ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。 作:甲斐太郎
7月7日(火)
「……気持ちいい。う、うーん……」
私は丁度いい温度の湯船の中で伸びをしながらそう思った。私が思い切り足を延ばしても当らない大きなお風呂。ジャグジーもいい感じで身体を刺激してくれるし、いいなぁこれ。
視線を洗い場に向けると念入りにボディソープで身体を洗う優ちゃんの姿があった。華奢でありながらも、筋肉質で引き締まった肉体。胸はまだまだ成長途中であり控え目な感じだが気にしなくても大丈夫。まだまだ、これからこれから。
だからそんなにも気にしなくていいのと、私は彼女を手招きする。
「優ちゃん」
私に呼ばれ控え目な胸に両手を当てていた優ちゃんが振り向く。虚ろな瞳で私を捉えた彼女は、ボディソープを洗い流すと立ち上がって私がいるところへゆっくりと歩いてくる。
そして、湯船に肩まで浸かった後、私の方へ身体の向きを変える。
「ゆうき……せんぱぁい」
親に甘える子供のように私に抱きついて、その身を委ねてくる。
私は優ちゃんの細い腰に右手を回し、左手で彼女の頭を撫でてあげる。すると撫でられていた優ちゃんがゆっくりと顔を上げる。絡み合う視線。
私たちはそうするのが当然と言わんばかりに唇を重ねる。浴室内に舌を絡める音が響いてなんか卑猥だ。
『享楽せよ……』
その時、私は自分の脳に声が繰り返し響いていることに気付く。
『我、汝の声なり、自らの声に耳を傾け、今を享楽せよ……』
――自分の声?
私の唇から自分の唇を離した優ちゃんが不思議そうな表情で私を見上げる。
「どうかしたんですか?ゆうきせんぱい」
「ううん、なんでもないよ」
私が何でもないように微笑むと、優ちゃんは安心したようにまた抱きついてきた。そして、優ちゃんは赤ちゃんが母性を求める様に私の胸に触れてくる。
『汝、真に求めるは快楽……。本心に耳を傾けよ……。今を享楽せよ……』
―――ちょっと待って。違う、私が求めているのは……。
「優ちゃん、ストーップ!!」
「ほぇ?」
彼女の手が私の大事なところに触れる前に止める。止められてホントに良かった……。
そして、優ちゃんの肩に両肩を置いて前後に揺さぶった後、しっかりと目を見つめる。
正気を失って虚ろな瞳であった優ちゃんの目に光が戻る。
「え、あれ……結城先輩?」
元に戻ったみたいでよかったと私は一瞬だけ思った。なぜなら私たちは現在、裸で向かい合っている。ちなみに優ちゃんの右手は私の左胸を触ったままである。
状況を見て正しいかどうかなんて一目瞭然。結論は駄目、一択である。
「うわわわわっ!?なにが、どーなって、きゃあっ!?」
『ザパーンッ!!』と現状を理解した優ちゃんは勢いよく立ちあがったが、その勢いのまま後ろ向きに倒れこんで、盛大な水しぶきをあげて湯船に沈んだ。
浮き上がってきた彼女はわたわたと慌て、何度も転びながら浴室から脱衣所に逃げていく。
私はもう力なく笑うことしかできない。
『湊ちゃん、無事ですか!?すみません、新たなシャドウの反応が突然現れて、その上で皆との通信が妨害されていたんです。今も、湊ちゃんたち以外の人たちと連絡がつかないんです』
「それは……まずいなぁ」
皆の貞操が。
とりあえず、私は転ばないように浴槽から上がって、洗い場のタイルの上に立つ。
「風花、ちょっと待ってて」
『え、湊ちゃんどうしたんですか?』
「今なら、そのシャドウを一撃で葬れる自信があるよ。フフフフフフフフ……」
『!?』
さて、ガラスの向こう側でわたわたしている優ちゃんと合流して、着替えた後にさっさと倒しに行こう。
こんなフザケタ真似をしちゃって、もう総司くんと違って空気が読めないんだからっ♪
『湊ちゃん、ディスプルトかプルトディ……。状態異常回復を使ってください!今すぐに!!』
風花、君が何を言っているのか理解できないよ。
私たちは着替えた後、部屋に出る。大きなキングサイズのベッドを見て、純情な優ちゃんが顔を真っ赤に染めて目をぐるぐるまわしつつ、私から距離を取った。
私は部屋の中を確認し、不自然なものを見つけその前に立つ。そういえば法王の間にも同じものがあったなと思いつつ、現在私が保有しているペルソナの中でも力が最も高いティターンを降魔する。
そして、右手に思い切り力を籠めて腕を引く。
「やられたら、百倍返し!キルラッシュ!!」
私の中にあった怒りとかもろもろ含め殴りつける。
私たちの姿を映さない鏡は粉々に砕け散ると同時に、シャドウに支配されたホテルそのものも揺れる。
『わわわ、今の揺れってもしかして湊ちゃん?……あ、皆さん、通信が聞こえますか?よかっ……え、取り込み中?今はやめてくれ?え、ええええええええ!?』
風花の困惑するような声が響く。皆、似たような状況のようだ。
両手で顔を隠しながらチラチラと私を見てくる優ちゃんに目を向ける。
「あ……ああ……はぅううう」
優ちゃんは勢いよく顔を背けその場に蹲る。
この様子だと、もうまともに戦える状態ではない。他のメンバーに頼るしかないなと冷静に分析した私は、蹲ったまま動かない優ちゃんの首根っこを掴んで引き摺り部屋から出る。
「この恨みはらさでおくべきか……」
私はそう呟いて、目の前を睨みつける。私たちを見つけたシャドウたちが襲いかかろうと前まで来ていたが、私の眼光にビビったのか逃げて行った。
私は周囲を見渡し、階段がある方へ進む。
最上階へ向かう途中、皆と合流して法王の間に戻ってきたのだが、ここで現在の戦力を確認する。
私…ヤケクソ
ゆかり…ヤケクソ
桐条先輩…ヤケクソ
順平…動揺、混乱
真田先輩…動揺、混乱
優ちゃん…(私への)悩殺
このような状態異常がついているのは部屋に閉じ込められた組み合わせが関係している。
私はてっきり仲の良い男女のペアを作っていき、あぶれたので優ちゃんと一緒になっていたと思っていたのだが、
そうではなく。最初から同性同士で放り込まれていたのだ。
「今なら、殺れる。きっと……」
「フフフフフ、処刑の時間だ」
ゆかりと桐条先輩からは味方も戦慄するような殺気が漏れ出している。
対して、順平と真田先輩は心に大きな傷を負ったようで影人間とまでは言わないが、立ち直るまで時間を要するようだ。
「じゃあ、優ちゃん。立ち直りそうにない男2人をお願いね」
「ふぁ…ひゃい!?おまかしぇくだちゃい!!」
そう言いつつ私から距離を置く優ちゃん。
思うことはただひとつ。
「大型シャドウ、ぶっ殺す!!」
「「ぶっ殺す!!」」
私とゆかりと桐条先輩は怒りを胸に、武器を手に、法王の間に突撃するのだった。
『ああ、総司くんの話をちゃんと聞いておくんだった。このホテルの名前って、総司くんから聞いた同性のカップルが利用するところの名前だよ……。ということは順平くんと真田先輩って、……あううううう』