ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。   作:甲斐太郎

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P3Pin女番長 7月ー⑦

7月25日(土)

 

終業式の後、兄さんと一緒に買い物を済ませ寮に帰宅すると、ラウンジにてコルクボードに貼られている掲示物を眺めていた彼女が私たちに気付いて話しかけてきた。私はそれを無視して、自分の部屋に向かおうとしたが、

 

「まあまあ、優。紅茶でも淹れるから座りなよ」

 

兄さんに首根っこ掴まれ椅子に無理やり座らされる。そして、私の向かいの席には兄さんに手引きされ誘導された彼女が座らされる。

 

「こんにちは」

 

「…………(ぷい)」

 

彼女から話しかけてくるが私はそっぽを向く。何が悲しくて、彼女と向き合わなければいけないのか。彼女だって、こっちが無視するんだから無視し返せばいいのに。

 

「優、僕が死にかけたことを気にしているのは分かっているからさ。とりあえず落ち着こうよ。そりゃあ、僕だって人命救助もせずに結城先輩を探しに行ったアイギスさんに思うところがない訳じゃないけれど、優にとっては背中を預ける仲間なんでしょ」

 

「…………(ぷう)」

 

私はそっぽを向いたまま頬を膨らませる。当事者である兄さんがそんなだから、代わりに私が怒っているんじゃない。普通、兄さんが拒絶するところじゃないの?

 

「はぁ……。アイギスさん、改めて自己紹介をするね。僕は鳴上総司、そっちで頬を膨らませているのが双子の妹の優。僕は影時間の適正がないので、食事を作ったり寮内の掃除をしたりして特別課外活動部の皆さんを支えているよ」

 

「はい。幾月さんよりその旨を聞いているであります」

 

「うん。趣味は釣りと本を集めて読書するのと料理と家庭菜園だね。ここの寮母になる時に桐条先輩に許可をもらって屋上を家庭菜園に使わせてもらっているよ。昼間することがないなら、アイギスさんにも手伝ってもらいたいな」

 

兄さんはころころと笑いながら彼女と話をしている。彼女は兄さんの話を聞き、小さく頷いたり、首を傾げたりしている。

 

「手伝いとは一体どんなことでしょうか?」

 

「簡単にいえば、水撒きと間引きだね。今年の夏は暑くなりそうだし、こまめに水を上げなきゃいけないんだ。まぁ、家庭菜園自体が僕の我侭でやらせてもらっていることだから、文句は言えないんだけれど……」

 

「……文句、でありますか?」

 

「うん。結構手間暇かけないと美味しくならないんだけれど、1人でするのも限界があってね。いくつか枯らせちゃったのもあるんだよ」

 

「なるほどなー……」

 

私は兄さんの今の言葉を聞いて、暗に「私たちは食べるばっかりで手伝わない」と言われた気がした。兄さんの様子をちらっと覗き見るがいつも通りにこやかな笑みを浮かべているだけで、怒っているようには見えない。けれど、言葉の端々に棘を感じる。

 

「アイギスさんは物を食べることは出来なくても、“水”は飲めるんですよね?」

 

「はい。飲用水であれば飲むことが可能です」

 

「なら、先輩たちがデザートを食べる時に、コーヒーや紅茶も一緒に出すんだけれど、その時にアイギスさんの分も出していいね?」

 

「……私には必要ありませんが?」

 

兄さんはアイギスさんの問いに首を横に振る。そして、優しく子供に諭すように話す。

 

「それじゃあ、駄目なんだ。確かに食べる機能はないのかもしれないけれど、一緒にその時間を過ごすっていうのはとても大切なことなんだよ。今は先輩たちの食べる姿や話す姿を見ているだけでもいい。後々はアイギスさんも先輩たちの輪に入って自己主張していってもらえたらいいなとは思うけれど」

 

「……総司さんの話は難しいであります」

 

「そうかな……。でも結城先輩の真後ろに立っているよりも目線を同じにして話を聞いている方がきっと楽しいよ」

 

「楽しい……」

 

“アイギス”は会ってから今までに見たことがないくらい困惑した表情を浮かべ悩むように俯いた。すると今までアイギスを見ていた兄さんと視線が合った。兄さんは小さく口を動かす。ア・ト・ハ・オ・ネ・ガ・イ……あとはお願い!?

 

「それじゃあ、僕は昼ご飯を作らないといけないから、台所に行くよ。アイギスさんは優と話をしていて。あとでどんな話をしたのか聞くからね」

 

そうアイギスさんに向けて言った兄さんは私に向かってウィンクした後で台所に向かう。今日は湊先輩のリクエストで豚肉を使った料理を頼まれている兄さん。何でも昨日のタルタロスの探索で『気疲れ』したって湊先輩が朝からタレていたらしく、彼女の好物を使ったデザートを作って励ます予定らしい。

 

「……あの」

 

「…………」

 

話しかけ辛そうにアイギスが私に声をかけてくる。あんな態度を取り続けてきた私に、まっすぐな視線を向けてくる。

 

私がアイギスと仲良くするのが嫌だったのは、水の中で気絶したことによって大量の水を飲み、人工呼吸と心臓マッサージが必要なくらいの事態に陥った兄さんを放って自分の大切な人である湊先輩を探しに行ってしまった彼女といるのが苦痛だったから。

 

今でもアイギスにとっての重要度は『湊先輩>その他』なんだろうけれど。いや、私が積極的にアイギスに関わらなかったら、いつまで経っても『湊先輩=兄さん=私>その他』にはならないんだろう。

 

「…………。鳴上優、兄さんの双子の妹。武器は刀で、ペルソナはウシワカマル」

 

「あっ……。アイギスであります。桐条エルゴノミクス研究所製対シャドウ特別制圧兵装シリーズNO.Ⅶ。ペルソナはパラディオン。2000年2月に完成し、同9月10日初起動しました」

 

「……初起動?つまり誕生日は9月10日ってこと?」

 

「人のいう誕生日と違う気がするでありますが、そうであります」

 

アイギスと正面から話をして分かったのは、彼女は感情のない機械ではないということ。ペルソナが使える時点で心はあるっていうことは分かっていたはずなのにね。こうやって私と他愛ない話をしている間も、ちょいちょい笑ったり困った表情を浮かべたりしている。ほんと、出会い方があんなじゃなければ、最初から仲良くなれたのになー。

 

「お、アイギスと優ちゃんじゃん。こうやって会話が出来ているということは、仲直りしたってことか?」

 

「伊織先輩」

 

振り向くと荷物をたくさん抱えた伊織先輩と、澄まし顔の真田先輩の姿があった。2人は台所で昼ご飯の用意をしている兄さんを見た後、荷物をラウンジのソファに置くと私たちの近くに寄ってきた。

 

「いやー良かった。ああいったドロドロというかギスギスというか雰囲気、オレっち苦手なんだよね」

 

「そうだな。下手につつくと何が返ってくるか分からないからな」

 

真田先輩はそういった経験があるのか、腕を組んで苦虫を噛んだような表情をしている。問題は伊織先輩だ。彼はアイギスに私とどんな話をしたのかを聞いている。アイギスは素直だから、そっくりそのまま話をしてしまう。

 

「うーん、素気ないじゃん優ちゃん。ここは面白くいかなきゃな。例えば……『私、兄さんに添い寝してもらわないと眠れないの』とかな」

 

『ぷちっ(怒)』

 

私の中で何かが切れる音がした……。

 

 

 

■■■

 

終業式後、同じテニス部の理緒から他校との練習試合のことを聞かされ、来週は1週間特訓して備えることになった。ただでさえメンバー内の不協和音で頭が痛いのに。

 

昨日のタルタロスの探索も散々だった。まずブランクが長すぎて、戦いの勘を取り戻すまで時間が掛ったこと。次に敵シャドウの強さに戸惑った。弱点がないものもいれば、反射属性を持っている厄介なシャドウもいて中々骨が折れることになった。一応、番人がいる72Fまで行ったので試しに戦ったのだが、プロレスラーみたいな番人シャドウ強すぎ。体力が低いゆかりなんかは一撃でノックアウトだったし。それも3体同時とか鬼か。

何にしてもレベル上げは必須だし、ペルソナも強いのを合成しないといけないし、メンバー内の関係も修復しないといけないし、部活の特訓と練習試合もしないといけないし、やること多すぎて泣きそうだ。

 

幸い今日は、総司くんが私のリクエストを全部聞いてくれるので、お昼は冷しゃぶ。晩ご飯はすき焼きである。疲れている時はやっぱりお肉を食べなきゃだよね♪

 

私は気分を入れ替えて、寮の扉を開いた。

 

「たっだいまー……って、何?このカオス」

 

寮の扉を開けて中に入るとまず目に飛び込んできたのは壁に向かって延々とパンチを打ち付ける真田先輩と、床に手を付き慟哭を上げる順平の姿。優ちゃんは何故か、あれほど嫌っていたはずのアイギスの胸に顔を埋めて泣いているし、アイギスは困惑して頭から湯気が出ている。そんな環境下においても涼しい顔で着々と昼食の料理の準備をする総司くんが異常に見えてならない。

 

「どうしたの、湊?って、うわぁっ!?」

 

「あわわ、どうしたんですか!?真田先輩、順平くん!?」

 

丁度帰ってきたゆかりと風花も現状を見て驚きの声を上げる。誰か、この状況を説明して……。

 

 

 

 

夕方、以前に幾月…さんから説明を受けていた小学生の天田くんがやってきた。夏休みの間は、ここで過ごすことになる。この寮には総司くんがいるので、育ち盛りの天田くんにも満足してもらえるだろう。

 

2階に用意された部屋に荷物をおいた天田くんは早速、総司くんの隣に行って晩ご飯の用意の手伝いをしている。ちなみに今日は風花も一緒だ。ラウンジで過ごす皆は不安なのか、ちらっちらっと台所を見ている。私もゆかりと並んでテレビを見ているが、内容はまったく入ってこない。

 

「総司くん、何かあったの?」

 

「分からないよ。でも晩ご飯は私のリクエスト通りだから、材料を切るだけのはずなんだよね」

 

「何をリクエストしたの?」

 

「すき焼き」

 

「さすがに割り下は総司くんが作るだろうし、材料を切るだけなら風花も大丈夫……なのかなぁ?」

 

思い返すのは総司くんが寮母になるきっかけを作ったバイオテロ。白い灰となった真田先輩、陸に上がった魚のようにビクンビクンと跳ねる優ちゃん、泡を吹いて気絶する順平。思い出すだけで鳥肌が立つ。

 

すると天田くんが私たちの前にやってきた。

 

「ゆかりさん、総司さんからの質問なんですが。フルーツは何がお好きですか?」

 

「え?……フルーツ。うーんと、イチゴかな」

 

「分かりました。ありがとうございます。えっと、桐条さん。質問なんですけど……」

 

え、私には聞いてくれないの?そんな風に思いつつ、天田くんを目で負っていると私の視線に気付いた彼は言う。

 

「湊さんはバナナでいいんですよね?」

 

「あれ?私、言ったっけ?」

 

「総司さんが知っていましたけど。風花さんからそういった話を聞いたって。『晩ご飯の後のデザート楽しみにしていてください』だそうです」

 

天田くんはそう言うと質問の結果を報告しに総司くんの元へ。総司くんは天田くんにお礼を言うと、小さな包丁を持たせて何かを切るようにお願いしている。私たちは危ないんじゃないかと心配したが、総司くんは天田くんの隣に立って丁寧に包丁の扱い方や切り方をレクチャーしている。

 

「天田くんって、子供扱いされるのが嫌みたいですよ。だから、兄さんのあの接し方が一番いいんじゃないですかね」

 

「あれ、もう大丈夫なの。優ちゃん」

 

「はい……ご心配おかけしました。そして、先輩たちを再起不能にしてごめんなさい」

 

「いや、もう仕方ないんじゃないの。順平がまた余計な事を言ったんでしょ。大丈夫、私たちは優ちゃんの味方だから」

 

ゆかりがそう慰めると消え入りそうな声で「ありがとうございます」と言った優ちゃんが、今度はゆかりに抱きついた。そして胸に顔を埋めてぐりぐりと動かす。

 

「なっ、ちょっ、ストーップ!!」

 

顔を真っ赤にしてゆかりが制止をかけるが優ちゃんはぐりぐりするのをやめない。完全に精神が不安定になっているじゃない。順平、あんた優ちゃんに何を言ったのよー。

 

「ほほー……。何か悲しいことがあったら、ああやって慰めてもらうんですね。なるほどなー……」

 

「そこっ!変なことを学習しないっ!って、優ちゃん、もうやめてぇ……」

 

最近、優ちゃんがマズイ方向に目覚めて行っている気がしてならないのはなんでだろう。やはり、今月初めのあの戦いが原因か。何か、いい方法はなかろうか。

 

「総司くんの所で添い寝をさせたら、ブラコン率が上昇して、私たちが慰めたら百合化が進む。かといって、順平や真田先輩に任せる訳にもいかないし。どうすればいいんだろう」

 

私はゆかりの表情が蕩ける前に優ちゃんを引き離し、美鶴先輩に押しつける。新聞を読んでいた美鶴先輩は突然の優ちゃん襲来に何事なのか困惑し、隙を見せ、優ちゃんに難なく抱きつかれた。艶っぽい声が聞こえてくるがこの際、置いておく。

 

順平たちの心の傷の修復もそうだが、優ちゃんの精神安定化も何か考えないとマズイ。そんなことを考える私とゆかりであったが、

 

「ん?」

 

「どうしたの、ゆかり?」

 

ゆかりの視線の先では総司くんたちが揉めていた。頭を抱える総司くんに、困惑する風花。事情が分からない天田くんが右往左往している。いったい、何が起きたの?

 

 

 

 

夕食を食べ終えた私たちは総司くんに促され、作戦室に集められた。

 

そして、机の上に置かれたフルーツ大福を前にしてテンションが上がる女性陣に反比例して、げんなりとした表情を浮かべる総司くん。

 

総司くんが用意した大福は1人2個ずつ食べると計算して作られた18個。

 

「えっと、1・2・3……20個あるけど?」

 

数をかぞえたゆかりが総司くんに尋ねると、彼はすっと風花を指差した。風花は可愛く『てへっ』と小さく舌を出していて……じゃなくて、まさか!?

 

「18個は僕が作って天田くんが包んだフルーツ大福で、残り2個は山岸先輩が作った中身が謎な大福です」

 

「これってもしかしてロシアン大福ってこと!?」

 

それを知った面々は先月の事件のことを思い出し、作戦室から去ろうと立ち上がろうとしたが、風花が泣きそうな顔を浮かべたため、順平と真田先輩は椅子に座りなおした。

 

「ちなみに中に入れた果物は全部希少価値が高いものばかりなんです。宝石メロン、黄金スイカ、ルビーストロベリー、サファイヤマンゴー……」

 

「アイギス、鍵を閉めろ!岳羽、湊、優、座るんだ。食べるぞ!」

 

「「「な、なにぃ!?」」」

 

美鶴先輩のまさかの裏切りに遭う私たち。非難の目を向けようとした私たちであったが、彼女の真剣な眼差しを見て思った。総司くんが自ら希少価値が高いと言った以上、美鶴先輩クラスの家でも滅多に食べられないものなのだと。ここで食べる機会を逃したらきっと後悔する代物なのだろうと。

 

「ち、ちなみにどういう順番で食べるつもりなの?」

 

「天田くんもいることですし、親睦も深める意味合いでババ抜きをしようと思います。一抜けした人から順に食べるということで」

 

総司くんは用意しておいたトランプをシャッフルする。ゆかりはちょっと考えた後、とあることに気付き告げる。

 

「それって、本当に順番決めるだけなんじゃ」

 

20個というのは、負けた人が罰ゲームで食べるような数ではない。むしろ20分の18は当りだし。

 

「そして、特別ルールです。アイギスさんが上がると彼女が選んだ物を指定された人が食べないといけません」

 

その新ルールを総司くんが告げた瞬間、皆の視線が私に集まった。やばい、アイギスはきっと私に食べる様に告げてくるに違いない。うまく行けば絶品フルーツ大福4個だが、その分リスクは大きい。

 

「では時間も押しているのでさっさと行きましょう」

 

そうやってカードが配られる。10人なので1人あたり5枚か6枚からのスタートだ。

私は運よく?ペアがひとつできてスタートは3枚だ。

 

「あ、じょ……ごほん」

 

総司くんがカードを確認する中で重要な情報を漏らした。

 

ちなみに席順だが、

 

■美■

真□総

順□天

優□風

ゆ□ア

■湊■

 

こんな感じで、私はアイギスからカードを引いて、ゆかりに引かれることになる。

 

総司くんがジョーカーを持っているという情報を得たので、彼の所から回ってくるのは3人を経由しないといけない。

 

とはいっても、これは早く上がればいいものでもないし、最後まで残るのもなんか癪だし。匙加減が難しい……。

 

「あなたの番です。引いてくださいであります」

 

私の前にカードが1枚ある。……って、嘘っ!?

 

「アイギス、もう上がりなんだ。……ご愁傷さま、湊」

 

隣に座るゆかりから慰めの言葉がかけられる。泣く泣く私はアイギスの一枚を引いて、備える。すると小さく『キュイーン』という音が聞こえ、アイギスのアイカメラが動いているのが分かる。

 

「わたしは、これを選ぶであります。そして、順平さんにあげるであります」

 

「……って、オレぇええええええ!?」

 

アイギスはお皿の中央付近にある大福をおもむろに掴むと立ち上がり、順平の傍に行く。そして、選んだ大福を順平の口に思い切りねじ込んだ。

 

「…………(モグモグ)」

 

バタン     ガタガタガタガタ     …………

 

順平は豪快に顔から倒れ、小刻みに震えた後、その動きを止めた。

 

「順平、しっかりしろー!!」

 

隣に座っていた真田先輩が必死に抱き起こそうとするも、彼はとある理由から動くことが出来ず。そのまま順平が動かなくなるのを見守るだけだった。

 

「残りは1個だな」

 

美鶴先輩は虎視眈々とフルーツ大福を見定めている。この人、ぶれないな。そして、もう1人、総司くんは順平のカードをシャッフルして真田先輩から時計回りに5人にカードを分配する。それによって美鶴先輩と天田くん、風花のカード所持数が減る。

 

「湊、引いていい?」

 

私はシャッフルした後、扇状にカードを持ち引くのを待った。そして、ゲームが進み……。

 

 

 

ジョーカーを持つ私と真田先輩の一騎打ちになっていた。そして、私の数字のカードが引き抜かれドベは私に決定。

 

真田先輩は勝利の余韻に浸りながら手を伸ばす。

 

「あ、真田先輩」

 

「ん、どうした総司?」

 

その時、アイギスが動いた。皿を回し真田先輩が取ろうとしていた大福を入れ替える。それを目撃した他の皆は思わず口を押さえた。

 

「就寝前のプロテインドリンク、冷蔵庫の中に用意してありますので」

 

「ふ、いつもすまんな。さて男は度胸、俺が選ぶのはこれだ!…………(もぐもぐ)」

 

バタン    ガシャンガシャン    ガタガタガタガタ   …………

 

ボクシング部主将にして16試合無敗の王者は、風花のポイズンクッキングの前にあえなく敗北した。というか!

 

「「「初めからこの2人に食べさせるつもりだったのなら、最初からそう言ってよ!!」」」

 

「え、そんな先輩方。白々しいこと言わないで下さいよ。優を泣かせた奴を僕が許す訳ないじゃないですか」

 

清々しいほどの笑みを浮かべた総司くんが魔王に見えたのは、私だけではなかったはず。私たちは男2人を犠牲にして、おいしいフルーツ大福にありつくことが出来た。

 

 

 

 

翌日、2人は嫌な記憶を完全に抹消できていて、ぎくしゃくしていた2グループの問題はこうして解決したのだった。

 


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