ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。   作:甲斐太郎

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P3Pin女番長 7月ー⑥

7月24日(金)

 

「朝です!起きて頂きたいであります」

 

屋久島旅行から帰ってきた翌日の朝。起きたら枕元にアイギスが立っていた。あれ、私はちゃんと鍵はして寝たつもりだったけれど、開いていたかな。私が寝惚け瞼をこすりながらそんなことを考えているとアイギスは小さく頷いた。

 

「無事に起床しましたね。任務完了であります」

 

「……えっと、目覚まし鳴った?」

 

「いえ、目覚ましは起動前です」

 

私は机の上に置いてある目覚ましを取ってアラームのスイッチをoffにするとアイギスに向きなった。彼女の後ろにある鏡には物の見事に跳ねてしまっている私の髪が映り込んでいる。

 

「5分前行動!……と標語が貼ってありましたので、5分前に起こしてみました」

 

そんなものどこに貼ってあったっけと、起きぬけであまり起動していない頭をフル回転させる。すると、遅刻を頻回にする順平に頭に角を生やした美鶴先輩が「5分前に行動するように心掛けろ!」って注意してコルクボードを叩いていた気がする。その後、習字道具を持ってきた総司くんが「5分前行動!」って筆で書いて貼っていたと思う。無駄に達筆だったので覚えている。

 

アイギスに視線を向けると相変わらず無機質な瞳と表情を浮かべている。ペルソナを扱えるということは心があると思うのだけれど、コミュを築くにはもう少し人間性が必要になると思われる。そんなことを私が考えていると、不意に扉がノックされ、少し困っているようなゆかりの声が聞こえてくる。

 

「ごめん、起きてる?実は“あの子”がどこ探してもいなくて、ちょっと手伝って欲しいんだけど……。屋久島の時みたいに、勝手に出てったかもしれなくて……」

 

彼女の言葉から心配するような気持があることが察せられる。しかし、それはアイギスに向けられたものではなく、彼女が暴走することによって被ることになる自分たちのことを考えてのもの。そんな感じがする。

 

「わたしの名前は“アノコ”ではありません。アイギスなら、ここにおります」

 

「え……?アイギス!?あなた、いつの間に」

 

ドアを開けて入ってきたゆかりはベッドに身を起こした状態の私とその傍らに立つアイギスを交互に見た後、アイギスに質問する。アイギスはゆかりの質問に淡々と答える。

 

「この方は就寝中でした。ドアの開錠には2分かかりました」

 

「モロ“不法侵入”じゃん!」

 

ゆかりのツッコミがビシッと決まる。私は思わず拍手をするがスルーされる。ゆかりはアイギスの正面に立って注意している。

 

「夜は部屋に大人しくいてって言ったでしょ!?総司くんが作戦室に“1人”でいるのは寂しいだろうからって、無理やり部屋を用意したんだから」

 

「いや、部屋の掃除と準備も全部総司くんがしたんだけど……」

 

「湊は黙ってて」

 

ぴしゃりとゆかりに言われた私はしょぼんと縮こまり、ベッドから降りる。ゆかりは再度、アイギスに注意を再開させたが、アイギスは私の傍にいると言って意見を変えない。ゆかりは何とかアイギスを説得しようと踏ん張るが、とりあえず……。

 

「私は着替えてもいいかな?」

 

「一応、湊の問題でもあるんだよ……」

 

ゆかりは疲れたように肩をすくめる。打って変わってアイギスはハンガーにかけてあった私の制服を回収し手渡してくれる。

 

「ありがと、アイギス」

 

「問題ないであります。……なるほど、皆さん本来は朝になると“学校”へ行く訳ですね。なるほどなー……」

 

ゆかりは目を伏せたまま首を小さく横に振ると「あと、任せた」と言い残し部屋から出て行った。残される私とアイギスだったが、やんわりと退室を願うと彼女は頷き外へ出る。

 

「せっかく早起きしたんだから、いつもよりも早めに学校に行こう。アイギスのことは帰ってから、美鶴先輩たちも交えて話し合えばいいし」

 

私は寝巻きのTシャツを脱いで、朝の心地よい空気にその肌を晒すのだった。

 

 

 

教室につくと実にクラスメイトの半分が顔を手で覆っていた。何事かを仲の良い女子に聞くと、期末テストの結果が貼りだされることを恐れてのことらしい。屋久島旅行で買ってきたお土産を渡さなきゃと、そればかり考えていてすっかり発表があることを忘れていた。

 

ま、朝からこんなお通夜ムードなのは勘弁して欲しいので、お土産袋から順平とゆかりと私の3人でお金を出し合って買ったお菓子を持って教卓の所に立つ。数人は私に注目しているがまだだ。

 

私は黒板を右手でバンッと叩いて、注目度をさらに上げる。そして声を張り上げた。

 

「月光館学園のアイドル、岳羽ゆかりが選んだお菓子が食べたい人、この指とーまれ♪」

 

「なにやっとるかー!!」

 

私がそんなお茶目な行動を取った瞬間、ダッシュで教室に入ってきたゆかりが怒りの形相で詰め寄ってきたのだが、

 

「岳羽さーん、俺たちに御慈悲を~」

 

「お菓子、お菓子ちょうだい」

 

「美少女が選んだお菓子……イケル!」

 

言った私ではなく、入ってきたゆかりに殺到するクラスメイト。その人波に飲まれ身動きが出来なくなったゆかり。ちっ、これが『校内のアイドル』と『人とは違う』の魅力の差か。まだまだ自分を磨かないと。私はそんなことを考えつつ、開封したお菓子を教卓の上に置くと自分の席に戻る。

 

教室の後ろの方から私を呼ぶ声が聞こえるけれど、もうじきホームルームが始まるので優等生な私は席について待つのだ。(`・ω・)キリッ

 

「みーなーとー!!」

 

聞こえないったら聞こえないよー。

 

 

 

 

放課後、校内にいる友達にお土産を配り終えた私は軽い足取りで古本屋本の虫に来ていた。お茶を出してくれる光子お婆ちゃんと一緒に屋久島土産を食べつつ、文吉お爺ちゃんの話を聞いて盛り上がっていると、お店にお客さんが入ってきた。私は光子お婆ちゃんと一緒に店の奥にいるので文吉お爺ちゃんが対応している。

 

「おお、ソウちゃんじゃないか。元気にしておったかの、ほれクリームパンをあげよう」

 

「ありがとうございます。あ、先日旅行に行った時のお土産なんですけれど、たぶんお菓子なんかだと先輩と被っちゃうんで、体験教室で削って作った木彫りのマスコットです。光子ばあちゃんにもどうぞ」

 

「ありがとうな……ソウちゃん。そういえば、以前言っておった漢シリーズを仕入れておいたがどうする」

 

「あ、全部いただきます。いくらですか?」

 

「全部中古品じゃからな、1冊100円じゃ」

 

「じゃあ、500円。いつもお世話になります、文吉じいちゃん」

 

「ほっほっほ、気にせんでええよ。ありがとうな……で、このマスコットはなんじゃ?」

 

「ジャックフロストとジャックランタンです!」

 

『がくっ……』と私は思わず体勢を崩した。そしてすぐに立ちあがって店内に向かうもソウちゃんと呼ばれたお客さんはすでに出て行った後だった。にこにことほほ笑んでいる文吉お爺ちゃんの手には“見慣れた”ものが握られていた。

 

「湊ちゃん、婆さんや見てくれ。ソウちゃんが手作りしてくれたキーホルダーじゃ。どこに飾ろうかのう」

 

「あらあら、可愛らしいではありませんか。レジの横においてここにくるお客さんにも見てもらいましょう。お爺さん」

 

「婆さん、それは名案じゃ」

 

文吉お爺ちゃんと光子お婆ちゃんは嬉しそうに協力してレジの横にスペースを作り、ジャックフロストとジャックランタンのキーホルダーを並べて置く。それはさながら漫才をする“ジャックブラザーズ”を見ているようで頭痛が……。

 

私はその後、2人に別れを告げ巌戸台分寮に向かって歩き始めたのだが、今度は優ちゃんを見かける。優ちゃんもお土産の袋を持っており、誰かを待っている様子だ。まさか逢引き?

 

私は身を隠すと優ちゃんの様子を見る。するとしばらくして、青色のジャージを着た肌黒の男が優ちゃんに声をかけた。優ちゃんも知らない仲ではないみたいで話が盛り上がっている。

 

「あいつは亞都羅栖学園の早瀬だな。剣道で全国大会の常連者だ。女子中学生とはいえ、ここら辺の大会を総なめにしている鳴上妹と知り合いでもおかしくはないな」

 

「そうなんですか……って、真田先輩。いつからそこに?」

 

「久しぶりに海牛の牛丼が食いたくなってな。食い終えて出てきたらお前が垣根に隠れて何かやっているのが見えた。まさか後輩を覗き見しているとは思わなかったが」

 

真田先輩はそう言って立ち上がると優ちゃんとその早瀬って人が話している現場に行く。私も慌てて後を追い、優ちゃんに変な誤解を与えずに済んだ。

 

真田先輩が言っていたように早瀬さんは剣道の全国大会の常連者であるが、母子家庭で苦労しているとのこと。自分が好きなことを続けるために、大会で成績を残すことばかりに目が行って、部活では孤立してしまっていたという話を聞いた。過去形なのは、優ちゃんと過ごすことで意識の変化が現れ、今では部活の仲間たちと一緒に団体戦で全国を獲ろうと頑張っているらしい。そのこともあって、優ちゃんが早瀬さんに渡すお土産は皆で食べられるようにたくさん入ったお菓子であった。早瀬さんは優ちゃんに礼を言うとお土産を片手に走り去っていく。

 

もしも優ちゃんが私と同じワイルドの力を持っていたら、今のでコミュレベルマックスになったんだろうなと思える青春の1ページを見た気がした。

 

 

 

7月24日(金) 深夜 タルタロスエントランス

 

「……えっと、確認してもいいかな?」

 

白河通りの作戦以降、挑んでいなかったタルタロスへ新しく参入したアイギスも連れて訪れたのだが、困った事態に遭遇している。

 

まずエントランスに踏み入れた瞬間、順平と真田先輩が同時に距離を取った。2人に何故離れたのかを尋ねると、無意識だという。風花の話によれば、彼らの記憶は優ちゃんの手刀によって一時的に封じられているだけで、何がきっかけで思い出すか分からないとのこと。今後のことを考えると今の内にさっさとばらしてしまった方がいい気がする。が、今日は保留。

 

次にゆかりと美鶴先輩。彼女たちは何も言わず、お互いに見もせずに自然と離れた位置に佇んでいる。ゆかりは美鶴先輩を弾劾したけれど屋久島で見せられた映像によって自分が行った行為に対し負い目を感じている。美鶴先輩はゆかりに対し事情を隠し戦わせていた過去がある。映像のことは美鶴先輩も知らなかったようだけれど、自身に悪意が向くように仕向けてきただけあって、人の気持ちを知り言葉をかけるっていう経験が少ないのか、もうしばらくこのギクシャクした感じは続くだろう。

 

で、最後の問題はアイギスと優ちゃんだ。出会い方さえもう少しマシだったら、こんなことにはならなかった関係である。苦手とか嫌いとかそんなレベルではなく、もはや優ちゃんのアイギスに対する行動は無関心だ。『好きの反対は嫌いではなく、無関心』という言葉聞いたことがあるけれど、ここまでなの……。

 

 

メンバーの関係も考慮した結果、

 

チーム年上:美鶴先輩(斬・氷)・真田先輩(打・電)・アイギス(貫・物)

 

チーム年下:ゆかり(貫・風)・順平(斬・火)・優ちゃん(斬・物)

 

の2チームに私が加わることで探索に行くことになった。

 

私がいないチームでも探索出来ないわけではないが、複数のシャドウが出た時に弱点がつけないとどうしても倒すまで時間が要することになり、更なる危険を呼び込むことになるかもしれない。安全だと思えるまで調べつくした階層ならいいけれど、今から進むのは未知の領域だ。安全を考慮して、1チームずつ挑むことにする。

 

「湊ちゃん、大丈夫?」

 

風花が心配して声をかけてくれるが、彼らの関係の問題は彼らが解決しないと意味がない。かといって仲たがいしている状態で戦いとなると危険だから、関係の再構築はタルタロス以外の場所でって事になるけれど、どうしたものかな……。

 

「ところで風花。その資料は何?」

 

「総司くんがくれたタルタロス攻略本です。法王と恋愛のシャドウが現れる前まで登れることが出来たところまでの階層はこれで完璧です。白紙ももらってきたので、ここに残った人たちに協力してもらって得ることが出来た情報は書き起こそうと思います」

 

「で、清書は総司くんにしてもらうってことか……」

 

風花は頷く。確かに総司くんは綺麗にきっちりとまとめるから見やすいものね。

 

私は振り向くと準備万端と言いたげな真田先輩たちのグループを見て、アイギスがどんな動きをするのかみたいと適当な言葉を告げ、年上チームと共にトランスポーターを使い階層を上がる。

 

「さ、気を引き締めていきましょう」

 

私は武器である薙刀を握りしめて、一歩前へ踏み出した。

 


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