生きている皆の方が大事だから」
一瞬だけ耳にノイズが走り、彼が言ったことを聞き逃してしまったが、千里さんが言っていたように総司くんは何らかの理由により自身を蔑ろにしていることは間違いがない。
かと言って何が彼の幸福なのか、不幸なのかを知らないのでとやかく言うのは憚られる。
「総司くんは夢とかあるの?」
「夢……。とりあえず大学行って、どこかの会社で働いて、結婚して……。こういうのは結城先輩の言う夢じゃないですよね。すみません、考えたこともなかったです」
総司くんは15歳の中学生だ。将来が定まっていなくてもおかしくはないけれど、やっぱり何か違和感がある。
それが何なのか分からないけれど、総司くんをこのまま放っておいたらきっと取り返しのつかないことになりそうで怖い。ある日、突然いなくなってしまいそうな、そんな不安が過ぎる。
「夢を探すのに早いことはないんだし、ちょっと考えてみたらどうかな?」
「そういう結城先輩は夢ってあるんですか?」
総司くんは私を見つめながら聞いてくる。私はにっこりと笑って言ってみる。
「それはあるよ。素敵な旦那様を見つけて結婚してあったかい家庭を築くの。第一候補は総司くんだけれどね」
「冗談もほどほどにしておいてくださいね」
くっ……。切り返しが思ったよりも冷たかった。
意識はしているだろうけれど、まだそういった対象には見られていないってことか。思ったよりもダメージがおっきいなー……。
「でも、心配してくれてありがとうございます。結城先輩が言うように、将来のことをちょっと考えてみようと思います。もしかしたら相談することがあるかもしれないですけれど、その時は協力してもらえますか?」
「それは勿論だよ、総司くん。ばんばん相談してね」
私がそう言うと総司くんは、はにかむような笑みを浮かべ頷くのだった。
総司くんに「おやすみ」と言って自室に戻った後、私は心に宿った新たな力を目の当たりにすることになった。
私が保有出来るペルソナの上限は12体。それ以上になると、いずれかのペルソナを消さないといけなくなるのだが、今回総司くんと話すことによって得た【審判】のアルカナを持つペルソナの名は【クジャタ】。
大きな牡牛の姿をしている。レベルは40レベルと私が持っている他のペルソナと比べても高いものだが経験値が得られない。成長しないペルソナのようだ。
しかも、私が保有するペルソナとは別枠の様子。
「……明日にでもイゴールに話しを聞きに行こう。こればっかりは私には判断が付きそうにないし」
私はベッドにダイブすると寝転がりながら天井を見上げる。
総司くんの謎がまた増えてしまったと。
タルタロスやシャドウのこと、これから起こりえることを知っているのかどうか、自身を蔑ろにして周囲の人のために生きるのは何故か。そして、放っておいたら突然いなくなってしまうような漠然とした不安を抱いてしまったのは何故なのか。
すべてが繋がっているような気がしないでもないけれど、こればっかりは本人が話してくれるのを待つしかない。下手に聞いて、関係が壊れてしまうのは避けたいところだしね。
私はそのまま布団にもぐり込むと抱き枕を抱きしめつつ眠るのだった。
■■■■■=やり直して