ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。   作:甲斐太郎

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P3Pin女番長 屋久島旅行ー①

7月20日(月)

 

窓から見える海原は太陽の日差しを反射して宝石のようにキラキラと輝く。そんな風景を見ていると、いつもの街から遠く離れた土地に来ていることが実感できる。

 

「とは言っても、4時間は長いよ~……」

 

ちなみにまだフェリーに乗って2時間しか経っていない。あと残り半分の時間を過ごさなければならないのだけれど、携帯電話をいじるのも飽きたし、持ってきた雑誌も穴があくほど見てしまったし、かといって船の中を探検するほど幼くもない。

 

「あーあ。つまんないなー……」

 

何か面白いことはないかなと思っていたら、一喜一憂する順平やゆかりたちの笑い声が聞こえて来た。声がする方へ歩いて行くと、総司くんを中心にしてゆかり・順平・風花・優ちゃんの5人がしゃべっている。

 

「あ、湊先輩」

 

「ちょっと、湊も混ざりなさいよ。これ、すっごく納得いかないんだから」

 

「えーと、何が?」

 

「いやな、総司が暇つぶしに持ってきた心理ゲームの本を皆でやっているんだが、ゆかりっちが納得いかないって喚いてんのよ」

 

「私は当っていると思うけどね。……違うよ、ゆかりちゃんの結果じゃなくて私自身のだよ」

 

ジト目で睨むゆかりの視線に苦笑いして弁解する風花。それにしても心理ゲームか、面白そうだ。私は順平と優ちゃんの間に割り込むと、心理ゲームの本を開いて準備している総司くんに向かって言う。

 

「私も混ぜて」

 

「いいですよー」

 

彼ならそう言うって、答えは分かり切っていたけれどね。

 

「じゃあ、まずは岳羽先輩や山岸先輩にしたものと同じものを言いますね。皆さんはネタばれしないように口を閉じていてください」

 

総司くんが皆に言って聞かせると私以外の全員が頷く。特にゆかりからの期待の籠った視線が気になる。彼女はどんな墓穴を掘ったのだろうか。

 

「では『次の色から連想できる知り合いの名前をあげてください。あ、お父さんもOKですよ』」

 

『ふしゃー!!』と猫が怒った時のように髪を逆立てたゆかりが総司くんに襲いかかる。彼は華麗にその攻撃を避け、「ちっちっと」指を横に振って余裕を見せる。ゆかりぇ……。

 

(1)赤……優ちゃん

 

(2)青……ファルロス

 

(3)白……美鶴先輩

 

(4)桃……ゆかり

 

(5)紫……総司くん

 

 

「「「「「…………」」」」」

 

私が質問に答えると場が鎮まった。さっきまで追いかけっこをしていた総司くんとゆかりも元の位置に座り、本のページをめくる。あれ!?私の結果は?

 

「まあ、心理ゲームは当るも八卦、当らぬも八卦って言いますから気にしないでいいと思いますよ。岳羽先輩……僕は一体どうすればいいんでしょうか」

 

明らかに動揺している総司くんをゆかりが背中をさすって慰めている。状況が飲み込めないので、他のメンバーを見回すと優ちゃんは嬉しさ半分、嫉妬半分といった表情を浮かべている。順平と風花は私を見て、ヒソヒソと話しているだけだし気分が悪い。

 

私は総司くんが持っていた本を奪い取り、さっきの結果を読む。えっとなになに……。

 

「関係性が分かるもの。赤は兄弟姉妹、青は恋人?白は理想の人で桃は友人。……紫はSEXフレンド……はにゃあっ!?」

 

他の皆の反応の仕方が良く分かった。確かに赤色で選んだ優ちゃんは正直に言えば妹のように思っているし、桃色のゆかりは友人枠だ。青と白は微妙だけれど、問題は紫。なんで総司くんって言っちゃうかなぁ、私!

 

「結城先輩、落ち着いてください!当るも八卦、当らぬも八卦です」

 

「そ、そうだね。次、次に行こう!」

 

頬に紅が差している総司くんもまんざらじゃなさそうにしていることだけが救いか。

 

えっと、……まんざらじゃないの?

 

「次は数字を使った心理ゲームをしますね」

 

そう言った総司くんはハンドバックからメモ帳と人数分のペンを取り出し、それぞれに配っていく。ちなみに私には優ちゃん経由で渡される。

 

「メモは縦向きで使ってください。それではメモの左端に上から順に1から7までの数字を書き込んでください。こんな風にお願いします。空いているスペースに文字を書いて行くので…」

 

総司くんは私たち全員の手元を確認し、準備が出来たみたいと頷く。

 

「では、問題を言います。他の人に相談したり、見せ合ったりしないようにお願いします。『まず、1と2の横に数字を書いてください。3と7の横には誰でもいいので異性の名前を書いてください。4と5と6の横には自分が知っている人の名前を書いてください、ここには家族の名前を書いてもOKです』」

 

そう言った総司くんも書く作業に没頭する。周囲を見れば床にメモ紙を置いて書いたり、自分の膝の上で書いたりしている。私は壁にメモ紙を当てて書く。

 

1.21

 

2.22

 

3.総司くん

 

4.優ちゃん

 

5.ゆかり

 

6.風花

 

7.順平

 

私はゆかりみたいな墓穴を掘らないように、この場にいるメンバーの名前を書く。一番に書き終えた私は皆の様子を見る。ちょっと待つと皆、書けたみたい。

 

「では結果発表といきましょう。ちなみに僕のはこんな感じになりました」

 

1.いっぱい

 

2.たくさん

 

3.結城先輩

 

4.優

 

5.父さん

 

6.順平さん

 

7.マリー

 

 

「……いっぱい、たくさんって、ありなの?それに一番下のって誰?」

 

「私への当てつけかこの野郎。普通に書いているし……」

 

優ちゃんとゆかりがそれぞれ不満を口にするが総司くんは笑っている。

でもその中に私の名前があるんでけれど、しかも総司くんと同じ場所。

 

「じゃあ、結果発表です。『1はあなたを幸せにしてくれる人の数。2はあなたが幸せにしてあげる人の数。3はあなたが愛する人……げふっ!(吐血)。4はあなたが大切に思う人……。5はあなたをとても理解してくれる人……。6はあなたに幸せをもたらしてくれる人……。7は好きだけど叶わない人です。』……うわぁあああああああん、心理ゲームなんて大嫌いだぁあああああああ」

 

総司くんはメモを回収して立ち上がると、おもむろに心理ゲームの本を置いて走り去った。私は彼が置いて行った本を取り上げると鞄の底に封印する。そして皆を見据えて告げる。

 

「とりあえず、……忘れようか」

 

「「「「異議なし」」」」

 

暇つぶしにと始めた心理ゲームはこうして闇の中に葬られることになったのだった。

 

 

 

 

それからしばらく船の中で過ごしていると順平が騒ぐ声が聞こえ、船の正面を見るといかにもリゾートって感じの島があった。船の先端でハイテンションに騒ぐ順平を余所に、船は港に入っていく。

 

メンバーはそれぞれ荷物を持って、屋久島の地へと足を踏み入れる。船の上で騒ぎ立てていた順平だったが、大人しくしているので何事かと思ったら出迎えがあった。

 

「おかえりなさいませ、お嬢様。そちらがご学友の方々ですね。ようこそいらっしゃいました」

 

ただし、普通の出迎えではなく、大勢の本職メイドさんたちによってだけれど。

 

「オジョウサマ……ゴガクユウ……」

 

「メイドって実在したんだ……」

 

「岳羽先輩が着たら似合いそう……」

 

それぞれに驚きの表情を浮かべるメンバーたち、の中に1人だけ場違いな感想を述べる物もいたけれど、分からないこともない。勝気なツンデレメイド、どこかの漫画かアニメに出ていそうだ。

 

美鶴先輩と真田先輩は驚く私たちを置いて先に向かう。私たちはそれぞれ荷物を持って追いかける。すると目の前に大きな洋館が現れた。

 

「で、でけぇ……」

 

「うわぁ、ここだけ外国にきたみたいですね」

 

順平と優ちゃんの感想を聞きつつ、美鶴先輩の動向を見るとメイドに何やら指示を出している。

 

「部屋はすでに準備してある。案内させるので、明彦と伊織、鳴上は彼女についていけ。湊、岳羽、山岸、優は私についてこい」

 

私たちは玄関ホールで分かれる。呆然としている順平の背を総司くんが押しているのが印象に残る。私たちは豪華絢爛でありながら、綺麗に掃除が行き届いた廊下を通り用意された部屋に案内されて息を飲んだ。

 

「わぁ……綺麗ですよ、先輩!」

 

優ちゃんはバルコニーに出て、一面に広がるオーシャンビューを見てテンションが上がっている。荷物を置いたゆかりや風花もバルコニーに出て、ここが私たちが来たことのない場所であることを再認識しているようだ。

 

「さて、これからどうするんだ?」

 

「たぶん、正気に戻った順平はビーチに行くでしょうから、私たちもその準備をしましょう。私もあの白い砂浜で泳ぎたいですし」

 

「それもそうだな」

 

桐条先輩は柔らかい微笑みを浮かべながら頷き、廊下に出て待機していたメイドに何かを告げる。そして、戻ってきた美鶴先輩はゆかりたちに向かって言う。

 

「さぁ、泳ぎに行こうか」と。

 

 

 

 

水着に着替える際、優ちゃんが私たちの山を見て落ち込むことがあったが、それ以外は特に問題なくビーチへ。私がいまだに落ち込み気味な優ちゃんを連れて行くと、美鶴先輩たちの水着を見て、頬を染めていた順平たちが安堵するようなため息をついた。

 

もの凄くむかついたので、私は優ちゃんに目配せをして頷きあう。

 

一呼吸後、私たちはビーチを駆け抜け、飛び上がる。

 

「「ペルソナダブルキーックッ!!」」

 

いい訳などさせぬと言わんばかりに問答無用で叩き込んだ。水柱を立てて海に沈む順平と真田先輩を見届けた私と優ちゃんが振り向くと、ゆかりと風花がよくやったと言わんばかりにサムズアップしている。

 

「あれ?そういえば兄さんは……」

 

きょろきょろと辺りを見回す優ちゃんだったが、目的の人は見当たらない。まさか総司くんが泳げないってことはなさそうだし、準備に手間取っているのか。

 

「あ、総司くんなら順平が言っていたよ。『磯が僕を呼んでいる』って言って、釣り竿とクーラーボックス片手に釣りに行ったって」

 

「ここでも釣りなの!?兄さーん!!」

 

優ちゃんがそう海に向かって吼える。『花より団子』ならぬ『海より磯釣り』って、思春期の男子としてはどうなのかな。

 

「むしろ、総司くんは湊ちゃんから離れたかっただけじゃないかな。船の中のこともあるし……」

 

「風花、それは無かったことなんだ。掘り返しちゃ駄目」

 

じゃないと私も赤面しちゃうから。

 

私は火照って来た身体を冷やすように海の中に飛び込んだ。それに続くようにゆかりや風花たちも入ってくる。

 

「あれ、順平たちは……あ」

 

いつもであれば騒ぎ立てているはずの順平は私たちの攻撃で気絶し、真田先輩と一緒にどざえもんと化していた。私たちは浜辺に2人を引き挙げると、悪戯心から首だけ出して他の部分は砂で埋める。胸の部分にはお約束通りのエベレストのような山脈を作り、私たちは引いては寄せる波に「きゃっきゃ」言いながら遊ぶのだった。

 

 


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