CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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彼女の理由

「おい! 何で暴発しないんだよ」

「知るか! あのガキが何かしやがったんじゃ」

 

 源霊匣(オリジン)が暴発しないことを訝しんでか、逃げたブラートの連中が戻って来た。

 ジュードは人生最速で動き、ブラートを両方とも体術のみで地面に叩き伏せた。そして、片方に捕縛術をかけながら上に乗った。

 

「ジュ、ジュード君っ」

「答えてください。あなたたちは精霊の化石をどこへ、誰に運ぶつもりだったのか。それと、エレンピオス人であるあなた方がどうやって源霊匣(オリジン)を起動させたのか。リーゼ・マクシア人があなたたちの計画に協力するとは思えない」

「……へっ、悔しいか。いいか、世間知らず。エレンピオスで一旗揚げようとする身の程知らず(リーゼ・マクシア人)は結構いるんだよ。そういう奴はちょっとウマい話を吹き込むだけでほいほい付いて来る」

 

 押さえつけた男は得意げに語る。

 リーゼ・マクシア人に出稼ぎ先の斡旋と入国の手続きをして、アルクノアに引き渡す。その後は知らんぷり。アルクノアとの繋がりの証拠がなければ警察にこの話を告げても無駄だと。

 

 どかっ

 

 ジュードは最初、何が起きたか分からなかった。

 

(ツバサが、人を、殴った?)

 

 ツバサは悔しさや怒りに似た表情を隠すこともせず、星の長杖の宝石部分で男の頭を殴ったのだ。その一撃で男は昏倒した。

 

「ドヴォールに急ごう」

「ツバサ……」

「まだ間に合うよ。この人たちの思い通りになんか、絶対ならない」

 

 ツバサは顔をこすってから、ジュードに手を差し伸べた。そこには先ほどまでの感情の乱れはなく、この状況にそぐわないほどの、大輪の笑顔があった。

 

「絶対、大丈夫だよ」

 

 ジュードはツバサの手を握り返して立ち上がった。

 

 

 

 

 ジュードとツバサはディール駅へ走り、どうにか出発前だった列車に駆け込み乗車した。

 

 座席に落ち着いてから、アルヴィンとの合流のためにGHSを開くと、画面がブラックアウトしていた。電池切れしていたのだ。まめに充電、という癖をつけていないジュードの非であった。

 ツバサのGHSで、とも思ったが、ツバサはアルヴィンのGHSのアドレスを登録していなかった。

 

(まだ間に合う。アルクノアを止めなくちゃ……)

 

 

 ――源霊匣のためにそこまで頑張る必要があるの?

 

 

 ぞく、と体感温度が1℃は下がった気がした。

 

 

 ――どれほど研究をくり返しても報われない。実用化の目途も立たない。できたところでリーゼ・マクシアとエレンピオスが歩み寄る保証もない。

 

 ――()一人が全てを背負い込む、そんな必要が一体どこにあるの?

 

 

 ジュードは自身をきつく抱いた。ちがう、ちがう、と頭の中でくり返しながら――それでも、心に根を伸ばしていくそれらに身を任せてしまえば、安寧が得られる予感もあって。

 

「ジュード君」

 

 ツバサが立ってにっこり笑った。ツバサはジュードの両肩を掴むと、引き倒して自分の膝の上にジュードの頭を載せた。要するに膝枕させた。

 

 目を白黒させていたジュードの、胸に、ツバサの手の平が置かれた。

 

「去りなさい」

 

 心を覆い尽くそうとしていた闇の手が、一斉に引いた、気がした。

 

「疲れてると魅入られやすくなっちゃう。眠って。着いたら起こしてあげるから」

「……うん……」

 

 訪れた睡魔はひどく優しくて、ジュードは抗うことなく眠りに落ちていった。

 

 …………

 

 ……

 

 …

 

 薄暗い部屋に、4人の子供がいる。

 それぞれに個性があり、けれども、どこかが必ず似通っている子供たち。

 

 彼らが囲むのは、「SAKURA」というタイトルリボンと獅子のシンボルマークが特徴的な、ピンク色の分厚い本。

 

 

 “じゃ、いくよー”

 

 

 亜麻色の髪の、一番年上らしき少女が言うと、他の男の子二人に小さな女の子が、同時に本の封に手をかけた。

 

 

 “せーのっ”

 

 

 封を開けて分かった。これは本ではなく、本の形をした収納具だったのだ。さくらカードを納めるための。

 

 

 “わー!”

 “きれー……”

 

 

 子供たちは思い思いにカードを取っては矯めつ眇めつ。

 

 その中で、少女が鳥の図柄のカードを取って、名を読み上げた。――「(フライ)」と。

 その瞬間、さくらカードが光り、カードの輪郭が消えて、アスカほどもある白鳥が姿を現した。

 

 「(フライ)」の羽ばたきで本の中のさくらカードはどんどん散っては消えていく。

 

 

 “やめて! 母様の大事な物なのに!”

 

 

 「(フライ)」の足が上がり、前に出て訴えた少女を踏みつけた。

 

 

 “姉様ッ!”

 “お姉ちゃぁん!”

 

 

 その時、部屋のドアが開いた。

 入ってきたのは少女をそのまま大人の女性にしたような人物で、彼女は星と羽根をモチーフにした杖で、室内に残るさくらカードを次々にカードの形に戻して行った。

 もちろん、少女を踏みつけていた「(フライ)」も。

 

 「(フライ)」から解放されたことで泣き出した少女を、女性は痛ましげに抱き締めた。

 

 …

 

 ……

 

 …………

 

「……ド君、ジュード君。起きて。着いたよ」

「ツバサ……」

 

 起き抜けに回らない頭を意思力で回す。確か自分はディールで源霊匣(オリジン)を悪用しようとしているブラートの企みを知り、ドヴォールに行くための列車に乗って、疲れてツバサの膝枕で寝てしまったのだった。

 

「着いた?」

「うん。降りよう?」

 

 ふいに、夢で見た少女と、ツバサの顔が重なった。

 

(そうか。あれ、ツバサの経験したことなんだ)

 

 なぜそれがジュードの夢に出てきたかは、何故か考える気にならなかった。考えなくていい気がした。

 

 体を起こし、座席から立ち上がった。ツバサもジュードの後ろから付いて来た。




 手持ちカードに「翔」があるのに頑なに使わなかったのはこういうわけがあったからなんですということをお伝えする回でした。
 ジュードがつばさの過去夢を見た理由は……各自、脳内補完くださいませ。

 アニメ版CCさくらではさくらが「風」を発動させてカードを散逸させた設定ですので、それに倣ってみました。

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