ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。   作:甲斐太郎

2 / 82
岩戸台分寮に出張する転生者

「兄さんのゴールデンウィークの予定を教えて」

 

自室にてペルソナシリーズの小物整理をしていた時にかかってきた電話に出ると妹の優からこんなことを聞かれた。例年通りであれば、叔父夫婦が暮らすとある田舎町に1泊2日あたりで旅行も兼ねて行くのだが、今年は優がペルソナ3のメンバーとして参加しているので、ちょっとくらいフォローに回りたいと思っていたこともあり予定は組んでいなかった。

 

「今年は何も予定を立てていないよ。ま、今の所立てている予定は海釣りか古本屋巡りか、ゲームセンターを荒らすくらいかな」

 

「そっか。……なら兄さんも巌戸台分寮に来ない?空き部屋があるからゴールデンウィーク中くらいなら許可が出るかもって、先輩たちも言っていたし」

 

「本音は?」

 

「兄さんの手料理食べたい」

 

「……いいよ。許可が下りるなら行っても」

 

「やった!『ガンッ』………………」

 

携帯電話を耳に当てていたため、衝撃音で目の前がちかちかする。僕は携帯電話の通話を切って机の上に置くとベランダに出る。時刻は23時30分。

 

「今日も優たちは異形の塔へ登りに行くのかな」

 

ペルソナ遣いの資質がないので参加しようにも参加できない僕にはどうしようもすることはできないけれど。

 

 

5月2日(土)

 

ボストンバックに必要最低限の荷物を詰め、はるばるやってきた巌戸台分寮の扉の前に女主人公さんが立っていた。状況的に優にお願いされて僕を待っていたっぽい。

 

その証拠に僕の姿を見つけた彼女は大きく手を振りながら僕の名前を呼んでくる。

 

「いらっしゃい、総司くんでいいんだよね」

 

「はい。妹の優がお世話になっています」

 

「どうってことはないよ。優ちゃん、いい子だしね。ささ、入って」

 

彼女に誘導され巌戸台分寮に踏み入れた僕を待っていたのは、結局逢わず終いだった月光館学園の理事長である幾月氏。彼はラウンジのソファに座り、新聞を眺めていたが僕の存在に気づき笑顔の仮面を張り付けたような感じで近づいてくる。

 

優は優秀なペルソナ遣いであるから彼の計画には必要不可欠な存在と認識されているので家族である僕の機嫌伺か、それとも別の目的があるのか。ちょっと気を引き締めないといけない。と思っていた時期もありました。

 

何のことはなく、巌戸台分寮での過ごし方を説明されて、料理を楽しみにしていると言われただけであった。

 

「予想はしていましたけど、今日の夕食は何人が食べる予定なんですか?」

 

「えっとね、総司くんも含めて8人だよ♪」

 

笑顔でそう告げる女主人公……結城先輩。年下の男の子になんだか悪いなーと思っているのか、先ほどから僕と目線を合わせようとしない。僕は小さくため息をついた後台所へ向かう。

 

冷蔵庫を開けると彩り鮮やかな食材が敷き詰められ、プロテインは隅へ追いやられていた。買い出しには行かなくてよさそうだけれど、この分だとこのゴールデンウィークの食事全般を僕が作ることになりそうだなーと若干諦めつつ、メニューを考える。

 

今回に限り男女比は1:1なので、多少のことは目を瞑ってくれるだろう。そう思いつつ、僕は鳥もも肉に手を伸ばした。

 

 

5月3日(日)

 

憲法記念日の今日は通販番組があるだけで特にイベントがある訳でなく、女性陣はラウンジでまったりと過ごしている。僕はせっせと洗い物を済ませた後、昼食の下ごしらえをしているのだが、先ほどから妙に視線を感じる。

 

視線を感じた瞬間に顔を上げるも談笑している女性陣しかおらず、僕は何度も首をかしげる。まさか、食後のデザートを求めているのだろうか。家なら調理器具も色々あって何とかなるのだが、ここにはそういったお菓子を作る上で必要な器具は最低限度しか揃ってなく急に求められても困るのだ。

 

しかたがない伝家の宝刀、『宝石メロン』を切り分けて提供しよう。

 

僕はボストンバックに入れていた風呂敷から市場で手に入れようと思えば数万円は出さないと手に入れることが叶わない最上級の果物を取りだした。これは僕がマンションの屋上でやらせてもらっている家庭菜園の結果のひとつ。家族にも滅多に振舞わない逸品。

 

何気なく口に入れた女性陣がマハンマオンを喰らって昇天したかのようにしばらく身動きしなかったけれど、昼食前には起動しなおして活動されていたので問題ないだろう。

 

 

5月4日(月)

 

みどりの日で学校は休み。結城先輩や岳羽先輩など、部活に所属しているメンバーは朝から出発し寮にいるのはテレッテ侍こと伊織先輩と幾月氏の2人。

 

部活で体を動かすと聞いていたので、朝食は結構がっつり系にしたが概ね好評だった。

 

最初は遠慮がちに食べていた岳羽先輩も結城先輩とか優がリスのようにむしゃむしゃと食べるのを見て、自分の中で区切りをつけ一心不乱に口に食べ物を詰め込んでいた。勿論口止めされている。

 

「お前スゲーな。中学生なのに、こんな大人数の飯を作るってよ」

 

食器の洗浄が済み、冷蔵庫に残った材料を見ながら作る上で足りないものをリストアップしていると伊織先輩から話しかけられた。後頭部を掻きながらだったので、年下に申し訳ないという気持ちがあるのだろうか。

 

「両親が仕事忙しかったので代わりに家事をやってきただけですよ。料理に関しては美味しい物を作れば優が喜んで笑顔をくれるからハマっただけです」

 

「へー。優ちゃんのこと、大切にしているんだな」

 

「血を分けた双子の妹ですし。ああ見えて結構、甘えん坊なんですよ。一昨年まで『添い寝してくれないとやだ』って我儘を言うくらいでしたし」

 

「マジでっ!?」

 

「嘘です」

 

「って、嘘かよ!」

 

ノリツッコミがいい感じである。今まで抱いていたイメージとは全く違う感じだ。本編ではデスを内包していた主人公にやっかむ場面や嫉妬する場面が描かれていただけに。後輩に関してはこういった扱いになるのかと、彼の新たな一面を見た感じだ。

 

「最近になっても偶に言われます。優が1人だけ学生寮にいたのは兄離れさせる目的があったって母さんから聞いたことがありますし」

 

「はぁはぁ。お前狙ってやっていただろ。つーか、ブラコンってやつか。お前も色々と大変なんだな。よしっ!今日は伊織先輩が遊びに連れていってやるぜ!どこに行きたい?」

 

「いいんですか?」

 

「遠慮すんなって」

 

「じゃあ……」

 

僕はこの後ポロニアンモールのゲームセンターを指定し、伊織先輩と一緒に格闘ゲームやらレースゲーム等で遊んだ後、ほぼ習慣となっているクレーンゲーム荒らしを敢行。段ボール一杯になった景品を宅急便でマンションに送った後、食材の買い出しをして巌戸台分寮に帰った。

 

 

5月5日(火)

 

こどもの日で今日も学校は休み。

 

ゴールデンウィークも本日で終了になるので、僕のご飯当番も昼食までとなる。

 

朝ごはんを作りに一階に降りるとラウンジにいたのは桐条先輩ただ1人。優雅に新聞を読んでいるが心なしかくたびれている感じだ。恐らく、昨夜はタルタロスに行ってきたのだろう。

 

僕は台所に入り、ボストンバックの中にある風呂敷の中から『金色ブレンド紅茶缶』を取りだした。一時期、家庭菜園にてハーブ系統を作るのにハマった時期があり、その時に出来たハーブを色々と組み合わせて作った完全オリジナルの紅茶である。

 

以前、仕事人間で休みも滅多に取らない母さんに飲ませた時は「休む、今日は会社休む~」と父さんに引っ張り出されて行くまでに堕落させてしまうくらいの破壊力を持つ。

 

さぁ、桐条先輩、御覚悟を!

 

 

 

カップに口をつけたまま固まってしまった桐条先輩。

 

そんな彼女を視界に入れようにしながら朝ごはんを和食テイストで仕上げた僕は帰宅の準備をしに2階へ上がる。その際に降りてきた結城先輩たちに挨拶し、昼食の準備を終えたら帰ることを伝える。残念がる結城先輩だったが、1階から聞こえてきた真田先輩の慌てた声に気づき階段を素早く駆け下りていく。僕は乾いた声で笑いつつ、仮住まいへと足を向けた。

 

ボストンバックに持ってきた荷物を詰め込んだ後、1階に行くとラウンジには未だにカップに口をつけたまま固まった桐条先輩とおろおろする真田先輩たちの姿があった。唖然としてその様子を眺めている岳羽先輩に声かけすると「起きてきたらああなってた」とのこと。ばれないように「そうなんですか」と相槌をうつ。

 

優はすでに部活に出ているようで、姿はなく。台所の椅子に座ってことの成行きを見ている伊織先輩に近づく。

 

「おはようございます」

 

「おはようさん、総司」

 

「昨日はありがとうございました」

 

「いや、ああゆうのいつもやっている訳?」

 

「偶々です」

 

伊織先輩は疑いの眼差しを向けてくる。僕は笑みを浮かべ対応する。すると岳羽先輩が近くに寄ってきて、何の話か聞いてきた。そして納得したかのように頷く。

 

「友達から聞いたことある。どんな難易度の高いクレーンゲームでも軽々とクリアしちゃう凄い中学生ってキミのことだったんだ」

 

「釣りもすごいですよ。叔父夫婦が住んでいる田舎の川でヤマメとか“川ヌシ様”とか釣りますし」

 

「「うわぁ……」」

 

伊織先輩と岳羽先輩はひそひそと何かを話し始め、僕の顔を見てため息をついた。

 

「ああ、そうだ。先輩たちって、優と一緒にゲームをしているんですよね?」

 

「「ゲーム?」」

 

「タルタロスっていう魔物ひしめくダンジョンをクリアしていく、桐条グループが開発している、世に出回っていないRPGゲームって聞いていますけど、違うんですか?」

 

「ちょっ!?」

 

「ああ……、ブラコンの優ちゃんじゃ仕方ねーなー。そうだけど、その話、他言無用だぜ」

 

「ええ、分かっています。発売されるのを楽しみに待っていますね」

 

「いや、そうじゃなくて」

 

「ゆかりっち、ここは俺っちに任せとけって」

 

「で、優から聞いた魔物のデータと階層ごとに落ちていたアイテムの取得率を書いてまとめたものがこちらになります」

 

僕は紙の束を伊織先輩に渡す。ただ単に暗記している攻略本を書き起こしただけのものなのだが、内容を一瞥した伊織先輩と岳羽先輩は驚愕で顔を引き攣らせている。

 

「世に出回っていないっていうことは攻略本も発売されないわけで。かといって頭にメモしていてもいざという時に大変だろうし、こうやってまとめてみました。優は感覚的にやっちゃう部分があって、効率が悪かったりするかもだけれど、フォローはお願いしますね」

 

「……ああ」

 

「さてと、何をつくろっかなー」

 

僕は呑気な声でそんなことを呟きながら冷蔵庫を開ける。

 

これからどんなことが起きるのかは、神のみぞ知るってね。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。