ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。   作:甲斐太郎

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大幅に書き直しました


P3Pin女番長 8月ー②

8月2日(日)

 

やる気スイッチの入った理緒や部活仲間たちと共になんとか八十稲羽高校との交流会は無事に終わり、巌戸台へ帰る電車の発車時刻まで私たちは商店街で買い物をすることにした。

 

昨夜、肝試しで訪れた時と違い、普通に人々の往来があるものの、活気が感じられない。行きかう人々の話しに耳を傾けると郊外の方に大型ショッピングモールが建設されるらしい。それによって八十稲羽の街以外から買い物客を呼び込むのだそうだが、それが商店街のために本当になるのか、もしかしたら煽りを受けるのではないか。そんな不安の声が聞かれた。

 

それはさておき、私がまず訪れたお店は四六商店である。

 

四六商店の名前は毎月総司くん宛てに送られてくる宅急便の送り先ということしか知らないけれど、結構な重量で送られてくるのでナニカがぎっしり詰められているのだろう。一歩足を踏み入れるとそこは昭和の古き良き駄菓子屋さんっていう感じのお店だった。商品のひとつであるお菓子を手にとって眺め見ると、幼少の頃に見かけたそれと全く同じ物。

 

「うわぁ……、懐かしいなぁ」

 

私は商品を棚に戻すと周囲を見渡す。すると店の隅の方に玩具置き場があり、そこにはタルタロスで何度か見ることになったものと同じデザインの風車や花火といったアイテムが並んでいた。手に取ってみると若干だが、何か思念の様なものが感じられる。もしかしたら、作り手が名だたるひとなのかもしれないけれど、店主のおばさんに聞いても分からないということだった。

 

とりあえず情報集めと思って総司くんの名前を出すと店主さんの目がきらりと光った。

 

「あの坊やは小さい頃からの常連さんだよ。いつも他の客が買わない物を買うから気になっていたんだけどねぇ。一度、“夜”の店に来た時は『大人になってから来なさい』って言ったんだけれど、今では夜の方も常連さんになっちまったねぇ」

 

そう言った店主さんはレジの裏手のカーテンをずらした。そこには大きなガラスケースが置かれており、中には大小様々な虫ががががが……。

 

「“アキヒコ”もすっかりあの坊やの持ってくるご飯に夢中になっていて、パン屑なんかはもう食べてくれないのよ。それに中々取ることのできない珍しい虫もいるようだし、ただでもらうのもなんだから毎月、新商品を入荷した時はあの坊やに送ってあげているのよ」

 

虫やパン屑を食べる“アキヒコ”。食事形態からして魚か何かだと思うが、やばい……。寮に戻ったら笑ってしまいそうだ。私が肩を震わせながら笑いをこらえていると店主さんは思いだしたようにバックヤードに入っていき、古めかしい竹刀を持って戻ってきた。

 

「これは、かの有名な剣豪武蔵が使っていたという竹刀なんだけれど、坊やの妹さんが剣道やっているらしいから、会う事があったら渡して上げてちょうだい。……あっても邪魔なのよね」

 

最後の一言を聞かなかったことにして、私は竹刀をもらい店を後にした。

 

 

 

まだ時間もあるしブラブラしようかなと思ったら美味しそうな匂いが……。私はフラフラと匂いの発生源に向かう。惣菜大学というお惣菜のお店で一押しの一品としてビフテキ串が売られていた。私は一本購入して店先で頬張る。ジューシーなお肉と香ばしいソースのハーモニー……。

 

「「たまりませんなー……あれ?」」

 

同じ言葉を発した声の持ち主は、緑色のジャージを着た短髪の少女。彼女もまた私を見上げながら、ビフテキ串を豪快に頬張っている。彼女……できる!

 

「はむはむ……ごくっ。月光館学園……って、雪子が言っていた都会の学校の人だ!」

 

私が着ているジャージの胸元に書かれているロゴを読んだ少女はビフテキ串を持ってない方の手で指差しながらそう言った。行きかう人々から何事かと見られているが、そんなことなどお構いなしだと言わんばかりに尋ねてくる。

 

「都会の人だ、本物だ~。あのっ、都会には美味しい肉料理ってありますか?」

 

え、そこ一択なの?

 

 

 

緑色のジャージを着た少女、名前を里中千枝ちゃんっていうらしいけれど、昨夜泊った天城旅館の女将さんの娘である天城雪子ちゃんの親友らしく、私たちが来たことを聞いていたらしい。本当は夏休みの宿題を教えてもらう予定だったが、昨日は諦めたようだ。

 

ビフテキ串を食べながら意気投合した私たちは色々話す。そして、その中でも一番気になったのは雪子ちゃんが天城旅館に泊まるお客さん、特に若い女性たちにはおすすめスポットとして夜の神社を薦めていることだ。どうやら彼女自身も幼少の頃、男女2人の兄妹に嵌められたらしい。それ以来、旅館を訪れるお客さんに何かおすすめスポットがないかを尋ねられると夜の神社をお勧めするようになったとのこと。私は男女2人の兄妹と聞いた瞬間、視線を逸らして乾いた笑みをこぼした。

 

千枝ちゃんは遠い目をしながら、「私、洩らしちゃった上に失神しちゃったんですよね~」と語っていたので慰めておいた。私もきっと初見だったら腰を抜かしていたと思うし。

 

「あー、ちえおねえちゃんだ。こんにちはー」

 

千枝ちゃんの前でぺこりと頭を下げる少女。ビフテキ串を食べ終えた千枝ちゃんは声の主に心当たりがあるのか、満面の笑みを浮かべて答える。

 

「やっほー、菜々子ちゃん。こんにちは。もしかして千里さんと買い物?」

 

「あい!おかしかってもらった」

 

菜々子ちゃんと呼ばれた少女は、持っていた袋の中からチョコレート菓子を取り出して、千枝ちゃんに見せる。そっかそっかと千枝ちゃんは菜々子ちゃんの頭を撫でている。

 

「先に行っちゃダメでしょう、菜々子。って、あら?里中さんと……もしかして結城湊さん?」

 

千枝ちゃんはともかく、まさか私の名前を言われると思っていなかったので面食らってしまった。声がした方へ振り向くと二十歳前後くらいの大人の女性を感じさせる穏やかな笑みを湛えた女性が立っていた。菜々子ちゃんが彼女の足元に行って抱きつくところを見るに、母親なんだろうけれど……。

 

「お若いですね……」

 

「ええ、菜々子を産んだのが20歳の時ですから。私は堂島千里です、総ちゃんや優ちゃんの叔母でもあります」

 

青と白を基調にしたゆったりめのワンピースを着ており、髪と瞳は娘の菜々子ちゃんとお揃いのダークブラウン。髪は腰の辺りまで伸ばしている。やや垂れ目なところがおっとりした雰囲気を醸し出している。

 

「千里さんは結城さんとお知り合いなんですか?」

 

「私は総ちゃんや優ちゃんから話を聞いただけ。もしかしたら会う事があるかもしれないってことで、優ちゃんから……」

 

ごそごそと肩にかけていたバックの中から携帯電話を取り出した女性は操作した後、私たちにとある画像を見せて来た。映し出された画面にはデザートを食べながら、幸せを噛みしめる様に悶える私が映っていた。

 

「って、ちょっと待って!?なんでこれ!?っていうか、いつ撮ったの!?」

 

私はこれ以上、見られてはたまらんと携帯電話を閉じようとしたけれど、千里さんはすばやく携帯電話をバックの中になおしてしまう。

 

「話しに聞いていた通り、可愛らしい“先輩”ね。結城さん、まだ時間はあるかしら?ちょっとお話がしたいんだけれど」

 

「えっと……。はい、まだ大丈夫です。けれど、一緒に住んでいる寮の皆にお土産を買っていきたいんです」

 

「そう。……菜々子、ちょっと千枝ちゃんと一緒に丸久のお豆腐を買ってきてくれる?」

 

「あい。ちえおねーちゃん、いこっ♪」

 

「え。……うん、分かった」

 

千枝ちゃんは菜々子ちゃんと手をつないで、商店街の南側に向かって歩いて行く。彼女は何度か心配そうに振り向いていた。

 

「じゃあ、一個だけ。総ちゃんに、『もう大丈夫だから』って伝えておいてくれないかな」

 

そう言った千里さんはバックの中からボロボロになったお守りらしきものを取り出して私に手渡す。手渡されたお守りからは、作成者の強い意志が感じとれる。『何としても助けたい』というそんな願いが。

 

「今年の初め、私は交通事故にあったの。横断歩道を渡っていたら、信号無視した乗用車に撥ねられてね。その日は丁度、雪も降って積もっていたしブレーキもかけられなかった。普通なら即死よね」

 

千里さんは当時のことを思い返すように目を閉じる。そして手を後ろでに組んで語り始める。

 

「撥ねられた時の衝撃、アスファルトを転がって回る視界、意識を容赦なく奪い取ろうとする寒さ。どれも明確に覚えている。けれど、不思議なことに痛みは無かった。痛覚が麻痺しているものと思っていたけれど、当然よね。私は怪我ひとつしていなかったんだから」

 

目をしっかりと明けた千里さんは、私が持つお守りを見ながら告げる。

 

「私を撥ねたはずの乗用車はベコベコに凹んで廃車寸前のスクラップ状態。通報で駆け付けた警察はその事故を自損事故として片づけたわ。何せ、轢かれたはずの私が無傷であったし、運転手も必死に否定していたからね。まぁ、私の旦那には事故を体験したことを言ったんだけれど、布団の上で“身体の隅々まで調べて”何もなかったから信じていなさそうだけれど……」

 

ちょっと惚気を入れた辺りで頬を染めていた千里さんだったが、すぐに元の顔色に戻る。

 

「で、事故にあった翌日。バックを整理していたら、見覚えのないお守りが入っていたの。ボロボロになっていたし、取り出して置いていたら、菜々子がそのお守りを大事そうに抱えて菜々子のお気に入りの缶箱の中に入れたの。菜々子が寝静まってから中身を見たら、同じようにボロボロになったお守りが何個かと、新品のお守りが何個かあったの。後日、菜々子が私がいつも持ち歩いているバックにお守りを入れようとしているのを見て、尋ねたら『そうしおにいちゃんがくれた』って答えてね」

 

千里さんは私が持つボロボロのお守りを一撫でした後、微笑む。

 

「菜々子の大事な人を守るように心を籠めて作ったものだから、お父さんやお母さんの鞄や服に入れてあげてって、総ちゃんから頼まれたんですって。そう言えば、遼太郎さんも菜々子が産まれてすぐのころ『犯人ともみ合いになって腹を刺されたと思ったが、使われたものが古かったのか砕けた』っていう話しを聞いたことがあったのを思い返したわ」

 

私は総司くんにひとつの疑念を抱いている。それはこれから起こりえることを彼は知っているのではないかというもの。私が巌戸台に来ることや、5月の女教皇のアルカナを持つ大型シャドウがモノレールに現れることを知っていたのではないか。最近だと屋久島旅行に行く前に、現在のアイギス部屋の片づけをしていたのも気になる。まるでアイギスが現れることを知っていたかのように。

 

「総ちゃんはね、昔から自分のことを蔑ろにして他人の為に力を貸してくれる。料理の苦手な私でも美味しく作れるようにとレシピ本を何冊か自作しておいてくれているし、優ちゃんがいじめられないように、態とおかしな服装をしたり、色んな変な物を蒐集したりしてね」

 

どうして総司くんの回りには料理が苦手な人が集まるのかなと思っていたら、予想外の情報を得た。優ちゃんがいじめられていたって初耳だ。けれど、容易に予想が出来る。昔から何でも出来た総司くんと、比べられる対象の優ちゃん。きっと幼い頃の優ちゃんには抗うことは出来なかったんだろう。子供は残酷だから……。

 

総司くんの奇抜な服のセンスと、15歳の少年としては微妙なチョイスの多趣味は優ちゃんを守るためのものだったのか。となると、本当の総司くんはいったい、どんな素顔なのだろうか。

 

「『もう大丈夫だから』……、この言葉の意味、分かってくれたようね。私たち家族も優ちゃんも大丈夫だから、総ちゃんには彼自身の幸せのためにその有り余る力を使ってもらいたいの。後悔のないようにね」

 

そう言った千里さんは戻ってきた菜々子ちゃんの手をしっかりと握って歩き去っていく。最後に私に向けてしたウィンクは何だかお茶目だったけれど、思いは通じている。

千枝ちゃんもこれから雪子ちゃんと一緒に夏休みの宿題をするとのことにて、笑顔で去っていった。私は千枝ちゃんと千里さんからもらったお土産を買うのにおすすめなお店を教えてもらったので、電車の発車時刻ギリギリまで買い物を行い帰路につく。

 

 

私のポケットの中には、千里さんから預かったボロボロになったお守りが入っている。

 


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