CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~ 作:あんだるしあ(活動終了)
ミラはルドガーの部屋のキッチンにて、一生懸命――否、一心不乱にスープを作っていた。
おかしなものだ。分史世界であれほど
ミラは頭を振った。
今は何もかも雑念だ。今はただエルと約束したスープを作る。ただそれだけ。
「できた――」
ミラは食器棚からスープ皿を取り出し、トレイに載せた2皿にスープを注いだ。そいて、そのトレイを持ってリビングルームに戻った。
「できたわよ、エル。私の特製スープ」
「お~、なんかすごそーっ」
「ナァ~」
幼子を見守る母親はこんな気分かもしれない。知らず口の端が上がるミラだった。
“ミラさんに、この世から、消えて、ほしいんです。――しばらくの間”
“しばらくってどういうことよ”
“正史世界のミラさんが出て来て、精霊界に帰るまでです”
「いっただっきまーす」
「いただきます」
「はい、召し上がれ」
エルとルドガーは同時にスープをスプーンで掬って口に入れた。
「ど、どう?」
「おいしい! チョーおいしいよ! やっぱりミラって料理上手っ」
ほっぺたを赤くして満面の笑みのエル。ミラは胸を撫で下ろした。
「個人的にはもう少しスパイスが欲しいかも」
「あなたには聞いてない」
「あ、さいですか。でも美味いぞ、これ」
文句は言いつつもルドガーもスープ皿を乾す勢いは早い。
(こっちはそんだけ気合入れて作ったのよ。次に作れるのはいつか分かんないんだから)
“この「
「ミラ、おかわりっ」
「ナァ~」
「はいはい。ちょっと待って。ルル用には味薄めたのね」
ミラは席を立ち、スープ皿と、猫用の水皿を持ってキッチンに引っ込んだ。
スープ皿と水皿に新しいスープを注ぎ、水皿のほうには水を足した。
「ねーえー! ミラは自分のスープ食べないの~?」
「味見で充分食べたわよ。だからいーの」
皿を持ってリビングへ戻り、スープ皿をエルの前へ、水皿をルルの食事スペースに置いた。
「で、どうかしら」
「なにが?」
「『一番はパパ。二番はルドガー。ミラは3番目』発言。ちょっとは見直す気になった?」
いたずらめかして皮肉な笑みを浮かべてみる。
エルは腕組みをして大きく首を傾けた。悩んでいる。可愛い。
「うーん、やっぱりそのままで」
「何でよ!?」
「ルドガーのほうが、いーっぱい、『エル用』作ってくれるから。エル用のマーボカレーでしょ、エル用のオムレツでしょ、エル用のトマト・アラモードでしょ? ミラのはおいしいけど、そのまんまミラの味だもん」
「食べてもらうお客様への配慮が足りてないと。言うことだけはやっぱり一人前ね」
ミラはやっと自身のランチに手をつけた。
バゲットを手でちぎり、口に放り込む。
“ミラさん自身と、ミラさんの社、両方に『
ランチが終わり、ルドガーが皿をシンクで洗っている。
今朝、ツバサとルドガーから提案された内容は、常軌を逸していた。逢って間もない、片方は自分の世界の仇だというのに。
“分かってくれ。頼む。このまま進んだら、俺たちはミラを最悪の形で失うことになるんだ!”
“わたしたち、ミラさんに消えてほしくないんです! エルちゃんのためにも!”
エルの名を出されるとどうしても弱いのは、本能的庇護欲か、はたまた自分が受けられなかった愛情をエルに注ぐことで代償行為としているのか。ミラにははっきりと分からなかった。
「ミラ、どしたの? むずかしー顔して」
「今後の身の振り方について考えてたの。――ねえエル。あなた、私がいきなりいなくなったら、さびしい?」
「えっ、そ、そりゃあ……」
エルは「さびしい」とは答えなかったが、顔を真っ赤にして肯いた。
「今日からニ・アケリアに帰ろうと思うの。かなり長い期間になるわ」
「ミラ、ここ、出てっちゃうの? ルドガーもいるのに」
「そう、出てっちゃうの」
「いつ帰ってくるの?」
「さあ」
いくらツバサが優れた魔法使いでも、目を覚ましたら仲間は一人もいなかったという展開になったとておかしくはないのだ。
最悪、ツバサの魔法こそがミラを永眠させるかもしれない。
(馬鹿ね。正史の本物が出て来たらどうせ消滅する運命。だったらツバサとルドガーの提案に乗るのも一つの手。ルドガーやジュードの手で殺されるのも、一度はいいかと思ったけど、生き延びる方法がまだあるなら)
ミラは立ち上がり、手伝うという名目の下、ルドガーのいるキッチンに入った。
早朝の“提案”を正式に受けるという答えを、胸に携えて。
キーカードは「錠」でした。
さすがにここまで便利道具ではないと思いますが、テイルズ要素が混じって便利道具になったとお思いくださいませ。
ミラさん、最後にエルに約束のスープを振る舞って、いざ出陣準備完了でございます。