ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。   作:甲斐太郎

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P3Pin女番長 7月ー⑤

7月19日(日)

 

朝ご飯を食べ終えた私たちに総司くんから言伝があった。

 

晩ご飯後、明日からの旅行についての確認と持っていく荷物のチェックをしたいとのこと。一応、了承はしたけれど、チェックする必要性ってあるのかな。と、私たちは全然、気にもしていなかった。

 

 

 

ラウンジに集められた私たちの前に資料を持った総司くんと桐条先輩が立っている。

 

「では、まず明日の日程だが、羽田発鹿児島行きの飛行機が6時15分に出る。これに間に合うように朝の5時にはここを発つことになるので各自ちゃんと起きること」

 

「「「5時……だと!?」」」

 

私と順平とゆかりが悲鳴に近い声を上げる。風花といつも早起きをしている真田先輩と優ちゃんはさして問題はないのか平然としている。

 

「屋久島行きのフェリーは1日1便しか出ていないので仕方ないんですよ。何、飛行機に乗るまでの我慢です。飛行機の中とフェリーの中で目的地につくまでは寝られますから」

 

そう言った総司くんは役目を終えた桐条先輩に目配せをする。彼女は頷いて、優ちゃんの隣に座った。

 

「では持ち物チェックを行います。とは言っても、僕が気にしているのは飛行機に乗る上での確認ですので、下着や水着を出さないといけないのかと眉を顰めている岳羽先輩、睨むのやめてもらえませんか?」

 

「ちょっ、何で名指しなの!?」

 

「いえ、なんとなく」

 

理不尽だと言わんばかりに顔を真っ赤にして総司くんを睨むゆかり。その当人はどこ吹く風と歯牙にもかけず、話を進める。

 

「2001年のアメリカ同時多発テロ以降、飛行機の中に持ち込めるものが色々と制限されました。例えば、高圧ガスであったり引火性の液体であったり、危険物は全面的に禁止されています」

 

総司くんは私たちが座っているソファの間に置かれている机に、自分が用意したハンドバックとボストンバックを置き、その隣に巻き取り式のメジャーを置いた。

 

「ボストンバックの方は別にいいんですが、自分の手で持っていくバックも大きさが制限されています。今回は大きさに関しては問題ないようなので、飛ばしますが気になる方は調べてください。で、問題は『手荷物ではNG、預け荷物OKの品物』『ほぼNGな品物』ですね」

 

そういった総司くんはハンドバックの中から色々なものを取り出す。中には私自身が入れているものもあり、彼の動向に皆が注目する。

 

「では、順平さん。トップバッターです」

 

総司くんに指名された順平は机の上に並べられた色々なものを視界に入れた後、彼を見る。

 

「この中には手荷物で持って行ってはいけないものがあります。順平さんがセーフだと思う物を取ってください」

 

順平は一瞬だけ迷う素振りを見せたが、すぐに炭酸飲料の入ったペットボトルを取った。

 

「さすがに飲み物は問題ねーだろ、総司。島は物価が高いからな、オレも荷物の中には何本か入れているんだぜ」

 

そっか、順平の言うとおりかもしれない。総司くんも言っていた通り、フェリーが1日に1便だと物資の行き来もそれなりということだ。よし、私も今の内に買って、

 

「いえ、残念ながらペットボトルや缶飲料は手荷物にも預け荷物にも入れることはできません」

 

「「「なにぃっ!?」」」

 

荷物の中に入れていると言っていた順平と、順平の話しを聞いて買ってこようと考えた人間が声を上げた。総司くんはそのまま真田先輩を見て告げる。

 

「真田先輩のプロテインも日本製のメーカーのものは問題ありませんけれど、海外語表記のものは控えた方がいいかもしれませんよ。今回は国内線なので問題ないと思いますけれど、中国なんかではプロテインの缶を持って行って麻薬密輸の冤罪で日本人が処刑されているらしいですから。あ、桐条先輩の言う処刑じゃなくて、マジものの処刑ですよ」

 

「……分かった。あとで部屋に戻してくる」

 

真田先輩は『桐条先輩の処刑』という単語を聞いた当りで大人しくなったが、総司くんの雑学の知識には舌を巻くなぁ。というか、まだ1品目なんだけれど。

 

「じゃあ、次は山岸先輩ですね。どれでもいいので選んでください」

 

次に指名された風花はじっくり見て選んだ。女子の必需品、ウェットティッシュを。

 

「山岸先輩が選んだものはセーフです。ウェットティッシュやメイク落としシートなんかは制限対象外なので、制限なく持ち込むことが可能です。ちなみに口紅やリップクリームも大丈夫です。ただ、ジェル状の物は制限対象になるので注意が必要です。……優が愛用している整髪料のアレはジェルだから預け荷物に入れるように」

 

「うん、分かったよ。兄さん」

 

桐条先輩の横に座っていた優ちゃんがハンドバックから容器をいくつか取り出して、そのまま、ボンレスハムのようにパンパンに膨れたボストンバックの小物入れに無理やり詰め込む。それを見た総司くんは頬を掻いた後、視線を机の上に戻した。

 

「では、次……結城先輩お願いします」

 

指名された私は机の上に残っているものを見る。

 

虫よけスプレーや制汗スプレーなどのスプレー缶。

 

花火やライターといった火を扱う物。

 

そして、総司くん愛用の包丁セット。

 

「もしかして、これ全部だめなんじゃ?」

 

「はい、正解です。包丁セットはややこしいことになるので置いて行きます。それに桐条先輩の実家のお膝元なんだから、僕が厨房に立つことなんてある訳ないし。スプレー缶に関しては化粧品であろうと医薬品であろうと日用品であろうと、特別な理由がない限りは預け荷物の方に入れておいた方がいいです。花火やライターは、一番初めにいった理由ですね」

 

総司くんはそう言って机の上に並べられていた物品を片づけた。

 

「先ほど、桐条先輩が話されたように明日は5時に出発になります。出発時にごたごたするのを避けるために、荷物はラウンジに一纏めにしておこうと思いますので解散した後、各々準備を終えたらここに持ってきてください。優はこれから僕と一緒にそのパンパンに膨らんだボストンバックの中身を選別し直すよ」

 

「……はーい」

 

優ちゃんはがっくりと肩を落とし、総司くんの後について階段を上がっていく。

 

「本当に総司の奴、物知りだよな……」

 

「ま、ややこしい目に遭う前に指摘してもらってよかったじゃん、順平」

 

「確かに……」

 

そんなことを話しながら、私たちは総司くんに言われた通り、荷物を準備し直したのだった。

 

 

 

 

7月20日(月)

 

ついに屋久島旅行当日を迎えた……のだが。

 

ガタイの良い黒服の男に担がれて強制的に移動させられていた順平が、寮の前に止まっていた2台の車の内の片方の後部座席に放り込まれる。真田先輩はその様子を見ながら苦笑いを浮かべつつ、反対側のドアを開けて乗り込む。総司くんは、顔を羞恥心で真っ赤になって落ち込んでいる優ちゃんを引き摺ってきて、順平たちとは別の車の中に押し込んだ後、順平や真田先輩が乗っている車の方へ歩いて行った。

「優ちゃん、今回の旅行をとても楽しみしていたみたいで中々寝付けなかったんだって」

 

「子供か!」

 

「それにしても血の繋がった兄とはいえ、歯磨きから着替えまでしてもらったらショックよね、普通」

 

「起きなかった優ちゃんが悪いということで……」

 

私はそんなことになったら引き籠る自信がある。

 

そんなハプニングもありながらだが、予定通りの時間には出発することが出来、飛行機の搭乗手続きも何のトラブルも発生せずに乗り込めて、私たちは安心して空の旅を夢の中で味わうのだった。

 

ま、快適な飛行機の後はフェリーで4時間過ごさないといけないんだけれど……。


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