CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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最後のミチシルベ

 桜吹雪の夢を見た。

 

 目を覚ましたルドガーは、夢の内容に愕然とし、髪を掻き上げるように両手で顔を覆った。

 

 しばらくは時計の秒針だけが部屋の中にこだましていた。

 

 顔を上げる。鏡の中の自分と目が合った。

 ルドガーは立ち上がって鏡の前に立つなり、鏡を叩き割った。

 

 

 

 

 

「貴重なお話をありがとうございました」

 

 ツバサが玄関先で礼をした相手は、両脇に二人の子供を連れた女性。ツバサは彼女に暇を告げ、トリグラフ市街地に出た。

 

 『クルスニク年代記』や『六家文書考察』など、クルスニク一族に関する書籍をツバサは片っ端から読み漁った。しかし、「光の架け橋」に関するこれぞ! という手がかりはなかった。

 猫ユリウスを届けた件で交流の出来たマルクス・オルタ・クルスニクから一族の話を聞けないかと訪ねたが、これも収穫なし。

 

 そこでツバサは思い切って、現役の分史対策エージェントに話を聞きに行ったのだ。

 

 もちろんクランスピア本社に直接行ったわけではない。

 時間をかけて分史対策室になじみ、ようようそれぞれのエージェントの非番の日と住所を割り出し、そのエージェントの自宅に突撃取材したのだ。

 ちなみに先ほどの、二人の子を持つ母親もまた、立派に骸殻能力を持つ分史対策エージェントの一人であった。

 

(ようやく分かった。『架け橋』の意味。どうして色んな本に家族を犠牲にしたみたいな表現が多かったのか。わたし、知らない内に、とんでもなく深い沼に踏み込んじゃってたんだ)

 

 やるせない気分で、くすんだ青空を見上げていると、ポケットの中でGHSが鳴動した。

 

「もしもし」

『……ツバサか?』

「ルドガーさん。今日は最後の“道標”を取りに行く任務の日じゃ」

『一緒に来てくれないか』

 

 言葉を失った。

 

 ツバサは今日まで一度もルドガーの分史世界破壊任務に同行しなかった。

 理由はシンプル。怖かったからだ。

 「世界を壊す」という行為の重さ、罪深さが、自分に背負えるとは思えなかったから。

 

 ルドガーはそんなツバサの弱ささえ汲んで、今までツバサを任務に同行させることはなかった。

 

 なのに。

 

「何があったんですか」

『夢、見た。「(ドリーム)」の奴がいつも見せる予知夢。俺――未来の俺を、殺してた。エルの父親なのに、エルの目の前で』

「ちょ、落ち着いてください、ルドガーさん。言ってることメチャクチャですよ。今どこですか? 会ってお話ちゃんと聞きますから」

『マンションの前の、公園』

「分かりました。すぐ戻りますね」

 

 ツバサは電話を切り、きょろきょろと周りを見回し、適当な狭い路地裏に入った。

 

「星の力を秘めし鍵よ。真の姿を我の前に示せ。契約の下、ツバサが命じる。封印解除(レリーズ)

 

 レッグホルダーから「(ジャンプ)」のさくらカードを出して発動させる。

 踵に備わった跳躍力で、ツバサはビルに跳んで登り、ビルからビルを跳んでマンションフルーレを目指した。

 

 

 やがてトリグラフ団地が見えたところに着いたツバサは、適当にビルの陰に降り、走って団地の公園に入った。

 

 ルドガーは公園のベンチに座り、俯いていた。膝の上では両手をきつく握りしめている。

 

「ルドガーさん!」

「っ、ツバサ」

「聞かせてください。『(ドリーム)』はルドガーさんにどんな予知夢を見せたんですか?」

 

 ルドガーは語る。

 

 

 ――最後の“カナンの道標”は“最強の骸殻能力者”で、10年後の自分自身であること。

 その未来の分史世界の自分こそが、エルの父親だったこと。

 未来の自分は正史世界への生まれ変わりを望んで、ルドガーを殺して入れ替わろうとしていること。

 最後にエルの目の前で父親をルドガー自身が殺すことになること――

 

 

「もういいです」

 

 ツバサは立ち上がってルドガーを抱き締めた。

 

「ありがとうございます。隠さないで打ち明けてくれて。わたし、行きます、その分史世界。ルドガーさんのこと、絶対独りにしませんから」

 

 ルドガーは無言で、ツバサのジャケットを小さく握った。




 ……恋愛じゃありませんヨ?

 TOX2の内容を辿るなら、予知夢の内容はどんどんひどくなるはずなんですよね。
 それがルドガーにダメージを与えないわけがないと。

 ツバサがルドガーを抱きしめたのは、あくまで親愛ですヨ?

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